院長ブログ

  • うつ病の病態生理について 2020年10月18日

    ・2020年8月号のAmerican journal of psychiatryにUniversity of TexasのDr.Nemeroffがうつ病の病態生理についての現時点での理解に関する総説(文献1)を報告されていたので、ざっと要約してみます。

    ・10月6日付の当ブログの神経炎症についての記事の中で、統合失調症患者のアストロサイトをマウスに移植したらどうなるかみたいなことを書いていましたが、この総説の中に、「うつ病患者由来のエクソソームを正常マウスに投与したところ、強制水泳試験、テールサスペンション試験などにおいて、うつ病様の行動が観察され、さらに、健常対照者のエクソソームまたはmiR-139-5pのアンタゴニストを投与することで、マウスのうつ病患者からのエクソソームのうつ病類似症状惹起作用が阻害されたことも報告されている(Neuropsychopharmacology 2020; 45:1050–1058)」との記載があり、これには驚きました。

    ・再現性がどうなのかということと、細胞レベルで何が起きているのかがわからないことには何ともいえませんが、今後の進展がどうなのか気になるところです。

    ・最後のまとめの段落で、抗うつ薬の作用機序は不明であると言い切っておられるところが印象的であり、現段階での到達地点を謙虚に表している言葉かと思われます。

    ・今後、単一核トランスクリプトミクスやメチロームワイド関連研究などにより、うつ病の病態に関して新たな知見が加わることが期待されます。

    基本的事項

     

    ・うつ病はヒポクラテス(紀元前460~377年頃)、ガレン(紀元129~199年頃)、イシャーク・イブン・イムラン(紀元10世紀)によって認識されており、これらの医師の初期の臨床記述は、喜びを感じる能力の喪失、重度の不快気分、意欲の喪失など、今日のものをよく反映している。これらの症状は重度の死別反応と似ているが、明確な誘因がない点で異なる。

    ・DSM-Vにおいては、気分の日内変動や原因不明の啼泣などのうつ病の一般的な症状は診断上必須ではない

    ・DSMによるうつ病は異質性を含むものであり、診断上の組み合わせだけでも1500通り以上との報告もあり、またあるものは食欲低下し、あるものは食欲亢進した状態、あるものは不眠、あるものは仮眠といった多様性が許容されている

    ・ある大規模疫学研究ではDSMないしICDにより診断されるうつ病の12カ月罹患率は6.6%であり、生涯罹患率は16.2%と報告されている。WHOは12カ月罹患率を5.5-5.9%、生涯罹患率を11.1-14.6%と報告している

    ・平均発症年齢は25歳で女性が男性の2倍であるとされている

    ・うつ病は併存症の多い疾患であり、PTSDやパニック症、全般不安症などの合併が多いことが知られている。このような併存症のある患者を臨床試験から除外してしまうと、臨床試験の結果が一般のうつ病患者層に適応できないことになりかねない。そのため多くの臨床試験ではこれら併存疾患の合併は許容されているが、併存がある場合とない場合とで病態生理が異なるのではないかとの問題も生じる

    ・うつ病の発症脆弱性リスクとして遺伝要因が知られており、遺伝要因の関与は35%~40%とされている。残りのリスクは環境的要因であり、幼少期の虐待歴、物質・アルコール乱用、最近の生活上のストレス因子、社会的孤立、大気汚染、社会経済的地位、学歴などの多くの要因が含まれる。

    ・これらの因子が遺伝的脆弱性とどのように相互作用して、大うつ病発症閾値に影響を与えるのかは興味深い課題である。

    ・うつ病に併存しうる様々な疾患やうつ病による自殺も問題であり、うつ病患者は非罹患群と比較して平均8年早く死亡するとの報告がある

    動物モデル

    ・様々な動物モデルが提唱されているが、動物モデルが示す食欲や性的行動の減少、運動量減少などがヒトの主観的体験と関連したものかどうかはわかっていない。

    ・また自殺関連事象や集中力低下、罪業感、自責感などは動物モデルでは再現不能である。ヒトで観察される性差についても明らかではない

    ・これら動物モデルとヒトのうつ病との間に多くの乖離があるにも関わらず、薬物探索においては動物モデルが利用されており、この手法は有用と考えられている。しかしながら、実際には臨床的に効果がある薬剤が開発されても、動物モデルで効果がなければ実用化されない可能性もある。

    ・最近の興味深いアプローチとして、うつ病患者からのエクソソームを実験用マウスに投与する手法がある。

    ・エクソソソームは、ニューロンやグリアを含む多くの細胞タイプから放出される、蛋白質、DNA、mRNAなどを含む40~100nmの小胞である。

    ・ある報告では、うつ病患者のエクソソームにおいて対照者と比較して異なる発現量を示すマイクロRNAとしてhas-miR-139-5pが報告されている。

    ・うつ病患者由来のエクソソームを正常マウスに投与したところ、強制水泳試験、テールサスペンション試験、NSFなどにおいて、うつ病様の行動が観察された。さらに、健常対照者のエクソソームまたはmiR-139-5pのアンタゴニストを投与することで、マウスのうつ病患者からのエクソソームのうつ病類似症状惹起作用が阻害されたことも報告されている(Neuropsychopharmacology 2020; 45:1050–1058)

    うつ病と遺伝子

    ・うつ病の1/3は遺伝的要因との関連が報告されているが、このリスクを媒介する遺伝的基質が特定されていないという問題がある

    ・ゲノムワイド関連研究(GWAS)は、大うつ病のリスクをもたらす遺伝子座を特定するために、比較的大規模なサンプルを用いて試みられてきた。その結果はいくつかの点で期待外れであった。

    ・第一に、初期の研究では、大うつ病と双極性障害および統合失調症の両方のリスクに重複があるように思われた。

    ・第二に、同定されたそれぞれの遺伝子変異(一塩基多型)は、対象者の数が多いため統計的には有意であるが、それだけでは大うつ病に対する脆弱性という観点からは非常に小さな影響のみであること(そのためにpolygenic risk scoreなどが提唱されている)

    ・第三に、統合失調症、自閉スペクトラム症とは異なり、大うつ病におけるエクソームシークエンシングによるコピー数変異や大きな影響を持つ稀な変異の同定は、期待されていたほど確固たる結果をもたらさなかった。

    ・近年のゲノムワイド関連研究では、いくつかの意義のある結果も報告されている。

    ・Howardらは807553名を対象とした研究(患者246363名、対照群561190名)により、シナプス構造や神経伝達に関与していると以前に報告されたいくつかの遺伝子を含む、102の独立した変異、269の遺伝子、およびうつ病に関連する15の遺伝子セットを同定した。同様に130万人を対象とした大規模研究においても、102のうつ病関連遺伝子変異のうち87個がリスク因子であることを同定した。しかしながら同時に、これら遺伝子変異が統合失調症、ADHD、双極性障害などにおいても共通したリスク因子となりうることも報告されており、うつ病に特異的な変異の同定には至らなかった

    ・5303名の漢族の女性を対象とした研究ではうつ病リスクと関連する2つの遺伝子座が同定された。この報告の特徴は、反復性かつ重度の女性うつ病のみを対象としたことで、よりサンプルの表現型の均質性が保持されている点である。大うつ病のリスクと関連する2つのゲノムワイド遺伝子座は、両方とも10番染色体上にあり、1つはSirtulin 1遺伝子(SIRTI)の近くにあり、もう1つはホスホリジンホスホヒスチジン無機ピロリン酸リン酸化酵素遺伝子(LHPP)のイントロン内にあった。

    ・コルチコトロピン放出ホルモン(CRH受容体1[CRHR1])多型と児童虐待やネグレクトの既往との相互作用は、大うつ病への脆弱性の増加をもたらすと考えられており、このようなアプローチは、polygenic risk scoreによるリスク評価を補完しうるものになる可能性がある。

    ・Polygenic risk scoreを含めたゲノムワイド関連研究からの知見は大うつ病の遺伝率のごく一部を説明しうるにすぎないが、遺伝子と環境の相互作用とエピジェネティックなメカニズムの役割を理解することによってこのギャップが埋められる可能性がある。

    ・エピジェネティクスの観点から、Abergは1132名のうつ病患者と対照群、61名の死後脳(ブロードマンエリア10)などを対象とした最初の大規模なメチロームワイド関連研究(全ゲノムにおけるメチル化状態を解析するもの)を報告した。その結果、中等度の効果量を有するうつ病関連CpGジヌクレオチドメチル化部位が同定された。

    ・またメチル化リスクスコア(methylation risk score)により、6年後の大うつ病罹患リスクを評価する試みも行われている。これら同定されたリスク部位とゲノムワイド関連解析によって見出されたリスク遺伝子と重複しており、それら遺伝子は神経炎症や自己免疫疾患と関連する遺伝子を含んでいる

    ・最近、Czamaraら(未発表データ、2020年1月)は、1,074人の5つの独立したコホートを調査し、児童虐待と遺伝子型がDNAメチル化に及ぼす影響を調べた。遺伝子による虐待と遺伝子型の相互作用は、80%のDNAメチル化部位の変動を説明し、発達とシナプス機能に関連する遺伝子にマッピングされていた。

    ・Tureckiらは、最近、大うつ病の男性17人と対照者17人の背外側前頭前野を対象とした単一核トランスクリプトミクス(全mRNA発現を解析)研究の結果を報告した。8万個以上の核がサンプリングされ、26個の細胞クラスターが同定され、60%以上が群間で遺伝子発現の差を示した。

