院長ブログ

  • 統合失調症治療のエキスパートコンセンサス 2021年02月21日

    ・昨年の双極性障害に引き続き(文献1)、日本臨床精神神経薬理学会のエキスパート141名による統合失調症治療薬に関するエキスパートコンセンサスが公表されました(文献2)。臨床場面での自分の判断がコモンセンスに近いかどうかを確認するのに大変に有用であり、このような論文はとてもありがたいです。

    ・双極性障害の論文のイントロにもありましたが、介入試験では対象となる患者が選択基準で厳密に選別されており、実臨床場面で出会うような陰性症状主体であったり、うつ症状を伴っていたり、強迫症状を伴っていたりする場合については、エビデンスが乏しいことや、ガイドラインでも言及されていないなどの問題があります。そこでこのようなケースについては、エキスパートの意見が薬剤選択上なお有用であることがあります。

    ・2019年2月から2019年4月までの間、日本臨床精神神経薬理学会の選んだエキスパート277名(回答者は141名)によるエキスパートコンセンサスになります。これ以降に発売されたルラシドンは入っていません。

    ・19の臨床場面において、各薬剤選択肢について9段階のリッカート尺度(1=“強くそう思わない ”から9=“強くそう思う”まで)で評価。選択肢の中で行いうる治療法が入っている場合には、少なくともどれか1つの治療法については9を付けるように要請されました。(ない場合にはすべて1を選択)

    ・陽性症状主体の場合には、リスペリドン(平均7.9点)、ついでオランザピン(7.5点)、アリピプラゾール(6.9点)、ブロナンセリン(6.8点)、パリペリドン(6.8点)、ブレクスピプラゾール(6.7点)の順でした。

    ・陰性症状主体の場合には、アリピプラゾール(7.6点)、ブレクスピプラゾール(6.7点)、オランザピン(6.6点)、クエチアピン(6.0点)の順でした

    ・うつと不安が主体の場合には、アリピプラゾール(7.3点)、オランザピン(7.2点)、クエチアピン(6.9点)、ブレクスピプラゾール(6.6点)の順でした

    ・興奮と攻撃性が主体の場合には、オランザピン(7.9点)、リスペリドン(7.5点)、ゾテピン(6.3点)、クエチアピン(6.3点)の順でした

    ・高齢者に対しては、アリピプラゾール(7.5点)、クエチアピン(6.6点)、ブレクスピプラゾール(6.4点)の順でした。高齢者に対してアリピプラゾールが1位にくるのは双極性障害の場合でも同じでした。やはり代謝系副作用が少なく遅発性ジスキネジアなど来しにくいことが要因でしょうか。

    ・顕著な症状のない患者に対する再発予防については、アリピプラゾール(7.6点)、ブレクスピプラゾール(6.6点)、オランザピン(6.3点)、ブロナンセリン(6.0点)の順でした

    ・顕著な症状のない患者に対する社会的統合(social integration)のための薬剤選択については、アリピプラゾール(8.0点)で最善、ついでブレクスピプラゾール(6.9点)、オランザピン(6.5点)、ブロナンセリン(6.4点)、リスペリドン(6.1点)の順でした

    ・錐体外路症状を呈しやすい患者については、クエチアピン(7.5点)、アリピプラゾール(6.9点)、オランザピン(6.6点)、ブレクスピプラゾール(6.6点)、クロザピン(6.3点)の順でした

    ・陽性症状主体の患者に対するLAI選択については、パリペリドンLAI(7.2点)、アリピプラゾールLAI(6.6点)、リスペリドンLAI(6.5点)の順

    ・陰性症状主体の患者に対するLAI選択については、アリピプラゾールLAI(7.4点)、パリペリドンLAI(5.9点)の順でした

    ・単剤では鎮静が不十分な場合の併用薬剤選択肢としては、オランザピン(6.8点)、バルプロ酸(6.6点)、クエチアピン(6.2点)、リスペリドン(6.1点)の順でした

    ・興奮(excitement)や焦燥性興奮(agitation)の際の屯服としては、リスペリドン(6.9点)、オランザピン(6.6点)、ロラゼパム(6.2点)、クエチアピン(6.1点)の順でした

    ・強迫症状を有する場合の抗精神病薬への併用薬剤としては、SSRI(6.1点)、アリピプラゾール(4.1点)の順でした

    ・治療抵抗性についてはクロザピンへのスイッチ(7.7点)、ベンゾジアゼピン併用の際の投与期間については、頓服的使用(7.2点)、次いで1か月以内(6.3点)となりました

