院長ブログ

  • 統合失調症の再発予防について 2021年05月25日

    ・最新のlancet psychiatry誌に2回以上のエピソードを有する(初発ではない)統合失調症ないし統合失調感情障害患者を対象とした、維持療法における介入試験について、中央値52週間程度の期間において、標準用量を維持した方がいいのか、それとも低用量(標準用量の下限の50-99%の用量)でも大丈夫なのか?を検証したメタ解析が公表されました(文献1)。少しつっこみどころがあるので、コメントしてみます

    ・まず、この論文のアブストラクトの結論をみて、なんとなく違和感を感じたのですが、そう感じた背景にWunderinkらの2013年の論文(文献2)や、藤田医大の岸先生の2019年の論文(文献3)が頭にあったことがあります。この2つの論文はいずれも初発精神病が対象となっている点で今回の報告(非初発)とは性質が異なりますが、その結論は重要です。

    ・文献2では、初発精神病後の最初の2年間で抗精神病薬の減量ないし中断を試みた群は、維持療法を行った群(無作為割付オープン試験)と比較して、最初2年間での再発率は2倍になるものの、その後さらに5年間経過観察したところ、7年予後(症状的および機能的寛解の割合)は当初減量/中断群に割り付けされた群では40.4%、維持群では17.6%であり、長期予後の観点からは減量を目指したほうがいいという結果でした。

    ・また文献3では、初発精神病エピソード後2年間の抗精神病薬の維持療法は、中断した場合と比較して、有意に(最初1年間で約50%程度)再発リスクを減少させるということで、抗精神病薬を維持することの重要性がわかるものでした。しかし1年間抗精神病薬を中断した患者の45.7%(18-24か月間では39.4%)は再発しなかったということで、一定の割合で抗精神病薬を中止しても再発しない患者群が存在していたということになります。今後の研究で重要なことは、どのようなケースにおいて抗精神病薬を中止可能なのかを個別に見極める指標を同定することになります

    ・最新のBAPガイドライン(文献4)では初発エピソード後2年間の抗精神病薬継続を推奨していますが、維持療法期間を決定する際には、患者と共同で抗精神病薬継続および中断のリスクとベネフィットについて検討し、決定することとされています。その上で、”The nature of the index episode (including speed of onset, insight, severity, and risk) can be helpful in assessing the risks associated with any future relapse”とされています。この括弧内最後のriskとは遺伝負因や一般的な再発リスクのことでしょうか?BAPガイドラインでは再発の予測因子として、服薬アドヒアランスの悪さ、男性であること、DUPが長いこと、病前の社会機能の悪さ、ベースラインでの陰性症状の重症度、物質使用障害の併存、治療者との治療関係の希薄さ、患者とその家族や介護者との間の相互作用の希薄さ、ライフイベントや家族の高感情表出(high EE)などが挙げられていますが、これら指標が果たして治療中断後にも再発リスクが高いことと関連するかどうかについては明確な結論はでていません。

    ・そんなわけで文献1のアブストラクトを読んで生じた違和感は、文献2や3の結論は初発エピソードについてとはいえ、今回のようにメタ解析でおしなべてしまうと、抗精神病薬を減量することにより利益を享受しうる一群の存在や、あるいは減量ないし中断可能な一群を抽出し、個別化医療を提供しようとする望ましい方向性への努力がどこかにいってしまうのではないかという懸念が浮かんだことに起因します。まずは文献1の内容をざっとまとめ、その後独自に行った解析結果では、結論がまた異なることをみてみます。

    再発を繰り返す統合失調症再発予防のための抗精神病薬用量

    背景


    ・統合失調症の維持療法期間において、急性期における抗精神病薬の継続はプラセボと比較して1年後の再発リスクを有意に減らすことが報告されている(リスク比 0.40 :Lancet 2012; 379: 2063–71.)

    ・維持療法における最適な抗精神病薬の用量については、急性期治療で寛解に至った抗精神病薬の用量を維持することを推奨するものもあれば、効果的な最低用量の維持療法を推奨するものもあり一定しない。

    ・2013年以降のガイドラインで、維持療法期の抗精神病薬の用量について言及されている7つのガイドラインについて、最新のBAPガイドラインでは、維持療法期間においては、認可された範囲内の用量の抗精神病薬を継続して使用する必要があり、減量に際しては再発のリスクが高まることを考慮して、慎重かつ綿密にモニターすべきであるとしている。他6つは減量ないし低用量投与戦略を部分的に支持するとの結論になっている(例えばMausleyガイドライン2018では初発後の維持療法では慎重な減量も選択肢となっている。WFSBP2013も初発エピソード後では低用量(CP換算600mg未満)での再発予防も可能かもしれないとしている。またRANZCP2016は体重増加などの副作用発現時には変薬ないし減量を考慮すべきとなっている)

    ・BAPガイドラインが他6つのガイドラインと比較して、維持療法期間における減量について慎重な記載となっている理由は、Huiらの報告(Lancet Psychiatry 5:432–442.2018)の影響がある(初発エピソード後の抗精神病薬の早期(3年以内)の減量ないし中止が10年予後を悪化させていたとの報告)

    ・2013年から2019年までのガイドラインに影響を与えた論文にWunderinkらの報告がある(JAMA Psychiatry 2013; 70: 913–20. )。この論文では、初発精神病患者については、最初2年間で減量ないし中断を試みた場合、維持療法を行った場合と比較(無作為割付オープン試験)して、最初2年間での再発率は約2倍(減量/中断群 43%対維持群21%)になるものの、その後さらに5年間(合計7年間)オープンで経過観察したところ、7年後に症状的および機能的寛解(リカバリー)を達成した患者の割合は当初減量/中断群に割り振られた患者では40.4%、維持群では17.6%と、リカバリー率が約2倍であったことが報告された。そのため初発精神病後の減量ないし中断を目指す治療戦略は長期予後の改善を目指す上で有用かもしれないとされた。

    ・しかしこの論文については批判があり、有意差はないものの、ベースラインの診断が統合失調症であったものが減量/中断群では38.5%に対して維持群では52.4%、週16時間以上の労働への従事率が減量/中断群では50.8%に対して維持群では38.1%であったこと(BAPガイドラインでの批判)、オープン試験であったための結果の信頼性への問題などが指摘されている

    ・Uchidaら(Schizophr Bull 2011; 37: 788–99)の2009年までに公表された13試験のメタ解析において、統合失調症の再発予防における標準用量(オランザピンでは5-15mg(n=48)、クエチアピン600mg(n=52)、ジプラシドン60mgないし160mg(n=135),リスペリドンLAI 50mg/2w(n=161)、他9個の試験のうち7つは第1世代LAI(n=320:フルフェナジン decanoate、ハロペリドール decanoateなど)。残る2つは第1世代(n=23))と低用量(定義の1日用量50~100%、クエチアピン300mg(n=41)、ジプラシドン40mg(n=72)、リスペリドンLAI 25mg/2w(n=162)など)または超低用量(定義の1日用量50%未満:オランザピン1mg(n=14)を除いて全て第1世代LAI(n=172)の報告)の有効性を比較し、低用量治療は標準用量治療と比較して、入院、再発のいずれにおいても有意な差はなかったと報告した。