    ・最大の影響は深層興奮性神経細胞とオリゴデンドロサイト前駆細胞で観察された。このような研究により、細胞特異的な大うつ病における遺伝子発現異常が明らかになることが期待されている

    幼少期の虐待とネグレクトの影響

    ・大規模メタ解析などで幼少期の虐待と大うつ病発症との関連性が報告されている

    ・Peyrotらは、polygenic risk scoreと小児期の心的外傷、およびうつ病発症との関連を患者1645名、対照群340名について解析し、PRSおよび心的外傷それぞれが大うつ病発症と有意な関連を示したが、心的外傷を有するとPRSのうつ病発症への影響が大きくなることを報告した

    ・さらに幼少期の逆境体験は、うつ病の経過に影響することが報告された。つまり早期発症、入院率の高さ、自殺企図率、治療抵抗性(薬物療法、心理療法いずれも)などに関連することが報告された。

    ・動物実験と臨床試験において幼少期の逆境体験は脳構造および機能的変化、免疫機能、炎症、神経内分泌系、自律神経系などに長期にわたる永続的な影響を及ぼすことが分かっている。これらの影響はうつ病において報告されている海馬体積の減少などに寄与しているかもしれないが、因果関係はよくわかっていない

    モノアミン仮説はどうなっているか

    ・モノアミン仮説はうつ病の病態仮説としては不完全である。例えば、セロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリンの95%を脳内で枯渇させるレセルピンは、約15%の被験者にしかうつ病を発症させない。

    ・SSRIのセロトニントランスポータ阻害作用は即時的に発揮するが、抗うつ作用は週単位で遅れて発現する。また未治療大うつ病患者でも、SSRIとSNRIで寛解が達成されるのは50%以下である。

    ・また未治療患者においてエスシタロプラムとデュロキセチン投与後に、セロトニンおよびノルエピネフリントランスポーターの占有率と治療反応性との関連性がないことを示唆する結果が報告されている(Neuropsychopharmacology 2014; 39:S460–S461)

    ・うつ病患者においてモノアミン系の活動に関する指標は変化していないことを示唆する結果が多く報告されている

    ・ケタミンなどセロトニン系以外に作用する抗うつ薬が上市されている。

    ・これらの知見はいずれもモノアミン仮説にとっては逆風となる

    ・Moriguchiらは最近、新規放射性リガンド([11C]SL25.1188)を用いて未治療大うつ病患者20人と対照群20人についてMAO-B活性を評価した。患者群ではMAO-B活性の著しい上昇が認められ、患者の50%では前頭前野のMAO-B活性値が対照群の最高レベルよりも高かったことが報告されている。

    ・また抗うつ薬の作用機序におけるドパミンD1受容体とセロトニン5A受容体の役割が最近注目されている(Mol Psychiatry 2020; 25:1229–1244、Mol Psychiatry 2020; 25:1191–1201)

    脳画像研究

    ・これまでの画像研究に対する著者の批判的な意見が述べられている。

    ・まず第一に、うつ病における体積変化の効果量は一般的に非常に小さいこと。

    ・第二に、メタ解析は、知見の多くを広く支持していないこと。

    ・第三に、最も重要なことは、例えば、海馬や前頭前野の体積変化は実際に何を意味するのか?樹状突起や軸索の萎縮なのか?神経細胞の変性なのか?神経細胞に対するグリアの比率の変化なのか?細胞骨格の変化なのか?これらの疑問を解決するために、構造的MRI所見と病理組織学との関連を精査した死後脳研究は存在しない

    ・fMRIでは、大うつ病における前帯状皮質膝前部および視床とデフォルトモードネットワークの機能的接続性の増加、前頭頭頂部タスク制御ネットワークの機能的接続性の低下、前頭頭頂部制御ネットワークとデフォルトモードネットワークの機能的接続性の変化などが報告されている。しかしこれらの変化がうつ病によるものなのか、幼少期の虐待などの影響なのかはわからない。

    ・Rappaporらは、現在のうつ病の重症度は、報酬を期待することに反応して側坐核の活動低下と関連しているのに対し、反復性のうつ病は皮質線条体回路における報酬を期待することへの反応の低下と関連していることを報告した(Am J Psychiatry 2020; 177:754–763)

    免疫系と炎症について

    ・20年前に著者らはうつ病患者と癌患者でうつ病を併発した患者についての研究において、うつ病患者においては炎症促進性サイトカインである血漿中IL-6が増加していることを報告した

    ・その後うつ病における様々な免疫系指標の変化が報告されている。複数のメタ解析により、大うつ病患者では炎症性サイトカインおよび急性期蛋白質、特にIL-6、腫瘍壊死因子(TNF)およびCRPの増加が報告されている。

    ・うつ病では末梢血単核球における炎症性サイトカイン遺伝子発現が増加しているという報告もある。

    ・しかしながら、すべてのうつ病患者がこの特徴を示すわけではない。

    ・自殺傾向が顕著な患者の血中およびCSF中の炎症性サイトカイン濃度が著しく上昇しているとの報告もある。

    ・同時にうつ病ではナチュラルキラー細胞の減少など免疫抑制状態にあるとの報告もある。

    ・炎症促進性サイトカインの上昇は、統合失調症や双極性障害など他の精神疾患でも報告されていることに注意が必要である。

    ・in vitroの研究だが、うつ病患者由来血漿を健常者の末梢血単核球に曝露すると免疫抑制作用が観察された。

    ・うつ病の既往が感染症リスクの増加と関連しているとの多くの報告がある。このことはうつ病患者が免疫抑制されていることを意味すると解釈されるが、炎症性サイトカインの増加所見とは矛盾しており未解決である。

    ・またうつ病患者は、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、自己免疫性甲状腺炎、多発性硬化症などの自己免疫疾患を発症するリスクが高いことが報告されている。

    ・末梢性炎症性サイトカインの上昇がCNSに影響を及ぼし、炎症に関連したうつ病を媒介する可能性がある。血液脳関門を通過しないTNF拮抗薬を含む抗炎症性治療薬が、特に炎症が亢進している証拠のある大うつ病患者において、抗うつ特性を有することを示唆する報告もあるが、エビデンスとしては不十分である

    ・幼少期の心的外傷と炎症との関連も注目すべきである。幼少期の心的外傷が炎症促進性サイトカイン分泌の長期的な増加をもたらすことが、基礎実験および臨床において報告されている

    まとめ

    ・最後に著者が全体をまとめて以下のように要約している

    ・うつ病の診断は、顕著な異質性のために、依然として困難である。反応と寛解の定義は恣意的であり、それらの尺度の有用性について深刻な疑問が残っている。治療抵抗性うつ病の定義はまだ一般的には合意されていない。また、PTSD、強迫症、社交不安症、全般不安症など、うつ病の併存疾患を臨床研究や診療でどのように扱うかは不明である。NIMHの提示した研究用基準は有用かもしれないが、臨床実践を変えるわけではない

    ・うつ病患者のうち、適切な単剤療法試験で寛解を達成しうるのは少数である。したがって、標準治療はおそらくほとんどの患者にとって最適ではないと結論せざるを得ない。多くの増強戦略があり一部の患者には有効であるが、副作用を伴う。

    ・抗うつ薬の作用機序は不明である。抗うつ作用に関する理論はいずれも立証されていない

    ・うつ病における個別化医療、すなわち、うつ病のリスクのある患者を特定し、個々の患者に最適で安全な治療法を選択できるようにすることはまだ達成されていない。

    ・前述の欠点の多くは、大うつ病の病態生理の理解が不十分なことに起因している。40年に及ぶ研究にもかかわらず、うつ病の根本的な病因はいまだに不明である。しかし、ゲノミクスのエピジェネティクス、炎症、環境因子の研究ではかなりの進歩がみられている。

    ・男性と比較して女性の大うつ病の有病率が高い要因は未だ不明である。

    ・うつ病と主要な身体疾患の併存率が高いことのメカニズム研究は非常に不足している。これは、国立衛生研究所がこの分野の研究を行っていないこともあり、研究資金が限られていることが原因である

    引用文献
    1)CB. Nemeroff, Am J Psychiatry 2020;177:671–685; doi:10.1176/appi.ajp.2020.20060845

  • 国内2剤目の双極性障害維持療法期承認薬剤 2020年10月12日

    ・今年9月25日に大塚製薬のアリピプラゾールLAIが国内でラモトリギンについて2剤目に双極性障害維持療法期における薬剤として適応承認されました。


    ・現在FDAないし厚労省にて承認されている薬剤は下図(ジプラシドンは入っていなくて、その他一部もれがあるかもしれませんが)となり、ようやく国内でも承認された薬剤の範囲で躁病急性期から維持療法期まで連続的に同一薬剤で治療の継続が可能となりました(もっとも実際にはガイドラインが推奨するように、リチウムなどをオフラベルで維持療法期に使用するケースが多いと思いますが)。ちなみに下の図は赤色がFDAのみ承認、青色がFDAと厚労省が承認、黄色が厚労省のみ承認(2020年10月段階)となります。

    承認薬剤

    ・当記事に関しては、特定の薬剤に関する記事になりますので、COI開示もしておきます。著者のCOI関係にある企業として大塚製薬株式会社(講演料)となります。そのような状況ですが、解析対象とした臨床試験はおそらくselection biasはないものと思いますので、現時点で結果の普遍性はあると思われます。

     

