院長ブログ

  • COVID-19医療従事者のメンタルヘルスへの影響(予備的な結果)

    アブストラクトだけみて、重要な論文だと思い、以下の前文を書いてから翻訳してみましたが、論文の問題点が一部みつかって、尻すぼみになってしまいました。しかしながら重要なメッセージは含まれていますので、予備的な結果として残しておきます。


    中国湖北省でCOVID-19診療に従事した医療関係者のメンタルヘルスに関する論文が4月29日にAmerican Journal of Psychiatry誌のLetter to the Editorにacceptされ公表されました。

    COVID-19パンデミックが医療従事者のメンタルヘルスにどのような影響を与えたのか、メンタルヘルスが病的といえる水準にどの程度の割合の医療従事者が至ったのかがわかります。


    この報告をみてわかることは、COVID-19診療に従事するだけでも、これほどの精神的影響がありうることであるのに、さらにそのうえ、一部報道でみられたようなCOVID-19医療従事者へ差別的態度が向けられるということは、第一線で診療に従事し、心身ともに疲弊する医療従事者をさらに精神的に追い込む行為であり、社会的に許されることではないということです。

    以下その概略となります

     

    調査対象となったのは、COVID-19疑い症例ないし確定症例を収容する感染症指定病院に勤務する医療従事者で、オンラインで調査が行われました。

    湖北省の感染症指定病院に勤務する2316名の看護師、医師が調査に応じました。

    このうち直接COVID-19患者の治療やケアを担当する最前線の医療従事者は885名、その他の医療従事者は1431名でした。

    調査が行われたのは2020年1月29日から2月11日(中国では1月29日時点で1日当たりの国内感染者数は1000名を超え、ロックダウンは1月23日から開始されていました)

     

    主要評価項目は、9-item Patient Health Questionnaire[PHQ-9]が6点以上で有意なうつ症状有り、7-item Generalized Anxiety Disorder(GAD-7)で6点以上を有意な不安症状有り、7-item Insomnia Severity Index[ISI]で9点以上を有意な不眠症状有り、22-item Impact of Event Scale-Revised[IES-R]で10点以上を有意なストレス症状有りとされました。


    (コメント:感度、特異度の観点から、PHQ-9は10点以上、GAD-7は10点以上、ISIは10点以上を臨床的に有意とする場合が多いので、PHQ-9とGAD-7については拾い上げすぎている感があります。実際にネットで閲覧可能なPHQ-9などをみていただけるとわかりますが。この論文のカットオフ値を適応した場合、必ずしも臨床的に病的なレベルとはいえそうにないことがすぐにわかると思います。なぜこのカットオフ値を用いたのか不明ですし、論文中に異なるカットオフ値を適応した場合の割合なども記載されていればよかったのですが、残念ながらそのようなデータもなく、この報告の数値だけが独り歩きしないことを願います)

     

    この論文のカットオフ値を用いた場合、うつ症状を有した割合は全体の46.9%、不安症状は全体の41.1%、不眠は全体の32%、ストレスは全体の69.1%との結果になりました。

    最前線の医療従事者はこれらの数値よりも有意に高かった(具体的な数値の記載はありませんでした)とのことです。

     

    一方で、医療従事者の中で専門的なサポートが得られたのは19.2%のみでした。

    心理的なサポートを受けることができた医療従事者は、有意に不安、うつ、不眠、ストレスがカットオフ値を超える割合が少なかったということです。


    さらに。41.5%の回答者が心理専門職によるサポートや支援を求めており、64.9%の回答者がメンタルヘルスサービスの利用について興味を示したとのことです。(コメント:このデータは重要な結果と思われます。実際に日本の医療現場でも同じようなことが言えるのではないでしょうか)

     

    論文の最後では2003年のSARSアウトブレイクの際の出来事にも触れてあり、アウトブレイク後1年以上を経過してもなお、心理的苦痛を訴えた医療従事者が存在していたことが報告されており、長期的視野に立った心理的サポートの重要性が説かれています。

     

    以上となりますが、ごく短期間で出版された報告なため、データが少ないこと(回答者の年齢や性別、有効回答率などの基礎的なデータもない)と、なぜかカットオフ値が標準的ではないことが悔やまれます。

    今後日本でも同様の調査、報告が行われ、実際の現場での介入がなされることが期待されます(大学などから遠隔システムでの協力要請があれば、協力したいと思います)

     

    引用文献
    Lin K, Yang BX, Luo D, et al: The Mental Health Effects of COVID-19 on Health Care Providers in China
    Am J Psychiatry | Letter to the Editor
    Accepted 29 April 2020. DOI: 10.1176/appi.ajp.2020.20040374

  • 再始動

    印象的な出来事があったので、書き留めておこうと思います。


    ALS界隈では有名なNeuralstem社というベンチャー企業がありました。

    2015年当時、ALS当事者の間ではNeuralstem社か、Brainstorm社か、というほど名の知れたベンチャー企業でした。

     

    これらの2つのベンチャー企業はALSに対する再生医療、幹細胞移植における先進的な取り組みで知られていました。

     

    再生医療というとなんだかぼんやりしたイメージですが、wikipediaによると「人体の組織が欠損した場合に体が持っている自己修復力を上手く引き出して、その機能を回復させる医学分野」だそうです。

    ALSでは幹細胞移植がこれにあたります。

     

    いちはやくALSに対する実用的な幹細胞移植の臨床試験を開始したのがNeuralstem社とBrainstorm社でした。

     