    ・一方で標準用量対超低用量については、入院、再発いずれも超低用量群が有意に増加したが、ほぼ第1世代LAIの結果であり、エントリーされた各試験の不均質性も大きいことから、結果の信頼性は低いとされている

    ・今回、2009年以降の第2世代抗精神病薬およびLAIの結果も含めて、統合失調症の維持療法における用量減量ないし標準用量の再発リスクや治療中断率などの比較を行った

    対象と方法

    ・18歳以上の統合失調症ないし統合失調感情障害を対象とした24週以上無作為割付比較試験

    ・ベースラインで安定しており、抗精神病薬の2つの用量(標準用量ないし低用量または超低用量)で比較したもの

    ・初発精神病ないし治療抵抗性統合失調症は除外

    ・International Consensus Study of Antipsychotic Dosingが定義する急性期治療において推奨される用量の範囲内を標準用量、標準用量の下限の50-99%までを低用量、下限の50%未満を超低用量とした

    ・ジプラシドン、アセナピン、フルフェナジン decanoate N=6、オランザピン N=6、アリピプラゾールLAI,ハロペリドール decanoate N=2、オランザピンpamoate、ハロペリドール、propericiazine、ピモジド、スルピリド、リスペリドン N=4、クエチアピン

    ・主要評価項目は再発およびあらゆる理由による中断

    ・副次評価項目は、入院、忍容性不良による中断、PANSS変化量、体重、プロラクチン濃度、錐体外路症状得点など

    ・22 studies(24 trials、n=3282)。18 trialsが二重盲検、6 trialsがオープンないしsingle blind。22 studiesのうちバイアスリスクがlowと判断されたのは2つ。ハイリスクは 3つ。

    ・標準用量群 n=1777、低用量群 n=726、超低用量群 n=779

    ・参加者年齢中央値 38歳。試験期間の中央値は52週間

    結果

    ・標準用量と比較して、低用量は再発リスクが44%有意に増加(RR=1.44 95% CI 1.10-1.87)。あらゆる理由による中断は12%有意に増加(CI 1.03-1.22)

    ・標準用量と比較して、第1世代低用量群は有意に再発リスクは増加(RR 2.08、95% CI 1.49-2.90 )、第2世代抗精神病薬低用量群は有意差なし(RR 1.23 CI 0.88-1.70)

    ・標準用量と比較して、低用量LAI群は、有意に再発リスク増加(RR 2.13 CI 1.44-3.14)、経口低用量抗精神病薬は有意差なし(RR 1.29、CI 0.96-1.72)

    ・標準用量と比較して、第1世代低用量群は有意にあらゆる理由による中断リスクは増加(RR 1.34、95% CI 1.11-1.63 )、第2世代抗精神病薬低用量群は有意差なし(RR 1.07 CI 0.97-1.18)

    ・標準用量と比較して、低用量LAI群は、あらゆる理由による中断リスクは有意差に増加(RR 1.35 CI 1.09-1.66)、経口低用量抗精神病薬は有意差なし(RR 1.08、CI 0.98-1.18)

    ・標準用量と比較して、超低用量では、再発リスクが72%(RR 1.72、95%CI 1.29-2.29)増加、あらゆる理由に中断リスクが31%(RR 1.31、1.11-1.54)増加。

    ・標準用量と比較して、第一世代超低用量群は有意に再発リスク増加(RR 1.55, 95%CI 1.06-2.28)、第二世代超低用量群においても再発リスクは有意に増加(RR 1.88, 1.22-2.90)

    ・標準用量と比較して、超低用量LAIは再発リスクを有意に増加( RR 1.94, 1.25-3.01 )、超低用量経口薬も再発リスクは有意に増加(RR 1.35, 1.08-1.69)

    ・標準用量と比較して、あらゆる理由による中断は、第一世代超低用量群では有意差なし(RR 1.14, 95%CI 0.93-1.39 )、第2世代超低用量群とは有意差あり(RR 1.38, 1.11-1.72)

    ・標準用量と比較して、超低用量LAIのあらゆる理由による中断率は有意差あり(RR 1.39, 1.06-1.81 )。超低用量の経口剤も有意差あり(RR 1.20, 1.04-1.38)

    標準的な用量と比較して、低用量は総精神病理スコア(PANSSないしBPRS)の増加と有意に関連した(SMD 0.17、95%CI 0.03 -0.31)
    入院、忍容性不良による中止、抗コリン剤の使用、錐体外路症状得点は群間で有意差なし

    結論

    ・再発歴を有する統合失調症ないし統合失調感情障害患者においては、標準用量を維持した方が、約1年後の再発率やあらゆる理由による中断率は、減量するよりも良好な可能性がある(エントリーされた試験の中央値52週、最長104週)。それ以上の長期予後についてはわからない。第2世代抗精神病薬については低用量でも標準用量と比較して再発率や中断率に有意差はでていない(数値的にはやや悪かったが)

    コメント

    ・結果の部分で低用量第2世代抗精神病薬と標準用量との再発リスクなどの比較が、低用量第2世代抗精神病薬対標準用量第2世代抗精神病薬なのか、低用量第2世代抗精神病薬対標準用量全体なのか(おそらく前者ですが)、よくわからなかったので自分でメタ解析をしてみました。

    ・この論文では二重盲検試験とsingle blind試験、オープン試験全ての結果をメタ解析対象として(図では二重盲検試験だけの結果も提示してありますが)いますが、とりあえず経口第2世代抗精神病薬の二重盲検試験だけを解析対象とし、標準用量対低用量について再発リスクのrisk ratioについてrandom effect modelでメタ解析をしてみます(いつものようにRのmetaforパッケージでやります)。

    ・コードはこんな感じです(試験のラベルはめんどくさいので入れてません。図のラベルは後付けです)

    a <- c(21,2,4,5,5,48)
    n1 <- c(68,31,31,16,64,88)
    c <- c(23,6,12,14,9,35)
    n0 <- c(67,42,83,46,64,87)
    dat <- data.frame(a,n1,c,n0)
    library(metafor)
    dat.escalc <- escalc(measure="RR", ai=a, n1i=n1, ci=c, n2i=n0, data=dat)
    res.reml <- rma.uni(yi, vi, method="REML", data=dat.escalc)
    forest(res.reml, order = "prec", transf = exp, refline = 1)

    ・そうすると、下図のように、結論は支持されず、経口第2世代抗精神病薬では、低用量でも標準用量と比較して再発リスクはそうかわらないRR=1.01(CI 0.73-1.39)となりました。どう解釈すればいいでしょうか?

    figmeta1

    文献1:Mikkel Højlund et al. Lancet Psychiatry. 2021 Jun;8(6):471-486.
    文献2:JAMA Psychiatry 2013; 70: 913–20.
    文献3:Kishi T. et al. Psychol Med. 2019 Apr;49(5):772-779
    文献4:Re Barnes T. et al. J Psychopharmacol. 2020 Jan;34(1):3-78.