    ・ラモトリギンの双極性障害維持療法期におけるあらゆるエピソードに関する再発予防効果と、アリピプラゾールLAIの双極性障害維持療法期における再発予防効果は、現在までのエビデンスで同等なのか、それともどちらかが優れているのか、について直接比較した試験がないので、ネットワークメタ解析を行ってみました。

     

    ・ラモトリギンの維持療法期の介入試験については、ありがたいことに藤田医大のOya先生らが文献1にて報告されています。ここに掲載された試験と、アリピプラゾールLAIのこれまでに報告された維持療法期のおそらく唯一の介入試験である国際第3相試験(ATLAS試験)の結果を用いて解析をしてみます。

     

    ・解析対象となった試験の概略は以下となります(文献1とNなどがちょっと違うのは、エントリー後に対象薬剤が投与されなかったケースなどを除いたためです)

    対象試験

    ・使用ソフトはRでnetmetaパッケージを用いて、頻度論によるネットワークメタ解析をrandom effectsモデルで解析してみました。評価尺度はあらゆるエピソードの再発率のプラセボに対する相対リスクとなります。

     

    ・その結果、下図の通り、現段階ではアリピプラゾールLAIはラモトリギンよりも有意にあらゆるエピソードの再発を防ぐ効果があるかもしれないとの結果になりました。

    解析1


    ・解析対象となった試験の異質性に関する尺度であるI2統計量は0.7%であり、問題ない数値でした。しかしながら、解析対象としたラモトリギンの介入試験のサンプルの均一性には問題があり、アリピプラゾールLAIの第3相試験が急性期が躁病エピソードであり、その後の維持療法期間において介入試験を行っているのに対して、ラモトリギンについては急性期エピソードが躁病であるstudyは2つであり、残りはrapid cyclingやうつ病相から入っており、そこでの治療に反応した患者群が対象となっているため、そこに異質性が存在する可能性があります。


    ・したがって、解析対象を急性期が躁病の studyのみとして、ネットワークメタ解析を行った結果が以下となります。どちらも対プラセボでは有意となりすが、アリピプラゾールLAIとラモトリギンとの有意差は消失しました。

    解析2
    ・前回の維持療法期におけるネットワークメタ解析の報告(文献2)からだいぶ時間もたっているので、そろそろアリピプラゾールLAIなども入った最新の結果が報告されるのではないかと思われます。

     

    引用文献
    1)Oya K, Sakuma K, Esumi S, et al.Efficacy and safety of lithium and lamotrigine for the maintenance treatment of clinically stable patients with bipolar disorder: A systematic review and meta‐analysis of double‐blind, randomized, placebo‐controlled trials with an enrichment design. Neuropsychopharmacol Rep. 2019;39:241– 246. https://doi.org/10.1002/npr2.12056
    2)Miura T, Noma H, Furukawa TA, Mitsuyasu H, Tanaka S, StocktonS, et al. Comparative efficacy and tolerability of pharmacological treatments in the maintenance treatment of bipolar disorder: a systematic review and network meta‐analysis. Lancet Psychiatry. 2014;1(5):351–9.

  • 神経炎症について 2020年10月06日

    ・うつ病にも神経炎症仮説があって、双極性障害にも神経炎症仮説があって、統合失調症にも神経炎症仮説があって、ALSにも神経炎症仮説があって、どれもこれも神経炎症仮説で疾患の表現型が違うのでモヤモヤしてしまうのですが、神経炎症仮説についての研究をするのであれば、これら疾患表現型の違いがなぜ生じるのかを説明しうるような研究がでてくるといいなと思うところではあります。

    ・例えばヒトALS患者由来アストロサイトをマウスに移植するとALS類似の病態が再現されることが知られていますが(J Clin Invest. 2015 Mar 2;125(3):1033-42)、同様に統合失調症患者由来アストロサイトをマウスに移植すると統合失調症モデルマウスになるのでしょうか?

    ・ALSについては様々な抗炎症作用が期待できるであろう薬物の介入試験が行われてきて(過去にまとめたことがあるのですが、調べた限り、olesoxime、ミノサイクリン、低用量インターロイキン2、tocilizumab(関節リウマチ治療薬:抗ヒトインターロイキン6モノクローナル抗体)、anakinra(IL-1受容体アンタゴニスト)、acthar(副腎皮質刺激ホルモン)、celecoxib、glatiramer acetate(多発性硬化症治療薬)、サリドマイド(TNF-αの発現減少作用)、NP001、fingolimod(多発性硬化症治療薬)、免疫抑制剤(バシリキシマブ+プレドニゾロン+タクロリムス+ミコフェノール酸)、masitinibなどがあります)、celecoxib、glatiramer acetate、サリドマイド、fingolimod、tocilizumab、anakinra、ミノサイクリン、olesoximeについてはnegativeな結果であり(小規模で再検証を要するものも多いのですが)、NP001では高用量かつ高感度CRPがベースラインで高い群では効果があるかもしれない、masitinibについては試験方法に問題あり要再試験などとなっています。

    ・これらは抗炎症作用が期待できる薬物ですので、バイオマーカーとしてもそれに関連したものがいろいろと用いられており、末梢血T細胞比率、髄液中サイトカイン濃度、髄液中プロスタグランジンE2濃度、末梢血高感度CRP濃度,末梢血リポポリサッカライド濃度、末梢血単核球中サイトカイン遺伝子発現、血清中サイトカイン濃度、髄液中可溶性インターロイキン6受容体濃度、PETによるトランスロケーター蛋白質(ミクログリア活性化の指標)測定、末梢血制御性T細胞比率、血清中ニューロフィラメント軽鎖濃度、血清中リン酸化ニューロフィラメント重鎖濃度、などなど、使用された薬剤にもよりますが、様々なマーカーが用いられています。

    ・これらのうち、末梢血によるマーカーについては果たして中枢神経由来なのか、という疑問を伴います。やはり神経炎症ですから、髄液中のマーカーなど中枢神経に特異的なマーカーが望ましいかと思われます。

    ・うつと神経炎症仮説について臨床試験の観点から少し眺めてみます。

    ・モノクローナル抗体による抗サイトカイン療法についての介入試験でうつを評価尺度にしたものは2018年までで二重盲検試験では10個くらいあるようです。

    ・うち4つが乾癬を対象とした介入試験であり、3つは関節リウマチを対象した試験で、その副次評価項目としてうつ尺度が含まれているものですが、うつ病(治療抵抗性)を対象としたものは1つしかなく、さらに規模の小さなものです(JAMA Psychiatry. 2013;70(1):31-41.)。

    ・うつ病を対象としたinfleximabの有効性について報告したこの試験の結果は全体としてnegativeであり、ベースラインのCRPが高いほど治療効果が高まる傾向がみられたとの結果でした。あくまで有意差はなく、規模が小さいので有効性についての結論は得られないというのが正しいところかと思います。

    ・うつ症状に対する抗サイトカイン療法の7つの介入試験のメタ解析の結果(Molecular Psychiatry (2018) 23, 335–343;)では、全体の効果量が0.40(CI 0.22-0.59)と有意差を認めていますが、7つ中4つは乾癬、1つはアトピー性皮膚炎、1つはクローン病を対象とした介入試験であり、副次評価項目としてうつ尺度が含まれているものになります。従って実際にうつ病患者がどの程度含まれていたのかはわからないということになり、結果の一般化は困難と思われます。

    ・双極性うつ病を対象とした抗サイトカイン療法(infleximab)の介入試験の結果が昨年公表されました(JAMA Psychiatry. 2019;76(8):783-790)。結果は全体としてnegativeであり、身体的ないし性的虐待の既往のあるサブグループでは治療効果が有意であったとの結果でした。ベースラインのCRPと治療効果との相関は有意ではありませんでした。

    ・また今年に入って、双極性うつ病を対象としたミノサイクリンおよびcelecoxibの併用ないし単剤療法の有効性についての介入試験の結果が報告されました(Lancet Psychiatry 2020; 7: 515–27)。結果はHAM-D17においていずれの群も12週間でプラセボとの有意差を見出すことはできませんでした。

    ・これに対しては今月のlancet psychiatry誌にてベースラインのCRPなどで層別化し、炎症の高いサブグループで効果を検証すべきであるとのコメントが掲載されました。これに対する著者らの反論は、CRPがそもそも神経炎症の指標である保証はなく、何をもってベースラインの神経炎症が高い群とすればいいのかわからないため、きちんと神経炎症のバイオマーカーを同定すべきであるとのことでした。

    ・うつ病患者においてはCRPが1mg/L以上の患者が60%、5mg/L以上が30%とのことです。しかしこのCRP上昇がどこから来ているのか、わかりません。

    ・そもそもCRPは主に肝臓でつくられるものじゃなかったのかというのが、学生レベルの知識しかない私の感想なのですが、どうなのでしょうか。

    ・ミノサイクリンについては、治療抵抗性うつ病に対する増強療法としての有効性を検証した小規模介入試験の結果が報告されており(J Psychopharmacol. 2017 Sep;31(9):1166-1175)、こちらについては結果はpositiveでしたが、非常に規模が小さく(全体でNが40程度)、これについても有効性についての結論を出すことはできないというところかと思います。

    ・以上のように末梢血からのマーカーを用いる方法では議論が収束しそうにない状況ですので、きちんと中枢神経のバイオマーカーを用いる方法がないのかということになります。そこで思いつくのがPETによる方法です。

