院長ブログ

  • 再発・再燃予防のために修正可能なリスク因子 2022年03月29日

    ・統合失調症の再発・再燃には様々なリスク因子が報告されており、BAPガイドラインでは再発・再燃の予測因子として、服薬アドヒアランスの悪さ、男性であること、DUPが長いこと、病前の社会機能の悪さ、ベースラインでの陰性症状の重症度、物質使用障害の併存、治療者との治療関係の希薄さ、患者とその家族や介護者との間の相互作用の希薄さ、ライフイベントや家族の高感情表出(high EE)などがあげられています。しかし性別などはいかんともしがたいため、今回は修正可能な(modifiable)リスク因子についての中国からの報告(文献1)をまとめてみます

    統合失調症再発・再燃予防のための修正可能なリスク因子

    背景


    ・統合失調症における再発・再燃の予測因子については、観察期間、統計手法、医療制度などが異なるため、未だコンセンサスが得られていない。今回、中国の10の精神科病院における統合失調症患者を対象に、多施設後ろ向き観察研究を実施した。

    ・リスク因子として様々な情報を収集し、退院後1年間の統合失調症患者における再発・再燃のリスク因子を3つの異なる統計手法を用いて解析することで、整合性を検証し、臨床的予後を改善するために修正可能なリスク因子を同定することを目指した

    対象と方法

    ・18-65歳の統合失調症患者(ICD-10)

    ・2009年から2012年までの特定の期間内で中国の10か所の精神病院にて回復(recover)ないし改善(improve)し退院した患者 n=1487

    ・情報は2つのリソースから質問紙により収集された。1つは病院カルテより患者の人口統計学的情報と統合失調症罹病期間、発症年齢、生涯入院回数、最終入院期間、身体・精神疾患の家族歴、喫煙/アルコール依存症歴などが収集された。もう1つは退院後1年目に17項目の半構造化質問紙を用いた電話インタビュー(主に患者の介護者に対して)により収集された。

    ・再発・再燃の定義として自己申告または介護者による電話インタビューで臨床的に有意な精神病症状の増悪が見られた場合に再発・再燃と定義した。

    ・症状の悪化の評価基準として、抗精神病薬治療の変更、通院回数の増加、再入院、自傷行為・攻撃的行動・自殺念慮・他害念慮による監視の強化の4つが評価され、この4つの基準のうち、少なくとも1つを満たした場合を再発・再燃と定義した。

    ・電話での回答者が報告した服薬行動に基づいてアドヒアランスを評価した。服薬中断は顕著なノンアドヒアランスとした。退院後の服薬行動によって、アドヒアランスを3段階に分類した。(1)アドヒアランス良好(服薬継続がほとんどで、非服薬期間の合計が2ヶ月未満、または服薬中止期間が2週間未満)、(2)中等度のノンアドヒアランス(服薬継続が半分程度の期間、もしくは全非服薬期間が2ヶ月以上かつ6ヶ月未満、もしくは服薬中断期間が2週間以上2か月未満)(3)重度のノンアドヒアランス(服薬がほとんどない、非服薬期間の合計が6ヶ月以上、または2ヶ月以上の服薬中断)

    ・統計解析はカイ二乗検定、ロジスティック回帰分析、決定木分析の3つの手法により行われた。カイ二乗検定は、再発・再燃に関連する有意なリスク因子を同定するために実施。カイ二乗検定で有意であったリスク因子を用いて、各リスク因子毎の再発リスクのオッズ比をロジスティック回帰分析で導出。ロジスティック回帰モデルでは、服薬アドヒアランス、雇用状況、対人関係、ADL、世帯収入、治療効果、医療費の支払い、家族とのコミュニケーション、病院ランク、性別、退院時の服薬パターンを独立変数とし、再発を従属変数とした

    ・決定木分析では、全サンプルのうち1,020件をリスク因子を同定するための訓練用サンプルとし、残りの275件が抽出されたリスク因子の妥当性を検証するための検証用サンプルとして使用した。項目はすべてカテゴリー変数[服薬アドヒアランス、雇用状態、収入、ADLなどロジスティック回帰分析の独立変数として用いられた項目]として分析された。

    結果

    ・対象患者の平均年齢は35.5歳で、女性828人(55.7%)、男性659人(44.3%)。また,1,295名の患者から1年後の情報が得られ,うち465名(35.9%)に再発・再燃を認めた。

    ・中等度のノンアドヒアランスおよび重度のノンアドヒアランス群をノンアドヒアランス群と定義した場合、非ノンアドヒアランス群(=アドヒアランス良好群:過去1年間で非服薬期間の合計が2ヶ月未満、または服薬中止期間が2週間未満)の割合は52.9%であった。

    ・カイ二乗検定により有意な再発・再燃因子として抽出されたものは以下の9つであった。

    (1)服薬アドヒアランスでは,アドヒアランス良好群は,ノンアドヒアランス群よりも再発・再燃リスクが低かった(アドヒアランス良好群対ノンアドヒアランス群の再発・再燃率 22.9% 対 55.7%, OR = 4.23, 95% CI = 3.32-5.38)。

    (2) 職業別では、就業者は無職者に比べて再発・再燃リスクが低かった(就業者 vs. 無職者の再発・再燃率。19.7% 対 42.7%, OR = 3.04, 95% CI = 2.29-4.04)

    (3)対人関係では、社交的な人は非社交的な人よりも再発・再燃リスクが低かった(社交的 vs 非社交的の再発・再燃率:22.3 % 対 42.8%, OR = 2.61, 95% CI = 1.93-3.52 )。