    ひとえに幹細胞移植といっても、様々なタイプがあります。

     

    臨床試験で報告されているもので一番多いのは中胚葉組織由来の幹細胞です。

    中胚葉由来の組織としては、血液、脂肪組織などがあり、骨髄より採取された間葉系幹細胞や脂肪組織由来の間葉系幹細胞などがALSに対する臨床試験に用いられています。

    この中胚葉由来の間葉系幹細胞というのが曲者で、てっきり中胚葉由来なので、外胚葉系の神経細胞やグリア(グリア系細胞の中で唯一ミクログリアのみが中胚葉由来ですが)細胞には分化できないだろう。と思っていたら、なんとそんなことはない、というのが現在の見解のようです。

    島根大学脳神経内科の長井教授が報告1)されたように、神経栄養因子を分泌するようにもできるし、なんと神経系細胞にも分化できるようです2)

    実際に移植した生体内で目標とする細胞に分化してくれるかどうかはまた別の問題ですが、驚きの多能性を有しているということのようです。

    このような中胚葉由来の間葉系幹細胞を用いることの大きなメリットは自家移植が可能なことです。

    自身の組織から幹細胞を採取し、それを治療的に用いることができ、同種移植のように免疫抑制剤は必要ではありません。

    Brainstorm社のNurOwn細胞はこの方法を用いており、患者自身の骨髄より採取した幹細胞をマル秘の特許技術により神経栄養因子を分泌するように分化誘導し移植する方法になります。

    一方で、外胚葉由来の幹細胞を移植する方法もあります。

    自身の神経組織から神経幹細胞を採取することは実用的ではありませんので、胎児由来の神経幹細胞を使用する方法がしばしば用いられています(倫理的問題はより大きなものとなりますが)。

    また同種移植になるため移植後に免疫抑制剤の投与を必要とします。

    Neuralstem社のNSI-566がこれにあたります。NSI-566についてはその安全性もやや気になるところです。

    胎児由来神経幹細胞移植は腫瘍化するリスクも報告されています3)

    移植の際の投与経路も様々です。静注、くも膜下腔内投与、脊髄内投与などがあります。


    このうち静注については注意が必要です。

    2019年には脊髄損傷に対して自家骨髄幹細胞移植(静注)である、間葉系幹細胞のステミラック注が条件付承認されましたが、これについては批判的な意見もあり、Nature誌でも痛烈に批判されましたし4)、島根大学の松崎教授が解説5)されたように、動物実験では静注された間葉系幹細胞は、新鮮なものはまだよくても、培養を行ったものは、大半が肺の毛細血管にひっかかり、遊走能を失い、ターゲットとする組織には到達しなかったという問題点もあります。

    現在ALSに対しては、Mayoクリニックが自家脂肪組織由来間葉系幹細胞移植の臨床試験を行っていますが、これはきちんと投与経路がくも膜下腔内投与となっています。

    くも膜下腔内投与は、カテーテルをくも膜下腔に挿入し(ここがやや侵襲的ではありますが)、直接くも膜下腔内に幹細胞を移植する方法になります。

    現在第3相試験まで進んでいるBrainstorm社のNurOwn細胞はこの投与経路となります。

    一方で脊髄内投与は最も侵襲性の高い治療手技となります。

    患者は手術室で椎弓切除術を受け、脊髄を目視下とし、脊髄実質に直接幹細胞を注入する方法になります。この方法をとるのがNeuralstem社のNSI-566となります。

    Brainstorm社もNeuralstem社も、2010年頃からALSに対する幹細胞移植の第1相試験を開始しています。


    Brainstorm社はイスラエル Hadassah Medical Organizationにて2010年1月から第1相試験を開始(NCT01051882)し、Neuralstem社は2011年5月からEmory大学にて第1相試験(NCT01348451)を開始しました。

     

    第1相試験での安全性確認後、Brainstorm社は2013年12月に第2相試験を開始しました(NCT02017912)。

    この第2相試験の結果が論文としてpublishされたのは、去年12月であり、ごく最近のことです6)

    結果の概要ですが、この第2相試験では、48名のALS患者がエントリーし、36名がNurOwn細胞を投与(くも膜下腔内および筋肉内に単回投与)され、12名がプラセボを投与されました。


    患者は投与前3ヶ月間および投与後6ヶ月間症状経過観察されました。

    主要評価項目であるALSFRS-Rの変化率は治療前後でNurOwn投与群とプラセボ群とで有意差を認めませんでした。

    しかしながらALSFRS-Rの変化量が少なくとも1.5点以上改善した群を反応群と定義すると、治療4週後の反応率はNurOwn投与群では47%でプラセボ群では9%であり有意差を認めました。

    また治療前のALSFRS-Rの変化量が2点/月以上の急速進行群においては、4週後のNurOwn投与群の反応率は80%に対してプラセボでは0%、12週後の反応率はNurOwn群では53%、プラセボ群では0%といずれも有意差を認めました。

    治療後の時間経過と共に反応率が低下していることについて、追加投与の必要性を示唆するものかもしれないと考察されています。

    また髄液中MCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)濃度(免疫細胞浸潤と神経炎症の指標)については、NurOwn投与後に有意な減少がみられました。

    プラセボ群では投与前後での有意差はありませんでした。このことはMCP-1がALSのバイオマーカーとなりうる可能性を示唆するものと考察されました。

    この結果を受けて、FDAはNurOwn細胞の第3相試験の実施を承認しました。

    このように、主要評価項目において有意な結果が得られず、副次的な評価項目のみで有意差が得られても第3相試験が実施されることはしばしばみられることです(そして残念ながら多くが第3相試験でnegativeとなる)。

