院長ブログ

  • Prof. Stefan Leuchtとのやりとり 2021年06月20日

    ・もともとはBMJで認知症のうつについてのネットワークメタ解析の論文(BMJ 2021;372:n532 | doi: 10.1136/bmj.n532)が出たので、それについて記事にしようかと思ったら、思いがけない方向にいってしまったので、まとめておきます。

    ・そもそもネットワークメタ解析については、いろんな批判もあり、以前も触れたようにバイアスの影響をとても受けやすいこと(Trinquart L et al. PLoS One. 2012;7(4):e35219. doi: 10.137)や、組み込まれた各試験のエビデンスの質がわかりにくく(この点、従来の直接比較のメタ解析のforest plotは、何本の介入試験が統合されているのかなどの情報が明示されるため、まだ直感的にわかりやすい)、結果の解釈には注意を要します。

    ・その点において、2020年の藤田医大の岸先生らの報告(Kishi T et al. Mol Psychiatry. 2020 Nov 11. doi: 10.1038/s41380-020-00946-6)にみられたようなConfidence in Network Meta-Analysis (CINeMA)を用いたgrade表記などは、ネットワークメタ解析における結果の信頼性を併記するという点で素晴らしいものだと思いました。

    ・ネットワークメタ解析の結果に注意すべき具体例を挙げると、例えば2011年のBMJ誌に掲載された全般不安症に対するネットワークメタ解析の論文(BMJ. 2011 Mar 11;342:d1199. doi: 10.1136/bmj.d1199.)があります。

    ・結果を見ると、やたらフルオキセチンの結果が良好で、有効性に関して第一位、フルオキセチンすばらしいという結論になっているのですが、いざその根拠となった論文をみてみると、フルオキセチンについてはたった1つだけの介入試験しかなく、しかもフルオキセチンの症例数は33例、さらにこの介入試験は大うつ病に全般不安症を合併した症例に対するベンラファキシンとの比較試験です(純粋に全般不安症の患者を対象としたものではない)。

    ・従来のメタ解析においては、このような単一の介入試験がメタ解析の対象として組み込まれることはないので、まずこのようなバイアスリスクの高い結果を主張するようなことは起こりません。この報告をみて一気にネットワークメタ解析への信頼感が薄れ、警戒心が高まりました。少なくともこの報告については、科学的に信頼に足る結果とはとてもいえません。しかも著明な雑誌にこのような結果が掲載されてしまうのですから、恐ろしいことです。ネットワークメタ解析の結果については批判的に吟味しなくてはならないのはこのような理由からです。

    ・ちなみに現段階でそこそこあてにすべき全般不安症のネットワークメタ解析の結果は、2019年のlancet(Slee A. et al. Lancet. 2019 Feb 23;393(10173):768-777)あたりでしょうか。2020年にもより解析対象を絞ったネットワークメタ解析(Kong W. et al. Front Pharmacol. 2020 Nov 11;11:580858.)が出ていますので、こちらもチェックしておきたいところです。

    ・そのような実例を勉強会で具体的な例で示そうと思い、ちょうど良いと思って、統合失調症のpredominant negative symptom症例に対する介入試験のメタ解析の報告(Mark Krause et al. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2018 Oct;268(7):625-639.)を基に、いかに従来型のメタ解析とネットワークメタ解析が異なり注意が必要かについて示そうと思ったら、思いがけず、元論文の間違いではないかという点を見つけてしまい(結果的に間違いとは言えなかったのですが)、corresponding authorのLeucht教授(世界的に超有名な方です)にメールしたところ、思いがけず返信をいただいて、その内容に納得したところです。

    ・まず、この論文の主要な結果を示します。

    fig05s

    ・この図でわかるように、メタ解析が可能なのはアミスルプリドくらいしかなく、他の薬剤については介入試験が1つか2つ程度しかないため、エビデンスは不十分であり、明確な結論を引き出すことができないことがわかります。直接比較のメタ解析では、このようなこともforest plotから読み取れるのでわかりやすいです。

    ・ところが、実際のところ、このようなデータしかなくても強引にネットワークメタ解析を施行することはできてしまいます。この点については、この論文の著者もネットワークメタ解析を当初行おうと思ったけども、結果のinconsistencyが大きく断念したと記載されています