    (4) ADLでは,日常生活が困難な患者は,ADL正常な患者よりも再発・再燃リスクが高かった(ADL正常 vs. 日常生活困難の再発・再燃率 28.4% 対 54.3%,OR = 3.00,95% CI = 2.13-4.21 )

    (5) 世帯収入では,毎月の世帯収入が3,000元以上(約6万円)の患者は,3,000元未満の患者より再発・再燃リスクが低かった(世帯収入3,000元以上の再発・再燃率28.6% 対 3,000元未満の再発率42.4%,OR = 1.83,95% CI = 1.43-2.36 )。

    (6)退院時の治療効果では,改善(improve)した患者の方が回復した患者(recovery)よりも再発・再燃リスクが高かった(回復と改善の再発・再燃率:26.2% 対 38.8%,OR=1.78,95%CI=1.34-2.38)。

    (7) 医療費の支払い方法では、自己負担者は医療保険者よりも再発・再燃リスクが低かった(自己負担 対 医療保険者の再発・再燃率:28.3 対 38.9%, OR = 0.62, 95% CI = 0.48-0.81 )。

    (8)家族のコミュニケーションについては、家族間のコミュニケーションが良好な患者は、コミュニケーションが不十分な患者よりも再発・再燃リスクが低かった(コミュニケーション良好 対 コミュニケーション不十分での再発・再燃率:31.9 対 39.7%, OR = 1.49, 95% CI = 1.02-2.17)

    (9)病院のランクでは、治療のために三次機関は一次・二次機関に行った人より再発・再燃のリスクが低かった(三次機関 対 一次・二次機関の再発・再燃率、33.5 対 42.4%, OR = 1.46, 95% CI = 1.14- 1.89)

    ・多変量解析の結果、9つの因子は互いに独立しており、相関関係は有意ではなかった

    ・再発・再燃の高リスク因子を特定するために、ロジスティック回帰分析を行った結果、服薬アドヒアランス(OR = 4.07, 95% CI = 2.94-5.64) 、雇用状況(OR = 2.50, 95% CI = 1.65-3.79) 、ADL(OR = 1.88, 95% CI = 1.27-2.77) 、医療費の支払い方法 (OR = 0.56, CI = 0.37-0.84) が有意な再発・再燃のリスク因子として同定された。

    ・退院した統合失調症患者では、服薬アドヒアランスが良好で、就業しており、ADLが正常で、医療費の自己負担がある人は再発・再燃が少ないと考えられた。

    ・決定木モデルの陽性予測値(PPV)は0.726であり、72.6%の再発・再燃を正しく予測することができた。ロジスティック回帰のPPVは0.740であり両モデルとも、再発・再燃を良好に予測することができた。

    議論

    ・服薬アドヒアランス不良が最も強い再発・再燃の予測因子であり、ノンアドヒアランス群の55.8%が再発・再燃したのに対し、アドヒアランス良好群(過去1年間で非服薬期間の合計が2ヶ月未満、または服薬中止期間が2週間未満)の23%のみが再発・再燃した。

    ・失業は統合失調症患者における再発・再燃の高リスク因子であった。失業率に関する報告では、成人の統合失調症患者の75-90%が失業しており、失業は再発・再燃に寄与していることが報告されている。失業は他の高リスク因子、例えば世帯収入と関連する可能性があるが、相関分析によると、これら2つの要因の間には有意な相関性は認められなかった。この理由として、世帯収入が患者自身の収入を正しく反映していないこと、一人暮らしの患者が4.2%と少なかったことが考えられる。

    ・退院後1年経過した統合失調症患者においては、ADLの低下が再発を予測することも明らかになった。統合失調症患者のADLの障害を改善するために、社会的スキルのトレーニングが強く推奨される

    ・本研究では、再発の高リスク因子と予測因子を特定するために、ロジスティック回帰と決定木モデルの両方を使用した。しかし、ロジスティック回帰は、カテゴリー変数を用いており、変数によっては相互作用があるため、説明変数の非線形効果や相互作用の問題を適切に取り扱うことができない。したがって、決定木によってロジスティック回帰の知見を検証する必要がある。また、決定木モデルは一般化線形モデル(ロジスティック回帰)に対していくつかの利点がある。まず、一般化線形モデルと比較して、決定木モデルで出力される結果は、臨床の意思決定プロセスに類似しているため、理解しやすい。第二に、木構造は応答変数を事前仮定なしに分布させることができるため、より柔軟である。

    ・本研究では、これまでの報告で有意な再発・再燃のリスク因子として報告されてきた喫煙、アルコール依存、地方在住、薬の副作用、低学歴(9年未満)、入院期間(2ヶ月未満)、病気の経過(5年以上)、統合失調症の家族歴は、1年目未満の再発・再燃と有意な相関がみられなかった。この相違は、再発・再燃の定義や観察期間の違いに起因しているのかもしれない。

    ・limitationとしては服薬アドヒアランスは主として介護者への質問方式で後顧的に評価されたため、正確ではない可能性があること。また再発に関する情報は回答者から電話インタビューで提供されたものであり、誤った情報を与える可能性があり、想起バイアスが混入しやすいこと

    コメント

    ・統合失調症の再発・再燃予防のため疾病教育やLAI導入などによる良好な服薬アドヒアランスの維持とデイケアやSSTなどでADLを保持することの重要性を示唆する結果となりました。