    現在、NurOwn細胞については、200名のALS患者を対象とした第3相試験が実施中(NCT03280056)であり、2020年中に結果が判明するものと期待されています。

    もし有効性が確認されれば大きなニュースになることと思われます。

    Brainstorm社のNurOwn細胞については、第1相試験の開始から足掛け10年かかっていますが、比較的順調に進捗している印象があります。

    一方で、Neuralstem社のNSI-566はどうでしょうか。

    第1相試験で安全性が確認されたのち、第2相試験の実施まではスムーズでした。

    2012年12月に第2相試験(NCT01730716)が開始されています。

    結果が査読付き論文にpublishされたのは2016年でしたので、NurOwnよりも早く公表されたことになります7)

    この第2相試験は、オープン試験であり、15名のALS患者が対象となりました。

    結果の概略ですが、発症2年以内の患者がエントリーされ、頸髄のC3からC5の間の領域に両側性のNSI-566細胞の単回移植を受けました。また最後の3名では腰髄領域にも移植を受けました。

    主要評価項目は忍容可能な最大用量を調べること(安全性の評価)でした。

    移植後9ヶ月間の経過観察期間において、最も高頻度に報告された副作用は、手術に伴う一過性の疼痛と、併用された免疫抑制剤(同種移植のため、免疫抑制剤が必要)に起因したものでした。

    2名では重大な合併症を併発しました。1名では脊髄腫脹がみられ、疼痛と部分的な麻痺が生じました。

    またもう1名では脊髄損傷に起因した疼痛が出現しました。

    副次的評価項目である、病態進行の程度については、過去の臨床試験のプラセボ群の臨床経過(historical placebo)と比較して、有意な進行遅延は認めませんでした。しかし、被検者が少ないため、有効性に関する結論を出すのは困難とのことでした。


    2016年にこの報告が出てから、Neuralstem社の動向がぱったりと途絶えてしまいました。

    一時はもう開発を諦めてしまったのかと思っていました。

    第3相試験の実施には数十から数百億円程度かかると言われており、ベンチャー企業にとっては大変な負担となります。

    うまく立ち回ると途中で巨大な製薬会社に買収されたり、提携するなどして資金面での問題があまりなくなる場合もあるのですが、Neuralstem社については、そのようなニュースもなく、数年間新たな動きもないため、最近では忘れかけられていました。


    しかし、2019年11月、復活ののろしがあがります。なんと2019年11月にNeuralstem社はSeneca biopharma社と社名を変更し、2020年3月にはNSI-566の第3相試験の実施に向けて、FDAと協議したとのpress releaseが出されました。

    名前がかわった理由はよくわかりません。新たな資本が注入されたとかのニュースも見当たりません。


    第3相試験の実施にあたっては、まず製薬会社はIND(Investigational New Drug Exemption:新薬臨床試験開始届)をFDAに提出し、審査に合格する必要があります。そのINDを提出するための準備としての協議をFDAと行ったそうです。


    名前が変わった理由ですが、Seneca社のpress releaseによれば、「今回の社名変更は、これまでの神経疾患関連の研究に重点を置いていた組織から、有望な新科学を発見し、バイオ医薬品のパイプラインを開発し、それらの製品を商業化することに焦点を当て、同時に株主の皆様に価値を提供することを目的とした新たな哲学を表しています」とCEOが語っています。なんだかよくわからないコメントですが、ベンチャー企業にとっては株主の存在は重要です。社名変更は会社哲学の変更ということでしょうか。


    第3相臨床試験の実施はまだまだこれから、というところですが、ALSに対する神経幹細胞移植の臨床試験が再開の動きをみせたことは歓迎すべきことと思います。

     

    1)Nagai A. et al. PLoS One. 2007 Dec 5;2(12):e1272.
    2)Rosa Hernández et al. Biomol Ther 28(1), 34-44 (2020)
    3)PLoS Med. 2009 Feb 17;6(2):e1000029. 
    4)Nature. 2019 Jan;565(7741):535-536.
    5)松崎有未 島根医学 vol.39.2 2019.8 1-6
    6)Neurology. 2019 Dec 10;93(24):e2294-e2305
    7)Neurology. 2016 Jul 26;87(4):392-400.

     

     

     

     

  • 症状クラスタリングと治療反応性(2) 2020年04月26日

    どの抗うつ薬がどの症状に効くのかの続きです。

     

    Yale大学の研究グループからここ何年か症状クラスタリングによる報告が続いています

     

    この報告を取り上げた理由は、このうちの1本の論文(文献8)に、これまで私自身があまり認識していなかった結果が示されていたことがあります。

    デュロキセチンの用量効果関係です。

     

    まず最初に、抗うつ薬の用量効果関係についても触れておきたいと思います。

     

    最近の報告で抗うつ薬についての用量効果関係を示したもので、注目されたものに文献1があります。

     

    用量が固定された介入試験における、用量効果関係について、いくつかの薬剤についてメタ解析を行ったものです。

     

    公表、非公表を含む77の介入試験(シタロプラム:17、エスシタロプラム:16、フルオキセチン:27、ミルタザピン:11、パロキセチン:28、セルトラリン:11、ベンラファキシン:16、 投薬群 N=19364(プラセボ群:N=6881))が解析対象となりました。

     

    SSRIについてはhayasakaらによる等価用量換算法が使用され、ひとくくりにして解析されました。

     