    ・うつ病についてのPETによる神経炎症研究は、ミクログリアの活性化指標とされる(これは最近では疑問視されていますが)トランスロケーター蛋白質に対する放射性リガンドを用いた報告があり、positiveな結果(JAMA Psychiatry. 2015 Mar;72(3):268-75.、Br J Psychiatry. 2016 Dec;209(6):525-526.)や軽度から中等症ではnegativeとする結果(Brain Behav Immun. 2013 Oct;33:131-8.)、希死念慮を伴う比較的重度のうつ病においては前部帯状回においてトランスロケーター蛋白質発現上昇がみられるとの結果(Biol Psychiatry. 2018 Jan 1;83(1):61-69.)などが報告されています。

    ・双極性障害でも右海馬でのトランスロケーター蛋白質発現上昇の報告(Brain Behav Immun. 2014 Aug;40:219-25.)があります。

    ・統合失調症では、未投薬患者においては、トランスロケーター蛋白質の発現低下を示唆する結果が報告(Mol Psychiatry. 2020 Jun 30.)されており、ミクログリアの発達ないし機能の障害を示唆するものではないかと考察されていますが、今後の検証を要するところかと思われます。また未投薬患者ではトランスロケーター蛋白質発現は対照群と有意差なく、投薬後に有意な上昇を示したとの報告(Mol Psychiatry. 2016 Dec;21(12):1672-1679. )もあり、統合失調症におけるトランスロケーター蛋白質の増加は投薬の影響をみているのではないかとの指摘もあります。

    ・閾値下の精神病超ハイリスク群(ultra high risk for psychosis)においては、灰白質でのトランスロケーター蛋白質の発現亢進がみられ、重症度に相関するとの報告(Am J Psychiatry. 2016 Jan;173(1):44-52.)もありました。

    ・トランスロケーター蛋白質発現上昇は統合失調症死後脳ではみられておらず、トランスロケーター蛋白質はミクログリアの活性化を特異的に反映したものではなく、in vitroの研究では活性化ヒトミクログリアにおいて発現亢進がみられないことなどから、統合失調症におけるミクログリアの活性化指標としては不適切ではないかということを指摘する論文も報告されています(Schizophr Res. 2020 Jan;215:167-172. )

    ・従って、より選択的なグリア細胞の活性化指標となるリガンドが必要ではないかということも指摘されています(Mol Psychiatry. 2018 Feb;23(2):323-334. doi: 10.1038/mp.2016.248. Epub 2017 Jan 17.)

    ・以上より、PETを用いた神経炎症の可視化については、まだまだこれからというところでしょうか。

    ・より特異度の高いPETリガンドが開発されれば、この分野の研究が進展し、本当に神経炎症が病態に関与しているのかどうかが明らかになるのかもしれません。

  • 抗うつ薬の作用機序について 2020年09月29日

    ・セロトニン1A受容体の脱感作とかわざわざそんなめんどくさいことをさせなくても、最初からセロトニン1A受容体アンタゴニストを投与すればいいんじゃないか(臨床試験ではうまくいっていないですが)とか、動物実験ではセロトニン2C受容体アゴニストもアンタゴニストも、セロトニン6受容体アゴニストもアンタゴニストも、いずれも抗うつ薬類似作用を発揮するとか、モノアミン仮説がわからないので、何かよい総説はないかと探してみましたが、2011年の古い物(文献1)しか見当たりませんでした。

    ・2020年現在にどこまで通じるのかわかりませんし、今となっては間違っている記載が多々あるかもしれませんが、とりあえずは見ておこうということでざっと通してみます。

     

    うつ病動物モデルとセロトニン受容体サブタイプ

     

    背景

     

    ・SSRIの登場以前はモノアミン再取り込み阻害作用を有する三環系抗うつ薬ないしモノアミン酸化酵素阻害薬(モノアミンの代謝酵素を阻害する)がうつ病治療に用いられてきた。これら古典的薬剤と比較してSSRIは副作用が少ないため成功してきた

    ・SSRIはセロトニントランスポーターを選択的に阻害し、そのため全てのシナプス後セロトニン受容体における細胞外セロトニン濃度を上昇させる。SSRI慢性投与は細胞外セロトニン濃度をさらに上昇させるか、維持させる効果がある

    ・さらにSSRI慢性投与によりセロトニン自己受容体の脱感作や、セロトニントランスポーターの脱感作、受容体の発現低下、神経栄養因子の動員、海馬神経細胞新生の亢進などが報告されている

    ・1987年のフルオキセチンの承認以降、行動薬理学の分野では、SSRIの薬理作用を動物実験で検証してきたが、古典的動物モデルではSSRIの行動薬理学的作用ははっきりしなかった。というのは、それまでのアポモルヒネ誘発性低体温モデル、レセルピン誘発性眼瞼下垂または低体温モデル動物、または定型的な強制水泳試験のようなモデルは、カテコールアミン系への三環系抗うつ薬ないしMAOIの効果を検証するために開発されたものであったからである。

    ・これら定型的なモデル動物や試験でSSRIが効果を示さなかったことは臨床効果への疑問につながったが、実際に臨床的有効性が示されてからは、新たな行動試験や動物モデルにおいてその行動薬理学的作用が検証されるようになった。

    ・このレビューでは、動物行動薬理学的実験によりセロトニン系がどのようにSSRIの抗うつ作用発現に寄与しているかをより正確に理解することである

    ・中枢神経系では7つの主要なファミリーに属する少なくとも14のセロトニン受容体サブタイプが同定されている。

    ・現在ではうつ病や不安症におけるSSRIの治療効果には、複数のセロトニン受容体サブタイプが関与していることが明らかになっており、1つの受容体が他の受容体よりもより重要であるかどうかは明らかではない。驚くべきことに、いくつかの5-HT受容体におけるアゴニストおよびアンタゴニストは、詳細なメカニズムは異なるにしても、どちらも抗うつ薬のような行動効果をもたらすことが知られている(例えばセロトニン1Aアゴニストとアンタゴニスト)

    ・齧歯類を用いたうつ病の行動薬理学的検査は、薬物投与の期間に基づいて、急性試験と慢性試験に分けることができる。急性試験はSSRIの効果が1回または少数回の投与で明らかになる行動試験であり。慢性試験では通常2週間以上の投与を必要とする。

     

    急性試験

     

    ・強制水泳試験(FST):ストレスに対する脆弱性の増加ないしうつ病の治療のいずれかと相関するストレスに対する反応の行動パターンを測定する。水(通常は円筒形)の容器にラットを配置し、最初は、ラットが脱出しようとするが、最終的にはラットの鼻を水面に出すことを維持するために必要な動作を除いて、不動(受動的な行動)の姿勢をとるようになる。テストは、2つの水泳暴露で構成され、最初は15分間の暴露であり、24時間後に5分間の暴露を実施する。不動時間は、2回目の5分間の試験中に記録される。FSTでは、抗うつ薬は能動的な対処行動を増加させることにより、不動時間を減少させる。異なるクラスの抗うつ薬の効果を測定したり、変異齧歯動物のうつ病関連行動への影響を評価したりするために最も頻繁に使用されている行動検査。FSTではSSRIの効果を測定することができなかったため、LuckiらはFSTの手順とスコアリングを改変した。水深が深くし、シリンダーが大きくすることにより、自由遊泳を可能にした。定型的なFSTでは、動けない状態で過ごした時間の合計のみを採点していたが、修正版FSTでは、5分間の試験で泳ぎと登りの頻度を測定するスコアリングシステムが導入された(水泳は、チャンバー全体の水平方向の動きとして定義され、上昇行動は、チャンバーの前足の垂直方向の動きとして定義)。修正ラットFSTでは、ストレスに対する受動的反応(不動)と能動的反応(水泳や上昇行動の増加)を区別する。フルオキセチン、セルトラリン、パロキセチン、シタロプラムなどは水泳行動を選択的に増加させ、ノルアドレナリン作動系薬剤は上昇行動を選択的に増加させる。セロトニン系、ノルアドレナリン双方の作用を持つ薬物は水泳と上昇行動の両方を増加させる

    ・テールサスペンション試験(TST):テールサスペンション試験は、より簡便で、かつマウスの抗うつ薬に対する行動反応を、FSTと同様の行動原理に基づいて、迅速に試験する方法。この試験では、マウスを粘着テープで尻尾を棒に固定して吊るす。6分間のテストの間、マウスが動かずに過ごした時間は、うつ状態に似た行動の指標になる。TSTは、FSTにおける冷水による低体温効果がないこと、泳ぐことを困難にする運動障害を有するモデルを試験できることなどFSTに比べて多くの利点がある

    ・低反応率分化強化(DRL)行動試験:低反応率分化強化スケジュールは先の反応から一定時間経過した最初の反応を強化する手続き。定められた反応時間よりも長い反応間時間を分化強化し、定められた反応時間未満での反応では報酬は得られない。72秒以上の反応間時間を持つ応答を強化するスケジュールの下で維持されたオペラント行動は、抗うつ薬に対する特異的な感受性を示す。SSRIを含む抗うつ薬は、このスケジュールの下で応答するラットの応答速度を低下させ、強化率を増加させる。このような強化は抗うつ薬に特異的な反応

    ・薬物弁別試験:薬物弁別試験は、ラットに訓練薬を投与した場合にのみ、特定のレバーの上で与えられる餌の報酬に反応するように訓練するもの。薬物の相互受容特性の判別に用いられる。この手法は、依存性薬物の研究に最もよく用いられている。シタロプラムが識別刺激として訓練された場合、セルトラリンとパロキセチンには反応したが、ジアゼパムやクロザピンは反応しなかった。薬剤の類似性の判別に用いられる