    ・治療抵抗性統合失調症や統合失調症の再発・再燃に関する文献をみていると、この分野における慶應の先生方の本質的な仕事の多さにびっくりします。臨床的に重要なものばかりなので、いずれこの辺もきちんとまとめておきたいと思います。

     

    文献1:Wei-Feng Mi et al. Front. Psychiatry, 11 September 2020 | https://doi.org/10.3389/fpsyt.2020.574763

     

  • 求めていたものはあったのですが 2022年03月22日

    ・2021年05月25日の当ブログでも記載したように、統合失調症の維持療法期間において、どのような特性を有する方が抗精神病薬を中止可能なのか、そのような予測因子がわかるとありがたいなと思っていたら、今月号のSchizophrenia Bulletin誌に、現段階での答えにあたるような論文がでました(文献1)。

    ・結論的には、方法論的限界(共変量として抽出しうる因子に限界がある)もあり、現段階では介入試験の結果だけから明確な中断後の再発の予測因子を同定することができなさそうというものでした。

    ・残念なことですが、現状がわかっただけでもよかったですし、引用文献にあった、治療中断後、12週間以内に再発する患者としない患者で、PETで測定した治療中止時の線条体ドーパミン活性に有意差があったとの報告(Mol Psychiatry. 2020. doi:10.1038/s41380-020-00879-0. )などは今後のbiologicalな研究の進展に期待をもたせてくれるものでした。

    ・また治療中断前に経口抗精神病薬で治療中であった患者と、LAIで治療中であった患者とで、中断後の再発率に明確な差(調整後ハザード比で5.0)がみられたことも興味深いところでした。なおLAIの方が半減期が長いことも考慮して、各薬剤の半減期の5倍以上経過したところからの再発のみを抽出した結果ですので、半減期の違いも考慮した結果であり、このようなところにもLAIの優位性が存在するのかもしれません。

     

    抗精神病薬中断後の非再発要因

     

    背景


    ・一部の統合失調症患者は維持療法期間において抗精神病薬を安全に中断可能であることが報告されている。しかし再発リスクが低い患者を同定するための予測因子についてはよくわかっていない

    ・抗精神病薬を中断しうる予測因子については、主として選択バイアスのあるnaturalistic cohortのデータから抽出されていた(中断群が無作為割付ではない)。

    ・例えばOPUS cohort(n=496)では10年間の経過観察期間において、抗精神病薬中断後に長期寛解を維持した割合は30%であり、女性と物質使用障害がないことが予測因子と報告された(Schizophrenia Res. 2017;182:42-48)。しかしながら、中断群への割付は無作為ではないため、結果は不確実なものである

    ・同様の不確実性は類似した研究デザインの報告にもあてはまり、結果の再現性に欠けることとなる。例えば、141名の症状寛解状態にある初発統合失調症スペクトラム障害患者について、18カ月間オープンラベルで減量/中断群と、維持療法群に無作為割付したところ、減量/中断群では43%が再発し、維持療法群では21%で有意差を認めた。重要なことは、減量/中断群において、中断に成功したのは20%であり、30%は症状再発のため抗精神病薬再開を余儀なくされ、50%は中断が全く実現不能であったことである。その後の経過観察期間の7年目の時点において、再発率の群間差はなかったが、DUPが長いことが減量/中断群における再発の予測因子とされた(Schizophrenia Res. 2020;216:192-199)

    ・その他の、同様のデザインの試験では、10年間の試験期間の最後の2年間において23名(16.2%)が抗精神病薬を中断可能であり、抗精神病薬中断可能の予測因子として男性、統合失調症スペクトラム障害の診断割合(統合失調症ないし統合失調感情障害が含まれ、短期精神病性障害と妄想性障害、その他の精神病は統合失調症スペクトラムには含まれない)が低いこと(74%対94%)、DUP30日未満、ベースラインの認知機能が良好なこと、ベースラインから再発がないこと、最後2年間での社会的機能(SOFAS平均点)が良好であることなどが単変量回帰分析で抽出された。しかし多変量解析ではベースライン評価以降の再発がないことのみが最後2年間に抗精神病薬を中断可能な有意な予測因子であった(JAMA Psychiatry 2019;76(2):217-219)

    ・Selection biasと交絡因子を最小化するためには減量/中断が症状や患者の好みなどによらない無作為割付二重盲検試験が必要である。

    ・フルフェナジンとプラセボに無作為割付した小規模試験(n=17)では、病前の社会適応が不良なことがプラセボ群での再発の予測因子と報告された

    ・別の10年予後を評価したコホートでは、最初1年間のRCT期間で非再発率はプラセボ群 21%、抗精神病薬継続群では59%であり、プラセボ群での再発の予測因子として、言語流暢性課題の成績が不良であること、統合失調症の診断、まばたき回数が多いことであった。前頭葉機能障害およびドパミン系過活動の徴候が再発リスクと関連する可能性があるとされた(Schizophrenia Res 2013;50(1):297-302)

    ・別のRCTの事後解析結果では、プラセボ群(n=204)では43.5%が再発(中央値 163日)し、再発の予測因子として高齢であること、男性であることが抽出された(J Clin Psychiatry 2018;79(4):17m11874)

    ・これまで再発を予測する治療的要因(抗精神病薬の半減期など)や中断後の反跳性精神病の関連などについてはよくわかっていない。今回、selection biasや交絡因子の問題を回避するため、抗精神病薬中断のRCTにおいてpatient-levelおよびtreatment-levelのデータを用いて再発の予測因子を検討した。