    ・いざネットワークメタ解析をしようと思った場合、特にmulti-armsの介入試験の場合には元データから新たにデータを作り直す必要がある場合があるため、multi-armsの介入試験(この図ではLecrubier 2006にあたる)については元論文をあたって、元データを取り出して、そこからRでのネットワークメタ解析に使用できるデータに変換する必要があります。

    ・そこで元論文(Acta Psychiatr Scand 2006: 114: 319–327)を眺めてみたところ、主要評価項目はSANS summary scoreとなっています。結果はどうかというと、24週間でのベースラインからの変化量は、アミスルプリド群 -4.3点(SD 4.9)、オランザピン20mg群 -4.0点(SD 5.1)、オランザピン 5mg群-4.7点(SD 5.3)、プラセボ群 -3.1点(SD 4.8)とのことでした。ここから標準化平均差(SMD)を出すことは各群のnがわかれば手計算で簡単にできて、アミスルプリド群は0.237(SE 0.21)、オランザピン群は5mgと20mgをひとまとめにして、0.178(SE 0.209)となります、アミスルプリド群とオランザピン群とのSMDは-0.06(SE 0.169)となります。

    ・さて、Krauseらの論文とおんなじかなと思い確認したら、なんとこの論文ではアミスルプリドのSMD 0.04、オランザピンのSMD -0.03とあるではありませんか。この理由がどうしてもわからなくて、だめもとでLeucht教授にメールしてみました。そしたら思いがけず返信をいただいて驚愕しました。

    fig01s

    ・何度かやりとりをしたのですが、結論から言うと、Krauseらの論文では、主要評価項目としてPANSS negativeをまず第1に設定していて、その次にSANSなどとしており、どちらのデータもある場合にはPANSS negativeをとるということでした(Lecrubierらの論文の本文中にはPANSS negativeの数値がないのですが、おそらくどこからかデータをもってこられたのでしょう)。あらかじめ設定したルールに従って解析したということです。

    ・ただ陰性症状の評価尺度としてはSANSの方が優れているので、この点は確かに議論の対象となりうることだとメールにありました。Leucht教授は精神医学の分野におけるEBMにおいては世界トップクラスの業績を上げておられ、極めて重要な論文も数多く公表されおられる大先生で、お忙しい中このような日本の片田舎の一臨床医の質問にも丁寧にお答えいただき実にありがたいことでした。

    ・というわけで私は、SANSを使って勝手にネットワークメタ解析を進めたわけですが、その結果は以下となります。(いつものようにRのnetmetaパッケージを使って、頻度論によるネットワークメタ解析をしています)

    fig02sfig03sfig04s

     

    ・このような解析をしてはいけませんよという注意喚起でやってみたネットワークメタ解析ですが、なにやら面白そうな結果がでてしまいました。Meiji SeikaファルマのMRさんが喜ぶかもしれない結果ですが、この結果も先に述べたようにエビデンスの質という観点から注意して解釈いただくことが必要となります(規模はまあまあ大きく、異質性も小さいのですが、アセナピンについては1つのグループだけからの2つの介入試験の結果から構成された結果のため)。

    ・ちなみにKrauseらのデータによるNMAでは問題となったinconsistencyの問題ですが、Lecrubierらの論文に関してSANSを使用すると、inconsistencyは問題なく、異質性に関する指標I^2についてもQ^het=0.343, d.f.=3から0となり(ネットワークメタ解析では、I^2=max((Q-d.f.)/Q,0)で決定するため)問題がない状況に落ち着いています。

    ・この結果にpartial agonistがどう食い込んでくるのかなど、今後注目すべき事柄となります。

     

     

     

     

     

  • いろいろ心配はされていますが

    ・昨日のaducanumabの承認を受けて、nature誌(doi: https://doi.org/10.1038/d41586-021-01546-2)もscience誌(https://www.sciencemag.org/news/2021/06/alzheimer-s-drug-approved-despite-doubts-about-effectiveness)もどちらかというと批判的な記事を公表しています。

    ・最も批判の対象となっているのは、その有効性についての根拠が乏しい点と、脳内アミロイドβの減少というアウトカムにより薬剤承認されてしまったため、他の製薬会社もこのような本来の治療効果ではない指標により、薬剤承認を目指すようになるのではないかという懸念です。

    ・nature誌の記事を引用すると”Biogen says that it will charge around US$56,000 per year per person for the drug. If 5% of the United States’ 6 million Alzheimer’s patients receive the treatment, the drug’s revenue would reach nearly $17 billion per year.”

