院長ブログ

  • Xanomeline+trospium 2021年03月07日

    ・専攻医勉強会で統合失調症の病態仮説について説明する際、文献4などをベースにしたスライドを提示しているのですが、統合失調症に対する創薬戦略の1つとして、これまでにムスカリンM4受容体アゴニストが開発され、ヒトに対する介入試験が行われたものの、副作用の問題から実用化しなかったということも触れていました。この度、この副作用の問題を回避するため末梢性ムスカリン受容体アンタゴニストを併用した試験が公表(文献1)されたのでみてみます。

    ・ムスカリン受容体は代謝調節型受容体であり、5つのサブタイプが存在します。主としてM1受容体は中枢神経、交感神経などに、M2受容体は心臓に、M3受容体は平滑筋や分泌腺に、M4受容体は中枢神経(前脳、線条体)に、M5受容体は黒質などに分布しているようです。

    ・統合失調症に関しては、動物実験の段階で、M4およびM5受容体が統合失調症の病態に関与する可能性が示されており、M4受容体をノックアウトしたマウスでは、ドパミン刺激に対する過剰反応性がみられ、M4受容体がドパミン放出と関連している可能性が示されていました(文献3)。中脳被蓋野のコリン神経系は中脳被蓋野ドパミン系と相互作用をし、精神病症状との関連を示唆する報告がされています(Neuropsychopharmacology 1995; 12:3–16)。

    ・xanomelineはM1とM4に主として作用するアゴニストであり、動物実験においてドパミン誘発性の行動異常に対して拮抗的な作用を発揮し、腹側被蓋野におけるドパミン神経系の発火を減少させることが示されています(文献3)。錐体外路症状を惹起せずに精神病症状への治療的効果をもたらすことが期待されます。

    ・もともとxanomelineはアルツハイマー型認知症治療薬として開発されていた薬剤であり、文献2などで報告された通り、比較的規模の大きなプラセボ対照無作為割付比較試験も行われたようです。

    ・アルツハイマー型認知症を対象とした介入試験では、xanomeline 75mg、150mg、225mgの3つの用量とプラセボの4群比較が行われ、6か月間で有効性、安全性などが検証されました

    ・M1受容体はシナプス後膜に存在し、皮質と海馬において最も豊富に発現する受容体であり、アルツハイマー型認知症の主要な治療ターゲットとなります。アルツハイマー型認知症の病態が進行すると前頭葉からのコリン作動性入力は減少するものの、M1受容体の発現量は比較的保持されるといわれています。そのためコリンエステラーゼ阻害薬は、コリン作動性神経のシナプス変性の程度によりその作用が影響を受けるのに対して、M1アゴニストはそのような神経変性の影響を受けにくく、より治療的効果が良好であることが期待されていました

    ・M4受容体は皮質、線条体、海馬、黒質などで発現していることが報告されており、動物実験ではM4受容体のアロステリック調節剤が内因性カンナビノイドシグナル経路を介してドパミン放出を抑制することを示唆する結果が報告されています(Neuron 2016; 91: 1244–1252)。

    ・この介入試験では、平均75歳、MMSE平均得点18.6点のアルツハイマー型認知症患者343名が対象となりました。主要評価項目はADAS-cogであり、副次評価項目として、周辺症状がADSSで評価されました・ベースラインでは40%が暴言、37%が妄想、22%が幻覚、25%が徘徊、52%が情動易変性、55%が焦燥性興奮などの周辺症状を呈していました。

    ・6か月後のADAS-cogについては、1カ月以上治療継続できた群でのend pointデータによる解析では、いずれの用量についてもプラセボとの有意差は示されませんでした。いくつかの認知機能の下位項目については有意に良好な結果が得られたものもあったようです。

    ・一方で周辺症状については、ベースラインより症状が悪化した患者の割合やベースラインで症状がなく、6か月間で症状が出現した患者の割合、ベースラインに症状があり、その後消失した割合などで評価されましたが、幻覚、暴言、強迫行動、妄想、猜疑心などで有意な用量依存性の改善効果が認められました。暴言、猜疑心、焦燥性興奮、幻覚、妄想などの症状については、経過中増悪する割合や新たに出現した割合についても用量依存性に有意な抑制効果がみられました。

    ・しかしながら、安全性については、225mg群では52%が副作用のため中断しており、失神も12.6%で報告され、さらに嘔気・嘔吐、発汗なども全体の約3割で報告されるなど、かなり問題がある結果となりました。

    ・このように周辺症状に対する有効性を示唆する結果は得られましたが、安全性に関する問題により、アルツハイマー型認知症に対してxanomelineが承認されることはありませんでした。

    ・2008年には統合失調症に対するxanomelineの予備的な小規模介入試験が行われました。ベースラインのPANSS totalが61点以上でかつ陽性症状尺度のうち2つ以上で3点以上の統合失調症患者20名を対象に4週間で行われました。xanomelineは開始後4日間で225mgまで漸増されました。

    ・4週間でPANSS total平均のxanomeline群とプラセボ群との差は24.0点となり、有意差を認めました。このように平均点の差は大きなものとなりましたが、xanomeline投与群でも症状が悪化したケースもあり、そのような症例の詳細が本文中には記載されていました。認知機能についても短期記憶や言語的学習などの項目でプラセボより有意に良好な結果となりました