    評価項目としては、約8週間(4-12週)の治療反応率(評価尺度の50%以上の改善として定義)、副作用による中断、あらゆる理由による中断が抽出されました。

     

    その結果、治療反応率については、SSRIについてはフルオキセチン換算で20-40mg程度まで効果増加が見込まれ、そこからはやや低下ないし横ばい。

    ベンラファキシンについては、75-150mg程度まで効果は用量とともに増加し、それ以上はゆるやかに増加。

    ミルタザピンについては30mgまで効果は増加するが、それ以上だと効果が減弱する、との結果でした。

     

    SSRI、ミルタザピンについては逆U字型の効果用量関係、一方でベンラファキシンについては臨床用量範囲内においては、ある用量までは効果が増加し、その後漸増傾向ということになります。

     

    副作用による脱落については、予想通り用量と共に増加するとの結果でした。

     

    SSRIやミルタザピンについては、臨床用量の範囲内においても効果が最大となる至適用量が存在する可能性があるといえます。

     

    ただし、個々の患者についてはこの結果を一律に適応することはできず、例えば文献2にあるように、薬物代謝に個人差があることに注意を要します。

     

    例えば、CYP2D6の遺伝子多型はパロキセチン代謝に影響をあたえます。

    文献2によると、日本人15名中CYP2D6*10アリル保有者は11名、CYP2D6*10アリル非保有者は4名でした。

    CYP2D6*10アリル保有者の薬物代謝速度定数Kmは50.5 ng/mlであり、一方で非保有者では122.5ng/mlと有意差があり、非保有者で代謝速度が遅く、同じ用量でもパロキセチン血中濃度が高い結果でした。

     

    パロキセチンの有効性は39.1ng/ml以上で期待できるとの報告もあり、CYP2D6*10アリル保有者では、パロキセチンの用量がより高用量で十分な臨床効果がえられる可能性があり、至適用量が20mg以上に位置する可能性があります。

     

    このように患者の個別性にも配慮が必要ということになります。

    しかしおしなべると、SSRIについては、効果用量関係は逆U字型といえるのかもしれません。

    これについては、臨床効果が期待できるセロトニントランスポータの占有率80%を超えると、それ以上の増量に意味がなくなるということを示唆するのではないかとの考察もあります。

     

    SSRIの効果用量関係が逆U字型となる可能性については、古くからそのような報告はありました。

     

    文献3ですが、1996年にはすでにフルボキサミンについて、効果が100mg程度で最大化し、それ以上ではむしろ有効性は減り、副作用は増加する傾向がみてとれるという効果用量関係が報告されています。

     

    また2009年には文献4にあるようにパロキセチンについて、20mg投与で効果不十分な場合に、さらに増量した場合と、維持した場合とで有効性に有意差なく、20mを超えての使用がSPECTで評価したセロトニントランスポータ占有率を増やすことはなかったとの結果が報告されています。

     

    さらにセルトラリンについても、2001年に公表された文献5にあるように、50mg投与3週間での非寛解群を50mg継続と150mg増量とに無作為割付し、その後の経過をみたところ、維持群と増量群とでその後の治療反応率(いずれも約40%)に有意差はなく、増量に治療的意義がないのではないかと考察されています。

     

    さらにセルトラリンについては、近年日本の研究グループにより臨床的に重要なsingle blind studyの結果が報告されたことも忘れてはいけません(文献6)。

     

    このSUN D studyは新規発症の大うつ病患者を対象とした大規模試験であり、実臨床に近い点で大きな意義があります。

     

    2011名が対象となった大規模試験であり、試験は2段階にわけられました。第1段階では最初3週間でセルトラリン50mg(N=970)対セルトラリン100mg(N=1041)の介入試験が行われ、第2段階では寛解群はそのまま継続、3週後に非寛解群が、継続群とミルタザピン併用群とミルタザピン置換群に無作為割付し6週間経過観察されました。

    最終的には8群の比較が行われたことになります。

     

    最終的な結果は、新規発症の大うつ病について、セルトラリン50mgと比較して100mgまで増量して投与することの利益を全体として見出すことはできませんでした。3週後にセルトラリンで寛解しない群については、ミルタザピンとの併用ないし置換により9週後の治療的効果が増大したというものでした。

     

    これまでミルタザピン併用の有効性は比較的規模の大きな2つの介入試験で否定的(文献7)となっていましたが、これらは慢性期で治療抵抗性の患者を対象としたものであり新規発症ではまた話が違うのかもしれません。

     

    さて、前置きが長くなりましたが、今回の本題です。扱う論文は2本あります(いずれも同じ研究者の入ったグループからの報告です)。1本目は文献8、2本目は文献9となります。以下文献8の概略となります。

     

    症状クラスタリングによる抗うつ薬の治療反応性予測

    背景

     

    ・大規模試験におけるうつ病の因子分析により、うつ病の症状尺度は2個から5個程度のクラスターに小分類できることが報告されている。しかし、うつ病の臨床試験では、ほとんどが症状尺度の合計得点の変化を主要評価項目としており、下位尺度の変化まではわからない


    ・多くの患者は初期治療により寛解せず、複数の治療法の試行錯誤により結果的に寛解に至ることが多い。そのため、初期のうちから、患者の呈する症状の特徴から最も適した治療法が選択できるようになると、より患者の予後改善に寄与しうると思われる