  • MDMA-assisted therapy 2021年05月18日

    ・先日取り上げたpsilocybinに引き続き、催幻覚作用のある薬剤の臨床試験の報告になります。

    ・アンフェタミン誘導体であるMDMAを補助的に用いた心理療法が効果的そうだという話は1980年頃からあったようですが(Am J Psychother 40:393–404)、1985年にアメリカの物質規制法におけるスケジュール1(先のLSDやシロシビン、大麻などと同じ分類)に分類され、あらゆる状況においても使用する事が禁止されてからは、しばらくは臨床場面から消えていました。1990年半ばからは低用量での臨床試験が再開されています。

    ・今回PTSDにおける心理療法の補助としてMDMAが使用された第3相試験の結果が報告(文献1)されたのでみてみます。持続エクスポージャーにおけるトラウマ的記憶の処理がMDMAによりうまくいきやすくなる、ということのようです。

    ・Nature Medicine誌のイントロでは、MDMAはセロトニントランスポーターに結合してセロトニン放出を増やすとのみ書いてあり、それだとSSRIと同じじゃないかということになるので、文献2を用いてその薬理学的作用機序について少し調べておきます。

    ・そこまで詳しくは書いていなかったのですが、MDMAは主にセロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリンを、再取り込みトランスポーターへの作用を介して生理的作用のあるレベルまで放出させ、オキシトシン,バソプレシン,コルチゾールなどのホルモンの分泌を促進するとありました。モデルマウスではMDMAは所属行動や向社会的行動を引き起こす可能性があり、マウスの社会的報酬に対する感受性を修飾することがあるとのことです。社会的行動の増加についてはどのセロトニン受容体を介したものかまではよくわかっていないとのことでした。

    ・MDMAは2011年からPTSDに対する補助治療として臨床試験が開始されており、6件の治療抵抗性PTSDに対する第2相試験のpooled analysisの結果(Psychopharmacology (Berl) 236:2735–2745)が良好であったことから、2019年にFDAはPTSDに対するMDMAの補助療法をbreakthrough therapyに指定しています

    重度PTSDにおけるMDMA補助療法

    背景


    ・PTSDの予後に影響しうる要因として、小児期のトラウマ、アルコールなどの物質使用障害の合併、うつ病、希死念慮、解離などの合併が報告されている

    ・パロキセチンとセルトラリンはFDAにより承認されているPTSDに対する薬物療法の第1選択であるが、約40-60%の患者は反応しないといわれている

    ・持続エクスポージャーや認知行動療法などのトラウマ焦点化心理療法はPTSDの標準治療であるが、多くが反応しなかったり、脱落率が高いなどの問題もあり、費用対効果に優れた新規治療法が希求されている

    ・MDMAはシナプス前のセロトニントランスポーターに結合し、セロトニン放出を促進する。MDMAは動物モデルにおいて記憶消去や、おそらくはオキシトシンを介したメカニズムにより恐怖記憶の再固定化に影響を与えることがわかっており、社会的行動を活性化したことが報告されている。

    ・MDMAにより補助されたPTSD治療の6つの第2相試験のpooled analysisの結果は、安全性と有効性に関して確かな所見を報告している

    ・今回MDMA3回投与による重度PTSDに対するMDMA補助治療の有効性に関する第3相試験が行われた

    対象と方法

    ・PTSD患者90名(DSM-5)。症状持続期間6カ月以上。ベースラインのCAPS-5で35点以上

    ・精神病性障害、双極I型障害、解離性同一性障害、精神病症状を伴う大うつ病、パーソナリティ障害、アルコールないし物質使用障害の合併などは除外

    ・平均年齢41歳。ベースラインのCAPS-5総得点平均44.1点

    ・平均罹病期間 14.1年。MDMA群の6名、プラセボ群の13名が解離のサブタイプあった

    ・大うつ病の合併は全体の91.1%

    ・これまでにMDMAの使用歴があるものは、32.2%(MDMD群 39.1%、プラセボ群 25.0%)、最近10年以内にMDMA使用歴があるのは21.1%(MDMA群 19.6%、プラセボ群 22.7%)

    ・トラウマの種類は戦争によるものは全体の12.2%(MDMA群 13.0%、プラセボ群 11.4%)、発達性トラウマ(developmental traum)が84.4%と大半

    ・主要評価項目は18週間でのCAPS-5の変化量

    ・MDAD群 n=46
    ・プラセボ n=44

    マニュアルを用いた治療的介入(http://maps.org/treatment-manual).

    ・参加者はセラピストから90分×3回の予備的セッションを受けた。予備的セッションでは治療同盟と信頼関係の確立に重点を置かれ、治療中に生じうる記憶や感情にどう対応するかについても指導された

    ・治療期間は8時間×3回の実験的セッションから構成された(各セッションは4週間の間隔で実施)。1回目の実験的セッションでは、MDMA投与群は80mgのMDMAを投与され、さらに忍容性に問題がなければ投与1.5時間~2.5時間後にMDMA 40mg追加投与をされた。

    ・2回目、3回目の実験的セッションではMDMA 120mgが投与され、さらに忍容性に問題がなければ投与1.5時間~2.5時間後にMDMA 60mgが追加投与された。追加投与されなかったのは全体の2.3%であった

    ・MDMAによる補助療法のためにマニュアル化された心理療法が各実験的セッションにおいて訓練を受けたセラピストにより提供された

    ・MDMAを用いた治療の全体的な目標は、PTSDの症状を軽減し、被検者の全体的な機能、幸福感、生活の質を向上させること。

    ・被検者はトラウマに関する記憶や思考、感情を自然に表出し、セラピストはトラウマ体験やそれに起因する思考、感情、行動に関する問題を処理することをサポートする。時にはセラピストが黙って共感的に傾聴することで問題の処理が達成されることもあるが、被検者が感情的にあるいは身体的に表出することが阻害される状況になり、トラウマに関連した記憶やその他の痛みを伴う記憶、思考、感情を処理するのが困難な場合には、セラピストはより積極的なサポートを行う。

    ・セラピストは被検者がトラウマ的な出来事の記憶を処理して、感情的な問題の解決とその出来事の意味についての新しい視点に到達することを補助する。また、他の人生経験についても、新たな視点を模索し、検証していく。

    ・セラピストは、被検者がトラウマを処理する過程に共感を持って立ち会い、同時に、健全で適切な境界線を維持する。そうすることで、セラピストは被検者が自分の内なる体験に寄り添うことを促し、癒しの過程で生じる可能性のある新しい、そして予期せぬ知覚を探求する意欲を育む安全な環境を作る。セラピー体験の強さは、セラピストが激しい感情をどれだけ快適に受け入れられるか、そして共感的に存在し、さまざまな感情的体験を受け入れることができるかどうかに大きく左右される

    ・セラピストは被検者自身が癒しの源であるという意識を育む。セラピストは被検者自身が内的体験に焦点をあてることと、そのことが安全な空間で行われていることを保証するため、沈黙と対話のバランスをうまくとる必要がある

    ・被検者が袋小路に入ったようなとき、防衛的な回避と思われる会話の後、あるいは感情的な問題が発生したときなど、MDMAの効果が強く出ている間に、より深い自己探求の機会を得ることができる

    ・MDMAを用いた心理療法では、重要な洞察や癒しが、予期せぬ方法で変化したり解決したりしうる。生じるものはすべて癒しの過程の一部と見なされる。被検者は可能な限り完全にプロセスに身をゆだねることを促される。

    ・セラピストの役割は、被検者が予想外の新しい認識や気づきを得られるように、指示するのではなく、しばしば被検者の発想に従うこととなる。また、被検者がつらい経験に直面することは、実際には癒しへの道であることをセラピストが思い出させることも有用である