    ・副作用については嘔気が10名中7名、嘔吐が10名中6名などやはりかなり高率で消化器系副作用がみられています。

    ・この後のxanomelineについての統合失調症に対する介入試験の報告は2008年以降今回の介入試験までなされておらず、安全性に関する問題が実用化への阻害要因になっていました。

    ・そこで今回、13年の時を経てxanomelineに末梢性ムスカリン受容体アンタゴニストであるtrospium(FDAでは過活動膀胱治療薬として承認されている)を組み合わせて、末梢性の副作用を起こりにくくして臨床試験をしてみようということで、統合失調症に対するxanomelineの初の比較的規模の大きな介入試験が行われました。注目点は安全性がどうか、治療効果はどのように表れるのか(陰性症状や認知機能など)になります。

    ・18-60歳の統合失調症患者(DSM-V)が対象となりました。エントリー基準としては、ベースラインのPANSS totalが80点以上、かつ陽性症状尺度のうち1つで5点以上ないし少なくとも2つで4点以上である、かつCGI-Sで4点以上であり、発症2カ月以内の精神病症状の急性増悪により入院治療が必要で、かつ少なくとも2週間以上抗精神病薬治療を受けていないものなどとされました。

    ・アメリカの12の施設で、5週間のプラセボ対照無作為割付比較試験として行われました。xanomelineの用量は8日目までにxanomeline 250mg/日+trospium 60mg/日に設定されましたが、耐用性不良の場合にはxanomeline 200mg/日+trospium 40mg/日に減量も可とされました(結果的に実薬群の91%が最高用量で継続)

    ・主要評価項目は5週後のPANSS totalの変化量でした。90名がxanomeline+trospium群、92名がプラセボ群に割付されました


    ・5週後のPANSS totalの変化量はxanomeline+trospium群は-17.4点、プラセボ群 -5.9点でプラセボ群の最小二乗平均差は-11.6点と有意差を認めました。

    ・陽性症状得点についてはプラセボとの差は-3.2点、陰性症状得点(PANSS negative)のプラセボとの差は-2.3点でいずれも有意差ありでした(PANSS Marder negative symptom subscoreでも有意差あり)

    ・中断率は実薬群20%、プラセボ群21%であり、副作用出現率は実薬群54%、プラセボ群43%でした。xanomeline-trospium群での副作用出現頻度として多かったものは、便秘17%、嘔気17%、口渇9%、ディスペプシア 9%、嘔吐9%などとなっており、半数以上で嘔気、嘔吐のみられた2008年の小規模試験より随分少なく、消化器系副作用が緩和されていそうなことがわかります。

    ・アカシジアはxanomeline-trospium群で3例(プラセボ0例)報告されましたが、Barnes Akathisia Rating Scaleの平均点の変化量は5週間で実薬群-0.1点、プラセボ群 0点、Simpson-Angus Scaleの変化量は5週間で実薬群 -0.1点、プラセボ群 -0.1点であり、確かにパーキンソニズムは全体として有意なものはなかったようです。

    ・trospium併用により、これまでみられていた副作用の問題はかなり解消したかのようにみえますが、長期的安全性などはどうなのでしょうか。今後さらに検証が必要と思われます

    引用文献
    文献1:Stephen K. Brannan et al. N Engl J Med 2021; 384:717-726
    文献2:Arch Neurol 1997; 54:465–473
    文献3:Am J Psychiatry 2008; 165:1033–1039
    文献4:Robert A McCutcheon et al. Trends Neurosci. 2019 Mar;42(3):205-220

  • グリシン・トランスポーター阻害剤 2021年02月28日

    ・グリシントランスポーター阻害剤といえば、統合失調症のグルタミン酸仮説に基づいて、臨床的有効性が期待されてきた薬剤です。

    ・グルタミン酸NMDA受容体のアゴニストについては、グルタミン酸神経系の興奮毒性により望ましくない結果をもたらす可能性がありますが、NMDA受容体機能を適度に賦活する薬剤については、治療的に作用する可能性があります。

    ・そのためNMDA受容体のアロステリック調節作用を有するグリシン結合部位へのアゴニスト(D-セリンやグリシン、D-サイクロセリンなど)や、グリア細胞によるグリシン取り込みを担うグリシントランスポーター1の阻害薬などが治療薬候補として検討されてきました。

    ・これまで様々なグリシン・トランスポーター1阻害剤が、抗精神病薬への増強療法として臨床試験で有効性が検証されてきました。

    ・sarcosineについては、7つの介入試験(n=326)のメタ解析結果(J Psychopharmacol. 2020 May;34(5):495-505)から、クロザピン以外の抗精神病薬に対する増強療法は、プラセボよりも有意な症状改善度を示し(SMD=0.51)、特にベースラインのPANSS totalが70-79点のさほど重度ではない患者群において、より大きな効果量(SMD=0.67)であったことが報告されています。sarcosineについては、認知機能を評価した試験もあり、今回の試験で用いられた認知機能検査と同じバッテリーを用いると認知機能改善に有用であると報告した論文もありました(World J Biol Psychiatry 2017;18: 357–68)が、メタ解析では全体としては有意な改善はないと報告されており、結論は一定していません。