    ・ここでこの結果を限られたエビデンスと比較してみます。

    ・陰性症状主体については、2018年のKrauseらの報告(Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2018 Oct;268(7):625-639)が参考になります。陰性症状主体の患者を対象とした介入研究は極めて乏しく、ある程度明確にプラセボに対する優位性が示されているのはアミスルプリドくらいで、これまでの介入試験の結果から質の高い結論を導くことが困難な状況であることがわかります。ただし、陰性症状主体の患者を対象にカリプラジンとリスペリドンを比較してカリプラジンの優位性を報告した論文(Nemeth G. et al. Lancet. 2017 Mar 18;389(10074):1103-1113)のインパクトは大きく、これがパーシャルアゴニストであるアリピプラゾールやブレクスピプラゾールに対する期待を高める要因になっているのではないかと思われます。ちなみに、有名な32の抗精神病薬を比較したネットワークメタ解析の論文(Huhn M. et al. Lancet. 2019 Sep 14;394(10202):939-951)中にも陰性症状に対する有効性の図が入っていますが、この図の根拠となった論文たちは、陰性症状主体の患者を除外しており、さらに評価尺度の大半が陰性症状の尺度としては不適切なPANSS negativeである点(陽性症状が有意であっても高得点となりうる常同的思考や抽象的思考の困難が入っている)に注意が必要です。

    ・うつや不安については、福島県立医大の三浦先生らが最近報告された、論文(Int J Neuropsychopharmacol. 2020 Nov 5:pyaa082. doi: 10.1093)が参考になります。解析対象がプラセボ対照の急性期試験なので、これについても結果の解釈に注意が必要(プラセボ対照の場合、unblindig biasなどの影響がありうるため)ですが、有意差はないものの、アリピプラゾールやパリペリドン、クエチアピン、オランザピンなどが上位に来ていることがわかります。

    ・攻撃性については、先ごろ公表された論文(Am J Psychiatry. 2021 Jan 21:appiajp202020010052. doi: 10.1176)で12週後のMOAS総得点において、クロザピンがオランザピンやハロペリドールより有意に良好であり、オランザピンはハロペリドールより有意に良好であった結果や、敵意について、第1世代と第2世代とを比較したメタ解析(Neuropsychopharmacology 2018; 43:2340–2349)、クロザピン、オランザピン、リスペリドン、ハロペリドールを比較した介入試験(Psychiatr Serv. 2001 Nov;52(11):1510-4.)などが参考になるかと思います。

    ・高齢者については忍容性が問題になりますが、遅発性ジスキネジアについてアリピプラゾールの優位性を示した論文(World Psychiatry. 2018 Oct;17(3):330-340.)や、代謝系副作用についてはCAMP試験(Am J Psychiatry. 2011 Sep;168(9):947-56.)の結果や、副作用についてはバイアスが入りにくいと思われることから、メタ解析の結果(Huhn M. et al. Lancet. 2019 Sep 14;394(10202):939-951)も大いに参考になるところです。

    ・強迫症状については、非定型抗精神病薬単剤では、若年初発精神病患者の強迫症状に対するオランザピンとリスペリドンの効果について報告した論文(J Clin Psychopharmacol. 2008 Apr;28(2):214-8)で6週間でのYBOCS変化量でオランザピンの優位性を報告したものがある一方で、非定型抗精神病薬誘発性の強迫症状についてのレビュー(Psychiatry Res. 2016 Dec 30;246:119-128)にあるように、症例報告レベルのエビデンスしかありませんが、クロザピンなどで誘発される強迫症状の可能性に注意が必要とされています。クロザピン治療数ヶ月後の強迫スペクトラム症の発症率は最大で76%とする報告もあり、一方でもともと強迫症状が存在していた統合失調症患者において38%で強迫症状の増悪がみられたとする報告があるとのことです。リスペリドンにおいても用量依存性の強迫症状の増悪についての報告があり、一方でクエチアピン、アリピプラゾール、オランザピンでは強迫症状誘発の報告は乏しく、これら薬剤への地難により強迫症状が改善したとの報告もあるようです。SSRI併用のエビデンスについては、おそらくはオープン試験による報告(J. Clin. Psychophamacol, 20(4):410-416,2000)などしかなく、エビデンスとしてはまだまだというところかと思います。

    文献1:Hitoshi Sakurai et al. Bipolar Disord . 2020 Jun 17. doi: 10.1111/bdi.12959
    文献2:Hitoshi Sakurai et al. Pharmacopsychiatry. 2021 Jan 12. doi: 10.1055/a-1324-3517

  • OCDについて 2021年02月14日

    ・前回、強迫症(OCD)と関連疾患の一部について取り上げたので、強迫症についても前回勉強会で取り上げた2015年12月以降の情報を含めて内容をupdateしておきます。特に重要と思われる薬物療法と精神療法を比較したメタ解析(文献2)と、抗精神病薬増強療法のエビデンス(文献3)についてまとめておきます。

    ・強迫症については、2017年のJAMA誌に、そのまんまガイドラインとして使用できそうな総説(文献1)が公表され、もうこれだけでいいような気もするのですが、メタ解析の帰結から重要と思われる情報についてまとめます。