    ・セラピストは、被検者が動揺し、圧倒されそうな思考、記憶、感情に直面しているとき、必要に応じて言葉など安心感を与える。ただしただし、被検者のプロセスを不必要に中断したり、被検者自身の内的治癒能力に対する信頼の欠如を伝えたりしないようにする

    ・セラピストは、一方では、癒しのプロセスが自然に展開するように経験を直視し、さらに増幅させ、他方では、過去の経験や痛みを伴う感情を明確にし、理解し、新たな視点を得ることを促す。

    ・MDMAの特質の一つは、記憶と向き合い、圧倒されることなく、実際に記憶や辛い感情を、再トラウマになるのではなく、癒すような形で処理することを容易にすることである

    ・MDMAは他人との親密感や親近感を高め、感情的に脅威となるものに直面したときの恐怖を軽減することについても被検者に説明する

    ・MDMAの主観的・生理的効果は、経口投与後30~75分で現れる。これらには、感覚の高まりや、視覚の歪みを含む知覚の変化、部屋の明るさや色の変化、音の質や見かけの位置の変化、時間の知覚の変化(特に遅くなる)、知覚、思考、記憶の意味や重要性の変化などが含まれる。MDMAの効果のピークは投与後70~90分で発生し、1~3時間持続する

    ・MDMAを摂取してから約15分以内に、被検者は布団にリクライニングし、快適であればアイシェードやヘッドフォンを使用し、セッションのために選択された音楽に合わせてリラックスすることが推奨される。セラピストは、被検者に、何が起ころうとも心を開いて、自分が本来持っている癒しの能力を信頼し、必要なものは何でも求めるように声をかける

    ・セッションが進むにつれて、被検者はポジティブな気分になり、自己と他者の両方に信頼感を抱くようになりうる。このような変化は、感謝の気持ちや現在の人生の状況についての有益な洞察を伴うことが多い。このような経験は、その後、トラウマ的な記憶や辛い感情が出てきたときに、共感的な意識の変化に伴う、より強い安全性の感覚を持ってアプローチするための基盤となりうる。この意識の拡大により、被検者は、トラウマやそれに伴う痛みを伴う感情を支配するという新たな感覚を身につけることができる

    ・被検者は、根底にある怒り、悲しみ、恥に対する初期の保護反応に基づく、長年の感情や行動パターンについての洞察を得ることが多い。自己受容が深まり、自己批判が減ることで、被検者は明晰さと自信、自己効力感を得て、展開する記憶、思考、感情に対して恐怖心が減り、よりオープンで好奇心旺盛な関係を築けるようになる。トラウマに関連した内容に直面したときに、極度の興奮ではなく、内なる静けさを感じることで、被検者は記憶や思考をより綿密かつ客観的に調べることができ、同時に強い感情を表に出すことができるようになると考えられる

    ・被検者者には、MDMAの急性作用は消失しても、MDMAを用いたセッションの効果は、セッション後の数時間から数日の間、継続することを伝える。被検者は、自分の経験について書いたり、提供された材料を使って作品を作ったりして、自分の展開する経験を探求し表現し続けることが推奨される。また、セッション後の数日間、覚えている夢に注意を払い、それを書き留めるように勧められる。

    ・実験的セッションの翌朝、その後1週間ずつ間をあけて、合計3回、各実験的セッションの後に90分間の統合的セッションが行われた。

    ・統合的セッションの目的は、 継続的な感情処理を促進し、日常生活のあらゆる困難に対処することであり、同時に、被検者が実験的セッションで得られた利益を日常生活に応用できるようにすること。セラピストは、被検者が治療体験のあらゆる側面を、自己、他者、そしてトラウマ史との新たな関係に織り込んでいくことを支援する

    結果

    ・18週間でのCAPS-5総得点のMDMA群とプラセボ群の差は11.9点と有意差あり(MMRMによる解析)。プラセボに対するMDMAの効果量d=0.91

    ・解離のサブタイプにおいてもMDMA群のCAPS-5変化量は18週間で-30.8点、プラセボ群では-12.8点であり、MDMAの効果は明らかであった

    ・18週間での寛解率(CAPS-5で11点以下)はMDMA群 33%、プラセボ群 5%
    プラセボ群の2名に重大な副作用(自殺関連行動や希死念慮による入院)がみられた。MDMA群では自殺関連行動については報告なし

    ・MDMA群では筋肉のこわばり(63%)、食欲減退(52.2%)、嘔気(30.4%)、発汗過多(19.6%)、悪寒(19.6%)、落ち着きのなさ(15.2%)、浮動性めまい(13%)、眼振(13%)、はぎしり(13%)、散瞳(15.2%)、血圧上昇(10.9%)、胸痛(10.9%)、口渇(10.9%)などがみられた

    ・MDMAの薬理学的特性と治療を組み合わせることで、被検者が過覚醒や解離症状に圧倒されたり悩まされたりすることなく、トラウマ的な内容を再訪して処理することができる「耐性の窓」が生まれるのではないかと推測される

    ・COVID-19の影響で当初予定されているより参加者が少なくなった

    ・長期的有効性や安全性は不明

    文献1:Nat Med. 2021 May 10. doi: 10.1038/s41591-021-01336-3.
    文献2:Danilo De Gregorio et al. J Neurosci. 2021 Feb 3;41(5):891-900.

  • 逆説的反応について 2021年05月10日

    ・本来予想されるはずの作用の逆の反応が生じる逆説的反応(paradoxical reaction)ですが、精神科の臨床場面でも注意すべき以下の3つについて簡単にまとめておきます
    (1)オピオイド誘発性痛覚過敏
    (2)薬物乱用頭痛
    (3)ベンゾジアゼピン奇異反応

    (1)オピオイド誘発性痛覚過敏

    ・これについては被引用数の多い総説を探してみたのですが、ちょっと古い2011年の総説(Pain Physician 2011; 14:145-161)しか見当たらず、最近のいくつかの文献も組み合わせてまとめてみました。

    背景


    ・非癌性疼痛に対するオピオイドの使用が増えており、そのために多くの問題が生じている。

    ・オピオイドの長期的有効性についてはエビデンスがなく、乱用やオピオイド誘発性痛覚過敏などの副作用の問題がある

    ・慢性的なオピオイド使用は、逆説的に急性疼痛を誘発したり、疼痛への感作をもたらしたりする可能性があり、オピオイド誘発性痛覚過敏と呼ばれている

    ・鑑別となるのはオピオイド耐性、オピオイド離脱であり(Singapore Med J 2012; 53(5): 357-360)、その発現機序には共通点があることが推測される。オピオイド誘発性痛覚過敏と耐性については、慢性オピオイド使用に伴い、疼痛が増悪する点で共通しているが、オピオイド誘発性痛覚過敏においては、痛覚感受性が変化しており、オピオイド増量の際にさらに疼痛が増悪する点において、耐性と異なる(耐性では疼痛は緩和する)。

    ・離脱においては痛覚過敏とアロディニアが特徴であり、オピオイド誘発性痛覚過敏と離脱は共にオピオイド使用に対する痛覚感受性の不均衡によるものである。ただし離脱はオピオイドの急激な減量により引き起こされるのに対して、オピオイド誘発性痛覚過敏では、オピオイドの用量は維持されているか増量された結果として起こりうる

    ・オピオイド誘発性痛覚過敏の疫学的情報は乏しい。

    ・症例対照研究において、メサドンを一定用量で慢性投与されている患者において、、オピオイド依存の既往のある患者や健常対照と比較して、寒冷昇圧試験における痛覚閾値の低下が報告されている(J Pain. 2003 Nov;4(9):511-9. )。

    ・一方で、電気的にあるいは機械的に誘発された疼痛については、オピオイド追加投与時の疼痛閾値において、オピオイド慢性投与のない対照群との差異を検出できなかったとの報告(Pharmacopsychiatry. 1996 Sep;29(5):176-9)があり、痛覚過敏は痛覚の種類による可能性がある。しかし明確な結論はでていない

    ・6例の慢性疼痛患者における前向き観察研究において、中等量のモルヒネ投与を開始後4週間以内に、寒冷昇圧試験における痛覚過敏が出現したことが報告されている(J Pain 2006; 7:43-8.)