    ということで、全米600万人のアルツハイマー型認知症患者の5%がaducanumabを投与された場合、biogen社の利益は170億ドル(現在のレートで約1兆8600億円)になるとのことです

    ・また同記事では、Penn Memory CenterのJason Karlawish氏の発現を引用し、” Alzheimer’s patients might start dropping out of ongoing clinical trials to take aducanumab. Others worry that drug developers might abandon other targets.”とのことで、さらに別の研究者からの発言として、研究を10-20年後退させることになるのでは(他の治療ターゲットについての創薬が衰退することにより)との憂慮も掲載されていました。

    ・高額な薬ゆえに日本で保険収載された場合、日本の保険制度が崩壊するのではないかとの懸念も出ているようです。願わくば安価で提供されるといいのですが。その問題はさておき、私の個人的意見では、研究が後退するのではという点は杞憂かと思います。Biogen社に巨額の利益がもたらされた場合(それは当然多くの患者に良好なアウトカムをもたらした結果であるべきですが)、中枢神経疾患における他の治療対象をターゲットとした創薬も大きく進展する可能性があるためです。

    ・Biogen社では現在、アルツハイマー型認知症以外の神経変性疾患に対する多くの治療薬候補が同社のパイプラインを走っており、特にALSに対するアンチセンス・オリゴヌクレオチド製剤については、SOD1変異家族性ALSに対するtofersenの第3相試験、C9orf72遺伝子変異ALSに対するBIIB078(第1相)、ataxin-2 mRNAをターゲットにしたBIIB105(第1相)など他社の追随を許さない位置にいます(これら薬剤を開発したベンチャー企業を買収してきたためですが)。

    ・その他XPO1阻害薬であるBIIB100(第1相)など、細胞内封入体が特徴の神経変性疾患に対する創薬も積極的に取り組んでいるため、同社の研究資金が増え、αシヌクレイン(レビー小体型認知症、パーキンソン病(BIIB054、BIIB094)、多系統萎縮症(BIIB101))、TDP-43(ALS/FTLD)(BIIB105、BIIB100)、タウ(アルツハイマー、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症)など(タウオパチ―については一昨年進行性核上性麻痺に対するBIIB092がnegative resultとなり、難しいところのようですが)、この度のaducanumabなど細胞外アミロイドβを対象とした創薬のみならず、より難易度の高い細胞内封入体を特徴とする神経変性疾患に対する創薬が大いに進展することが期待されます。

  • 抗うつ薬と心理療法 2021年06月08日

    ・5月号のJAMA Psychiatry誌に、完全または部分寛解状態にあるうつ病患者について、抗うつ薬をそのまま継続した場合と、抗うつ薬を減量し、そこに予防的心理療法を行う場合とで、平均15か月間での予後がどのように異なるかについてのメタ解析結果が報告されました(文献1)。

    ・結論は予想通りで、再発リスクに関して有意差なしというものでした。

    ・結論が予想できた背景には、2015年のBMJ誌の報告(文献2)の知見があります。まずはこの内容からみていきます

    大うつ病に対する第2世代抗うつ薬とCBTの有効性比較(文献2)

    背景

    ・毎年アメリカ人の7%が大うつ病に罹患し、治療を求めるのはその約半分といわれている

    ・さらに治療を受けた患者の20%ほどしか適切な治療を受けていないといわれる(薬物療法では、最低2ヶ月間の適切な薬剤による薬物療法と4回以上の診察、精神療法では、少なくとも1回30分以上で合計8回以上の専門家による精神療法施行)

    ・薬物療法では第2世代抗うつ薬(SSRI、SNRI、その他)が最も多く処方されている。2011年のメタ解析(Gartlehner G, et al. Ann Intern Med 2011;155:772-85)では、これら薬剤間で、有効性に関して有意な差はないとされている(注:より新しいメタ解析(文献3)やCANMATガイドライン(これについては文献3の影響などを大きく受けたものではありますが)については、ここでは明示しませんが一部の抗うつ薬が、別の抗うつ薬に対して有意に治療効果が優れている可能性が報告されています)