    ・結論から言うと、現段階のエビデンスでは、OCDほど薬物療法に対する精神療法の優位性が大きい疾患はあまりなさそう、ということなのですが、そのあたりの根拠をみていきます。精神療法の効果が大きいということは、とりもなおさず軽症から中等症までのOCDの症状は、環境の影響を受けやすいと考えるのは飛躍しすぎでしょうか?実際に経験的なことですが、仕事などを始めて環境が変化してから症状がかなり軽減する方をみてきた気がします(症状が改善したから仕事を始めたかもしれず、このあたりは慎重になる必要がありますが)。

    ・まずは現時点で一番新しい(と思われる)メタ解析(文献2)からです。

    OCDに対する薬物療法と精神療法のネットワークメタ解析

    背景

    ・強迫症は高所得国では4番目に多い精神疾患であり、世界で上位10番目に位置する障害であるとされている

    ・薬物療法としてはクロミプラミンとSSRI、精神療法として認知行動療法が推奨されている

    ・薬物療法と精神療法を直接比較した試験は乏しいため、ネットワークメタ解析で有効性と安全性を比較してみた

    方法と対象

    ・2016年2月までの強迫症に対する無作為割付試験。抗うつ薬ないし曝露反応妨害法を含む認知行動療法(個別ないし集団)

    ・54試験(N=7014):行動療法、認知行動療法、認知療法、行動療法+クロミプラミン、認知行動療法+フルボキサミン、シタロプラム、クロミプラミン、エスシタロプラム、フルボキサミン、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシン、セイヨウオトギリソウ

    ・対照としてはプラセボないし待機群(心理学的プラセボ群では抗うつ薬使用は許可されていた)

    ・試験期間平均12週間(10-12週)

    ・主要評価項目:YBOCS

    ・ネットワークメタ解析

    結果

    ・プラセボ群と各SSRIとのYBOCSの得点差は、フルオキセチン -3.49、フルボキサミン -3.46、パロキセチン -3.42、セルトラリン -3.50、シタロプラム -3.49、エスシタロプラム -3.48で、SSRIはいずれもプラセボとは有意差があるが、SSRI間では有意差なし

    ・ベンラファキシンはプラセボと有意差なし

    ・プラセボ群とクロミプラミンのYBOCSの得点差は-4.72点で有意差あり。SSRIとの有意差はなし

    ・行動療法とプラセボ群とのYBOCSの得点差は―14.48点で有意差あり。SSRIより有意に良好

    ・認知療法とプラセボ群とのYBOCS得点差は―13.36点で有意差あり。SSRIより有意に良好

    ・認知行動療法とプラセボ群とのYBOCS得点差は―5.37点で有意差あり。SSRIと有意差なし(ただし待機群対照の試験を除外すると有意差あり)。待機群対照の試験を除外すると行動療法、認知療法と有意差なくなった。待機群ではプラセボ群よりもYBOCSの有意な悪化がみられており、待機群を対照にすると、結果が良好になる傾向あり。待機群対照を除外しても、行動療法、認知療法、CBTのSSRIに対する優位性は不変

    ・認知行動療法+CBT、行動療法+クロミプラミンについては、SSRI単独よりも有意に良好であったが(待機群対照試験を除外した場合)、行動療法、認知療法との有意差はなし

    結論

    ・OCD治療における精神療法の重要性を示唆する結果となった

    ・精神療法の薬物療法に対する優位性がここまで明らかなのは気分障害、神経症圏の疾患の中でOCDのみと言われている(World Psychiatry 2013;12: 137–48)

    ・OCDについてはガイドラインのような論文が2017年のJAMA(JAMA. 2017;317(13):1358-1367)に公表されており、その治療アルゴリズムにおいても認知行動療法はfirst lineになっている(軽症ないし中等症では曝露療法を含むCBTないしSSRI、重症では曝露療法を含むCBT+SSRI)


    治療抵抗性OCDに対するSSRI+抗精神病薬増強療法のメタ解析(文献3)

    背景

    ・OCDに対しては曝露療法を伴うCBTが第1選択とされている

    ・薬物療法ではSRI(serotonin reuptake inhibitors)であるSSRIないしクロミプラミンのエビデンスが存在する。しかしSRIに対して40-60%のOCD患者が反応しない

    ・抗精神病薬の増強はしばしば行われており、今回SRIに対する抗精神病薬の増強療法の有効性についてプラセボ対照で評価した介入試験についてのメタ解析を行った

    対象と方法

    ・SRIによる治療に反応しなかったOCD患者に対する抗精神病薬増強のプラセボ対照無作為割付比較試験

    ・14 RCTs(n=491):リスペリドン(0.5-2.25mg) 2 RCTs、アリピプラゾール(10ないし15mg) 2RCTs、オランザピン(6.1-11.2mg) 2 RCTs、パリペリドン(4.94mg) 1 RCT、ハロペリドール(6.2mg) 1 RCT、クエチアピン(168ー600mg) 4RCTs

    ・試験期間 平均8.7週間(4-16週)