     

    慢性試験

     

    ・慢性的軽度ストレス(CMS)試験:慢性的軽度ストレスモデルの根拠は、環境的ストレス因子、特に予測不可能で制御不能なストレス因子への曝露が、うつ病を発症リスクを高めるという仮説である。 ストレス因子への馴化を防ぐために、不規則に投与される軽度のストレス因子(例えば、ストロボ照明、汚れたケージ、光周期の変調など)が用いられる。数週間にわたって慢性ストレスが投与された場合に、ヒトのうつ病に似たような行動および内分泌学的変化がラットおよびマウスに生じうることが報告されている。CMSによる一般的な行動偏倚は甘味水溶液の消費量減少などの無気力症の出現である。さらにFST行動、睡眠変化、グルーミング、運動量の変化は、CMSによる病理学的変化がより多様であり、CMSがうつ症状の多くをモデル化している可能性を示唆する。CMSによって引き起こされた変化は、多くの抗うつ薬、特にフルオキセチン、セルトラリン、シタロプラムの慢性的投与によって、改善がみられる。ただしCMSに曝露されたすべてのげっ歯類が病理学的な行動変化を示すわけではなく、CMSに反応したすべての動物が抗うつ薬投与後に改善を示すわけではない。このような反応性の個人差はヒトのうつ病にも見られる。CMSの欠点の1つは、異なる実験環境において抗うつ効果の再現性が乏しい場合があることである。

    ・嗅球摘除術(OB):嗅球の両側摘除は、げっ歯類に重度の行動的および内分泌的変化を引き起こしうつ病モデルとして使用されてきた。OBモデルでみられる最も一般的な行動変化は、オープンフィールド装置における活動亢進である。これらの変化は、SSRIのフルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、およびフルボキサミンを含む慢性的な抗うつ薬投与によって改善する。OBは、扁桃体や海馬など、嗅球に投射したり、嗅球から投射を受けたりする多くの領域で神経変性を引き起こす。OBは、縫線核における神経細胞の損失を引き起こし、セロトニン神経伝達の異常につながる可能性がある。うつ病患者では対照群に比べて嗅覚検出閾値が高く、嗅覚課題のパフォーマンスがうつ病の重症度と逆相関しているという報告は、OBモデルがうつ病と多くの生理学的特徴を共有している可能性があることを示唆している

    ・Novelty-suppression of feeding(NSF)テスト/novelty-induced hypophagia(NIH)テスト:新奇な環境では,餌を与えた時に摂食するまでの時間が長くかかる。明るく開放的な新奇環境に齧歯類を置き、食べ物に近づくまでの潜時と、新奇環境で消費される食べ物の量を測定する。NSF試験では、消費を促進するために食物欠乏を用いるのに対し、NIH試験では食物欠乏なしで例えば甘味があるような好まれる食物を用いる。新奇環境に曝露することで、食物への接近潜時が増加し、従来環境に比べて餌消費量が減少する。ベンゾジアゼピンなどの抗不安薬は、従来環境での行動を変化させることなく、新奇環境での食物への接近潜時を減少させ、餌消費量を増加させる。SSRIは、ラットおよびマウスに慢性投与された場合、これらの試験において抗不安薬と同様の効果をもたらすことが知られている。NSFおよびNIHテストは、慢性抗うつ薬治療の抗不安効果に敏感な数少ない行動テストの一つ

    ・社会的敗北ストレステスト:マウスをより大きなマウスのいるケージで共存させることにより、抑うつ関連行動をおこさせる。数週間社会的ストレスを受けたラットは、FSTでの運動量の減少、ショ糖嗜好性の減少、不動時間の増加などを示す。シタロプラムまたはフルオキセチンを慢性的に投与すると、動機付けと報酬感受性に関連した行動が正常化される. 長時間社会的敗北に曝露されたマウスは、強い回避反応を示し、他のマウスとの交流に費やす時間が減少する。フルオキセチンまたはイミプラミンを4週間慢性投与すると、社会的相互作用が改善する。
    u学習性無力モデル:学習性無力とは、逃れられないストレスにさらされた動物が、REM睡眠の変化、体重減少、性的行動の減少、CRFおよびコルチゾール濃度の上昇など、ヒトうつ病に類似した病態を示すもの。脱出不可能なストレスに曝露された学習性無力状態では、その後、脱出が可能な状況であっても脱出することをしなくなる。電気ショックなどを用いて学習性無力状態が作り出される。SSRI慢性投与により、逃走までの潜伏期間が短縮されたり、学習性無力を発現する動物の数が減少したりする。

     

    SSRIの行動学的影響における内因性セロトニン系の役割

     

    ・齧歯類における行動研究ては、セロトニン合成を阻害することによりうつ病の行動的特徴を再現することに成功していない

    ・ラットやマウスに対して、トリプトファン水酸化酵素阻害剤であるパラクロロフェニルアラニン(PCPA)投与によりセロトニン合成を阻害しても、強制水泳テストにおける行動的特徴に影響を与えることができないことが知られている(Gavioliら 2004)。さらに神経毒によりセロトニン神経を破壊しても、ラットに強制水泳テストにおいて不動時間の増加がみられないことが報告されている(Luckiら 1994)

    ・近年、トリプトファン水酸化酵素の遺伝子(tph1遺伝子およびtph2遺伝子)に変異を有するマウスにおいてうつ病的な行動表現型がみられることが報告されている。いずれの遺伝子もセロトニン合成を制御しており、Tph1遺伝子は主として末梢組織に、tph2遺伝子は主に神経細胞におけるセロトニン合成に関与している。tph2遺伝子ノックアウトマウスでは、テールサスペンションテストにおける不動時間の延長が報告された(Savelievaら 2008)。また中枢神経でのセロトニン合成能が80%低下する変異tph2遺伝子をマウスにノックインすると、テールサスペンションテストにおいて不動時間が有意に延長することが報告された(Beaulieuら 2008)。しかしこれらの研究の結果は、セロトニン系が発生時に重要な役割を果たしている可能性を除外できない

    ・tph2遺伝子多型(セロトニン合成速度が変化する)が強制水泳テストにおけるSSRIに対する反応性を修飾する可能性が報告されているが、この報告については再現性が確認されておらず、また強制水泳テスト以外の試験においての検証はなされていない

    ・セロトニンの枯渇がモデル動物におけるうつ病行動特性を誘発するとは限らないが、強制水泳テストやテールサスペンションテストにおいてSSRI投与が効果的であるためには、セロトニン系の機能が保持されていることが重要であると考えられている。その根拠として、パラクロロフェニルアラニン(PCPA)を投与すると、強制水泳テストやテールサスペンションテストにおけるフルオキセチンの効果は阻害されるが、ノルエピネフリン再取り込み阻害剤であるデシプラミンの効果はPCPA投与の影響を受けないことがあげられる。この結果は急性試験におけるSSRIの効果がセロトニン系を介することを支持するものである

    ・学習性無力モデルラットを用いた実験において、セロトニン1A受容体遮断薬(WAY100,635)投与下において、セロトニン1A受容体アゴニストを投与すると、無力行動の改善はみられなくなったが、フルオキセチンおよびパロキセチンによる無力行動の改善効果は保持されていた。またPCPA投与によりセロトニンを枯渇させても、無力行動は変化せず、フルオキセチン、パロキセチンの無力行動改善効果は保持されていた(Zazpeら  2007)。PCPAのSSRIへの影響は急性試験と慢性試験で異なるのかもしれない

    ・一酸化窒素は多くの中枢神経系受容体の細胞内メッセンジャーである。一酸化窒素合成酵素(NOS)を阻害することによってNOシグナルを減少させると、ラットの強制水泳テストにおいて抗うつ薬様の効果が得られることが示されている。これらの行動効果は、PCPAを用いたセロトニンの枯渇によって阻害されるため、NOS阻害による行動効果はセロトニン系に依存していることが示唆されている。また亜鉛投与は、多くの動物モデルおよび予備的臨床研究において、抗うつ薬に類似した効果をもたらすことが報告されている。PCPAを投与すると、亜鉛の抗うつ薬様効果が阻害されることが報告されている。

     

    セロトニン1A受容体

     

    ・特異的なリガンドを用いた受容体オートラジオグラフィーによりセロトニン1A受容体は海馬や外側中隔などの辺縁系や大脳皮質のシナプス後膜において高密度に発現していることが報告されている。中隔に存在する受容体はコリン放出を制御し、前頭前野においてはグルタミン酸放出を制御し、腹側被蓋野ではドパミン放出を制御している。これらの領域における細胞内シグナル経路は主としてGi/o蛋白質とカップリングし、アデニル酸シクラーゼの活性を抑制している。

    ・同時にセロトニン1A受容体は脳幹部や延髄縫線核の神経細胞の細胞体や樹状突起に位置し、神経発火やセロトニン合成、シナプス末端からのセロトニン放出を抑制する機能を有する。

    ・セロトニン1A受容体は不安やうつ症状、体温調節、コルチコステロン分泌、学習と記憶に関与していると考えられている。

    ・セロトニン1A受容体の部分アゴニストであるブスピロン、イプサピロンは抗不安薬として上市されている。またセロトニン1A受容体機能の障害がうつ病患者において報告されている(Savitzら2009)

    ・セロトニン1A受容体のプロモータ領域におけるある種の遺伝子多型はうつ病や不安障害のリスク因子として同定されており、SSRI治療抵抗性に関与していることが報告されている