    ・ほとんどのオピオイド誘発性痛覚過敏の報告がモルヒネなどの強オピオイド使用によるものであるが、比較的力価の弱い、トラマドールにおいても、痛覚過敏の2例報告がある(Pain Physician 2013; 16:41-44)。1例は1年間の慢性疼痛歴がある患者で、トラマドール400mg投与中で、疼痛が緩和しないためフェンタニルパッチなども追加投与されたが、鎮痛薬投与2時間後に疼痛がピークとなるためオピオイド誘発性痛覚過敏を疑われた症例である。もう1例は4年間トラマドール300mgなどを投与されていた慢性疼痛の患者で、トラマドール投与後に疼痛が増悪することと、トラマドールを増量するも疼痛が改善しないことなどからオピオイド誘発性痛覚過敏と診断されたケースである。いずれの症例もトラマドールを中止し、ミダゾラム2mg静注投与と、ケタミン2週間投与により疼痛が改善している。

    発現機序

    ・痛覚受容経路の補償的なアップレギュレーションなどによるものが考えられている

    ・複数の発現機序が提唱されているが、はっきりしたことはよくわかっていない

    (1)中枢グルタミン酸神経系

    ・最も多く関与の可能性が報告されている発現機序であり、NMDA受容体の関与が考えられている。

    ・オピオイド誘発性痛覚過敏の発症には、NMDA受容体の活性化が関与しており、NMDA受容体遮断により耐性とオピオイド誘発性痛覚過敏の発症を防ぐことができる。

    ・カルシウムで制御される細胞内プロテインキナーゼCが、耐性とオピオイド誘発性痛覚過敏の細胞メカニズムに関係している可能性が高い

    ・モルヒネの長期投与は、脊髄後角においてNMDA受容体を介したアポトーシスにより神経毒性をもたらす

    ・モルヒネの繰り返し投与により、後根神経節内の侵害受容性ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチドやサブスタンスP濃度上昇が報告されている

    ・吻側延髄腹内側部(RVM)から生じる下行性疼痛促進経路の活性化によって生じるという仮説もある

    (2)脊髄ダイノルフィン

    ・脊髄ダイノルフィン濃度はオピオイドμ受容体アゴニストの持続注入により上昇することが示されており、これにより一次求心性神経からのCGRPなどの脊髄興奮性神経ペプチドの放出につながると考えられている。末梢の侵害受容器刺激による興奮性神経ペプチドの増加が、侵害受容経路の亢進につながると考えられる

    ・吻側延髄腹内側部において、興奮性ペプチドの神経伝達物質であるコレシストキニン(CCK)の活性が高まると、脊髄ダイノルフィンを発現亢進する経路が活性化され、その結果、脊髄レベルでの侵害受容性入力が増強される

    (3)下行性経路の促通

    ・オピオイド誘発性痛覚過敏に共通する機序として、吻側延髄腹内側部からの下行性促通経路の活性化があげられる

    ・吻側延髄腹内側部の神経細胞はオピオイドに対して特異的な反応を示し、下行経路を傷害すると、神経興奮性ペプチドの増加が抑制される

    (4)遺伝的影響

    ・COMT遺伝子多型などが中枢性の疼痛調節機構や、オピオイド誘発性痛覚過敏発症に影響する可能性が報告されている

    (5)侵害受容感受性の亢進

    ・オピオイド誘発性痛覚過敏の病態機序として、一次求心性線維からの神経伝達物質の再取り込み減少は、サブスタンスPやグルタミン酸などの侵害受容性神経伝達物質に対する脊髄神経の反応性亢進と共に、共通のメカニズムと考えられている。

    ・β2アドレナリン受容体の発現亢進が、オピオイド慢性投与中の変化として観察されている。またモルヒネ慢性投与による、中枢神経系におけるβ2アドレナリン受容体経路を介したシグナル伝達経路の機能的亢進も報告されている。

    ・いくつかの脳内ネットワークが疼痛の強力な調節因子として働き、特に前頭前野が痛覚知覚の抑制に関与していることが示されている。

    ・これらの機序に共通する経路として、中枢のカテコールアミン系によって部分的に調節される下行性疼痛抑制系の関与が考えられている。

    ・これらの経路の機能は、カテコールアミン分解酵素(COMT)活性によって遺伝的に影響を受ける。さらに、内因性オピオイド濃度の低下によるμオピオイド系の活性化能力の低下は、内因性疼痛抑制が効果的に機能せず、より顕著な疼痛感受性の亢進につながる可能性がある。しかし、実験的には、内因性オピオイド系はオピオイド誘発性痛覚過敏に有意な影響を与えないとの報告もある。

    (6)その他の機序

    ・慢性疼痛におけるオピオイド使用が、肥満細胞の持続的活性化による侵害受容器の感作を引き起こし、さらにミクログリアの活性化と脊髄感覚神経の感作につながるとの考えがある。これら炎症促進性経路と痛覚感受性の亢進がオピオイド誘発性痛覚過敏の病態に関与しているとの仮説がある

    ・肥満細胞の脱顆粒は侵害受容器を活性化する物質を放出し、神経障害性疼痛の原因となる。活性化した肥満細胞は、好中球やマクロファージ動員を促進する。同時に上行性疼痛伝達経路を活性化し、おそらくは痛覚受容体へのヒスタミンの感作作用を介し触覚性痛覚過敏を誘発する。

    ・さらに神経栄養因子の放出により、TrKA受容体を介した侵害受容器の感作にもつながる

    ・肥満細胞は同時に、慢性内臓痛の重要な媒介因子である

    ・モルヒネやコデイン、その他のオピオイドは用量依存性に肥満細胞の炎症促進性サイトカインやサブスタンスPなどを含む脱顆粒を引き起こす。

    ・ミクログリアもオピオイドに感受性が高く、慢性疼痛における慢性的なオピオイド投与により活性化型となり、CD11bなどを発現する。ミクログリアはμおよびκオピオイド受容体を発現しており、TNFやIL-6,10などのサイトカイン、BDNFなどの放出やプリン受容体やTLR4(Toll-like receptor 4)の発現亢進につながる。いずれも神経炎症に関与しうる

    ・プリン受容体(P2X4R)活性化に引き続くBDNF放出は、その受容体である脊髄痛覚感受性神経上のTrkB受容体と相互作用し、KCC2(co-transporter 2 of potassium chloride)の発現低下とそれに引き続く塩素イオン恒常性異常につながる。このような病態がオピオイド誘発性痛覚過敏の病態に関与していると考えられている