    ・平均罹病期間16.2年

    結果

    ・プラセボと比較して、アリピプラゾール増強(Hedge’s g=-1.35)、ハロペリドール増強(Hedge’s g=-0.82)、リスペリドン増強(Hedge’s g=-0.59)は有意差あり。オランザピン、クエチアピン、パリペリドンは有意差なし

    ・抗精神病薬増強群全体の反応率(YBOCSで35%以上改善で定義)は29.8%、プラセボ群 12.5%で有意差あり。反応率でみるとアリピプラゾールのみプラセボと有意差あり

    ・あらゆる理由による中断率については抗精神病薬群とプラセボ群とで有意差なし。副作用による脱落は有意に抗精神病薬群で多かった(RR=2.38)

    結論

    ・抗精神病薬増強でSRIに反応しなかった3人に1人くらいが反応する可能性がある

     

    引用文献
    文献1:JAMA. 2017;317(13):1358-1367
    文献2:Skapinakis P et al. Lancet Psychiatry. 2016 Aug;3(8):730-739. doi: 10.1016/S2215-0366(16)30069-4
    文献3:Markus Dold et al. International Journal of Neuropsychopharmacology, 2015, 1–11

  • 抜毛症など 2021年02月07日

    ・抜毛症や皮膚むしり症などの強迫症および関連症群についての薬物療法の総説が文献1にありましたのでまとめておきます。

    ・この話題については2016年に勉強会で取り上げて以来になりますが、その時の内容も含めてまとめます。

    ・診断分類の変遷ですが、1990年頃にHollanderらがとらわれ、あるいは反復的・儀式的行動を特徴とする症候群として強迫スペクトラム障害の概念を提唱しました(文献2)。

    ・強迫スペクトラム障害はおおまかに醜形恐怖症、病気不安症、摂食障害など「外観や身体的イメージ、感覚へのとらわれ」を主とするもの、自閉スペクトラム症、チック症など強迫観念様の「とらわれ」は乏しいが、反復的・常同行為を主とするもの、病的賭博、窃盗症、抜毛症、間欠性爆発性障害などより強い快感や、満足、開放感を得る目的で繰り返される衝動行為を特徴とするものの3群に分類されました。

    ・DSM-IVからDSM-Vへの移行にあたっては、強迫スペクトラムが属する診断群分類の大幅な改定が行われました。

    ・強迫症については、これまで不安障害の下位分類であったものが独立した分類になったこと(クロナゼパムの介入試験で有効性が示されない(いずれも小規模ながら単剤:J Biol Psychiatry. 2003 Jan;4(1):30-4.、併用:. Ann Clin Psychiatry. 2004 Jul-Sep;16(3):127-32)など、不安障害圏とはいえないんじゃないかということなども根拠になったのでしょうか)、醜形恐怖症が身体表現性障害から強迫症および関連症群に分類されたこと、DSM-IVでは他のどこにも分類されない衝動制御の障害であった抜毛症および皮膚むしり症が強迫症および関連症群に分類されたこと、DSM-IVでは同じく他のどこにも分類されない衝動制御の障害であった、窃盗癖、間欠性爆発性障害、放火癖が、秩序破壊的・衝動制御・素行症群に分類され、行為症と同じカテゴリーになったこと、DSM-IVでは他のどこにも分類されない衝動制御の障害であった病的賭博が物質関連障害および嗜癖性障害群に分類され、ギャンブル障害になったこと、などです。咬爪症については他の特定される強迫症および関連症に分類されています。

    抜毛症、皮膚むしり症、咬爪症の薬物療法のレビュー(文献1)

    背景

    ・抜毛症、皮膚むしり症、咬爪症はいずれもDSM-5では強迫症および関連症群に分類されている。

    ・これら3疾患の診断にあたっては(1)特定の行為の繰り返し(2)行為を減弱ないし排除しようとする繰り返しの努力の存在(3)心理・社会的・職業的な機能障害をきたしている、の3つの共通点がある

    ・時点有病率は抜毛症で0.5-2%、皮膚むしり症で1.4-5.4%と報告されている

    ・咬爪症については、社会的機能障害を伴わず、行為を減らそうとする努力を伴わないものであれば、小児で50%、成人では減るものの、60代で4.5%との報告もある

    ・性差については、抜毛症と皮膚むしり症は女性に多く(3:1)、咬爪症も女性が多いがその比率は1.5:1程度とされている

    ・これら疾患に対する治療法のエビデンスは乏しく、FDAに承認されている薬剤もない

    ・2018年時点での薬物療法についての介入試験などの報告を文献的にレビューした

    方法と対象

    ・抜毛症、皮膚むしり症、咬爪症二重盲検試験の文献的レビュー

    ・抜毛症(9 RCTs N=251)、皮膚むしり症(2 RCTs N=85)、咬爪症(1 RCT N=14)

    結果

    ・抗うつ薬についての介入試験はクロミプラミン 3RCTs(うち1つはプラセボとCBT対照のパラレル、2つはデシプラミン対照のクロスオーバー試験)、フルオキセチン 2RCTs(いずれも小規模(Nが14と16のプラセボ対照クロスオーバー試験))であり最も新しいものが2000年に出版された報告