    ・これまでにも、薬剤毎に有効性の高い症状を抽出する報告はなされている。例えばSSRIは気分の落ち込みの改善に有効であると言われてきた。また症状をサブグループ毎にまとめて解析を行い、ノルトリプチリンがエスシタロプラムより自律神経症状の改善に有効であり、一方でエスシタロプラムは気分の改善と認知機能の改善により有効であったとの報告がある。


    ・しかしながら従来型の統計解析手法は欠点があり、例えば因子分析は症状のクラスタリングにおいて複雑な組み合わせを生成しうる可能性がある。さらにクラスター数の選択などにおいて解析者のバイアスを受けやすい。


    ・一方で階層的クラスタリングは各症状を1つのクラスタに割り当てる決定論的な方法であり、クラスター数の事前指定が必要ではない点で優れている


    ・今回階層的クラスタリングを用いて、症状のクラスタリングを行い、治療法による反応性の違いを抽出した

     

    対象と方法


    ・STAR*Dの第1ステージ12週間(シタロプラム単剤によるオープン試験):平均罹病期間15.5年で80%が慢性期ないし反復性うつ病。HAM-D17で14点以上


    ・CO-MED試験:平均罹病期間18.7年で78%が反復性うつ病。現在のエピソードが2年以上の患者。HAM-D17で16点以上。エスシタロプラム単剤とエスシタロプラム+ブプロピオン、ベンラファキシン+ミルタザピンの無作為割付single blind比較試験。結果は単剤と併用療法寛解率に有意差なく、ベンラファキシン+ミルタザピンは最も副作用が多いとの結果であった


    ・そのほか、デュロキセチンの7つの介入試験(対プラセボないしactive comparator:パロキセチン、フルオキセチン、エスシタロプラム)を解析対象とした。いずれも8週間。デュロキセチンについては用量40-60mg/dayを低用量、80-120mg/dayを高用量とした


    ・症状評価尺度としてSTAR*DとCO-MEDでは自己記入式のQIDS-SR。その他の試験ではHAM-D17。しかしHAM-Dの“病識欠如”についてはQIDS-SRに対応する項目がないため除外した。また体重減少/食欲不振についての項目も試験毎に評価基準が異なったため除外した


    ・階層的クラスタリングは、各下位尺度の治療に対する反応の類似性によりクラスタリングを行った

    結果


    ・階層的クラスタリングの結果、3つの症状クラスターが区別された。

    QIDS-SRを用いた試験では、睡眠クラスター(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)、中核的感情症状クラスター(気力減退/易疲労感、集中力低下/判断力低下、興味の減退、抑うつ気分、自己の無価値感)、非定型症状クラスター(精神運動焦燥、精神運動制止、希死念慮、過眠、性欲減退、心気症)に分類された。

    HAM-Dを用いた試験では、睡眠クラスター(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、易疲労感)、中核的感情症状クラスター(不安の身体症状、不安の精神症状、罪責感、興味の減退、抑うつ気分)、非定型症状クラスター(性欲減退、精神運動制止、希死念慮、精神運動激越、心気症)

    →コメント:HAM-DとQIDS-SRのクラスタリングで疑問に感じる点はあります(HAM-Dにおいて易疲労感が睡眠に入っていることや、不安の精神症状、不安の身体症状が中核的感情症状に入っており、精神運動制止と性欲減退が非定型症状に入っていることなど。ただし、ただしこれらはあくまで治療に対する反応の類似性からのクラスタリングであり、各クラスターのネーミングの妥当性はそれほど重視すべきものではないのかもしれません)

     

    各クラスターと治療反応性について


    ・どの薬剤においても、中核的感情症状クラスターの改善率は、非定型症状クラスターの改善率よりも有意に高かった。抗うつ薬により、中核的感情症状クラスターはより反応性が高い症状といえる。


    ・一方で非定型症状クラスターでは薬物療法による改善率があまり期待できない症状群であるといえる。


    ・STARDおよびCO-MED試験の解析において、睡眠クラスターについては、ベンラファキシン+ミルタザピン群は、シタロプラム群、エスシタロプラム+ブプロピオン群、エスシタロプラム群より有意に改善率(slope)が高かった。非定型症状クラスターについては、どの群も改善率有意差なし。中核的感情症状クラスターについては、ブプロピオン+エスシタロプラム群はシタロプラム群より有意に改善率が良好であった


    ・デュロキセチンの介入試験についての解析結果では、睡眠クラスターについては、高用量デュロキセチン群は、低用量デュロキセチン、エスシタロプラム、フルオキセチン、プラセボより有意に改善率が良好。パロキセチンはプラセボより有意に改善率が良好

    →コメント:これについてはやや意外な結果でした(鎮静作用の比較的期待できるエスシタロプラムの結果が意外なことと高用量デュロキセチンが睡眠に良いというのも意外でした)

    ・中核的感情症状クラスターについては、高用量デュロキセチンは、低用量デュロキセチン、エスシタロプラム、プラセボより有意に良好。パロキセチンは低用量デュロキセチン、エスシタロプラム、プラセボより有意に良好。

    ・非定型症状クラスターについては、高用量デュロキセチンは、低用量デュロキセチン、エスシタロプラム、フルオキセチン、パロキセチン、プラセボより有意に良好。パロキセチンは低用量デュロキセチン、エスシタロプラム、プラセボより有意に良好。エスシタロプラムはプラセボより有意に不良

    考察


    この論文で最も意外な結果は、高用量(80-120mg)デュロキセチンの効果が最も良好であったことでした。

    抗うつ薬の用量ー効果曲線については、これまでみたとおり、SSRIでは逆U字型のものが多く、高用量では逆に有効性が低下するとの報告が多くなっています。

    しかしSNRIについては、文献1でみたように、ベンラファキシンは、用量増量とともにやや効果は増えていく傾向のようにみてとれました。デュロキセチンも同様の傾向があるのかもしれません。