    対象と方法

    ・Yale Open Data Access プロジェクトより臨床試験データを抽出。

    ・成人の統合失調症ないし統合失調感情障害患者を対象としたもの

    ・二重盲検プラセボ対照試験で抗精神病薬による3か月間以上の再発予防効果をみたもの

    ・エントリー前に臨床的に安定しているケースを対象としたもの

    ・抗精神病薬はプラセボ割付と同時に即時中断されたものであること

    ・観察期間は6か月以上に設定してあること

    ・主要評価項目においてpatient level dataが利用可能なもの

    ・再発の定義はそれぞれの試験の再発の定義を使用

    ・生存解析と多変量Cox回帰分析を施行し、調整後ハザード比を導出

    ・その後、経口抗精神病薬内服群と、LAI投与群とで、再発リスク因子について比較

    ・共変量として、性別、国、家族歴、喫煙、中等度以上の遅発性ジスキネジアの存在、中等度以上のアカシジアの存在、中等度以上の錐体外路症状の存在、年齢、BMI、CGI、PANSS総得点、PANSS positive、PANSS negative、PANSS general、PSP(個人的および社会的パフォーマンス尺度)を抽出

    ・副次的解析として抗精神病薬投与中止後の中止薬剤の半減期の違いによる交絡因子を排除するため、抗精神病薬投与中止後のイベント(打ち切りまたは再発)までの時間が半減期の5倍未満の人を解析から除外し、血漿から抗精神病薬が消失するまでの時間が十分に確認されてから経口抗精神病薬を安定投与した人とLAIを安定投与した人で再発のリスクを比較することとした。パリペリドンでは経口薬で5日、1カ月製剤で176日、3カ月製剤で365日とした。

    ・別の副次的解析においては、反跳性精神病の可能性に臨床的危険因子の違いがあるかどうかを検討した。そこで、ベースライン時に経口抗精神病薬を服用していた患者のうち、プラセボに割付された患者について、反跳性精神病期間(抗精神病薬中止後30日以内の再発と定義)の再発と30日を超える期間の再発による共変量の交互作用項を評価した。

    結果

    ・5つの統合失調症の再発予防試験のplacebo群からデータを抽出した(n=688)

    ・フォローアップ期間の中央値は118日、最長480日

    ・74.9%はLAIで安定しており、25.1%(n=173)は経口薬で安定していた。中断前の抗精神病薬安定投与期間の中央値は198日間

    ・最長480日までのフォローアップ期間において、全体として再発がなかったのは29.9%。経口抗精神病薬では、11.1%が再発がなく、再発までの期間の中央値は87日間。LAIでは36.4%が再発がなく、再発までの期間の中央値は294日間。LAIの経口薬に対する非再発の調整後ハザード比=3.56で有意差あり。経口抗精神病薬投与者は、LAI投与者に比較して中断後に3倍再発しやすかった。

    ・共変量の中で、喫煙(調整後ハザード比 1.54)、女性(調整後ハザード比 1.37)が有意な再発のリスク因子として抽出された

    ・副次的解析として、中断薬剤の半減期の5倍以内(抗精神病薬の97%が排出されたと推定される期間)の期間での再発を除外し、それ以降の再発のみを抽出した場合(n=328)、経口抗精神病薬での非再発率は11.3%で、再発までの期間の中央値は49日間、LAIでは非再発率は57.7%で、再発までの期間の中央値は146日間で、再発までの期間で群間有意差あり(調整後HR=5.0)。

    ・経口抗精神病薬で安定していた患者について、30日未満での再発群と30日以降での再発群について、共変量間の交互作用は、高齢であることが30日未満で有意に高い再発リスクとなった(調整後HR 1.07)以外は有意なものはなかった。遅発性ジスキネジアやアカシジアなどの共変量については、経口抗精神病薬群で中断時点でそれぞれ0名、1名であり、リスク因子として評価不能であった

    議論

    ・女性は男性よりもやや再発のリスクが高いことが観察されたが、これまでの報告で一貫性のない結果が報告されており、性別が再発のリスクに寄与しているかどうかは、さらに研究が必要。再発を予測する他の共変量はニコチン喫煙であり、これは以前から抗精神病薬離脱後、さらには抗精神病薬維持療法中の再発リスクと関連することが報告されている。しかしその他の乱用薬物に関する情報はなく、統合失調症の再発因子として既に十分に同定されている物質使用障害と比較して、喫煙がどの程度の大きさでリスクとして再発に寄与しているかは不明である

    ・その他の因子は再発リスクとして有意ではなく、日常臨床で得られる情報から、どのような患者であれば維持療法を中断しても安全であるかを特定することの難しさを示唆している。

    ・初発精神病患者を対象に1年間抗精神病薬を投与し、その後治療を中止した小規模サンプル(n=25)において、Kimらは12週間以内に再発する患者(40%)としない患者で、治療中止時の線条体ドーパミン活性に有意差があることを報告した(Mol Psychiatry. 2020. doi:10.1038/s41380-020-00879-0. )

    ・抗精神病薬を中止する場合、特に経口抗精神病薬で安定している患者に対しては、再発リスクを考慮し、投与量の減少に伴う血漿濃度の相対的な低下を最小限にするために、非常にゆっくりと行うべきである( JAMA Psychiatry. 2021;78(2):125–126.)

