・今年9月25日に大塚製薬のアリピプラゾールLAIが国内でラモトリギンについて2剤目に双極性障害維持療法期における薬剤として適応承認されました。


・現在FDAないし厚労省にて承認されている薬剤は下図(ジプラシドンは入っていなくて、その他一部もれがあるかもしれませんが)となり、ようやく国内でも承認された薬剤の範囲で躁病急性期から維持療法期まで連続的に同一薬剤で治療の継続が可能となりました(もっとも実際にはガイドラインが推奨するように、リチウムなどをオフラベルで維持療法期に使用するケースが多いと思いますが)。ちなみに下の図は赤色がFDAのみ承認、青色がFDAと厚労省が承認、黄色が厚労省のみ承認(2020年10月段階)となります。

承認薬剤

・当記事に関しては、特定の薬剤に関する記事になりますので、COI開示もしておきます。著者のCOI関係にある企業として大塚製薬株式会社(講演料)となります。そのような状況ですが、解析対象とした臨床試験はおそらくselection biasはないものと思いますので、現時点で結果の普遍性はあると思われます。

 

・ラモトリギンの双極性障害維持療法期におけるあらゆるエピソードに関する再発予防効果と、アリピプラゾールLAIの双極性障害維持療法期における再発予防効果は、現在までのエビデンスで同等なのか、それともどちらかが優れているのか、について直接比較した試験がないので、ネットワークメタ解析を行ってみました。

 

・ラモトリギンの維持療法期の介入試験については、ありがたいことに藤田医大のOya先生らが文献1にて報告されています。ここに掲載された試験と、アリピプラゾールLAIのこれまでに報告された維持療法期のおそらく唯一の介入試験である国際第3相試験(ATLAS試験)の結果を用いて解析をしてみます。

 

・解析対象となった試験の概略は以下となります(文献1とNなどがちょっと違うのは、エントリー後に対象薬剤が投与されなかったケースなどを除いたためです)

対象試験

・使用ソフトはRでnetmetaパッケージを用いて、頻度論によるネットワークメタ解析をrandom effectsモデルで解析してみました。評価尺度はあらゆるエピソードの再発率のプラセボに対する相対リスクとなります。

 

・その結果、下図の通り、現段階ではアリピプラゾールLAIはラモトリギンよりも有意にあらゆるエピソードの再発を防ぐ効果があるかもしれないとの結果になりました。

解析1


・解析対象となった試験の異質性に関する尺度であるI2統計量は0.7%であり、問題ない数値でした。しかしながら、解析対象としたラモトリギンの介入試験のサンプルの均一性には問題があり、アリピプラゾールLAIの第3相試験が急性期が躁病エピソードであり、その後の維持療法期間において介入試験を行っているのに対して、ラモトリギンについては急性期エピソードが躁病であるstudyは2つであり、残りはrapid cyclingやうつ病相から入っており、そこでの治療に反応した患者群が対象となっているため、そこに異質性が存在する可能性があります。


・したがって、解析対象を急性期が躁病の studyのみとして、ネットワークメタ解析を行った結果が以下となります。どちらも対プラセボでは有意となりすが、アリピプラゾールLAIとラモトリギンとの有意差は消失しました。

解析2
・前回の維持療法期におけるネットワークメタ解析の報告(文献2)からだいぶ時間もたっているので、そろそろアリピプラゾールLAIなども入った最新の結果が報告されるのではないかと思われます。

 

引用文献
1)Oya K, Sakuma K, Esumi S, et al.Efficacy and safety of lithium and lamotrigine for the maintenance treatment of clinically stable patients with bipolar disorder: A systematic review and meta‐analysis of double‐blind, randomized, placebo‐controlled trials with an enrichment design. Neuropsychopharmacol Rep. 2019;39:241– 246. https://doi.org/10.1002/npr2.12056
2)Miura T, Noma H, Furukawa TA, Mitsuyasu H, Tanaka S, StocktonS, et al. Comparative efficacy and tolerability of pharmacological treatments in the maintenance treatment of bipolar disorder: a systematic review and network meta‐analysis. Lancet Psychiatry. 2014;1(5):351–9.