    ・このクロザピン以外では、という点がポイントとなりますが、このことやD-セリンやグリシンについてもクロザピンとの併用では有意な効果が示されていない(D-サイクロセリンでは陰性症状がむしろ悪化した)ことなどは、クロザピンが、NMDA受容体のグリシン結合部位に対する部分アゴニストとして作用し、NMDA受容体を介したシグナル伝達を活性化しているのではとの説の根拠の一部となっています。ラットでの基礎実験でもそのような報告があるようです(Life Sci. 2008 Aug 1;83(5-6):170-5. )。もしそのような効果があるとすれば、クロザピン投与下で、グリシン結合部位に対するアンタゴニストを投与すると、不都合なことが起こりそうですが、その点はどうなのでしょうか?

    ・別のグリシン・トランスポータ阻害剤のAMG 747については、陰性症状主体の患者を対象として第2相試験までいきましたが、1名の患者がスティーブンス・ジョンソン症候群を発症したため、試験早期終了となりました。試験終了までのデータによる解析では、12週間で主要評価項目であるNSA-16(陰性症状評価尺度)については、プラセボと有意差が無かったものの、副次評価項目であるPANSS negativeについては、有意に改善効果がみられたとの結果となりました。また、この効果については、中等度の用量で効果が最大化する、逆U字型の用量効果関係がみられたとのことです。あまりグリシン濃度があがりすぎても良くないということでしょうか。

    ・同じくグリシン・トランスポーター阻害剤であるbitopertinについては、第3相試験までいき、3つの第3相試験の結果を統合した結果が2016年に報告されました(Lancet Psychiatry. 2016 Dec;3(12):1115-1128.)。全部合わせて1794名の患者が参加した大規模なものでしたが、3つの臨床試験全部で実薬投与群は6群(NightLyte試験 10m群、20mg群、TwiLyte試験 10mg群、20mg群、MoonLyte試験 5mg群、10mg群)設定されましたが、これらのうち12週間で主要評価項目(PANSS Positive Symptom Factor Score)’を達成できたのは、NightLyte試験の10mg群のみで、あとの群は全てプラセボとの有意差がない結果となりました。この結果により、bitopertinの承認は実現できませんでした。

    ・今回、新たなグリシン・トランスポーター阻害剤であるBI 425809の第2相試験の結果が報告されました(文献1)

    ・この第2相試験の特徴は、主要評価項目がMATRICS Consensus Cognitive Battery(MCCB)で評価された認知機能の変化であるという点です。グリシン・トランスポーター阻害剤であるsarcosineについて認知機能に対する効果があったとされた報告と同じ検査バッテリーとなります。MCCBは7つの認知領域について10個のテストで評価されます。CPTも入っているのでパソコンが必要ですね。ADHDの分野ではCPTを注意力の指標とするのはいかがなものか?みたいな論文(J Child Psychol Psychiatry. 2015 Jan;56(1):40-8.)が確かあったような気がしますが。。(以前Javaで作ってみたことがあったのですが、実際やってみるとかなり眠くなったりします)

    ・この試験では、過去3か月間精神症状が安定し、投薬内容も変更がない18-50才までの統合失調症患者509名が対象となり、プラセボ群(n=170)、BI 425809 2mg群(n=85)、5mg群(n=84)、10mg群(n=85)、25mg群(n=85)に無作為割付され、12週間で評価されました。クロザピン投与中は除外されました。

    ・ベースラインの特性として、72%が1種類の抗精神病薬投与、27%が2種類の抗精神病薬投与、28%が抗うつ薬を併用、20%が抗コリン薬を併用、25%がベンゾジアゼピンを併用されていたとのことです(具体的な併用薬剤の名称はappendixにもありませんでした)

    ・ベースラインのPANSS totalは平均60.8点でした。概ね活発な症状のない患者さんが対象となっていることがわかります。

    ・主要評価項目の認知機能ですが、MCCBの総合得点に関する尺度としてcomposite T-scoreというものが用いられており、10mg群と25mg群で12週後にプラセボ群より有意に改善したとの結果でした。全体のcomposite T-scoreが5点以上改善した群を反応と定義すると、10mg群では45%が、プラセボ群では29%が該当し、有意差ありとの結果でした。効果量についてはMCCB全体のcomposite T-scoreについて、10mg群では0.34、25mg群で0.30で、これまでのグルタミン酸系薬剤の認知機能に関するメタ解析の報告(Curr Pharm Des. 2010;16(5):522-37)とcomparableな数字のようです。

    ・これら認知機能改善効果については10mgまで用量依存性に増加する傾向がみられました。認知機能の下位項目については、特にワーキングメモリのテスト(Wechsler Memory Scale, 3rd edition, spatial span subtest)がプラセボとの差が大きくみられたようでした。

    ・PANSSについては総得点や陽性症状、陰性症状のfactor scoreについて、いずれもプラセボ群と有意差なしとの結果でした。

    ・脱落率は各群有意差なく、全体で完遂率は87%で、どの群もこのくらいの数字のようでした。副作用としては頭痛が8%程度、その他嘔気、眠気などの症状が10%未満でみられたようです。さらに用量依存性にわずかながら(0.5未満)Hb値が低下する傾向もあったとのことです。希死念慮についてはプラセボとの差はなく、統合失調症症状の有意な悪化もありませんでした。