    ・反跳性精神病については、有意な影響を与えうるリスク因子について年齢以外は抽出することができなかった。これまで高齢、遅発性ジスキネジアについては反跳精神病のリスク因子として報告されている(J Psychopharmacol. 2011;25(6):755–762.)。しかし本研究のサンプルでは経口抗精神病薬中断時に遅発性ジスキネジアを呈していた症例がなかったため検討することができなかった

    コメント

    ・共変量に中断前の抗精神病薬のCP換算値もあれば反跳性精神病についての解析で、交互作用が有意な因子として抽出されないかなと思いました。また共変量として家族のEEや経済的状況なども評価した尺度があれば、より興味深いと思います。

    文献1:Georgios Schoretsanitis et al. Schizophr Bull. 2022 Mar 1;48(2):296-306. doi: 10.1093/schbul/sbab091.

  • PROTECT 2022年03月12日

    ・ICD-11からはゲーム障害(ゲーム症)が依存症の仲間入りするようで、DSM-Vでも研究用のカテゴリーですが、インターネットゲーム障害という診断名が登場しています。

    ・今回、インターネットゲーム障害に対して、PROTECTと呼ばれる認知行動療法的介入について、どの程度予防効果があるかについての介入試験結果が報告されました(文献1)

    ・PROTECTは思春期(12歳から18歳)におけるインターネット使用障害に対して開発された心理療法で、主に3つの領域における非適応的対処がインターネット使用障害の病態と強く関連すると仮定するものです。1つ目の問題が動機づけの問題や退屈に対する感受性の問題、2つ目の問題が不快な作業の先延ばしと関連する成果への不安、3つ目の問題が社会的スキルの欠如とそれに伴う社交不安になります。これら問題と向き合うことなく、インターネットにのめりこむことで、問題の先送りをしたり、問題から回避することで、より不安や不適応が増悪し、問題が大きくなるという仮説の下で介入が行われます。1つ1つの病態仮説に対して、それぞれの問題を抱える同世代の生徒が主役の物語を提示し、グループで話し合うことで問題点を自分たちのこととして捉え、よりスムーズに介入が進むように構成されています。PROTECTでは非適応的反応を4つのモジュールで修正していきます。

    ・4つのモジュールにおいて、認知再構成、問題解決技法、行動活性化、マインドフルネスの技法など様々な技法が取り入れられているのが特徴です。

    思春期のゲーム障害と特定不能のインターネット使用障害のためのCBTに基づく介入

     

    背景

    ・ICD-11では物質関連依存症と非物質関連依存症は神経生物学的に類似しているため、 “物質使用または依存行動による障害 ”に分類された

    ・ゲーム症(ゲーム障害)は、ICD-10では衝動制御障害に含まれていたギャンブル障害に加えて、新規の非物質関連依存症としてICD-11に記載された。インターネット使用障害など、その他の依存症は、依存症的行動に起因する「その他の特定の」または「特定不能の」障害として含めることが推奨されている。

    ・疫学研究ではゲーム症の有病率は4.6%、インターネット使用障害の有病率は6.0%と報告されている。特に、青年期は報酬系に関連する障害を発症しやすいと考えられている

    ・ 今回、ゲーム障害および特定不能のインターネット使用障害に対するPROTECTの長期的予防効果についてのクラスター無作為化比較試験を実施した

    対象と方法

    ・ドイツのライン=ネッカー広域連合の全高校に校長室経由で連絡し、33校の高校が任意で参加した。データは2015年10月1日から2018年9月30日の間に収集された

    ・ゲーム障害と特定不能のインターネット使用障害のリスク評価のためのスクリーニングにCIUS( Compulsive Internet Use Scale )が使用され、20点をカットオフとして、中リスク以上の参加者(全スクリーニング対象者の上位36.4%に相当)が組み入れられた

    ・参加者は、ベースライン、1ヶ月時点、4ヶ月時点、12ヶ月時点で評価され、症状の重症度が評価された。また12ヵ月時点で依存症発症の有無を面接調査された

    ・PROTECTは、学校ベースの、マニュアル化された、認知行動療法に基づく予防グループ介入である。介入は、訓練を受けた心理士によって通常の学校時間内に実施。1回90分のセッションを4回実施。

    ・性別、年齢、学校の種類、成績、過去1か月以内の病欠、および平均オンライン使用時間も評価

    ・主要評価項目は、CSASで評価したゲーム障害または特定不能のインターネット利用障害の症状重症度(スコア範囲:0~56、スコアが高いほど病的)

    ・構造化臨床面接を用いて、ゲーム障害または特定不能のインターネット使用障害(DSM-5のインターネットゲーム障害の診断基準を5つ満たすと定義)および閾値以下のゲーム障害または特定不能のインターネット使用障害(DSM-5の診断基準を3つ満たすと定義)の発症率を調査

    ・副次評価項目は、先延ばし、一般精神病理、抑うつ症状、社会不安、パフォーマンス不安・学校不安、感情調節、学校関連社会行動・学習行動、自己効力感など

    *PROTECTとは

    ・12-18歳の思春期層に対して開発された介入方法

    ・インターネットとビデオゲームの使用頻度の高くインターネット使用障害発症リスクのある全ての青年に適応可能

    ・DSM-V研究用試案におけるインターネットゲーム障害は過去12カ月間に以下の9項目中5項目以上が存在する場合に診断される
    (1)ゲームへの熱中(ゲームをしていない時間にもゲームのことばかり考える。ゲームのために生活を組み立てる)(2)ゲームをしないと離脱症状が出現する(ゲームができない、もしくはやめようとすると抑うつ、不安、怒りなどを感じる)(3)耐性(ゲームへの欲求が増して、よりゲームに費やす時間が増大する)(4)ゲームをやめようとしても不成功に終わる(抑制コントロールの喪失)(5)他のレクリエーションへの興味を喪失する(社会的活動に不参加となりしばしば孤立する)(6)心理的問題があるにも関わらずゲームを続ける(社会的に有害な作用があるがゲームを継続する)(7)ゲームに費やす時間を他者に偽る(8)ゲームを現実生活の問題やネガティブな気分から逃避するために使用する(9)ゲームのため重要な対人関係や仕事、教育機会を喪失したりその危険がある