    ・クロミプラミンについては、CBTおよびプラセボとの9週間の小規模無作為割付試験( J. Clin. Psychiatry,2000, 61(1), 47-50 )において、プラセボとの有意差なし。CBTはプラセボおよびクロミプラミンより有意に改善。

    ・クロミプラミンの2つのデシプラミン対照の小規模クロスオーバー試験(N=13と14)では、いずれもエントリー時点2週間のプラセボwash-out期間をはさんで5週間ずつ(切り替えの際には漸増漸減で置換)の比較試験が行われた。

    ・1つは咬爪症(N=14)を対象(Arch. Gen. Psychiatry, 1991, 48(9), 821-827)とし、もう1つは抜毛症(N=13)を対象(N. Engl. J. Med., 1989, 321(8), 497-501.)としたもので、いずれの試験結果もクロミプラミン投与時はデシプラミン投与時よりも有意に爪咬み行為や抜毛行為の減少を認めた。しかし切り替え方法の問題や試験期間が短い問題がある

    ・SSRIについての報告はフルオキセチンの2つの小規模クロスオーバー試験(Am. J. Psychiatry, 1991, 148(11), 1566-1571.、Am. J. Psychiatry, 1995, 152(8), 1192-1196.)のみであり、1つ目は14名の抜毛症患者を対象とし、プラセボ対照で投与期間各6週間(間に5週間のwash-out期間をはさむ)。抜毛頻度などに有意差なくフルオキセチンの有効性示せず。2つ目は16名の抜毛症患者を対象とし、プラセボ対照で投与期間各12週間(間に5週間のwash0out期間あり)。フルオキセチンはプラセボに対して有意な効果を示せず

    ・抗うつ薬の結果については、2007年の系統的レビュー( Biol Psychiatry. 2007 Oct 15;62(8):839-46)の結果にもまとめてあり、その結果によると、SSRI対プラセボが4 RCTs(N=72)、全体としてSMD=0.02でありプラセボとの有意差なし、クロミプラミン対プラセボ(2RCTs、N=24)では、SMD=-0.68であり、小規模ながら有意な改善効果ありとされている

    ・習慣逆転法対プラセボは3RCT(N=59)であり、SMD=-1.14で最も大きな効果がみられた

    ・習慣逆転法対SSRIは1RCTで、有意差なし

    ・習慣逆転法対クロミプラミンでは、習慣逆転法が有意にクロミプラミンより有効との結果

    ・全体として習慣逆転法が最も優れた結果であり、SSRIの有効性は支持されないとの結果であった


    ・皮膚むしり症に対するラモトリギン(最大300mg)のプラセボ対照試験(N=32)がある。12週間で行われラモトリギンの有効性は示せなかった

    ・抜毛症に対するオランザピン(平均10.8mg)の12週間のプラセボ対照試験(N=25)ではCGI-Iでの反応率はオランザピン 85%、プラセボ 17%と有意差を認めた。

    ・グルタミン酸modulatorであり抗酸化作用を有するとされるN-acetylcysteine(NAC)については、成人を対象とした2つの介入試験と児童思春期を対象とした1つの介入試験がある。50名の抜毛症患者を対象とした12週間のプラセボ対照試験(Arch. Gen. Psychiatry, 2009, 66(7), 756- 763.)ではNAC2400mgはプラセボ群より有意に抜毛症状の改善を示した。また66名の皮膚むしり症患者を対象とした12週間のプラセボ対照試験(JAMA Psychiatry, 2016, 73(5), 490-496)においてもNAC2400mgはプラセボ群と比較してNE-YBOCSにおいて有意な改善効果を示した。一方で35名の児童思春期の抜毛症患者を対象とした12週間のプラセボ対照試験(J. Am. Acad. Child Adolesc. Psychiatry, 2013, 52(3), 231-240)ではNAC2400mgはプラセボ群と比較して有意な改善効果を示すことができなかった

    ・そのほか31名の抜毛症患者を対象としたイノシトールの10週間のプラセボ対照試験、51名の抜毛症患者を対象としたナルトレキソンの8週間のプラセボ対照試験があるが、いずれも結果はnegativeであった

    まとめ

    ・抜毛症、皮膚むしり症、咬爪症に対する薬物療法のエビデンスは極めて乏しく、何らかの結論を導き出すことができる状況ではないようです。習慣逆転法やOCDの治療法に準じた認知行動療法などの精神療法が主体となるものと思われます(ただし文献3によると暴露反応妨害法は抜毛症にも皮膚むしり症にも有効ではなかったという報告があるようです)


    文献1:Gabriele Sani et al. Current Neuropharmacology, 2019, 17, 775-786
    文献2:松永寿大ら 臨床精神薬理 Vol.14 No.4,2011 p567
    文献3:成瀬 栄一 精神科治療学 32(3):329-334 2017