    ・セロトニン1A受容体アゴニストは抗うつ薬類似効果を発揮することが、各種の動物実験において報告されている。セロトニン1A受容体アゴニスト(8-OH-DPAT)や部分アゴニスト投与(ブスピロンなど)はラット強制水泳試験における不動時間を減少させ、同時にセロトニン1A受容体阻害薬による前処置により、その作用が阻害されることが報告されている。

    ・セロトニン1A受容体アゴニストは、学習性無力モデル、低反応率分化強化(DRL)行動試験においても抗うつ薬類似作用を発揮し、セロトニン1A受容体部分アゴニストは慢性的軽度ストレス(CMS)試験、嗅球摘除試験において抗うつ薬類似作用を発揮することが確認されている。またセロトニン1A受容体アゴニストないしブスピロンの慢性投与はnovelty-induced hypophagiaテストにおいて食べ物への近接潜時を短縮させ、歯状回における神経新生を増加させ、神経細胞の生存を促進することが報告されている。

    ・しかしながら、臨床的にはブスピロンとイプサピロンを除いて、セロトニン1A受容体アゴニストの抗うつ薬としての開発は成功していない

    ・SSRIやその他の抗うつ薬の慢性投与、ECTは、シナプス前およびシナプス後膜のセロトニン1A受容体の反応性を変化させる。海馬などの辺縁系において抗うつ薬の慢性投与はセロトニン1A受容体を介したシナプス伝達の促通が生じることが報告されており、抗うつ作用におけるシナプス後膜のセロトニン1A受容体の関与が重要であることを示唆している

    ・同時に週単位の抗うつ薬投与後に生じるセロトニン1A自己受容体の脱感作が、セロトニン伝達の増強における重要な要因であり、抗うつ作用が遅れて生じることの根拠となっている。縫線核におけるセロトニン1A受容体を阻害すると、セロトニン放出の脱抑制を引き起こし、抗うつ作用を増強することが報告されており、セロトニン1A受容体阻害薬は抗うつ薬の増強療法の候補として提唱されている(臨床試験ではうまくいっていない)。セロトニン1Aおよび1B受容体拮抗薬であるピンドロールは動物実験ではSSRIとの併用で抗うつ作用を増強させることを示唆する結果が得られており、ヒトに対して抗うつ薬との併用での治療抵抗性うつ病に対する臨床試験が行われたが、結果は芳しくないものであった(明確な有効性を示せていない)。ピンドロールは高用量においてはシナプス後セロトニン1A受容体作用によりSSRIの治療効果を阻害する可能性が報告されており、シナプス前受容体阻害作用とのトレードオフが生じる可能性が報告されている。

    ・新規抗うつ薬のビラゾドンはセロトニン1A受容体部分アゴニスト作用をSSRI作用を併せ持つ薬剤であり、ラットの大脳皮質および海馬においてフルオキセチン単独よりも細胞外セロトニン濃度を上昇させることが報告されている。またラットおよびマウスの強制水泳試験において抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。しかし細胞外セロトニン濃度を上昇させることの臨床的意義ははっきりしていない(ビラゾドン自体の臨床的抗うつ作用は他剤と比較して有意に優れているというわけではない)。

    ・セロトニン1A受容体ノックアウトマウスの共通した特徴は不安特性の高い行動特性である。この特性はは発達段階でのセロトニン1A受容体の欠如により引き起こされると考えられており、成熟後にセロトニン1A受容体欠失を生じさせたマウスではそのような行動特性が生じなかったことが根拠である。セロトニン1A受容体ノックアウトマウスでは、正常なセロトニン放出を示すが、セロトニン1A自己受容体欠損のため、フルオキセチン投与後のセロトニン濃度の上昇が増加する。しかしながらセロトニン1A受容体ノックアウトマウスにおいてはSSRI投与に対して治療抵抗性を示す。このことはおそらくシナプス後膜のセロトニン1A受容体が欠損していることに起因すると考えられている。

    ・セロトニン1A自己受容体の密度が高いマウスは、ベースライン時の強制水泳試験とテールサスペンション試験での不動時間の増加など、ストレス因子に対する応答が増強した。また、セロトニン1A自己受容体の密度が低いマウスでは、フルオキセチンによる海馬の細胞外セロトニン濃度の上昇が増強され、 novelty-induced hypophagia試験において慢性的なフルオキセチン投与に対しより迅速な反応を示した。

    ・セロトニン産生神経細胞を破壊ないしセロトニン合成が阻害されても、セロトニン1A受容体アゴニスト投与は抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。このことは、抗うつ作用の発揮がシナプス後膜のセロトニン1A受容体を介したものであることを示唆するものである

    ・結論として、シナプス前膜のセロトニン1A受容体はうつ病関連行動のリスク因子となり、同時にその阻害がSSRIの作用を増強する可能性がある(この仮説は現時点では臨床的には否定的だが)。またおそらくSSRIおよびセロトニン1A受容体アゴニストの抗うつ作用はシナプス後膜のセロトニン1A受容体を介したものであることが推測される

     

    セロトニン1B受容体

     

    ・セロトニン1B受容体は基底核、側坐核、黒質などで高密度で発現する他、帯状回、海馬、扁桃体などでも多く発現がみられている。セロトニン1B受容体はセロトニン神経末端での自己受容体としての機能と、非セロトニン神経系におけるヘテロ受容体として、その神経の伝達物質の放出を制御する機能とを有する。

    ・セロトニン1B受容体は、片頭痛、運動活動、薬物嗜癖、攻撃性、うつ病、不安などに関与していると考えられている。

    ・セロトニン1B受容体は、環境ストレスへの曝露や抗うつ薬投与によって制御されるため、うつ病の治療標的となりうる。学習性無力状態では皮質や海馬、中隔、背側縫線核でのセロトニン1B受容体の発現亢進をもたらすことが報告されており、抗うつ薬の慢性投与は背側縫線核でのセロトニン1B受容体mRNA減少と、セロトニン1B自己受容体の効力を減少させ、その結果セロトニン放出の増加につながることが報告されている。

    ・顆粒細胞や錐体細胞に存在するセロトニン1Bヘテロ受容体は海馬神経新生の増加に関与していることが報告されている(Banasrら 2004)

    ・同時にセロトニン1B受容体は結合蛋白質p11により制御されている。P11はセロトニン1B受容体の機能を増強することが知られている。マウスでの抗うつ薬治療はp11を増加させ、同時にp11を過剰発現させるようにしたトランスジェニックマウスでは抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。またp11遺伝子除去したマウスでは強制水泳試験やテールサスペンション試験において不動時間が増加し、うつ病類似行動が引き起こされることが報告されている。

    ・セロトニン1B受容体アゴニスト投与はマウスの強制水泳試験において抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。この効果はセロトニン1B受容体除去およびアンタゴニスト投与により阻害されたが、セロトニン除去によっては阻害されなかった。このことはセロトニン1Bアゴニストによる抗うつ作用がシナプス後膜セロトニン1B受容体を介したものであることを示唆している。

    ・セロトニン1B受容体アンタゴニスト投与は、シタロプラムおよびパロキセチンの抗うつ作用を阻害することが報告されており、これら薬剤の治療的効果の一部はセロトニン1B受容体を介したものである可能性がある

    ・他のグループは、シナプス前セロトニン1B自己受容体が抗うつ作用発揮に必要であることを主張している。セロトニン1B受容体アンタゴニストをパロキセチンと同時投与するとラットの強制水泳試験におけるパロキセチンの抗うつ作用が増強したが、フルオキセチンないしシタロプラムと併用した場合には抗うつ作用の増強はみられなかった。またセロトニン1B受容体アンタゴニスト単独投与は、細胞外セロトニン濃度を上昇させ、抗うつ薬類似作用を発揮し、抗うつ薬の作用を増強することも報告されている。

    ・これらの作用はおそらくはセロトニン1B自己受容体の阻害によるセロトニン放出の脱抑制に起因したものであろう。研究グループ間の異なった結論は、セロトニン1B受容体がヘテロ受容体および自己受容体とで異なる機能を有することに起因する可能性があり、あるいは研究室間の手技の違いなどに起因するものかもしれない。

     

    セロトニン2A受容体

     

    ・セロトニン2A受容体は大脳皮質、梨状皮質、嗅内野、前障、嗅球、前嗅核や多くの脳幹核において高密度に発現している。辺縁系や基底核においても中等度の発現がみられる。セロトニン2A受容体はGq/11蛋白質とカップリングしており、IP3/PKC経路につながっている。

    ・セロトニン2A受容体アゴニストはLSDなどの催幻覚剤の効果発現と関連している。SSRIなど抗うつ薬の慢性投与は齧歯類において、前頭皮質におけるセロトニン2A受容体密度の減少につながり、おそらくこのことと抗うつ作用との関連が推測される。うつ病患者においてはセロトニン2A受容体密度の増加が報告されている。またセロトニン2A受容体遺伝子多型とSSRIへの治療反応性との関連も報告されている(McMahonら 2006)。

    ・選択的なセロトニン2A受容体アンタゴニストは強制水泳試験において抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されており、セロトニン2A受容体アンタゴニストの慢性投与は嗅球除去モデルにおいて強制水泳試験や社会的相互作用テストなどでの抗うつ薬類似作用が報告されている

    ・SSRIにセロトニン2A受容体アンタゴニストを併用するとオペラント行動を用いたテストにおいて抗うつ作用が増強することが報告されている。この作用機序としては、セロトニン2A受容体アンタゴニストがSSRIによる細胞外セロトニン濃度増加をさらに増強することによる可能性が推測されている