    ・インターネット使用障害は、2つの強化メカニズムの結果として発症すると考える。第一のメカニズム(満足)は、インターネットが高い報酬をもたらすと認識され、インターネットの使用を繰り返し、増加させることにつながる場合に強化される。第二のメカニズム(補償)は、インターネット利用を優先する結果、運動、社会活動、学業、芸術、個人的に重要なプロジェクト、奉仕活動、自然に関する活動など、通常気分に強い影響を与える健全な活動がおろそかになることで強化される。これらの健全な活動は、青年期の感情制御の発達に重要なものである。現実世界でこのような体験を欠如することがインターネット使用への傾倒をもたらす

    ・PROTECT病因モデルは、思春期のインターネット使用障害が、主に3つの問題領域における否定的感情の不適応的対処と強く関連していると仮定する。これらは、(1)動機づけの問題または退屈への感受性の問題、(2)不快なタスクの先延ばしと関連する成果への不安、(3)社会的スキルの欠如とそれに伴う社交不安である。これらの状態は、思春期のインターネット使用障害に関連する危険因子であることが分かっている

    Module 1:退屈と動機付けの問題

    ・現実世界とインターネット世界の良い点、悪い点を考える。これによりインターネットの利益と有害性についての知識を獲得することを目指す

    ・バランスを保つ:母親の食事の勧めを無視しSNSに熱中し、その後もネットゲームに熱中して親友の誕生日を忘れてしまうTONIの症例が提示される。この症例を通じて、TONIが現実世界とインターネット世界とのバランスのとれた生活をしているかどうかグループで議論する

    ・悪循環について考える:TONIがインターネットに多くの時間を費やすようになったのは、どのような負の感情のせいかを考える。あるいはコンピュータゲームをした後に、どのような肯定的な感情を経験するかを考える。最後に、TONIの過度のインターネット利用がもたらす長期的な否定的影響について考察する(母親とトラブルになる、パーティーに参加できない、サッカーの練習に付き合うかどうか聞かれなくなる、無気力になる、新しいことに挑戦する意欲がなくなる、友人/仲間や家族との連絡が減るなど)。インターネットは、これらの否定的な結果によって引き起こされる不快な感情を調整するための短期的な戦略として機能することが説明される

    ・続いて、認知が感情や行動に影響を与えることを学ぶ。非現実的な認知があれば、それを認知再構成し再評価する作業を行う。この過程をPROTECTでは”reality check”と呼ぶ。状況に対する推論の誤りが怒りや恐れなどの否定的な感情につながることを認識する

    ・思春期にみられやすい推論の誤りとして、“must thoughts(べき思考)”、または“demandingness (要求性思考)”がある。要求性思考とは、自分にも他人にも非現実的な要求を突きつけるもので、誰もそれを満たすことはできないものである。TONIの物語の中で、要求性思考に伴う機能不全のパターンを取り上げる作業を行う。セラピストはTONIの物語において、「これらの考え方はTONIの役に立つのか」かどうかを問いかける。生産的ではない役に立たない思考をセラピストは抽出していき、それらの思考が怒りや抑うつにつながることをみていく

    ・続いて「より現実的で役に立ち、TONIの気分を良くするような代替思考は何でしょう」と問いかけ、適応的思考について考え、認知の再構成を行っていく

    ・思考停止法について指導する:時には、あまりに不快な考えが浮かんできて、それに激しい感情で反応することがある。そんなときには思考停止法で対処する。思考停止法は、落ち込むような考えに対して自己主張するための手軽な方法で、自分に言い聞かせるだけでよい。こんなことを考え続けるのは嫌だ!と。現実でも内面でも、大きな声で「ストップ!」と叫んでみる。交通標識のようなものを思い浮かべて、思考を停止させることもできる。また、テーブルを手でたたいたり、足を軽くたたいたりして、思考から距離を置いてもよい。その後よりポジティブなことを考えたり、楽しい活動に没頭するようにする

    ・問題解決技法と行動活性化トレーニング:行動に直接介入する。問題解決技法を用いて行動変容を図る。まずは現在の行動パターンを分析する。退屈して何もする気が起きないのはどのような状況か、退屈をしないのはどのような状況かなど。続いて、非適応的な行動の代替となる行動にはどのようなものがあるかを考える。その代替行動のメリット、デメリットをリストアップし、最も適切な代替行動を選択し“change plan”を作成する。またchange planを実行できた場合に、自分に与えるご褒美を考える(自分自身のchange planを作成することが宿題となる)