    ただしデュロキセチンについては、30mgと60mgの効果を比較した介入試験(文献10)で、30mgと60mgとで有意差がなく、用量を増やしても、この結果をみるとあまり臨床的意義はないのではないかと思われる結果もでており、このあたりの解釈には注意を要します。

    日本では60mgを超えて使えないので、あまり実用的な結果ではないのかもしれません。


    結果の一般化にはさらに検証が必要そうな印象です。

     

    続いて文献9の結果の概略にうつります

    症状クラスタリングによる思春期うつ病に対する治療反応性

    背景


    ・思春期うつ病の治療は困難であり、プラセボ反応率が高く、効果量は小さい。最適な治療法の探索は試行錯誤である。どの治療法がどの症状に適しているのかよくわかっていない。


    ・そこで思春期うつ病に対する介入試験(TADS)の結果を用いて、症状クラスタリングによる治療反応性の違いを探索した

    対象と方法


    ・TADSデータベースを使用


    ・TADSは12-17歳の大うつ病(DSM-IV)患者を対象とした介入試験(ステージ1からステージ3まであり、結果は文献11、文献12を参照)


    ・CDRS-Rで45点以上がエントリー


    ・階層的クラスタリングによりCDRS-Rの各尺度を治療反応の類似性によりクラスタリングを行った

     

    結果


    ・階層的クラスタリングの結果、CDRS-Rの下位尺度はクラスター1とクラスター2とにクラスター化された


    ・クラスター1は、睡眠障害、社会的引きこもり、学業の障害、過度の疲労感、焦燥感、自尊感情の低下、楽しみの喪失、抑うつ気分から構成される


    ・クラスター2は、食欲増加、身体症状、過度に泣くこと、食欲減退、罪業感、希死念慮、病的な観念から構成される


    ・全得点については、12週間でTDASステージ1の結果の通り、フルオキセチン+CBT群、フルオキセチン群において良好な改善度を示した


    ・クラスター1については、フルオキセチン+CBT群、フルオキセチン単独群の優位性がより目立つ結果となった


    ・一方でクラスター2については、どの群も同等の変化率を示し、プラセボ群の変化も大きく、プラセボでもよくなりうることを示唆する結果となった


    ・薬物療法の効果が期待できる症状尺度は、クラスター1(睡眠障害、社会的引きこもり、学業の障害、過度の疲労感、焦燥感、自尊感情の低下、楽しみの喪失、抑うつ気分)の合計といえるのかもしれない


    ・思春期うつ病において、食欲に関連した問題や、希死念慮、身体症状などは環境的介入により改善しうるといえるのかもしれない。再現性があるかどうかは今後のさらに研究が必要

     

    以上となります。思春期うつ病の希死念慮については精神療法が重要であるともいえるかもしれません。

    このような治療反応性を元にしたクラスター解析により、また新たな知見が得られるかもしれません。これからの報告も期待されます。

     

    1)Furukawa TA et al. Lancet Psychiatry. 2019 Jul;6(7):601-609.
    2)Saruwatari J. et al. Pharmgenomics Pers Med. 2014 May 28;7:121-7
    3)Walczak DD et al. Ann Clin Psychiatry. 1996 Sep;8(3):139-51.
    4)Ruhé HG et al. Neuropsychopharmacology. 2009 Mar;34(4):999-1010
    5)Schweizer E et al. Int Clin Psychopharmacol. 2001 May;16(3):137-43.
    6)Kato T et al. BMC Med. 2018 Jul 11;16(1):103
    7)Kessler DS et al., BMJ. 2018 Oct 31;363:k4218. doi: 10.1136/bmj.k4218
    8)Chekroud AM et al. JAMA Psychiatry. 2017 Apr 1;74(4):370-378. doi: 10.1001
    9)Bondar J et al. Lancet Psychiatry. 2020 Apr;7(4):337-343
    10)J Clin Psychiatry. 2007 Dec;68(12):1921-30.
    11)JAMA. 2004;292:807-820
    12)Arch Gen Psychiatry. 2007;64(10):1132-1144

  • 症状クラスタリングと治療反応性(1) 2020年04月22日

    どの抗うつ薬がどの症状に効くのか、とても興味のある話題です。


    そんな問いに答えようと計画された解析により、既存の臨床試験結果を解析し、抗うつ薬によりどのような症状が改善しやすいのかについて報告された論文があります。


    今回と次回で、そのような報告をとりあげてみたいと思います(今回はエキスパートコンセンサスについての話題が中心で、目的とする論文にたどり着けませんでした)。


    現在よく使用される抗うつ薬にはSNRI、SSRI、NaSSaなどがあります。


    今年4月1日号のJournal of Affective Disorders誌に抗うつ薬の使用についての日本のエキスパートコンセンサス(114名のエキスパートの回答結果のまとめ)が公表されました1)


    結果の概略ですが、中等度から重度うつ病に対する第1選択薬としては、ミルタザピン、デュロキセチン、エスシタロプラム、ベンラファキシンといった順序になっています。


    また主要症状毎に適応薬剤をみていくと、不安が主な症状の場合には、エスシタロプラムが第1選択、ついでセルトラリン、興味の減退が主な症状の場合には、デュロキセチン、ベンラファキシンといったSNRIが第1選択、不眠が主な症状の場合には、ミルタザピンが第1選択、食欲減退が主な症状の場合には、ミルタザピンが第1選択、焦燥感(精神運動激越)、易刺激性が主な症状の場合には、ミルタザピンが第1選択、希死念慮が主な症状の場合にはミルタザピンが第1選択となっていました。


    皆さんの臨床的実感と一致するでしょうか。これはエキスパートコンセンサスですので、エビデンスとはいえないものです。


    このような薬剤選択の根拠は何でしょうか?