    ・今回、うつ病エピソードに対する初期治療としての、第2世代抗うつ薬とCBTの有効性の比較を行った

    対象と方法

    ・18歳以上の大うつ病性障害患者

    ・第2世代抗うつ薬(ブプロピオン、シタロプラム、デスベンラファキシン、デュロキセチン、フルオキセチン、エスシタロプラム、フルボキサミン、レボミルナシプラン、ミルタザピン、ネファゾドン、パロキセチン、セルトラリン、トラゾドン、ベンラファキシン、ヴィラゾドン、ボルチオキセチンのいずれか)とCBTを直接比較したRCT

    ・11 RCTs(n=1511)

    ・HAM-D17で16-23点以上

    結果

     

    寛解率

    ・3つのRCTが寛解率を評価(n=432、寛解はHAM-D17で7点以下ないし7点未満で定義)

    ・試験期間は12-16週

    ・抗うつ薬群とCBT群で有意差はなかったが、数値的には抗うつ薬群が寛解率が高かった(47.9%対40.7%、risk ratio 0.98, 95% CI 0.73-1.32)

    反応率

    ・5つのRCTが反応率を評価(n=660)

    ・試験期間は8-16週

    ・反応はHAM-D17 50% 以上の改善で定義

    ・反応率は抗うつ薬とCBTで有意差なし(44.2% 対 45.5%; risk ratio 0.91, 95% CI:0.77 - 1.07)

    HAM-D変化量


    ・HAM-D変化量の差を2つのRCT(n=249)が報告

    ・試験期間は8週間

    ・平均変化量の差( 0.38, 95% CI:2.87 to 2.10 )は有意差なし

    長期経過

    ・2つのstudyが長期経過を報告

    ・1つは論理療法(rational emotive therapy:認知行動療法と治療的枠組みはほぼ同一)ないし認知療法と第2世代抗うつ薬を比較したもの。

    ・6ヶ月時点ではHAM-D17得点は精神療法群で有意に抗うつ薬群よりも低かった。寛解率や反応率は有意差なし

    ・もう1つは問題解決療法と第2世代抗うつ薬を比較したもので、1年時点での寛解率は問題解決療法群で高く、一方反応率は抗うつ薬群で高かった(いずれも有意差なし)

    再燃率

    ・再燃率をみたものが1つ

    ・初期治療として、認知療法ないし第2世代抗うつ薬を使用し、最初1年間再燃がなかった群をさらにもう1年間フォロー

    ・初期治療として認知療法を受けた群の再発率は24%、抗うつ薬群は52%で、症例数が少なく有意差はなし(p=0.06)

    中断率

    ・4つのstudyで評価。あらゆる理由による中断率は有意差なし(risk ratio=1.00)

    ・ただし副作用による中断は抗うつ薬群で多かった(有意差はなし)

    ・有効性欠如による中断についても有意差なし

    抗うつ薬単独対抗うつ薬+CBTの比較

    ・3つのstudyあり。いずれも反応率、寛解率において有意差なし

    ・1つのstudyではMADRSの変化量において、併用群が有意に抗うつ薬単独群よりも大きな変化量を示したとの結論が得られている(しかしこのstudyはbiasが大きいという問題が指摘されている)

    結論

    ・現在までに行われた11の直接比較のRCTによれば、大うつ病に対する初期治療として抗うつ薬がCBTよりも有意に優れているとの証拠はない。

    ・ただし、この結論はサンプルサイズが小さいことや、現段階ではエビデンスの質が低いことにより、決定的なものではない

    ・また、両者併用が抗うつ薬単独よりも優れていることを積極的に支持するエビデンスもなく、今後の検証が必要

    ・重症度により結論が変化する可能性があり(重症群ではそもそも初期からの精神療法的介入そのものが困難)、検証する必要あり

    ・以上の現状により、日本うつ病学会のガイドラインでもこの報告は引用されていない(しかし無視できる報告でもない)

    ・この報告が今後の検証においても正しいままであった場合、軽度~中等症のうつ病(HAM-D17で18点程度まで)においても、第1選択としてCBT単独として行うことは選択肢として除外できない、ということになる

    うつ病再発予防における抗うつ薬と心理療法(文献1)

    背景

    ・APA2010やNICE2009などのガイドラインでは、再発リスクの高い患者に対して、寛解後少なくとも2年間の維持療法として抗うつ薬を継続することが推奨されている(日本うつ病学会のガイドラインでもAPA2010を引用し、同様の記載となっている)