    Module 2:成果への不安と先延ばし

    ・まず「イライラするDavid」という症例が提示される。Davidは1週間後に数学のテストがあり、そのテスト範囲を1週間では理解できないと思っている。そして失敗への大きな不安を抱える。また良い成績をとらないといけないと考えている。テストに失敗すると考えると数学の授業も怖くなってしまう。イライラして帰宅したDavidはインターネットをはじめ時間を忘れて入り込んでしまう。その後数学の教科書を見ると罪悪感、嘔気を感じる。そのため再びインターネットを始めてしまう。Davidは数学のことをすっかり忘れてしまう。

    ・Davidがインターネットをすることについて、現実世界とインターネット世界とのバランスのとれた生活をしているかどうかグループで議論する。インターネット使用障害に典型的に見られる機能的および機能不全的な認知と行動を特定し評価する。この不適切な行動パターンと思考が現実世界とインターネット世界のアンバランスにどのように寄与しているかを議論する

    ・続いてDavidの症例で、退屈しのぎの悪循環について、Davidがどう考えるか、正の思考、負の思考を考える。また短期的、長期的な否定的な結果を予測する。インターネットの機能不全的な使用は、否定的な現実世界と肯定的な仮想世界という長期的な二項対立をもたらし、先送りや回避行動が恐怖を引き起こし、ますます強い抵抗につながることを学ぶ

    ・続いて、先延ばしを減らし、悪循環を断ち切ることを考える。先延ばしにすればするほど、しなくてはならないことから遠ざかり、さらにしたくない仕事をするよりも、他のこと(ゲームなど)を先にしなくてはならないという誤った信念の形成につながりうることを学ぶ。もっとも簡単な解決法は、したくない仕事への嫌悪感が益々増悪する前に、その嫌な仕事に取り掛かることである。仕事が終わったら自分自身にご褒美を準備する

    ・成果への不安についても同様に、物事に対して恐れを感じると(Davidのテストのように)、それを遠ざけようとしてしまい、遠ざけるとそのことが益々恐怖に感じるようになる。この恐怖を取り除く唯一の方法は、その対象に直面することである。それにより不安を生じる状況に速やかに対処すべきである

    ・続いてDavidの症例について、「べき思考」や「過度な一般化」などの認知のゆがみについて検討する。セラピストはDavidの物語において、「これらの考え方はDavidの役に立つのか」かどうかを問いかける。生産的ではない役に立たない思考をセラピストは抽出していき、それらの思考が怒りや抑うつにつながることをみていく。さらにより適応的な、現実的な思考はどのようなものかについて考える。

    ・最後にDavidの症例について問題解決技法を用いて行動変容を図ることを考える。まずは現在の行動パターンを分析する。インターネットをするのはどのような状況でどのような問題があるか、インターネットをすることの代替となる行動にはどのようなものがあるかを考える。その代替行動のメリット、デメリットをリストアップし、最も適切な代替行動を選択し“change plan”を作成する。またchange planを実行できた場合に、自分に与えるご褒美を考える(自分自身が先延ばしをすることについてchange planを作成することが宿題となる)

    Module 3:社交不安

    ・まず一緒にプールに行く友達を探すがうまくいかないLeilaの症例が提示される。

    ・Leilaがインターネットをすることについて、現実世界とインターネット世界とのバランスのとれた生活をしているかどうかグループで議論する

    ・続いてLeilaがインターネットに多くの時間を費やすようになった不快な感情と、ネットでチャットをした後に感じる快感について考える。さらにインターネットを長時間使用することによって生じる長期的な否定的結果について考える(本当の友人がいない、他者に近づく方法を学ばない、他者に排除される、本当の友人のために努力する動機が少ない、自己効力感、自尊心が低下するなど)

    ・社交能力(social competence)のトレーニング:初対面の人に声をかけるときに、感じる不安や恐怖、ぎこちない態度は相手に伝わる可能性があるため、誰かと話をする前に、何を言いたいか考えておく。話しかけるのに適したタイミングを待つ。話すときは、はっきりと話す、さらに、常に相手に話す機会を与え、相手の話を遮ることなく、最後まで話させるなどの会話技法についてトレーニングする

    ・Leilaの症例について認知のゆがみを検討する。「べき思考」や「皆が」「いつも」「誰も~ない」などの思考や、「破局的思考」について検討する。これらの思考が現実的かどうかを考え、さらにより適応的な、現実的な思考はどのようなものかについて考える。
    ・最後にLeilaの症例について問題解決技法を用いて行動変容を図ることを考える。まずは現在の行動パターンを分析する。どのような行動が社交場面での危機や回避につながっているか、どのような行動をとればより安全に他者にアプローチできるかを考える。その代替行動のメリット、デメリットをリストアップし、最も適切な代替行動を選択し“change plan”を作成する。またchange planを実行できた場合に、自分に与えるご褒美を考える(自分自身が回避をすることについてchange planを作成することが宿題となる)

    Module 4:感情制御

    ・感情の星とよばれる図を提示し、自身の感情状態をセルフモニタリングするトレーニングを行う

    ・感情体験がいかに多面的で状況に左右されやすいかを視覚化する

    ・感情には4つの側面があり、1つは感情の認知的側面、2つ目は感情の生理的側面、3つ目は感情によって生起する気持ち、4つ目は気持ちにより生じる行動の側面であり、自身がどの状態にあり、それがどのような感情に起因するのかを同定することが目標

    ・マインドフルネスの技法に基づくもので、自身の体、知覚などに注意を向ける

    ・これまでのmoduleでみた3つのストーリーの主人公について、自身がその主人公であるとなりきって、行動の背景にある感情を探る

    ・感情は、ある状況下で適切な行動を示すために有用であり、出来事に対する適切な反応に寄与する特定の行動を活性化する要素を持っている。各感情の具体的な機能に焦点をあて、感情の星の外側に書き留める。例えば恐怖なら「自身を守る」など