    手元にある範囲で、いくつかの比較試験やメタ解析の結果をみながら、各薬剤の特徴について振り返ってみたいと思います。


    まずはミルタザピンです。2010年に急性期うつ病に対するミルタザピンとSSRIの有効性を比較した15の介入試験のindividual patient dataによるメタ解析結果が公表されました2)。HAM-D17得点の変化でSSRI全体(フルオキセチン N=411、パロキセチン N=391、セルトラリン N=290、フルボキサミン N=199、シタロプラム N=139)とミルタザピン N=1484が比較されました。


    その結果、6週間での脱落率はミルタザピン 31.3%、SSRI 27.8%であり、忍容性に大差なく、寛解率(HAM-D17得点が7点以下で定義)でみた有効性については、1週目(3.4% vs 1.6%)、2週目(13.0% vs 7.8%)、4週目(33.1% vs 25.1%)、6週目(43.4% vs 37.5%)のいずれもSSRIより有意に高い寛解率を示しました。

    ミルタザピンはSSRIよりも効果の立ち上がりが速い(最初の2週間ではSSRIよりも74%大きな寛解率を示した)ということができそうで、このことは2011年のCochrane reviewにおいても支持されています3)

    個別のSSRIとの比較については、2018年のネットワークメタ解析でのhead-to-headの介入試験のみでの解析結果を参考にすると4)(supplementary materialのセクション8.1.1参照)、フルオキセチンとフルボキサミンに対して反応性が有意に良好との結果になっています。

    対SSRIでの文献2での6週時点での有意差はこの2剤との比較試験の結果にひきずられたのかもしれません。


    というわけで、ミルタザピンは治療効果の発現が速そうだという印象です(単に鎮静がかかってHAM-D得点の一部がよくなったせいじゃないかと思っていた時期もありましたが、文献2のように寛解率を尺度にしても速いので、単にそれだけではないのかもしれません)。


    また焦燥感(精神運動激越)、易刺激性についてですが、不安を伴う大うつ病に対するミルタザピンの有効性に関するメタ解析5)において、HAM-Dの項目9(精神運動激越)、項目10(不安の精神症状)、項目11(不安の身体症状)の合計点において、プラセボよりも有意に良好な改善度を示し、その効果はアミトリプチリンと有意差がなかったとの結果が報告されています。

    SSRIなどと比較したものは見当たらない(ご存じでしたら教えてください)のですが、鎮静作用を有することからも、焦燥感への効果を期待してというところかもしれません。


    続いて鎮静作用とも関連するのですが、不眠を伴う場合もエキスパートコンセンサスではミルタザピンが第1選択となりました。

    不眠に対するミルタザピンの効果ですが、ミルタザピンのS体のみからなるエスミルタザピンの原発性不眠症に対する第2相試験の結果が報告6)されており、エスミルタザピン1.5mg以上の用量(ミルタザピンでは3mgの低用量)において、PSGによる総睡眠時間が25分以上延長し、睡眠の質も改善されたことが報告されています。

    この鎮静作用については、用量依存性に軽減する可能性も報告されており7)、ほんとかどうかわかりませんが、文献7では高用量になるとミルタザピンのノルアドレナリン賦活作用が、抗ヒスタミン作用に拮抗する可能性も考察されています(そうではなくて単なる耐性かもしれません。投与初期には問題があっても、15mgの固定用量で8日間投与を継続すると運転パフォーマンスはプラセボと有意差がなくなるという報告9)もあります)。


    ただし、ミルタザピンは半減期が23-33時間と長く、健常者への午後9時半15mg単回投与でも投与2日目の翌朝7時でのドライブシミュレータ試験でブレーキングの遅延がみられたなどの報告8)があり、特に投与開始初期に運転などへの影響がありうることに注意が必要です。


    というわけで、確かに不眠を伴う場合にはいいのかもしれませんが注意を要します。


    さらに食欲減退を伴う場合もミルタザピンが第1選択となりました。

    これについては、抗うつ薬と体重増加に関するメタ解析10)の結果がわかりやすいのではないかと思います。

    116の試験のメタ解析結果で、投与開始初期(4-12週)と4か月以上の維持療法期とで抗うつ薬がどの程度体重増加をもたらすかを検討したものです。

    短期的投与では多くのSSRI、SNRIが体重変化なし、むしろ減少することが多いのに対し、ミルタザピンの体重増加作用はアミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬と並んで目立っています(4-12週間の投与で2kgくらい増える結果)。

    さらに8か月以上の投与期間でみても有意な体重増加効果があることが報告されています。

    この報告でもう1つ面白いのは、SSRIの体重変化です。投与開始4-12週では体重が全体としては減るのに対して、投与期間が長くなると、全てではありませんが、パロキセチンなど一部のSSRIも有意な体重増加を示しているところです。