    ・抗うつ薬は副作用、安全性の問題や、漸減時に再発リスクが高まることが指摘されている

    ・うつ病の再発予防のための、心理学的介入(予防的認知療法、マインドフルネス・ベースド・コグニティブ・セラピー[MBCT]、ウェルビーイング・セラピーなど)を抗うつ薬の投与後に順次行うことも選択肢である。

    ・これらの介入は、抗うつ薬単独と比較して、抗うつ薬との併用で特に治療効果が高く、急性期治療後に抗うつ薬に追加することで、抗うつ薬単独よりも、より再発予防に効果的であることが報告されている(再発のリスク比 0.84で有意差あり。JAMA Psychiatry.2021;78(3):261-269.)

    ・しかし、どのような患者に対して抗うつ薬を漸減するのか、あるいは継続するのがよいかについてのエビデンスはない。

    ・再発うつ病の場合、治療効果に関連する修飾因子や予測因子を特定する試みがこれまでに報告されている。

    ・うつ病の再発リスクと関連する要因としては、以下のようなものが検討されている。発症時の年齢と過去のエピソードの数、成人(小児では関連なし)では初発エピソードの重症度、成人での(小児では関連なし)共存する他の精神病理(特に気分障害)の存在、精神病理の家族歴、特にうつ病や他の感情障害の家族歴(すべての年齢)は再発リスクの増加に関係、さらにネガティブな認知、神経症傾向が高いこと、社会的支援の不足、ストレスの多いライフイベントなども再発リスクとされている。一方で性別、社会経済的地位、配偶者の有無は、うつ病の再発の危険因子ではなさそうとされた(Clin Psychol Rev. 2007;27(8):959-985)

    ・その他、小児期の感情的なネグレクト、心理的虐待(Acta Psychiatr. Scand. 126, 198?207)、慢性疼痛や慢性疾患( BMC Psychiatr. 14, 1?9.)、残遺うつ症状(Behav Cogn Psychother.2019;47(5):514-529.)なども再発リスク因子として報告されている

    ・しかしメタ解析による結果は、全体を総括した結果であり、患者の個別性に応じた治療法の最適化に関する情報は得られない

    ・今回、Individual participant data meta-analysis(IPDMA)を用いて、抗うつ薬の漸減中または漸減後に心理学的介入を順次行うことが、抗うつ薬単独投与の代替となるかどうか、またどのようなケースに有効かを検証した

    方法と対象

    ・完全または部分的に寛解しているうつ病患者(18~65歳)

    ・抗うつ薬漸減しながら予防的心理療法を行う場合と抗うつ薬単剤療法を比較した無作為割付比較試験 N=4 (n=714)

    ・平均追跡期間15カ月

    ・抗うつ薬継続群 n=369、抗うつ薬漸減ないし中止+マインドフルネスに基づく認知療法併用(n=287)、抗うつ薬漸減ないし中止+予防的認知療法(n=58)

    ・共変量として年齢、うつ病発症年齢、婚姻状態、治療セッションへの参加回数、性別、共存する精神疾患の有無、過去のうつ病エピソードの回数、学歴、寛解月数、HAM-Dで測定したベースラインの残存抑うつ症状を抽出

    結果

    ・対象者の平均うつ病エピソード回数 5.6回。すべての参加者は寛解状態で、うつ病寛解得点を定義した試験は4つのうち2つで1つがHAM-Dで7点以下、1つは10点以下。寛解期間は6-8か月(1つは未定義)

    ・ランダム効果モデルでは、抗うつ薬漸減ないし中止+精神療法の抗うつ薬継続に対する再発のハザード比は0.86(95%CI,0.60-1.23)で有意差なし

    ・再発リスクに有意に関連した共変量としては、寛解月数、発症年齢、ベースラインの残存うつ症状であった

    ・これらリスク因子を有する場合でも、(例えばうつ病の残存症状が強く、過去のエピソード回数が多くても)、抗うつ薬漸減+心理療法により、再発のリスクの有意な上昇はみられなかった

    結論


    ・うつ病の臨床的予後因子にかかわらず、抗うつ薬の漸減中および漸減後に心理療法を併用することにより再発リスクの上昇を防ぐことができる可能性がある

    コメント

    ・再発予防のために用いられた心理療法の大半がマインドフルネスに基づくもの(対象症例の83.2%)であったのは印象的でした。いわゆる第2世代の定型的な認知行動療法であればどうなのかについての結論もほしいと思いました(たぶん結論は変わりませんが)