    ・その後3つのリラクゼーション技法を導入し、感情制御の訓練を行う。具体的には「内なる安全な場所」「漸進的筋リラクゼーション」「熊のグミ」の3つの技法についてトレーニングを行う。

    結果

    ・合計422人のリスクのある生徒(平均15.1歳、女性229人、男性193人)が、PROTECT介入群(n = 167)または評価のみの対照群(n = 255)に無作為割付

    ・介入は、3~11人から成る24のグループで実施。平均出席セッション数は、4セッション中3.7であった

    ・PROTECT介入群では、ゲーム障害と特定不能のインターネット利用障害の症状重症度が、対照群と比較して有意に低下した

    ・12カ月間の症状改善度はPROTECT群 39.8%、対照群 27.7%で効果量cohen d=0.67

    ・合計12人(5.7%)が、12か月後にDSM-5診断基準を少なくとも5つ満たす、特定不能のインターネット使用障害を発症した(PROTECT群6人、対照群6人)。

    ・合計40人(19.0%)がインターネットゲーム障害のDSM-5診断基準を3または4つ満たす閾値以下のゲーム障害(合計10人[PROTECT群3人,対照群7人])または特定不能のインターネット使用障害(合計33人[PROTECT群10人,対照群23人])に該当した(両方を満たすのが3名)

    ・発症率に有意差なし

    ・副次評価項目では、PROTECT介入群では、評価のみの対照群と比較して、先延ばしの減少が著しく大きいことがわかった。

    ・その他の副次評価項目では時間×群の交互作用は有意ではなかった

    議論

    ・PROTECTは12カ月間でゲーム障害または特定不能のインターネット使用障害の症状の重症度を対照群と比較して有意に低下させた。一方で対照群における自然経過による症状軽減も大きかった。

    コメント

    ・最初に4回のセッションを行い、その後1年間の経過観察期間での症状変化でみたものですが、途中でBooster sessionのようなものがあれば、1年後の発症率も違いが出たかもしれません

     

    引用文献

    文献1:Lindenberg K et al. JAMA Netw Open. 2022 Feb 1;5(2):e2148995. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.48995.

  • 抗精神病薬の減量について 2022年03月02日

    ・抗精神病薬をどのように減量するかについては様々な報告があり、鳥取医療センター(当時)の助川先生らの報告されたSCAP法(文献1)などが良く知られていますが、離脱症状や再発リスクを最小化することを目的として、D2受容体の占有率に基づく減量方法が提案されました(文献2)

    ・この論文に出会ったのは、最近でた抗精神病薬中止後の有害事象に関するメタ解析の論文(文献3)に引用されていたことに起因します。

    ・文献3では、どこかに過感受性精神病の証拠になるようなデータがないか、探してみたのですが、残念ながら直接的な証拠に出会うことはできませんでした。そもそも中止前の抗精神病薬のCP換算がわからないので、中止前にD2受容体の過感受性が形成されていたのかもわからないのですが、中止後の陽性症状の悪化やジスキネジアなどは有害事象としてほとんどみられないものでした(唯一ハロペリドール中止後の精神病症状出現がわずかに継続群と比較して有意差あり。しかし105名中4名にみられたのみ)。

    ・ドパミン過感受性による陽性症状再燃が存在するという主張に対して現状エビデンスが乏しいとするBPAガイドラインを書き換えるほどの証拠は見つかりませんでした。有害事象として不安が比較的多くみられていましたが、コリン離脱やアドレナリン離脱でも生じうるため、D2離脱によるものだけではないと思われます。

    ・Horowitzらが提案したのは、一定用量毎の減量(下図左)ではなく、下図右のようにD2受容体占有率の変化量が一定となるように減量する方法です(Schizophr Bull. 2021 Jul 8;47(4):1116-1129.より引用)。

    dose

    ・また減量にかける時間も、遅発性ジスキネジアの寛解まで2-3年かかることから、長期投与中の患者については、全体でこのくらいの時間かけて漸減するのが妥当ではないかと提案しています。

    ・D2占有率の変化量をなるべく一定に保つための減量法として、直近の用量の25-50%(D2受容体占有率の変化量にして5-10%の変化割合に相当)を3-6か月毎に減量する方法や、直近の用量の10%ずつを1か月ごとに減量する方法などが挙げられています。

    ・また、クロザピンやクエチアピンのように、半減期の短かかったり、D2受容体からの解離が速いとされる薬剤では、より注意が必要で、個々の反応に応じて6-12週間ごとにD2(またはコリン受容体、ヒスタミン受容体)占有率を2.5-5%ずつ減量することが提案されています。

    ・この方法だと、高用量域では割と思い切った減量が可能な一方で、特に低用量域においては慎重な減量が求められることになります。果たしてSCAP法と比較して有害事象の発生率に差があるのか、興味深いところです。

    文献1:Sukegawa T, et al: Study protocol: safety correction of high dose antipsychotic polypharmacy in Japan. BMC Psychiatry 14:103, 2014.
    文献2:Mark Abie Horowitz et al. Schizophr Bull. 2021 Jul 8;47(4):1116-1129. doi: 10.1093/schbul/sbab017.
    文献3:Lancet Psychiatry. 2022 Mar;9(3):232-242. doi: 10.1016/S2215-0366(22)00014-1.

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