    ・以上慢性期の安定した統合失調症患者に対するBI 425809増強は、効果量0.3程度の軽度な認知機能改善効果が見込める可能性があるということで、今後第3相試験が行われるのかどうかというところになります。

    ・グリシン・トランスポーター阻害剤の臨床試験の一連の流れをみていて思うのは、きちんと標準化された認知機能評価バッテリーを共通して用いることの重要性でした。統合失調症についてはMCCBがありますが(パソコンを用いるなど簡単に安価にできる検査ではありませんが)、気分障害ではこれに対応するものがあるのでしょうか?認知機能について触れてあるガイドラインのCANMATみてもメタ解析(Int J Neuropsychopharmacol. 2015 Jul 25;19(2):pyv082.)をみてもあまり統一感がないようで、このあたりどうなのでしょうか?

    文献1:W Wolfgang Fleischhacker et al., Lancet Psychiatry 2021;8: 191–201

     

  • 統合失調症治療のエキスパートコンセンサス 2021年02月21日

    ・昨年の双極性障害に引き続き(文献1)、日本臨床精神神経薬理学会のエキスパート141名による統合失調症治療薬に関するエキスパートコンセンサスが公表されました(文献2)。臨床場面での自分の判断がコモンセンスに近いかどうかを確認するのに大変に有用であり、このような論文はとてもありがたいです。

    ・双極性障害の論文のイントロにもありましたが、介入試験では対象となる患者が選択基準で厳密に選別されており、実臨床場面で出会うような陰性症状主体であったり、うつ症状を伴っていたり、強迫症状を伴っていたりする場合については、エビデンスが乏しいことや、ガイドラインでも言及されていないなどの問題があります。そこでこのようなケースについては、エキスパートの意見が薬剤選択上なお有用であることがあります。

    ・2019年2月から2019年4月までの間、日本臨床精神神経薬理学会の選んだエキスパート277名(回答者は141名)によるエキスパートコンセンサスになります。これ以降に発売されたルラシドンは入っていません。

    ・19の臨床場面において、各薬剤選択肢について9段階のリッカート尺度(1=“強くそう思わない ”から9=“強くそう思う”まで)で評価。選択肢の中で行いうる治療法が入っている場合には、少なくともどれか1つの治療法については9を付けるように要請されました。(ない場合にはすべて1を選択)

    ・陽性症状主体の場合には、リスペリドン(平均7.9点)、ついでオランザピン(7.5点)、アリピプラゾール(6.9点)、ブロナンセリン(6.8点)、パリペリドン(6.8点)、ブレクスピプラゾール(6.7点)の順でした。

    ・陰性症状主体の場合には、アリピプラゾール(7.6点)、ブレクスピプラゾール(6.7点)、オランザピン(6.6点)、クエチアピン(6.0点)の順でした

    ・うつと不安が主体の場合には、アリピプラゾール(7.3点)、オランザピン(7.2点)、クエチアピン(6.9点)、ブレクスピプラゾール(6.6点)の順でした

    ・興奮と攻撃性が主体の場合には、オランザピン(7.9点)、リスペリドン(7.5点)、ゾテピン(6.3点)、クエチアピン(6.3点)の順でした

    ・高齢者に対しては、アリピプラゾール(7.5点)、クエチアピン(6.6点)、ブレクスピプラゾール(6.4点)の順でした。高齢者に対してアリピプラゾールが1位にくるのは双極性障害の場合でも同じでした。やはり代謝系副作用が少なく遅発性ジスキネジアなど来しにくいことが要因でしょうか。

    ・顕著な症状のない患者に対する再発予防については、アリピプラゾール(7.6点)、ブレクスピプラゾール(6.6点)、オランザピン(6.3点)、ブロナンセリン(6.0点)の順でした

    ・顕著な症状のない患者に対する社会的統合(social integration)のための薬剤選択については、アリピプラゾール(8.0点)で最善、ついでブレクスピプラゾール(6.9点)、オランザピン(6.5点)、ブロナンセリン(6.4点)、リスペリドン(6.1点)の順でした

    ・錐体外路症状を呈しやすい患者については、クエチアピン(7.5点)、アリピプラゾール(6.9点)、オランザピン(6.6点)、ブレクスピプラゾール(6.6点)、クロザピン(6.3点)の順でした

    ・陽性症状主体の患者に対するLAI選択については、パリペリドンLAI(7.2点)、アリピプラゾールLAI(6.6点)、リスペリドンLAI(6.5点)の順

    ・陰性症状主体の患者に対するLAI選択については、アリピプラゾールLAI(7.4点)、パリペリドンLAI(5.9点)の順でした

    ・単剤では鎮静が不十分な場合の併用薬剤選択肢としては、オランザピン(6.8点)、バルプロ酸(6.6点)、クエチアピン(6.2点)、リスペリドン(6.1点)の順でした