    治療薬候補

    ・グルタミン酸神経系とNMDA受容体の病的活性化が病態に関与していると考えられており、NMDA受容体拮抗作用を有する薬剤が治療薬候補として提案されている

    (1)ケタミン

    ・ケタミンはNMDA受容体のフェンサイクリジン結合サイトに結合し、拮抗的に作用する
    周術期の疼痛管理においてオピオイド投薬時に低用量ケタミンを併用する介入試験のメタ解析では、結果は一定していない。システマティックレビューにおいても、癌性疼痛におけるオピオイド治療の有効性を改善するとのエビデンスを示すことができていない。

    ・ただし、高用量オピオイドの投薬を必要とするケースや、ある程度のオピオイド耐性が存在するケースにおいては、ケタミンの有用性が示唆する報告もある。今後さらに大規模介入試験での検証を要する

    (2)メサドン

    ・メサドンは弱いNMDA受容体拮抗作用を有する

    ・メサドンは、高用量オピオイドにより生じたオピオイド誘発性痛覚過敏の症状改善に有効であることが示唆する報告がある。メサドンへのオピオイド・ローテーションが痛覚過敏の改善に有効であったとの複数の報告がある

    ・ただし、メサドンは高用量においてTorsades de Pointsなど有害性のリスクがあり、またメサドン自体がオピオイド誘発性痛覚過敏を増悪させたとの報告があり、注意を要する

    (3)デキストロメトルファン(商品名:メジコン)

    ・デキストロメトルファンは非競合型のNMDA受容体拮抗作用を有しており、鎮咳薬として使用されている

    ・しかしながら、MorphiDex(モルヒネ:デキストロメトルファン=1:1の合剤)とモルヒネを比較する、非癌性慢性疼痛に対する3つの大規模介入試験の結果は、有効性に関してMorphiDexとモルヒネの有意差は全く見いだされず、デキストロメトルファンを併用することの有用性は支持されなかった

    (4)COX-2阻害剤

    ・プロスタグランジンは、侵害受容経路を調節することが示されており、脊髄後角において興奮性アミノ酸であるグルタミン酸の放出を刺激することことから、COX阻害剤は、中枢神経におけるNMDA受容体の機能に拮抗することが示されている

    ・また、COX阻害剤は、動物実験ではオピオイド耐性の発現を抑制することも示されている。したがって、cox-2阻害剤はオピオイド誘発性痛覚過敏の発症を抑制することができるのではないかと考えられていた

    ・COX-2阻害剤の予防的投与がヒトのオピオイド離脱時の疼痛や、オピオイド誘発性痛覚過敏を緩和するとの報告(Anesthesiology. 2006 Nov;105(5):1016-23.)がある。しかし発症後投与では有効ではなかったとされており、NMDA受容体作動薬ほどオピオイド誘発性痛覚過敏の病態への影響は大きくないと考えられている

    (5)α2受容体アゴニスト

    ・α2受容体アゴニストのクロニジンがオピオイド誘発性痛覚過敏の症状改善に有効であったとの報告がある。しかしラットでの実験では、クロニジン単回投与後に一過性の鎮痛作用がみられたものの、その後遅発性に温度覚への過感受性がみられたとの報告があり、その有効性については動物実験では相反する報告があり、一定していない。

    現実的なオピオイド誘発性痛覚過敏への対処

    ・非癌性疼痛に対するオピオイド使用の際には必要最低限、可能な限り短期間とする。非薬物療法や鎮痛補助薬(デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチンなど)などの使用を

    ・オピオイド減量の際には急な減量を避ける

    ・異なるオピオイドを組み合わせるオピオイド・コンビネーションないしオピオイド・ローテーション

    ・COX-2阻害薬との併用療法

    (2)薬物乱用頭痛

    ・薬物乱用頭痛については、2019年のLancet Neurology誌に総説(Lancet Neurol. 2019 Sep;18(9):891-902)がでていましたので、これを中心にまとめます。

    背景


    ・薬物乱用頭痛(medication overuse headache)は二次的な慢性頭痛であり、鎮痛薬や片頭痛治療薬の頻回使用により生じる

    ・ICHD-3(International Headache Society)の診断基準では、原発性頭痛に対して1ヶ月間に10日(エルゴタミンとトリプタン)ないし15日以上(鎮痛薬)の薬剤過量使用が3ヶ月以上持続し、その結果、1ヶ月のうち15日以上頭痛を生じるものとされている。

    ・頭痛以外の慢性疼痛、例えば慢性腰背部痛に対する鎮痛薬の頻回使用は、もともと片頭痛を有する患者の頭痛の頻度を増悪させることが知られている

    ・診断はrecall biasの影響を受けるため容易ではない。罹患率は報告によりばらついており中間値は1-2%程度。男女比4:1.50-60歳台が最多。

    ・薬物乱用頭痛のリスク要因としては、社会経済的に低い立場、ストレス、肥満、低活動、喫煙など

    ・予防することが重要

    予防について

    ・鎮痛薬や片頭痛治療薬の使用を最高で週に2日までに控えるように教育すること

    ・服薬状況と頭痛について自己記録をすること

    ・イタリアでの100名の薬物乱用頭痛患者に対する15分間の教育セッション実施により、ベースラインでは平均、1ヶ月間24日間の頭痛と22日間の服薬をしていたが、教育により2ヵ月後に79%の患者が服薬頻度を減少させ、69%が50%以上の頭痛頻度の減少をみた

    離脱および予防的治療

    ・175名の薬物乱用頭痛(片頭痛ないし緊張型頭痛)を対象にした研究で、鎮痛薬など離脱2ヶ月後において、45%が頭痛頻度の50%以上の減少を示したが、48%は不変で、7%が増悪した。改善しなかった88名についてうち80名が薬物療法(片頭痛治療薬などの再開)ないし非薬物療法(誘発因子を避ける、運動、認知行動療法など)に反応し平均26%の頭痛頻度の減少を示した

    ・デンマークでの小規模試験では、薬物乱用頭痛患者72名を2ヶ月間投薬頻度を週2日までに制限する群と、完全に断薬する群とに無作為割付し、6ヵ月後の状態を評価したところ、断薬群では頭痛頻度が46%減少し、制限群では22%減少し、1ヶ月あたりの片頭痛日数も断薬群では平均7.2日減少し、制限群では3.6日の減少であった。この結果から、二ヶ月間の完全な断薬が、より頭痛頻度の減少に有効であることが示唆された

    ・COMOESTAS試験は、多施設オープン試験であり、492名の薬物乱用頭痛患者(トリプタン、エルゴタミン、配合鎮痛薬などが原因薬剤)がエントリー(89%が片頭痛)。薬物中断と同時に頭痛予防薬の使用は許可(1-7日目まではアセトアミノフェン1gを1日3回までないしナプロキセン(NSAIDs) 500mgを1日2回まで。8日目以降はこれまでに使用経験のない鎮痛薬は対症治療薬として許可)。最初1ヶ月で頭痛頻度は44%減少し、6ヵ月後には60%減少した。