    文献1:Josefien J.F. Breedvelt et al. JAMA Psychiatry. 2021 May 19. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2021.0823. Online ahead of print.
    文献2:Halle R Amick et al. BMJ. 2015 Dec 8;351:h6019. doi: 10.1136/bmj.h6019.
    文献3:Cipriani A et al. Lancet. 2018 Apr 7;391(10128):1357-1366

  • これは驚いた

    ・つい1時間前ですが、biogenとエーザイの開発したaducanumabがFDAにより条件付き承認を得たとの衝撃的ニュースが世界中を駆け巡りました。かなり驚きました。

    ・FDAからのpress releaseは以下となります

    FDA’s Decision to Approve New Treatment for Alzheimer’s Disease | FDA

    ・アルツハイマー型認知症に対する承認薬剤としては18年ぶり?の新規作用機序による薬剤となります

    ・ただし今回の承認は条件付き承認であり、Acceraleted Approval pathwayによるもので、臨床的効果に基づく承認ではなく、アミロイドβプラークを減少させることができるという客観的事実から、臨床的有益性を発揮することが期待できそうだということでの承認のようです。ですので、上市後の第4相試験により、臨床効果が検証され、その結果によっては販売中止もありうるようです。

    ・なぜ驚いたかというと、2019年3月にaducanumabの第3相試験中止のニュースが流れた際に公表された、2つの第3相試験(ENGAGE試験、EMERGE試験)の結果において、主要評価項目であるCDR-SBの変化量が、全体としてあまりすっきりせず、例えば対象となる患者群が異なるにしても、ドネペジルでのCDR-SBの変化についての結果(Tariot PN et al ,J Am Geriatr Soc. 2001 Dec;49(12):1590-9.)と比べても、当初6か月間の治療効果について、その差異(ドネペジルではほぼベースラインから変化していない)が明確だったからです。FDA Advisory Committeeも、11人中10人(1人は不明)がEMERGE試験の結果について否定的見解を述べたとも報道され、かなり承認の雲行きが怪しい状態でした。

    ・1年やそこらの期間では、Aβプラーク除去による治療効果ははっきりしないのかもしれません。少なくとも短期的に劇的によくなる、という薬ではなさそうです。

    ・disease modifyingという観点から、ENGAGE試験とEMERGE試験では試験期間が72週間でしたが、さらに2年、3年とみていけば、進行停止が得られるのでしょうか。

    ・結論が得られるのは数年後になりそうで、実際にメリットがあれば素晴らしいことと思います

    ・1つ夢のある方向性があるとすれば、アミロイドβの蓄積自体はアルツハイマー型認知症の発症15年以上前から既に始まっていると言われており、この超早期の段階で、健診などで脳内Aβの蓄積をスクリーニングし、aducanumabを予防的投与することにより、将来のアルツハイマー型認知症の発症が防げるとすれば、それはそれで素晴らしい方向性と言えると思います。今後の進展が期待されるところです。

  • この発想はすごい

    ・セガのJUDGE EYESは木村拓哉が主演でストーリーなどとてもよくできていて、YouTubeのゲーム配信に思わず見入ってしまいました。もはやゲームとは思えないような内容ですが、ゲーム中にアドデック9という夢のアルツハイマー型認知症治療薬が出現します。作用機序としては細胞の自食作用(オートファジー)を活性化してアミロイドβを分解する薬と説明されています。少し詳しい人はここでわからなくなると思うのですが、そもそもアミロイドβの蓄積は細胞外なので、細胞内蛋白分解機構である自食作用ではアミロイドβは分解できないのではないかと思ってしまいます。それともエンドサイトーシスで取り込んで分解するのでしょうか。細かいことを言えばオートファジーは非選択的な蛋白質分解機構であり、特定の蛋白質の分解を担うものではないので、アミロイドβだけを対象にするのは難しそうだし、オートファジーの中でも特定の蛋白質を対象とする機構である、選択的オートファジーについては、どうやら液滴状態の流動性が高い蛋白質については分解できるけど、アミロイドβなどの凝集体になっちゃったものは分解できないのではないか(Yamasaki et al. Mol Cell. 2020 Mar 19;77(6):1163-1175)とか、いろいろあって、結局自食作用でアドデック9の作用機序を説明するのは行き詰ってしまうわけです。ちなみにこの自食作用については2016年の大隈良典先生のノーベル生理学・医学賞が思い浮かびますが、オートファゴソーム形成の端緒となる隔離膜がどのように出現し、どのように膜成分が供給されるのかはいまのところわかっていないということで、まだまだわからないことが多い、とても面白い研究分野といえそうです。