    ・興奮(excitement)や焦燥性興奮(agitation)の際の屯服としては、リスペリドン(6.9点)、オランザピン(6.6点)、ロラゼパム(6.2点)、クエチアピン(6.1点)の順でした

    ・強迫症状を有する場合の抗精神病薬への併用薬剤としては、SSRI(6.1点)、アリピプラゾール(4.1点)の順でした

    ・治療抵抗性についてはクロザピンへのスイッチ(7.7点)、ベンゾジアゼピン併用の際の投与期間については、頓服的使用(7.2点)、次いで1か月以内(6.3点)となりました

    ・ここでこの結果を限られたエビデンスと比較してみます。

    ・陰性症状主体については、2018年のKrauseらの報告(Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2018 Oct;268(7):625-639)が参考になります。陰性症状主体の患者を対象とした介入研究は極めて乏しく、ある程度明確にプラセボに対する優位性が示されているのはアミスルプリドくらいで、これまでの介入試験の結果から質の高い結論を導くことが困難な状況であることがわかります。ただし、陰性症状主体の患者を対象にカリプラジンとリスペリドンを比較してカリプラジンの優位性を報告した論文(Nemeth G. et al. Lancet. 2017 Mar 18;389(10074):1103-1113)のインパクトは大きく、これがパーシャルアゴニストであるアリピプラゾールやブレクスピプラゾールに対する期待を高める要因になっているのではないかと思われます。ちなみに、有名な32の抗精神病薬を比較したネットワークメタ解析の論文(Huhn M. et al. Lancet. 2019 Sep 14;394(10202):939-951)中にも陰性症状に対する有効性の図が入っていますが、この図の根拠となった論文たちは、陰性症状主体の患者を除外しており、さらに評価尺度の大半が陰性症状の尺度としては不適切なPANSS negativeである点(陽性症状が有意であっても高得点となりうる常同的思考や抽象的思考の困難が入っている)に注意が必要です。

    ・うつや不安については、福島県立医大の三浦先生らが最近報告された、論文(Int J Neuropsychopharmacol. 2020 Nov 5:pyaa082. doi: 10.1093)が参考になります。解析対象がプラセボ対照の急性期試験なので、これについても結果の解釈に注意が必要(プラセボ対照の場合、unblindig biasなどの影響がありうるため)ですが、有意差はないものの、アリピプラゾールやパリペリドン、クエチアピン、オランザピンなどが上位に来ていることがわかります。

    ・攻撃性については、先ごろ公表された論文(Am J Psychiatry. 2021 Jan 21:appiajp202020010052. doi: 10.1176)で12週後のMOAS総得点において、クロザピンがオランザピンやハロペリドールより有意に良好であり、オランザピンはハロペリドールより有意に良好であった結果や、敵意について、第1世代と第2世代とを比較したメタ解析(Neuropsychopharmacology 2018; 43:2340–2349)、クロザピン、オランザピン、リスペリドン、ハロペリドールを比較した介入試験(Psychiatr Serv. 2001 Nov;52(11):1510-4.)などが参考になるかと思います。

    ・高齢者については忍容性が問題になりますが、遅発性ジスキネジアについてアリピプラゾールの優位性を示した論文(World Psychiatry. 2018 Oct;17(3):330-340.)や、代謝系副作用についてはCAMP試験(Am J Psychiatry. 2011 Sep;168(9):947-56.)の結果や、副作用についてはバイアスが入りにくいと思われることから、メタ解析の結果(Huhn M. et al. Lancet. 2019 Sep 14;394(10202):939-951)も大いに参考になるところです。

    ・強迫症状については、非定型抗精神病薬単剤では、若年初発精神病患者の強迫症状に対するオランザピンとリスペリドンの効果について報告した論文(J Clin Psychopharmacol. 2008 Apr;28(2):214-8)で6週間でのYBOCS変化量でオランザピンの優位性を報告したものがある一方で、非定型抗精神病薬誘発性の強迫症状についてのレビュー(Psychiatry Res. 2016 Dec 30;246:119-128)にあるように、症例報告レベルのエビデンスしかありませんが、クロザピンなどで誘発される強迫症状の可能性に注意が必要とされています。クロザピン治療数ヶ月後の強迫スペクトラム症の発症率は最大で76%とする報告もあり、一方でもともと強迫症状が存在していた統合失調症患者において38%で強迫症状の増悪がみられたとする報告があるとのことです。リスペリドンにおいても用量依存性の強迫症状の増悪についての報告があり、一方でクエチアピン、アリピプラゾール、オランザピンでは強迫症状誘発の報告は乏しく、これら薬剤への地難により強迫症状が改善したとの報告もあるようです。SSRI併用のエビデンスについては、おそらくはオープン試験による報告(J. Clin. Psychophamacol, 20(4):410-416,2000)などしかなく、エビデンスとしてはまだまだというところかと思います。

    文献1:Hitoshi Sakurai et al. Bipolar Disord . 2020 Jun 17. doi: 10.1111/bdi.12959
    文献2:Hitoshi Sakurai et al. Pharmacopsychiatry. 2021 Jan 12. doi: 10.1055/a-1324-3517