  • 久しぶりにみた

    p53というと、学生の頃に細胞内の情報伝達の授業か何かで、癌抑制遺伝子として習って、なんとなくそんな働きをしているんだなあくらいの記憶しか残っておらず、精神科臨床に出てからはまず目にする機会はほぼなかったのですが、久しぶりに目にする機会がありました。

    ・2021年1月21日のCell誌に公表された論文(文献1)にて、家族性ALS/FTLDの最も高頻度な遺伝子変異であるC9orf72遺伝子変異ALSにおいてこのp53が神経変性に重要な役割を果たしていそうだということが報告されました

    C9orf72遺伝子変異ALSでは、C9orf72遺伝子の第1イントロンにおいて6塩基繰り返し配列の過剰伸長がみられ、過剰伸長遺伝子から開始コドン非依存性のリピート関連翻訳により生成する異常RNAと異常反復配列を有するジペプチド反復蛋白質が細胞障害性を有すると考えられています。

    ・生成するジペプチド反復蛋白質は5種類(poly-グリシン-プロリン(GP)、poly-グリシンーアラニン(GA)、poly-グリシン-アルギニン(GR)、poly-プロリンーアルギニン(PR)、poly-プロリンーアラニン(PA))が知られています。

    ・このうち特に、グリシンーアルギニン(GR)およびプロリンーアルギニン(PR)の反復配列を有するジペプチド反復蛋白質が毒性が強いとする報告(文献2)があり、この報告では、ゲノムワイドスクリーニングにより、ジペプチド反復蛋白質が影響を与える遺伝子が探索されました。その結果、核細胞質間輸送に関連する遺伝子が多く抽出され、特に影響の大きなものはtransportin-1と呼ばれる、多くのRNA結合蛋白質の細胞質から核への輸送を担う蛋白質の遺伝子でした。transportin-1の機能がジペプチド反復蛋白質に障害された結果、RNA結合蛋白質の細胞質への蓄積が観察されました。

    ・さらに別の報告(文献3)ではpoly-GRとpoly-PR蛋白質は核小体に局在化し、核小体の主要な構成要素であるヌクレオホスミンを移動させ、結果的に核小体ストレスの増大と細胞死につながったことが報告されており、核小体機能を障害することも報告されています。

    ・また文献4では、poly-GRやpoly-PRが、RNAのスプライシングを行うスプライソソームに影響を与えることが報告されました。特にスプライソソームに関連したU2 snRNPとよばれる蛋白質の異常をもたらすことがわかりました。スプライソソームは本来核内で生成されるべきですが、これらジペプチド反復蛋白質の影響により、U2 snRNPが細胞質内に異常局在化し凝集することが報告されました。

    ・文献5では、Mayoクリニックの研究者らが、蛍光標識したpoly-PRジペプチド反復蛋白質(50回繰り返し)を発現するモデルマウスを開発し、病態への関与を調べました。その結果、ヘテロクロマチンに局在化したpoly-PRジペプチド反復蛋白質がDNAに結合し、HP1α(ヘテロクロマチン蛋白質1α)の液液相転移を阻害し、発現低下をもたらし、ヒストンメチル化異常などをもたらすことがわかりました。核内構造物にも異常をもたらしていることになります。

    ・文献6では、poly-GRジペプチド反復蛋白質(80回繰り返し)が徐々に蓄積する、poly-GR毒性を誘発しうるモデルマウスが作成されました。その結果、poly-GRは主としてミトコンドリア酵素複合体Vの構成要素であるATP5A1に結合し、そのユビキチン化と分解を促進することがわかりました。

    ・このように、いろんなところでいろんな悪さをしていそうなpoly-GR、poly-PRですが、今回はスタンフォード大学の研究者らが、神経細胞が変性していく過程において、クロマチンへのアクセス状況の特性と転写プログラムを調べるプラットフォームを開発し(どんなものなのか、詳細はわからないです)、その技術を用いてpoly-PRがどんな悪さをしているかを調べました。

    ・その結果、なんとpoly-PRは転写因子p53を介した転写プログラムを活性化していることがわかったとのことです。しかもC9orf72遺伝子変異モデルマウスにおいてp53を遺伝子的に除去すると、神経細胞変性が阻害され、生存期間の顕著な延長がみられたとのことです。

    ・ヒトに応用するとなると、このp53は癌抑制遺伝子なので、これを抑制してしまうと、いろんな不都合が生じてしまいそうですが、思いがけないところでp53が出てきて、懐かしく感じました。c9orf72遺伝子変異ALSについては、2011年に発見され、まだ10年しかたっていないので、新しい技術を用いて研究される度に新しい発見が報告される状況です。まだまだいろいろな興味深い報告が続くものと思われます。

    ・ちなみに、まだ発見から10年しかたっていませんが、この分野の創薬をリードするBiogen社は、既にC9orf72遺伝子由来の異常蛋白質の生成を阻害するためのアンチセンスオリゴヌクレオチド製剤(BIIB078)を開発し、第1相試験を開始しています。この結果も注目されるところです

