・前回、強迫症(OCD)と関連疾患の一部について取り上げたので、強迫症についても前回勉強会で取り上げた2015年12月以降の情報を含めて内容をupdateしておきます。特に重要と思われる薬物療法と精神療法を比較したメタ解析(文献2)と、抗精神病薬増強療法のエビデンス(文献3)についてまとめておきます。

・強迫症については、2017年のJAMA誌に、そのまんまガイドラインとして使用できそうな総説(文献1)が公表され、もうこれだけでいいような気もするのですが、メタ解析の帰結から重要と思われる情報についてまとめます。

・結論から言うと、現段階のエビデンスでは、OCDほど薬物療法に対する精神療法の優位性が大きい疾患はあまりなさそう、ということなのですが、そのあたりの根拠をみていきます。精神療法の効果が大きいということは、とりもなおさず軽症から中等症までのOCDの症状は、環境の影響を受けやすいと考えるのは飛躍しすぎでしょうか?実際に経験的なことですが、仕事などを始めて環境が変化してから症状がかなり軽減する方をみてきた気がします(症状が改善したから仕事を始めたかもしれず、このあたりは慎重になる必要がありますが)。

・まずは現時点で一番新しい(と思われる)メタ解析(文献2)からです。

OCDに対する薬物療法と精神療法のネットワークメタ解析

背景

・強迫症は高所得国では4番目に多い精神疾患であり、世界で上位10番目に位置する障害であるとされている

・薬物療法としてはクロミプラミンとSSRI、精神療法として認知行動療法が推奨されている

・薬物療法と精神療法を直接比較した試験は乏しいため、ネットワークメタ解析で有効性と安全性を比較してみた

方法と対象

・2016年2月までの強迫症に対する無作為割付試験。抗うつ薬ないし曝露反応妨害法を含む認知行動療法(個別ないし集団)

・54試験(N=7014):行動療法、認知行動療法、認知療法、行動療法+クロミプラミン、認知行動療法+フルボキサミン、シタロプラム、クロミプラミン、エスシタロプラム、フルボキサミン、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシン、セイヨウオトギリソウ

・対照としてはプラセボないし待機群(心理学的プラセボ群では抗うつ薬使用は許可されていた)

・試験期間平均12週間(10-12週)

・主要評価項目:YBOCS

・ネットワークメタ解析

結果

・プラセボ群と各SSRIとのYBOCSの得点差は、フルオキセチン -3.49、フルボキサミン -3.46、パロキセチン -3.42、セルトラリン -3.50、シタロプラム -3.49、エスシタロプラム -3.48で、SSRIはいずれもプラセボとは有意差があるが、SSRI間では有意差なし

・ベンラファキシンはプラセボと有意差なし

・プラセボ群とクロミプラミンのYBOCSの得点差は-4.72点で有意差あり。SSRIとの有意差はなし

・行動療法とプラセボ群とのYBOCSの得点差は―14.48点で有意差あり。SSRIより有意に良好

・認知療法とプラセボ群とのYBOCS得点差は―13.36点で有意差あり。SSRIより有意に良好

・認知行動療法とプラセボ群とのYBOCS得点差は―5.37点で有意差あり。SSRIと有意差なし(ただし待機群対照の試験を除外すると有意差あり)。待機群対照の試験を除外すると行動療法、認知療法と有意差なくなった。待機群ではプラセボ群よりもYBOCSの有意な悪化がみられており、待機群を対照にすると、結果が良好になる傾向あり。待機群対照を除外しても、行動療法、認知療法、CBTのSSRIに対する優位性は不変

・認知行動療法+CBT、行動療法+クロミプラミンについては、SSRI単独よりも有意に良好であったが(待機群対照試験を除外した場合)、行動療法、認知療法との有意差はなし

結論

・OCD治療における精神療法の重要性を示唆する結果となった

・精神療法の薬物療法に対する優位性がここまで明らかなのは気分障害、神経症圏の疾患の中でOCDのみと言われている(World Psychiatry 2013;12: 137–48)

・OCDについてはガイドラインのような論文が2017年のJAMA(JAMA. 2017;317(13):1358-1367)に公表されており、その治療アルゴリズムにおいても認知行動療法はfirst lineになっている(軽症ないし中等症では曝露療法を含むCBTないしSSRI、重症では曝露療法を含むCBT+SSRI)


治療抵抗性OCDに対するSSRI+抗精神病薬増強療法のメタ解析(文献3)

背景

・OCDに対しては曝露療法を伴うCBTが第1選択とされている

・薬物療法ではSRI(serotonin reuptake inhibitors)であるSSRIないしクロミプラミンのエビデンスが存在する。しかしSRIに対して40-60%のOCD患者が反応しない

・抗精神病薬の増強はしばしば行われており、今回SRIに対する抗精神病薬の増強療法の有効性についてプラセボ対照で評価した介入試験についてのメタ解析を行った

対象と方法

・SRIによる治療に反応しなかったOCD患者に対する抗精神病薬増強のプラセボ対照無作為割付比較試験

・14 RCTs(n=491):リスペリドン(0.5-2.25mg) 2 RCTs、アリピプラゾール(10ないし15mg) 2RCTs、オランザピン(6.1-11.2mg) 2 RCTs、パリペリドン(4.94mg) 1 RCT、ハロペリドール(6.2mg) 1 RCT、クエチアピン(168ー600mg) 4RCTs

・試験期間 平均8.7週間(4-16週)

・平均罹病期間16.2年

結果

・プラセボと比較して、アリピプラゾール増強(Hedge’s g=-1.35)、ハロペリドール増強(Hedge’s g=-0.82)、リスペリドン増強(Hedge’s g=-0.59)は有意差あり。オランザピン、クエチアピン、パリペリドンは有意差なし

・抗精神病薬増強群全体の反応率(YBOCSで35%以上改善で定義)は29.8%、プラセボ群 12.5%で有意差あり。反応率でみるとアリピプラゾールのみプラセボと有意差あり

・あらゆる理由による中断率については抗精神病薬群とプラセボ群とで有意差なし。副作用による脱落は有意に抗精神病薬群で多かった(RR=2.38)

結論

・抗精神病薬増強でSRIに反応しなかった3人に1人くらいが反応する可能性がある

 

引用文献
文献1:JAMA. 2017;317(13):1358-1367
文献2:Skapinakis P et al. Lancet Psychiatry. 2016 Aug;3(8):730-739. doi: 10.1016/S2215-0366(16)30069-4
文献3:Markus Dold et al. International Journal of Neuropsychopharmacology, 2015, 1–11