  • OCDについて 2021年02月14日

    ・前回、強迫症(OCD)と関連疾患の一部について取り上げたので、強迫症についても前回勉強会で取り上げた2015年12月以降の情報を含めて内容をupdateしておきます。特に重要と思われる薬物療法と精神療法を比較したメタ解析(文献2)と、抗精神病薬増強療法のエビデンス(文献3)についてまとめておきます。

    ・強迫症については、2017年のJAMA誌に、そのまんまガイドラインとして使用できそうな総説(文献1)が公表され、もうこれだけでいいような気もするのですが、メタ解析の帰結から重要と思われる情報についてまとめます。

    ・結論から言うと、現段階のエビデンスでは、OCDほど薬物療法に対する精神療法の優位性が大きい疾患はあまりなさそう、ということなのですが、そのあたりの根拠をみていきます。精神療法の効果が大きいということは、とりもなおさず軽症から中等症までのOCDの症状は、環境の影響を受けやすいと考えるのは飛躍しすぎでしょうか?実際に経験的なことですが、仕事などを始めて環境が変化してから症状がかなり軽減する方をみてきた気がします(症状が改善したから仕事を始めたかもしれず、このあたりは慎重になる必要がありますが)。

    ・まずは現時点で一番新しい(と思われる)メタ解析(文献2)からです。

    OCDに対する薬物療法と精神療法のネットワークメタ解析

    背景

    ・強迫症は高所得国では4番目に多い精神疾患であり、世界で上位10番目に位置する障害であるとされている

    ・薬物療法としてはクロミプラミンとSSRI、精神療法として認知行動療法が推奨されている

    ・薬物療法と精神療法を直接比較した試験は乏しいため、ネットワークメタ解析で有効性と安全性を比較してみた

    方法と対象

    ・2016年2月までの強迫症に対する無作為割付試験。抗うつ薬ないし曝露反応妨害法を含む認知行動療法(個別ないし集団)

    ・54試験(N=7014):行動療法、認知行動療法、認知療法、行動療法+クロミプラミン、認知行動療法+フルボキサミン、シタロプラム、クロミプラミン、エスシタロプラム、フルボキサミン、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシン、セイヨウオトギリソウ

    ・対照としてはプラセボないし待機群(心理学的プラセボ群では抗うつ薬使用は許可されていた)

    ・試験期間平均12週間(10-12週)

    ・主要評価項目:YBOCS

    ・ネットワークメタ解析

    結果

    ・プラセボ群と各SSRIとのYBOCSの得点差は、フルオキセチン -3.49、フルボキサミン -3.46、パロキセチン -3.42、セルトラリン -3.50、シタロプラム -3.49、エスシタロプラム -3.48で、SSRIはいずれもプラセボとは有意差があるが、SSRI間では有意差なし

    ・ベンラファキシンはプラセボと有意差なし

    ・プラセボ群とクロミプラミンのYBOCSの得点差は-4.72点で有意差あり。SSRIとの有意差はなし

    ・行動療法とプラセボ群とのYBOCSの得点差は―14.48点で有意差あり。SSRIより有意に良好

    ・認知療法とプラセボ群とのYBOCS得点差は―13.36点で有意差あり。SSRIより有意に良好

    ・認知行動療法とプラセボ群とのYBOCS得点差は―5.37点で有意差あり。SSRIと有意差なし(ただし待機群対照の試験を除外すると有意差あり)。待機群対照の試験を除外すると行動療法、認知療法と有意差なくなった。待機群ではプラセボ群よりもYBOCSの有意な悪化がみられており、待機群を対照にすると、結果が良好になる傾向あり。待機群対照を除外しても、行動療法、認知療法、CBTのSSRIに対する優位性は不変

    ・認知行動療法+CBT、行動療法+クロミプラミンについては、SSRI単独よりも有意に良好であったが(待機群対照試験を除外した場合)、行動療法、認知療法との有意差はなし

    結論

    ・OCD治療における精神療法の重要性を示唆する結果となった

    ・精神療法の薬物療法に対する優位性がここまで明らかなのは気分障害、神経症圏の疾患の中でOCDのみと言われている(World Psychiatry 2013;12: 137–48)

    ・OCDについてはガイドラインのような論文が2017年のJAMA(JAMA. 2017;317(13):1358-1367)に公表されており、その治療アルゴリズムにおいても認知行動療法はfirst lineになっている(軽症ないし中等症では曝露療法を含むCBTないしSSRI、重症では曝露療法を含むCBT+SSRI)


    治療抵抗性OCDに対するSSRI+抗精神病薬増強療法のメタ解析(文献3)

    背景

    ・OCDに対しては曝露療法を伴うCBTが第1選択とされている

    ・薬物療法ではSRI(serotonin reuptake inhibitors)であるSSRIないしクロミプラミンのエビデンスが存在する。しかしSRIに対して40-60%のOCD患者が反応しない

    ・抗精神病薬の増強はしばしば行われており、今回SRIに対する抗精神病薬の増強療法の有効性についてプラセボ対照で評価した介入試験についてのメタ解析を行った

    対象と方法

    ・SRIによる治療に反応しなかったOCD患者に対する抗精神病薬増強のプラセボ対照無作為割付比較試験

    ・14 RCTs(n=491):リスペリドン(0.5-2.25mg) 2 RCTs、アリピプラゾール(10ないし15mg) 2RCTs、オランザピン(6.1-11.2mg) 2 RCTs、パリペリドン(4.94mg) 1 RCT、ハロペリドール(6.2mg) 1 RCT、クエチアピン(168ー600mg) 4RCTs