    ・片頭痛患者に対するトピラマートの有効性を検証した2つの介入試験があり、アメリカでは306名がエントリー、ヨーロッパでは59名がエントリーし、アメリカではnegative、ヨーロッパではpositiveな結果であった。結果の差異が生じた理由として、アメリカでは薬物乱用頭痛患者が38%、ヨーロッパでは78%であり、アメリカでは乱用薬物はNSAIDsが多く、ヨーロッパではトリプタンであった。従って片頭痛患者の薬物乱用頭痛に対してトピラマートは代替薬として選択肢になりうるかもしれない

    ・慢性片頭痛患者に対してボトックス(onabotulinumtoxin A)の予防効果(7つの頭頸部筋群の31箇所に計155単位筋注。12週間あけて2回)を検証した介入試験がある。1384名中904名が薬物乱用頭痛患者であり、この患者群について結果を分析したところ(大半がトリプタン)、ボトックスは有意に良好な結果となった(頭痛日数の減少が-8.2日/月(ボトックス)対-6.2日/月(プラセボ))

    ・慢性片頭痛患者で薬物乱用頭痛を併発した患者に対してfremanezumab(カルシトニン遺伝子関連ペプチド:CGRPをターゲットとするモノクローナル抗体:675mg単回皮下注ないし225mgずつ4週に1回合計3回皮下注)が投与され、プラセボと比較され、12週後に1ヶ月あたりの頭痛日数の変化は単回投与群で-4.7日、3回投与群で-5.2日、プラセボ群で-2.5日で有意差あり。Fremanezumabは片頭痛における薬物乱用頭痛に対して有効。CGRP受容体が片頭痛発症に関連していることが示唆されている

    ・トピラマート、ボトックス、fremanezumabは、乱用薬物の中断することなく頭痛頻度を減少させており、薬剤からの離脱が困難な患者についても選択肢になりうる

    ・薬物乱用頭痛患者において、薬剤中断後の頭痛頻度減少に、アミトリプチリンの有効性が小規模の介入試験で示されている(17名の小規模試験。9週後に頭痛頻度はアミトリプチリンで45%減少、プラセボでは28%減少)

    離脱症状への治療

    ・慢性頭痛かつ薬物乱用頭痛を有する患者において、乱用薬物を中断する際に、反跳性頭痛の症状を緩和するために、プレドニゾロン60mg(2日間60mg、その後20mg/dayずつ減量)の有効性を検討したオープン試験では有効性を示唆する結果がえられた(プラセボ対照ではない)が、97名を対象としたプラセボ対照試験では、頭痛頻度などにおいて有効性は確認できなかった。今後さらに検証が必要

    ・97名の患者を対象に、10日間のセレコキシブないしプレドニゾン投与とを比較した介入試験では、3週後にセレコキシブ群では有意に頭痛強度が減少したが、頻度は有意差なし

    まとめ

    ・慢性頭痛患者については、まずは薬物乱用頭痛を引き起こさないように教育を行う

    ・薬物乱用頭痛患者に対しては、乱用薬物を中断するか、週に2日までの使用に控えるように指導する。薬剤を使用する場合に、これまで使用した薬剤とは別の薬剤を推奨すべきかどうかは定かでない。薬物からの離脱が困難ないし、離脱しても頭痛が残存ないし増悪の場合には、トピラマート、ボトックス、抗CGRPモノクローナル抗体などが選択肢となりうるかもしれない

    (3)ベンゾジアゼピン奇異反応

    ・ベンゾジアゼピン奇異反応については、本来抗不安作用や鎮静作用を発揮すべきベンゾジアゼピン系薬剤により、却って不安や焦燥感が増悪し、情動易変性や敵意、攻撃性、興奮などを呈する病態とされています。抑うつや躁症状、精神病症状なども奇異反応に含まれるようです。ただ、このような報告は2000年くらいまでの海外の古い文献に多く、今では考えられませんが、海外では超大量のベンゾジアゼピン(ジアゼパム換算で1日40mgとか)が使用されたりした介入試験(例えばJ Clin Psychiatry. 1996 Aug;57(8):349-55)なども存在していたため、ここまで大量に使用すれば、それは耐性でも離脱でも依存でも脱抑制でもせん妄でも、何でもありなような気がしますし、区別すべき病態といえます。

    ・実際にパニック症に対する8週間の介入試験の論文(J Clin Psychiatry. 1996 Aug;57(8):349-55)では、ジアゼパム平均43mg(n=81)とアルプラゾラム平均4.9mg(n=78)がプラセボ(n=79)と比較されましたが、副作用の表を見てみると、図のようにジアゼパム群、アルプラゾラム群ともに、性欲の減退、食欲の減退と同じか、それ以上の比率で、性欲の亢進(ジアゼパム群では18.5%。プラセボでは3.9%)、食欲の亢進(ジアゼパム群32.1%,プラセボでは14.3%)がみられており、プラセボ群とも有意差があることから、これは奇異反応というよりも高用量ベンゾジアゼピンによる脱抑制と言ってもいいのかもしれません。また思考障害(これが具体的にどのような内容なのかわからなかったですが)の副作用も有意に多くなっており、奇異反応とされうる症状に通じる副作用といえるかもしれません。

    ベンゾ副作用

    ・このように一般には高用量ベンゾジアゼピンでみられうる脱抑制的反応ですが、実際には常用量においても観察されうることには注意が必要です。以前のベンゾジアゼピンに関するブログ記事でも取り上げましたが、ベンゾジアゼピンの長期使用は耐性によりもはや何の効果もなく、むしろ慢性のベンゾジアゼピン投与を受けているケースについては、ベンゾジアゼピンを中断した方が、不安得点や疾患の重症度が改善したとの報告(Br J Psychiatry. 1990 Mar;156:406-11. )もあることなどに注意を要します(離脱の際に一過性に不安などが増悪しうるが、その後改善を示す)。

    ・一方で、倉田ら(臨床精神薬理 11(2) 253-259, 2008)の報告にあるように、アルコール依存症患者や小児、高齢者、脳器質疾患の合併例など中枢神経系の脆弱性が想定されるケースにおいては、奇異反応出現のハイリスクとされており、ベンゾジアゼピン投与による精神症状の増悪リスクに注意を要します。

    ・慢性にベンゾジアゼピン投与が継続されている場合、なかなか中止にもっていくことが困難になっているケースも多くあります。

    ・緊張病やレム睡眠行動障害、むずむず脚症候群、さらには最近の東京医科歯科大学からの興味深い報告(Shiwaku H. et al. J Clin Med. 2020 Jun 21;9(6):1938)として、精神病性うつ病における再発予防の可能性など、ベンゾが活躍しうる臨床場面は確かにありうるのですが、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用はできるだけ短期間、必要最低限の用量でということが望ましいといえます

  • guanabenzはどうか

    ・第2相試験は大体100人未満の規模のことが多いし、それで有効性に関する指標について対照群と統計的な有意差が出たからといって、まったく信憑性はないですし(第3相でひっくり返ることも多い)、主要評価項目も有効性ではなくて、副作用とかバイオマーカとかに設定してあることもあって、有効性に関する結果が統計的に有意なものではなくても、第3相試験に進むことはままあるのですが、それでも有効性に関する指標について対照群に対して有意差が出たりすると、期待してしまうものです。