    ・ALSの創薬においても、自食作用の亢進を図り治療的効果を期待する試みはいくつもあります。まずwithaferin-AはNF-κβ拮抗薬であり、自食作用を誘発することが基礎研究で言われています。また天然糖分子であるトレハロースも自食作用を活性化することが知られており、現在第2b/3相試験が行われています。また過去に第1/2相試験の行われた乳癌治療薬のタモキシフェンも自食作用を亢進させると言われています。現在第3相試験の行われているibudilast(ケタス)もその作用機序に自食作用が一部関与していると言われていますし、コルヒチンも自食作用に関連した蛋白質の誘導が関与しているようでした。他にもエストロゲン類似物質のRaloxifene、抗ヒスタミン薬のClemastineなども自食作用を亢進させることが基礎実験では言われているようです。まだまだいろいろありますが、多くの神経変性疾患において病態の中核をなすと考えられている細胞内異常蛋白質の蓄積を何とかしようという多くの挑戦が続いています。

    ・細胞内の異常蛋白質を除去するもう1つのメカニズムがユビキチン-プロテアソーム系による蛋白質分解機構です。こちらはオートファジーと異なり選択的な蛋白質分解除去機構になります。蛋白質が翻訳されると、シャペロンと呼ばれる蛋白質が正常な折り畳み構造になるように補助します。どうやら、生成した蛋白質のすべてが自ら正常な折り畳み構造をとることができるわけではなく、およそ10-15%ほどは正常な折り畳み構造をとるためにシャペロンの介添えを必要とするようです(Cell 90 (3): 491–500)。シャペロンの努力にも関わらず、折り畳み異常が是正できない場合には、シャペロンと折り畳み異常蛋白質の複合体がユビキチンリガーゼと呼ばれる、異常蛋白質をユビキチン化する酵素へと結合し、異常蛋白質のユビキチン化を媒介することとなります。ユビキチン化した折り畳み異常蛋白質はプロテアソームと結合し、分解が開始されます。アドデック9もユビキチンープロテアソーム経路を活性化して、リン酸化タウの凝集体(神経原線維変化)を除去するというふうにしていれば、つっこみどころがなかったかもしれません。

    ・今回、この記事を書くきっかけとなったのは、2021年4月29日に開催された1st Annual MDA Insight in Research Investor Summit for Neuromuscular Diseaseにおいて、バイオベンチャーのSOLA Biosciences社が興味深い報告を行ったことによります。同社が開発中のALS治療薬候補はSOL-257と呼ばれる遺伝子治療薬なのですが、遺伝子治療薬と聞いて、なんとなく、異常蛋白質の生成を阻害するmicroRNAを注入するとか、神経栄養因子を産生するプラスミドを注入するとか、そんなよくある系統の薬なのかなあと思ったら、全く新しい作用機序で、その発想に驚きました。将来への期待を感じさせるものです。

    ・SOLA社のホームページによると、SOL-257の作用機序は、まずアデノ随伴ウイルスベクターを用いて細胞内にTJP(Targeting J-domain Protein)遺伝子を注入し、発現したTJP蛋白質は、ターゲットとなる折り畳み異常を呈した蛋白質を特異的に認識し、結合します。さらにTJP蛋白質はJ-domainと呼ばれるシャペロン(Hsp70)に認識される領域を有しており、これにより折り畳み異常蛋白質がシャペロンに認識され、構造の正常化ないしユビキチン化へのプロセスが促進されることとなります。この発想の素晴らしい点は遺伝子発現をブロックしたり、酵素活性を変化させるなどのいろいろと副作用の起こりそうな機序を用いず、内因性機構を活用し、異常蛋白質の除去を目指している点です。ちなみにモデルマウスの実験では生存期間の延長効果が確認できたとのことで、今後第1相試験に移行することが期待されています。SOLA社のCEOは日本人の方のようです。うまくいくといいなと思います。

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