    ・試験期間 平均8.7週間(4-16週)

    ・平均罹病期間16.2年

    結果

    ・プラセボと比較して、アリピプラゾール増強(Hedge’s g=-1.35)、ハロペリドール増強(Hedge’s g=-0.82)、リスペリドン増強(Hedge’s g=-0.59)は有意差あり。オランザピン、クエチアピン、パリペリドンは有意差なし

    ・抗精神病薬増強群全体の反応率(YBOCSで35%以上改善で定義)は29.8%、プラセボ群 12.5%で有意差あり。反応率でみるとアリピプラゾールのみプラセボと有意差あり

    ・あらゆる理由による中断率については抗精神病薬群とプラセボ群とで有意差なし。副作用による脱落は有意に抗精神病薬群で多かった(RR=2.38)

    結論

    ・抗精神病薬増強でSRIに反応しなかった3人に1人くらいが反応する可能性がある

     

    引用文献
    文献1:JAMA. 2017;317(13):1358-1367
    文献2:Skapinakis P et al. Lancet Psychiatry. 2016 Aug;3(8):730-739. doi: 10.1016/S2215-0366(16)30069-4
    文献3:Markus Dold et al. International Journal of Neuropsychopharmacology, 2015, 1–11

  • 抜毛症など 2021年02月07日

    ・抜毛症や皮膚むしり症などの強迫症および関連症群についての薬物療法の総説が文献1にありましたのでまとめておきます。

    ・この話題については2016年に勉強会で取り上げて以来になりますが、その時の内容も含めてまとめます。

    ・診断分類の変遷ですが、1990年頃にHollanderらがとらわれ、あるいは反復的・儀式的行動を特徴とする症候群として強迫スペクトラム障害の概念を提唱しました(文献2)。

    ・強迫スペクトラム障害はおおまかに醜形恐怖症、病気不安症、摂食障害など「外観や身体的イメージ、感覚へのとらわれ」を主とするもの、自閉スペクトラム症、チック症など強迫観念様の「とらわれ」は乏しいが、反復的・常同行為を主とするもの、病的賭博、窃盗症、抜毛症、間欠性爆発性障害などより強い快感や、満足、開放感を得る目的で繰り返される衝動行為を特徴とするものの3群に分類されました。

    ・DSM-IVからDSM-Vへの移行にあたっては、強迫スペクトラムが属する診断群分類の大幅な改定が行われました。

    ・強迫症については、これまで不安障害の下位分類であったものが独立した分類になったこと(クロナゼパムの介入試験で有効性が示されない(いずれも小規模ながら単剤:J Biol Psychiatry. 2003 Jan;4(1):30-4.、併用:. Ann Clin Psychiatry. 2004 Jul-Sep;16(3):127-32)など、不安障害圏とはいえないんじゃないかということなども根拠になったのでしょうか)、醜形恐怖症が身体表現性障害から強迫症および関連症群に分類されたこと、DSM-IVでは他のどこにも分類されない衝動制御の障害であった抜毛症および皮膚むしり症が強迫症および関連症群に分類されたこと、DSM-IVでは同じく他のどこにも分類されない衝動制御の障害であった、窃盗癖、間欠性爆発性障害、放火癖が、秩序破壊的・衝動制御・素行症群に分類され、行為症と同じカテゴリーになったこと、DSM-IVでは他のどこにも分類されない衝動制御の障害であった病的賭博が物質関連障害および嗜癖性障害群に分類され、ギャンブル障害になったこと、などです。咬爪症については他の特定される強迫症および関連症に分類されています。

    抜毛症、皮膚むしり症、咬爪症の薬物療法のレビュー(文献1)

    背景

    ・抜毛症、皮膚むしり症、咬爪症はいずれもDSM-5では強迫症および関連症群に分類されている。

    ・これら3疾患の診断にあたっては(1)特定の行為の繰り返し(2)行為を減弱ないし排除しようとする繰り返しの努力の存在(3)心理・社会的・職業的な機能障害をきたしている、の3つの共通点がある

    ・時点有病率は抜毛症で0.5-2%、皮膚むしり症で1.4-5.4%と報告されている

    ・咬爪症については、社会的機能障害を伴わず、行為を減らそうとする努力を伴わないものであれば、小児で50%、成人では減るものの、60代で4.5%との報告もある

    ・性差については、抜毛症と皮膚むしり症は女性に多く(3:1)、咬爪症も女性が多いがその比率は1.5:1程度とされている

    ・これら疾患に対する治療法のエビデンスは乏しく、FDAに承認されている薬剤もない

    ・2018年時点での薬物療法についての介入試験などの報告を文献的にレビューした

    方法と対象

    ・抜毛症、皮膚むしり症、咬爪症二重盲検試験の文献的レビュー

    ・抜毛症(9 RCTs N=251)、皮膚むしり症(2 RCTs N=85)、咬爪症(1 RCT N=14)