    ・セロトニン2A受容体アンタゴニストは、その他の神経伝達物質の放出を制御することにより抗うつ作用を発揮する可能性が報告されている。例えばセロトニン2A受容体アンタゴニストは前頭前野でのドパミン放出を抑制IS、一方でアゴニストはドパミン活性を亢進させることが報告されている。またセロトニン2A/2C受容体アゴニストであるDOI投与は、皮質ではグルタミン酸放出を増加させることが報告されている。非定型抗精神病薬によりセロトニン2A受容体遮断すると、SSRIによりもたらされた青斑核での神経発火抑制が、改善することが報告されており、治療抵抗性うつ病における非定型抗精神病薬増強の治療的有用性の根拠となっている。

     

    セロトニン2C受容体

     

    ・セロトニン2C受容体は受容体オートラジオグラフィーにより当初は脈絡叢に見いだされ、その後海馬や扁桃体、前嗅核、 endopiriform nucleus、帯状回、梨状回、視床核、黒質などでの存在が同定された。セロトニン2C受容体は主にGq/11蛋白質とカップルし、イノシトールリン酸を増加させ、細胞内カルシウム濃度を増加させる。セロトニン2C受容体を介した薬理作用は複雑であり、その理由としてセロトニン2C受容体が多くの神経系に発現する受容体であり、薬剤の慢性投与によるダウンレギュレーションなどの制御様式も定型的なものではないからである。

    ・ミアンセリン、ミルタザピン、トラゾドン、ネファゾドンはセロトニン2C受容体に高い親和性を有する。またSSRIはフルオキセチンを除いてはこの受容体への親和性は乏しい。いくつかの非定型抗精神病薬もセロトニン2C受容体遮断作用を有しており、細胞外ノルエピネフリン、ドパミン濃度を増加させ、SSRIによる細胞外セロトニン濃度の増加を増強する。

    ・セロトニン2C受容体アゴニストはラット強制水泳試験、社会的ストレスモデル、嗅球除去モデルなどにおいて抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。さらに選択的セロトニン2C受容体アンタゴニストはラット強制水泳試験におけるフルオキセチンの治療的効果を阻害することが報告されている。

    ・しかしながら、セロトニン2C受容体遮断薬であるミアンセリンは強制水泳試験において抗うつ薬類似作用を発揮する。この作用はおそらくはα2受容体遮断を介したものと推測されている。

    ・マウスの強制水泳試験においては、セロトニン2C受容体アゴニストは、閾値下用量のイミプラミン、パロキセチン、シタロプラム、フルボキサミン投与により抗うつ薬類似作用を増強させる。しかし通常用量のパロキセチンおよび高用量フルボキサミンとの併用により、抗うつ薬類似作用が阻害される。

    ・セロトニン2C受容体アンタゴニストが抗うつ作用を発揮することの十分な根拠がある。ミアンセリンやミルタザピンはセロトニン2C受容体阻害薬であり、アゴメラチンはメラトニン受容体アゴニストでありかつセロトニン2C受容体のアンタゴニストである。いずれも抗うつ薬としての有効性が報告されている。

    ・S32006はセロトニン2C受容体阻害薬であり、ラット強制水泳試験で不動時間を減少させ、慢性投与により、慢性的軽度ストレス試験においてアンヘドニアを減少させることが報告されている。

    ・セロトニン2C受容体アゴニストとアンタゴニストがいずれも抗うつ作用を発揮することは逆説的であるが、セロトニン2C受容体アゴニストとアンタゴニストがそれぞれ異なるメカニズムで抗うつ作用を発揮していると考えることも可能である。例えば、セロトニン2C受容体刺激はSSRIによるシナプス後セロトニン受容体刺激の主要な構成要素である可能性があり、一方でセロトニン2C受容体アンタゴニストは、セロトニン以外のノルエピネフリンやドパミンなどのその他の神経伝達物質放出を促進することにより、抗うつ作用を発揮しているのかもしれない。

     

    セロトニン3受容体

     

    ・セロトニン3受容体はイオンチャネル型受容体である。セロトニン3受容体は迷走神経背側複合体に高密度で発現しており、この部位での受容体遮断は制吐作用を発揮する。その他海馬、扁桃体、皮質などで発現がみられる。セロトニン3受容体はGABA介在神経を活性化することにより間接的に皮質錐体細胞を抑制する。

    ・オンダンセトロンによるセロトニン3受容体遮断は抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。さらに低用量SSRIとオンダンセトロン併用はマウス強制水泳試験における治療効果を増強させることが報告されている。一方で、セロトニン3受容体アゴニストは抗うつ作用を減弱させることが報告されている。フルオキセチンなどいくつかの抗うつ薬は機能的にセロトニン3受容体遮断作用を有するといわれている

     

    セロトニン4受容体

     

    ・セロトニン4受容体は辺縁系に広く分布している。中隔、海馬、扁桃体などに分布する。セロトニン4受容体アゴニストは、おそらくアセチルコリン放出を制御する作用と関連する、記憶を促進する作用において注目されている。

    ・セロトニン4受容体アゴニスト(RS 67333)はわずか3日間の投与でセロトニン1A受容体の脱感作を生じさせ、抗うつ薬類似作用をもたらすことが報告されており、速やかな効果発現をもたらすことができる可能性がある。RS 67333をフルボキサミン、シタロプラム、フルオキセチンと同時投与すると、単独投与時と比較して強制水泳試験における抗うつ作用が増強することが報告されている。

    ・P11ノックアウトマウスではRS 67333投与による抗うつ作用がみられなくなったことから、セロトニン1B受容体同様に、p11がセロトニン4受容体を介した治療的効果の発現に重要である可能性がある

     

    セロトニン6受容体

     

    ・セロトニン6受容体は線条体、側坐核、嗅結節に高密度で発現し、扁桃体や視床下部、視床、小脳、海馬などでも発現がみられる。セロトニン6受容体はアセチルコリン、ノルエピネフリン、GABA、ドパミンなど様々な神経伝達物質の放出の制御に関与している。

    ・クロザピン、オランザピン、クエチアピン、クロミプラミン、アミトリプチリンなどの薬剤はセロトニン6受容体阻害作用を有する。セロトニン6受容体のアゴニストおよびアンタゴニストは双方ともに齧歯類において認知機能増強作用や、SSRIの効果増強作用が報告されている

    ・マウスやラットにおいてセロトニン6受容体アゴニストにより抗うつ作用、抗不安作用がみられることが報告されている。セロトニン6受容体アンタゴニストも強制水泳テストにおいて抗うつ薬の不動時間減少作用を増強することが報告されている。このパラドックスについても、セロトニン2C受容体と同様に、セロトニン6受容体が様々な神経系への作用に関与しているためではないかと考えられている

     

    セロトニン7受容体

     

    ・セロトニン7受容体はGs蛋白質を介してcAMP産生を増加させる。視床核、辺縁系、皮質に高密度で発現し、感覚と情動プロセスに関与していることを示唆している。また視交叉上核にも発現しており、睡眠と概日リズムにも関与していると考えられている。また体温調節についても関与している。

    ・セロトニン7受容体アンタゴニスト投与ならびにセロトニン7受容体遺伝子除去など、セロトニン7受容体の機能低下をもたらすことにより抗うつ薬類似作用がみられることが報告されている。セロトニン7受容体阻害薬は抗うつ薬増強療法として治療的有効性が期待できる可能性がある。セロトニン7受容体アンタゴニストとシタロプラムの同時投与により、マウスのテールサスペンション試験における治療効果増強が報告されている。アミスルプリドは抗うつ薬類似作用を発揮することが知られているが、この作用はセロトニン7受容体阻害を介したものであるかもしれない。

     

    コメント

    急性試験で生じた行動変化がほんとうにうつ病モデルと考えてよいのかはわからないです。PTSDモデルのような気がしなくもないのですが。

    齧歯類の方がレジリエンスの観点からもヒトよりも優れていそうな気もするのですが、in vivoでトランスミッターレベルで定量化できるような技術が開発されれば、また何か違うものが見えてくるのかもしれません。

     

    引用文献

    The role of serotonin receptor subtypes in treating depression: a review of animal studies

    Gregory V. Carr and Irwin Lucki

    Psychopharmacology (Berl). 2011 February ; 213(2-3): 265–287. doi:10.1007/s00213-010-2097-z.