    文献1:Cell. 2021 Jan 15:S0092-8674(20)31747-5. doi: 10.1016/j.cell.2020.12.025. Online ahead of print.
    文献2:Nat Neurosci. 2015 Sep;18(9):1226-9. doi: 10.1038/nn.4085.
    文献3:Human Molecular Genetics, Volume 24, Issue 9, 1 May 2015, Pages 2426–2441,
    文献4:Cell Rep. 2017 Jun 13;19(11):2244-2256. doi: 10.1016/j.celrep.2017.05.056.
    文献5:Science. 2019 Feb 15;363(6428):eaav2606. doi: 10.1126/science.aav2606.
    文献6:Nat Neurosci. 2019 Jun;22(6):851-862. doi: 10.1038/s41593-019-0397-0. Epub 2019 May 13.

  • 統合失調症の攻撃性への薬物療法 2021年01月28日

    ・統合失調症に行為障害の既往がある場合とない場合とで、その攻撃性に対してクロザピン、オランザピン、ハロペリドールのどれが最も有効かについての介入試験の結果が文献1にて報告されました。

    ・この研究の背景として、CATIE試験の解析結果(Br J Psychiatry 2008; 193:37–43)では、行為障害の既往がない場合には、投薬により暴力的行動の有意な減少がみられたものの、行為障害の既往があると、暴力的行動は抗精神病薬により有意な改善がみられなかったと報告されており、行為障害の既往があると抗精神病薬が有効ではない可能性を示唆する結果が報告されたことがあります。

    ・CATIE試験ではクロザピンは選択されていませんし、果たして行為障害が合併すると抗精神病薬の攻撃性改善効果がどうなるかの検証が今回の介入試験のポイントになります。またこの介入試験の特徴として、暴力的行動の尺度として、Modified Overt Aggression Scale (MOAS) が用いられており、身体的、対物的、自傷的、言語的暴力行為を程度と頻度で得点化していることもあげられます。

    ・以下文献1の概略となります

    背景

    ・クロザピンは攻撃的行動や暴力的行動に対して最も有効な抗精神病薬である。このことはFrogleyらのシステマティックレビュー(Int J Neuropsychopharmacol 2012; 15:1351–1371)でも報告されている、

    ・Citromeらの介入試験(Psychiatr Serv 2001; 52:1510–1514)でもこのことは支持される結果となった。この介入試験では、統合失調症(86%)ないし統合失調感情障害(DSM-IV)で入院中の患者(18-60才でPANSS totalで60点以上。平均罹病期間19.5年)が対象となり、14週間で行われた。被検者は最初1週間で前治療薬と試験薬をcross-titrationで置換。オランザピン、リスペリドン、ハロペリドールは1週間で各々20mg、8mg、20mgをターゲット用量とされ、クロザピンについては24日間で500mgを目指した。最終用量はクロザピン526.6mg、オランザピン30.4mg、リスペリドン11.6mg、ハロペリドール 25.7mgであった。主要評価項目はPANSSであり、クロザピン N=40、オランザピン N=39、リスペリドン N=41、ハロペリドール N=37に無作為割付された。結果は14週間でのPANSS敵意尺度の変化の効果量はクロザピン 0.25(改善)、オランザピン 0.06(改善)、リスペリドン 0.05(悪化)、ハロペリドール 0.30(悪化)(この介入試験ではリスペリドンは平均11.6mgで敵意尺度については有意な改善がみられていないが、例えばBr J Psychiatry. 1995;166:712–26においては、慢性期統合失調症患者への介入試験でリスペリドン4mg以上でハロペリドール10mgと比較して有意な敵意改善効果が報告されている)となった。ベースラインと比較した場合、クロザピンのみ有意に敵意が改善。クロザピンはハロペリドールないしリスペリドンより有意に敵意を改善した。リスペリドンないしオランザピンとハロペリドールとの間には有意差はなかった。クロザピンの有効性については、PANSSの鎮静や幻覚妄想などの尺度を共変量として調整後も保持され、鎮静とは無関係に敵意に対して有効であることを示唆する結果となった

    ・しかしこのCitromeらの介入試験では、もともと攻撃性を有する患者が選択されたわけではなく、またPANSS尺度の敵意における改善度で評価されたものである点が問題となる。

    ・クロザピン以外の第2世代抗精神病薬の攻撃性に対する有効性についてのエビデンスは豊富ではないが、敵意について、第1世代と第2世代とを比較したメタ解析(Neuropsychopharmacology 2018; 43:2340–2349)では、小さいながらも有意な第2世代抗精神病薬の第1世代に対する優位性が報告されている。ただしこの優位性については高用量投与時(CP換算500mg以上)に限られていた

    ・クロザピン以外の薬剤についての攻撃性に対する有効性については、CATIE試験の解析でも報告されており、介入開始後6か月間での攻撃的行動が評価され、ペルフェナジン、オランザピン、リスペリドン、ジプラシドン、クエチアピンにおいて、薬剤間の有意な差はみられなかったと報告されている