    結果

    ・抗うつ薬についての介入試験はクロミプラミン 3RCTs(うち1つはプラセボとCBT対照のパラレル、2つはデシプラミン対照のクロスオーバー試験)、フルオキセチン 2RCTs(いずれも小規模(Nが14と16のプラセボ対照クロスオーバー試験))であり最も新しいものが2000年に出版された報告

    ・クロミプラミンについては、CBTおよびプラセボとの9週間の小規模無作為割付試験( J. Clin. Psychiatry,2000, 61(1), 47-50 )において、プラセボとの有意差なし。CBTはプラセボおよびクロミプラミンより有意に改善。

    ・クロミプラミンの2つのデシプラミン対照の小規模クロスオーバー試験(N=13と14)では、いずれもエントリー時点2週間のプラセボwash-out期間をはさんで5週間ずつ(切り替えの際には漸増漸減で置換)の比較試験が行われた。

    ・1つは咬爪症(N=14)を対象(Arch. Gen. Psychiatry, 1991, 48(9), 821-827)とし、もう1つは抜毛症(N=13)を対象(N. Engl. J. Med., 1989, 321(8), 497-501.)としたもので、いずれの試験結果もクロミプラミン投与時はデシプラミン投与時よりも有意に爪咬み行為や抜毛行為の減少を認めた。しかし切り替え方法の問題や試験期間が短い問題がある

    ・SSRIについての報告はフルオキセチンの2つの小規模クロスオーバー試験(Am. J. Psychiatry, 1991, 148(11), 1566-1571.、Am. J. Psychiatry, 1995, 152(8), 1192-1196.)のみであり、1つ目は14名の抜毛症患者を対象とし、プラセボ対照で投与期間各6週間(間に5週間のwash-out期間をはさむ)。抜毛頻度などに有意差なくフルオキセチンの有効性示せず。2つ目は16名の抜毛症患者を対象とし、プラセボ対照で投与期間各12週間(間に5週間のwash0out期間あり)。フルオキセチンはプラセボに対して有意な効果を示せず

    ・抗うつ薬の結果については、2007年の系統的レビュー( Biol Psychiatry. 2007 Oct 15;62(8):839-46)の結果にもまとめてあり、その結果によると、SSRI対プラセボが4 RCTs(N=72)、全体としてSMD=0.02でありプラセボとの有意差なし、クロミプラミン対プラセボ(2RCTs、N=24)では、SMD=-0.68であり、小規模ながら有意な改善効果ありとされている

    ・習慣逆転法対プラセボは3RCT(N=59)であり、SMD=-1.14で最も大きな効果がみられた

    ・習慣逆転法対SSRIは1RCTで、有意差なし

    ・習慣逆転法対クロミプラミンでは、習慣逆転法が有意にクロミプラミンより有効との結果

    ・全体として習慣逆転法が最も優れた結果であり、SSRIの有効性は支持されないとの結果であった


    ・皮膚むしり症に対するラモトリギン(最大300mg)のプラセボ対照試験(N=32)がある。12週間で行われラモトリギンの有効性は示せなかった

    ・抜毛症に対するオランザピン(平均10.8mg)の12週間のプラセボ対照試験(N=25)ではCGI-Iでの反応率はオランザピン 85%、プラセボ 17%と有意差を認めた。

    ・グルタミン酸modulatorであり抗酸化作用を有するとされるN-acetylcysteine(NAC)については、成人を対象とした2つの介入試験と児童思春期を対象とした1つの介入試験がある。50名の抜毛症患者を対象とした12週間のプラセボ対照試験(Arch. Gen. Psychiatry, 2009, 66(7), 756- 763.)ではNAC2400mgはプラセボ群より有意に抜毛症状の改善を示した。また66名の皮膚むしり症患者を対象とした12週間のプラセボ対照試験(JAMA Psychiatry, 2016, 73(5), 490-496)においてもNAC2400mgはプラセボ群と比較してNE-YBOCSにおいて有意な改善効果を示した。一方で35名の児童思春期の抜毛症患者を対象とした12週間のプラセボ対照試験(J. Am. Acad. Child Adolesc. Psychiatry, 2013, 52(3), 231-240)ではNAC2400mgはプラセボ群と比較して有意な改善効果を示すことができなかった

    ・そのほか31名の抜毛症患者を対象としたイノシトールの10週間のプラセボ対照試験、51名の抜毛症患者を対象としたナルトレキソンの8週間のプラセボ対照試験があるが、いずれも結果はnegativeであった

    まとめ

    ・抜毛症、皮膚むしり症、咬爪症に対する薬物療法のエビデンスは極めて乏しく、何らかの結論を導き出すことができる状況ではないようです。習慣逆転法やOCDの治療法に準じた認知行動療法などの精神療法が主体となるものと思われます(ただし文献3によると暴露反応妨害法は抜毛症にも皮膚むしり症にも有効ではなかったという報告があるようです)


    文献1:Gabriele Sani et al. Current Neuropharmacology, 2019, 17, 775-786
    文献2:松永寿大ら 臨床精神薬理 Vol.14 No.4,2011 p567
    文献3:成瀬 栄一 精神科治療学 32(3):329-334 2017

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