    ・今回もそのような報告(Brain. 2021 Apr 26;awab167. doi: 10.1093/brain/awab167)にあたるのですが、有意差がでた対照群がプラセボ群ではなく(プラセボ群とは有意差がでていない)、historical cohort(過去の臨床試験のプラセボ群のデータ)なので、手放しに喜べないのですが、目を引いたのは、ALSの中でも特に予後が厳しいとされる球麻痺発症型において、よさげな結果になっていることです。小規模試験の結果なので、有効性に関する結論は出せないところなのですが、本当であってほしいと願うところです。

    ・この試験で用いられた薬剤はguanabenzであり、α2アドレナリン受容体アゴニスト作用を有する高血圧治療薬です。商品名ワイテンスとして2-4mgの用量で厚労省からも承認されています。なぜALSの臨床試験が行われたかというと、基礎実験の段階でguanabenzが、細胞内において蛋白質の恒常性保持機能に重要な役割を果たしている小胞体ストレス応答において、蛋白質合成速度を調整し、折り畳み異常蛋白質による細胞毒性から細胞を保護するらしいとの報告がなされたことによります(Science. 2011 Apr 1;332(6025):91-4. doi: 10.1126/science.1201396. Epub 2011 Mar 3.)。

    ・もう少しそのメカニズムについて詳細を述べると、孤発性ALSの病態においては通常は核内に存在しているTDP-43蛋白質がなぜか細胞質に異常局在化し、折り畳み異常を生じ、凝集体を形成するなどして細胞毒性を発揮すると考えられています(たいたい孤発性ALSの95%くらいでTDP-43の細胞質内凝集体が存在するといわれています)。この折り畳み異常を呈した蛋白質が存在すると、小胞体ストレス応答(Unfolded Protein Response:UPR)が発動し、異常蛋白質を除去しようとするメカニズムが働きます。具体的には小胞体膜に何種類か存在するストレスセンサー蛋白質が折り畳み異常蛋白質の存在を探知すると、うち1つ(PERK)が翻訳開始を担う蛋白質であるelF2αをリン酸化し、新たな蛋白質翻訳を抑制します。これにより小胞体への蛋白質流入を抑制します。一方で、リン酸化elF2αはATF4の翻訳を誘導し、折り畳み異常蛋白質を再構成したり、折り畳み異常蛋白質を小胞体から細胞質へと移動させてユビキチンプロテアソーム系による小胞体関連分解を行うことで、蛋白質の品質管理を行います。さらにATF4はelF2αを脱リン酸化する酵素も転写誘導し、これによりelF2αが脱リン酸化し、蛋白質の合成が再開します。一方ATF4はCHOPと呼ばれるアポトーシスに関連する酵素も誘導します。異常な蛋白質が多すぎて、elF2αのリン酸化が持続する場合には、CHOP経路などにより、細胞がアポトーシスを起こすこととなります(Neurobiol Dis. 2014 November ; 0: 317–324)。

    ・では、guanabenzはどのようにして、小胞体ストレス応答を調節しているのでしょうか。guanabenzは2種類存在するelF2αの脱リン酸化酵素(PPP1R15A-PP1cおよびPPP1R15B-PP1c)のうち、ストレス応答により誘導されるタイプの脱リン酸化酵素(PPP1R15A-PP1c)の機能を阻害し、elF2αの脱リン酸化を抑制することにより、elf2αのリン酸化状態を保持し、そのことにより、新たな蛋白質合成を抑制する一方で、異常蛋白質の修復や分解を促進することで折り畳み異常蛋白質に起因する細胞ストレスから細胞を保護するということのようです。

    ・永続的なelF2αのリン酸化は新たな蛋白質合成が起こらなくなったり、CHOP経路などのアポトーシス経路が活性化するため細胞にとって有害ですが、2種類存在する脱リン酸化酵素のうちもう1種類の機能が保持されているので、永続的なelF2αのリン酸化は起こらず、問題がないということです(Science. 2015 Apr 10; 348(6231): 239–242.)。ほどよくelF2αのリン酸化状態を保持するということがポイントのようです。

    ・このように基礎実験では、ALSへの有効性も期待されるguanabenzですが、今回、イタリアで2016年12月から行われた第2相試験の結果が報告されました。

    ・この試験の参加者は、18歳以上の改訂El Escorial基準でprobableないしdefinite 孤発性ないし家族性ALS患者。発症18カ月未満。SVC 70%以上などとされました。PEG施行例、NIV装着例、気切例、心不全合併例などは除外されました。

    ・患者はguanabenz16mg+リルゾール100mg(n=51)、guanabenz32mg+リルゾール100mg(n=50)、guanabenz64mg+リルゾール100mg(n=50)、プラセボ+リルゾール100mg(n=49)の4群に無作為割付されました(guanabenzは8mgより開始して3日毎に増量)。guanabenzの用量が高血圧に使用する量よりも随分多いのが気になります。

    ・試験期間は6か月間で、主要評価項目はALS-MITOS(ALS Milano-Torino Staging)でより高ステージに進行した患者の割合とされました。副次評価項目はALSFRS-Rの変化量、SVCの変化量、死亡ないし気切ないし永続的人工換気までの時間、血清ニューロフィラメント軽鎖濃度などとされました

    ・対照群としてはプラセボ群の他、ベースラインのBMIや性別、ALSFRS-R、SVCなどをマッチさせた200名のALS患者からなるhistrocal cohortも使用されました。


    ・副作用が気になるところですが、6か月間での副作用による脱落は、64mg群 30%、32mg群 30%、16mg群 16%、プラセボ群6%で実薬群とプラセボとで有意差を認め、やはり副作用による脱落は多い結果となりました。血圧低下や倦怠感、傾眠、口喝、脱力感などが目立ったようです。特に64mg群では、傾眠や口喝の出現率が60%を超えていました。統合失調症に対するxanomelineの時も、副作用出現率の高さから臨床試験が先に進まなかった経緯があるので、この辺りは心配なところです。

    ・主要評価項目ですが、6か月間でALS-MITOSでより高いステージに進行した割合は、64mg群 25%、32mg群 30%、16mg群 43%、historical cohort 47%、プラセボ群 30%となり、64mg群と32mg群を合わせた結果と、historical cohortを比較すると有意差ありとなりました。プラセボ群と有意差が出ていないのでどうなのかと思いますが、多重比較の補正をしても、historical cohortとの有意差は残りそうです。

    ・球麻痺発症型については、64mg群および32mg群の18名中、6か月間でALS-MITOSのステージが進行した割合は0%でした(全員がベースラインでステージ0)。一方16mg群では8名中4名(50%)で、プラセボ群では11名中4名(36%)がより高いステージに進行しました(いずれもベースラインではステージ0)。historical cohort群も球麻痺型49名中21名(43%)が6か月間でより高いステージに進行していることから、この結果がもし一般化できるものであれば素晴らしいことだと思います。さらに大規模試験での検証が期待されるところです。

    ・ただし副作用がかなり多いことから、実用性には問題があるかもしれません。現在、α2受容体刺激作用がなく、より選択的にPPP1R15A-PP1cを阻害する薬剤であるSephin1という物質が同定されているようですので、こちらの方が期待されます。

    ・小胞体ストレス応答が病態に関与する疾患はかなり多いようですので(金本ら、Journal of Japanese Biochemical Society 90(1): 51-59 (2018)doi:10.14952/SEIKAGAKU.2018.900051)、今後のこの分野での創薬が進み、臨床応用されることが期待されます。

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