    ・これらの報告はPANSSの敵意尺度などを使用しており、攻撃性を評価するための尺度を用いていない問題点がある

    ・成人統合失調症患者における暴力の重要なリスク因子として、15才未満における行為障害の既往があげられている(Schizophr Bull 2017; 43:1021–1026)。統合失調症ないし統合失調感情障害患者について2年間以上の観察における攻撃的行動は、行為障害があると、ない場合に比較して2.6倍になったことが報告されている(Schizophr Res 2005; 78:323–335)

    ・CATIE試験の解析結果では、使用された薬剤では、行為障害の既往がない場合には、投薬により暴力的行動の有意な減少がみられたが、行為障害の既往があると、暴力的行動は抗精神病薬により有意な改善がみられなかったと報告されており、行為障害の既往があると抗精神病薬が有効ではない可能性を示唆している。しかしクロザピンは投与されていない。

    ・クロザピンは統合失調症患者の自殺関連行動の改善においても、オランザピンよりも優れていることが報告されており(Arch Gen Psychiatry 2003; 60:82–91)、この効果は精神病症状の改善とは無関係であった

    ・またクロザピンは児童思春期の行為障害患者の攻撃性に対して有効であることが報告されている(Clin Psychopharmacol Neurosci 2019; 17:43–53)

    ・今回、統合失調症圏患者に対して、行為障害の既往の有無でクロザピン、オランザピン、ハロペリドールの効果を検証した。


    対象と方法

    ・18-60才の統合失調症ないし統合失調感情障害患者(DSM-IV)で明らかな身体的暴力行為を行ったもの。かつ暴力行為4週間以内に言語的、対物的、身体的な攻撃的行動が明らかなもの

    ・15才までの小児期の行為障害やアルコール依存などの行動上の問題についてはDSM-IV II軸障害に対する構造化面接を用いた

    ・最初2週間のスクリーニング期間で前治療薬はCP換算750mgまで減量

    ・身体的暴力行為から介入開始までの中央値は20日間

    ・スクリーニング後にクロザピン、オランザピン、ハロペリドールに無作為割付

    ・介入期間:12週間

    ・主要評価項目はModified Overt Aggression Scale (MOAS) で評価した攻撃的行動の総得点。MOAS総得点は、身体的、対物的、自傷的、言語的暴力行為を重症度で得点化し、12週間の各暴力行為の得点の合算で評価(そのためベースラインからの変化という比較検討ができない。薬剤間の12週間での攻撃的行動の総得点の比較となる)

    結果

    ・行為障害の既往あり N=53、行為障害の既往なし N=46

    ・ハロペリドール群 行為障害既往あり 最終用量 19.4mg N=13 行為障害既往なし 24.47mg N=19

    ・クロザピン群 行為障害既往あり 552.5mg N=21 行為障害既往なし 525.9mg N=12

    ・オランザピン群 行為障害既往あり 23.42mg N=19 行為障害既往なし 25mg N=15

    ・暴力行為で逮捕歴がある患者の割合は、行為障害の既往の有無で有意差はなし(行為障害合併群 26.4%、行為障害非合併群 28.3%)

    ・12週間完遂率は行為障害合併群 64.2%、非合併群 73.9% 有意差なし

    ・12週間のMOAS総得点は、行為障害非合併群では、ハロペリドール群 平均28.7点、オランザピン群 平均 24.9点、クロザピン群15点でクロザピン群とハロペリドール群、オランザピン群とで有意差あり。行為障害合併群では、ハロペリドール群 71.6点、オランザピン群 40.7点、クロザピン群 26.6点で、クロザピン群はハロペリドール群、オランザピン群より有意に、オランザピン群はハロペリドール群より有意に良好であった

    ・行為障害を合併していると、身体的暴力行為は、非合併群と比較して3倍も起こりやすかった

    ・行為障害の既往の有無に関わらず、クロザピンは統合失調症患者の攻撃性の改善に有用であることを示唆する結果が得られた。オランザピンについても行為障害を合併するとハロペリドールより有意に攻撃的行動が少ない結果となった

    ・PANSS総得点の12週間での変化量は群間の有意差なし(クロザピン群 -2.4点、オランザピン群 -5.3点、ハロペリドール群 -2.6点)。行為障害の合併の有無でも変化量は有意差なし

    ・行為障害合併群ではMOAS総得点にみる攻撃性得点がクロザピン群ではハロペリドール群の37%少ないなど顕著な差がみられた(行為障害非合併群では52%)

    結論

    ・小規模試験の結果だが、統合失調症圏の患者の暴力行為に対するクロザピンの有効性は、行為障害の合併の有無に関わらず期待できるかもしれない。

    引用文献
    文献1:Krakowski M et al. Am J Psychiatry. 2021 Jan 21;appiajp202020010052. doi: 10.1176/appi.ajp.2020.20010052.

このページのトップへ