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

  • 過食性障害の介入試験 2020年09月22日

    ・過食性障害(binge eating disorder)に対する新たな介入試験の結果が報告されました(文献1)

    ・過食性障害は代償行為を伴わず、神経性過食症(bulimia nervosa)は代償行為(下剤乱用や自己誘発性嘔吐)を伴う点で異なります。

    ・今回報告されたdasotralineは既に2019年に過食性障害に対する新薬承認申請がFDAにより受理されており、審査結果が注目されます。

    ・現在までにFDAにより摂食障害に対して承認されている薬剤は、神経性過食症(代償行為あり)に対するフルオキセチンと成人期過食性障害(代償行為なし)に対するリスデキサンフェタミン( Lisdexamfetamine dimesylate)のみであり、まずはこれら2剤のエビデンスについて、文献2によりみていきます。

     

    神経性過食症と過食性障害の薬物療法の安全性について

     

    背景

     

    ・摂食障害に対する標準的な治療法は、認知行動療法および対人関係療法と考えられている

    ・精神療法と薬物療法を併用することの有用性ははっきりしていない。

    ・神経性無食欲症については、フルオキセチンやその他のSSRIとCBTを組み合わせることは、CBT単独と比較して治療的な有用性がないという強いエビデンスがある

    ・現在のところ神経性無食欲症に対してFDAが承認した薬剤はない

    ・神経性過食症および過食性障害に対してFDAが承認している2剤についての有効性と安全性のエビデンスを概観する

     

    神経性過食症に対するフルオキセチン

     

    ・1994年にFDAはフルオキセチンを神経性過食症に適応承認した

    ・387名の女性神経性過食症患者を対象とした多施設介入試験(Fluoxetine Bulimia Nervosa Collaborative Study Group)では、フルオキセチン20mgないし60mgの有効性が8週間、プラセボ対照で検証された。フルオキセチン60mg群では過食エピソードはベースラインと比較して67%減少し、嘔吐エピソードは56%減少した。プラセボ群では過食エピソードはベースラインから33%減少、嘔吐エピソードは5%の減少であり有意差を認めた。フルオキセチン20mg群では嘔吐エピソードの減量のみ有意差があり、ベースラインから26%の減少であった。

    ・別の介入試験(Goldsteinら)では、398名の神経性過食症患者(女性が96.2%)が対象となり、16週間以上でフルオキセチン60mgの有効性がプラセボ対照で検証された。フルオキセチン60mg群ではベースラインと比較して過食エピソード、嘔吐エピソードともに50%減少し、プラセボ群では過食エピソードは18%減少、嘔吐エピソードは21%減少と有意差を認めた。

    ・維持療法におけるフルオキセチンの有効性も報告されている(Romanoら)。まずオープン試験で8週間232名の神経性過食症患者に対してフルオキセチン60mgが投与され、反応群(150名)が、フルオキセチン継続群(N=74)とプラセボ群N=74(N=76)に無作為割付され52週間経過観察された。過食嘔吐の再燃率は3か月時点でフルオキセチン群19%、プラセボ群37%で有意差を認めたが、6か月、12か月時点では有意差は認めなかった

    ・安全性については、8週間の試験では、フルオキセチン20mg群では不眠が17.8%、60mg群では不眠が23.2%、プラセボ群では7.8%で有意差あり。振戦は20mg群で3.1%、60mg群では9.03%、プラセボ群で0%で有意差あり。副作用による中断率は5%未満であった

    ・16週間の試験における安全性については、不眠が60mg群で34.5%(プラセボ群:18.6%)、嘔気が60mg群で30.4%(プラセボ群:12.7%)、脱力感が60mg群で21.3%(プラセボ群:6.9%)、不安が60mg群で17.6%(プラセボ群;8.8%)、振戦が60mg群で14.2%(プラセボ群:2.0%)、浮動性めまいが60mg群で12.5%(プラセボ群:3.9%)、あくびが60mg群で12.2%(プラセボ群:0%)、発汗が60mg群で9.5%(プラセボ群:2.0%)、性欲減退が60mg群で6.4%(プラセボ群:1.0%)。副作用による中断は60mg群10.8%(プラセボ群:5.9%)などであった

    ・52週間の試験では、反応群のみが対象となったこともあり、鼻炎のみが有意に多い副作用であった(フルオキセチン群 31.6%、プラセボ群 16.2%)

     

    過食性障害に対するリスデキサンフェタミン

     

    ・2019年に日本でも小児期ADHDに承認された商品名ビバンセ。デキストロアンフェタミンのプロドラッグ。

    ・リスデキサンフェタミンはFDAにより2007年に6-12歳のADHDに、2008年に成人ADHDに承認。2015年にはFDAにより中等度から重度の過食性障害の維持療法に承認

    ・260名の過食性障害を対象とした第2相試験では11週間で(最初3週間で漸増し、その後8週間は30mg、50mg、70mgないしプラセボの固定用量)評価され、過食頻度が50mg群ではベースラインから平均4.1回/週減少、70mg群ではベースラインから平均4.6回/週減少(プラセボ群では3.3回/週の減少)とプラセボ群に比較して有意な減少を認めた

    ・2つの第3相試験でも11週間(3週間漸増、8週間固定。50mg、70mgないしプラセボ)で行われ(試験1がN=383、試験2がN=390)、過食頻度が実薬群ではベースラインから3.87日/週(試験1)、3.92日/週(試験2)減少し、プラセボ群の2.51日/週減少(試験1)、2.26日/週減少(試験2)より有意に過食頻度が減少した。

    ・安全性については、第2相試験における副作用による中断率はリスデキサンフェタミン群3.1%であり、1.5%に重大な副作用がみられた。1名がメタンフェタミン過量摂取による死亡。口喝が30mg群の33.3%、50mg群の33.8%(プラセボ群:7.9% )、プラセボに対する体重減少率が30mg群で3.28%、50mg群で5.2%、70mgで5.28%であった。

    ・第3相試験では、副作用による中断率はプラセボと有意差なく、口喝、頭痛、不眠が10%以上の実薬群にみられた。心拍数は平均4.41-6.31回/分増加し、収縮期血圧は0.2-1.45mmHg増加、離脱症状についてはAmphetamine Cessation Symptom Assessmentにて評価されたが、12週間の投与により有意な離脱症状スコアのプラセボに対する増加はみられなかった

     

    神経性無食欲症

     

    ・低用量テストステロン(J Clin Endocrinol Metab. 2019 Oct 1;104(10):4347-4355.)のプラセボ対照比較試験はネガティブ

    ・152名を対象とした16週間のオランザピン(最大10mg、平均7.77mg)のプラセボ対照比較試験(Am J Psychiatry. 2019 Jun 1;176(6):449-456.)が行われ、脱落数(OLZ 34名対プラセボ 35名)、入院率(OLZ 10.7%対プラセボ 3.9%)いずれも有意差なし。BMIについてはオランザピン(0.259/月)がプラセボ(0.095/月)よりも有意に増加率が高かった。しかしYBOCSやEDE得点の体重への関心などについては有意差なし。食事への関心はオランザピンで有意に増加。オランザピンは体重を増やす効果はあるかもしれないが、精神症状の改善は有意なものはみられなかった

     

    過食性障害に対するdasotralineの有効性と安全性

     

    背景


    ・過食性障害は最も頻度の高い摂食障害であり、生涯罹患率は女性で1.3-3.5%、男性で0.4-2.0%と報告されている

    ・過食性障害は、20代を発症のピークとする慢性疾患であり、その他の精神疾患罹患率が2-3倍になり、かつ糖尿病など身体疾患合併リスクも高まる

    ・心理療法としては認知行動療法、対人関係療法などの有効性が報告されている

    ・Dasotralineはドパミンおよびノルアドレナリントランスポーター阻害薬であり、半減期が長い(47-77時間)。(アトモキセチンはノルアドレナリントランスポータ阻害薬であり、ドパミントランスポータの阻害作用がほとんどない点で異なる)

    ・今回成人中等度から重度過食性障害に対するdasotralineの有効性と安全性を評価した

     

    対象と方法

    ・18-55歳の過食性障害患者(DSM-5)。過去6か月間で平均1週間あたり2回以上の過食エピソード、最近2週間で3回/週以上の過食エピソードを有するもの

    ・これまで神経性無食欲症、神経性過食症の既往があるものは除外。精神病性障害、双極性障害、ADHDの既往、および最近6か月以内の中等度以上のうつ病の既往があるものは除外。最近12カ月以内の物質使用障害は除外。

    ・多施設無作為割付プラセボ対照比較試験

    ・Dasotralineは4mg、6mg、8mgの可変用量。

    ・主要評価項目は12週間での過食頻度(1週間あたりの日数)の変化(評価者が評価するものと加えて日記でも評価)。

    ・副次的評価項目はCGI-S、寛解率(最近4週間で過食エピソードがないものとして定義)、YBOCS-BEなど

     

    結果

    ・Dasotraline群 N=155

    ・プラセボ群 N=160

    ・完遂率はdasotraline群 66.7%、プラセボ群 72.4%

    ・過食頻度の変化はdasotraline群 -3.74日/週、プラセボ群 -2.75日/週で有意差あり(効果量 0.74)

    ・CGI-Sにおいてもdasotraline群 -2.67点、プラセボ群 -1.53点で有意差あり(効果量 0.95)

    ・寛解率はdasotraline群 46.5%、プラセボ群 20.6%で有意差あり。YBOCS-BE特典も有意差あり(-17.05点対-9.88点)効果量 0.96

    ・10%以上に見られた副作用は不眠、口喝、食欲減退、不安、嘔気、体重減少、頭痛

    ・副作用による中断率はdasotraline群 11.5%、プラセボ群 2.5%

    ・Dasotraline群の5.1%が重度の不眠で中断

    ・Dasotraline群の5名で精神病症状がみられ(幻聴や妄想など)1名が中断に至った

    結論

    ・数%に重大な副作用(不眠、精神病症状)が起こりうるため注意を要するが、dasotralineは成人中等症以上の過食性障害に対して有効な可能性がある

    ・dasotralineはADHD治療薬としての承認を目指していたが、2018年にFDAより不承認となっている。現在過食性障害治療薬としての承認を申請中

     

    引用文献


    1)Susan L McElroy et al. J Clin Psychiatry. 2020 Sep 8;81(5):19m13068. doi: 10.4088/JCP.19m13068.
    2)Bello NT, Yeomans BL. Expert Opin Drug Saf. 2018 Jan;17(1):17-23. doi: 10.1080/14740338.2018.1395854. Epub 2017 Oct 31.

     

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