    セルトラリンなどは長期使用しても増えないようですが、これは臨床経験とも一致する結果です。


    というわけで、食欲減退についてもミルタザピンが第1選択となるのはよくわかるところです。


    希死念慮についてもミルタザピンが第1選択となりました。

    これは難しいところで、臨床試験では、希死念慮の重篤なケースは除外することがほとんどなので、本当にシビアなケースに適応できる結果なのかは慎重を要するところです。

    例えば文献11)のような報告があり、大半がベースラインのHAM-D項目3の自殺尺度が2点以下の患者を対象とした15の短期(6週間)プラセボ対照比較試験のpooled analysisにより、HAM-D項目3の得点は2週目から有意差をもってミルタザピンが有意に良好であるとの結果でした。

    また6週間の経過中HAM-D項目3の得点が3点以上になる割合も2週目以降ミルタザピン群でプラセボ群より低く、そのオッズ比は0.38と有意に低い結果でした。

    一方で希死念慮が比較的重度といってもよいHAM-D項目3の得点がベースラインで3点以上の患者についての結果も、少数ながら解析されています。

    全体でミルタザピン群35名、プラセボ群44名がエントリーされており、項目3が3点以上であり続けた割合は、1週目 38.9%(プラセボ群)対41.2(ミルタザピン群)、2週目 22.2%対6.5%、3週目 9.4%対6.5%、4週目 5.9%対0.0%、5週目 3.6%対0.0%などとなっていました。

    症例数が少ないため、統計的有意差はでなかったそうですが、興味深い結果といえます。

    ただし、このようなミルタザピンの結果については、臨床試験に参加した純粋な患者集団(併存症などのない)に対する結果であることに注意が必要です。

    我々が向き合うリアルワールドでは、こうはいきません。文献13にあるように、高齢者を対象とした長期観察研究では、ミルタザピンは自殺企図率の最も高かった抗うつ薬となっています。なぜこのような結果になったかについてですが、これが観察研究ゆえ、自殺リスクの高い患者に対してミルタザピンが多く処方された結果ともいえます。そして結果的に防げなかった症例がカウントされているとも考えられます。

    リアルワールドでは、臨床試験と異なり、アルコール依存やパーソナリティ障害、bipolarityなど様々な併存症や病態を有する患者が訪れます。そのような個々の患者の希死念慮とどう向き合うかは、単純な臨床試験の結果を超えた力量が必要となります。


    続いて、興味の減退で選ばれた、デュロキセチン、ベンラファキシンです。

    SNRIが選ばれました。この結果について思い浮かぶのは文献12です。


    デュロキセチンについての大うつ病を対象とした7つの介入試験(プラセボ対照、ないしSSRI対照)のpooled analysisです。SSRIと比較してHAM-Dの下位尺度のどの項目がデュロキセチンでは良好な治療効果が見込めるかということを解析したものです。


    デュロキセチンとプラセボと有意差がみられ、SSRIとプラセボの有意差がでなかった項目は、精神運動激越, 全身の身体症状, 性的関心, 心気症の4項目でした。

    またデュロキセチンがSSRIより有意に改善したのは、仕事と活動, 精神運動制止,性的関心,心気症の4項目でした。

    確かに興味の減退によさそうな感じです。


    というわけで、今回のエキスパートコンセンサスの結果を受けてざっと自分なりにこれまでの報告を概観してみました。

    もっといい報告があるかもしれません。ありましたら教えていただきたいです。


    今回の本題の症状クラスタリングの論文には到達できませんでしたが、これらの事項を踏まえて、次回の勉強会の記事で症状クラスタリングの論文をみてみたいと思います。

    1)Sakurai H. et al. J Affect Disord. 2020 Apr 1;266:626-632.
    2)Int Clin Psychopharmacol. 2010 Jul;25(4):189-98.
    3)Watanabe N et al. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Dec 7;(12):CD006528
    4)Lancet. 2018 Feb 20. pii: S0140-6736(17)32802-7
    5)Fawcett J et al. J Clin Psychiatry. 1998 Mar;59(3):123-7
    6)Ruwe F et al. J Clin Psychopharmacol. 2016 Oct;36(5):457-64
    7)Fawcett J et al. J Affect Disord 51 (1998) 267 –285 277
    8)Ridout F. Hum Psychopharmacol. 2003 Jun;18(4):261-9.
    9)Sasada K et al. Hum Psychopharmacol. 2013 May;28(3):281-6
    10)Serretti A et al. J Clin Psychiatry. 2010 Oct;71(10):1259-72.
    11)Kasper S et al. World J Biol Psychiatry. 2010 Feb;11(1):36-44
    12)Mallinckrodt CH et al. Neuropsychobiology. 2007;56(2-3):73-85
    13)Carol Coupland et al. BMJ 2011;343:d4551 doi: 10.1136/bmj.d4551

     

  • COVID-19パンデミックと精神医療

    今回は、COVID-19パンデミックにおいて精神医療ができること、注意すべきことなどについて、おそらく現段階でアクセス可能な無料記事が比較的充実していると思われる、The Journal of Clinical PsychiatryのCommentaryより、重要と思われる情報を抜粋し、備忘録も兼ねてまとめておきたいと思います。

     

    まず最初は、イタリア シエナ大学医学部のDr.Andrea Fagloliniらによる報告です1)

    シエナ大学は中央イタリア、ピサの斜塔などで有名なトスカーナ州に位置しています。

    トスカーナ州の州都はフィレンツェです。

    人口374万人強(2011年)のトスカーナ州に、4月15日現在で7666名(うち死亡556名)のCOVID-19陽性患者が確認されています。

    人口比で島根県に置き換えると千数百名の患者が発生した状況に該当しますので、収容可能なベット数をはるかに超える患者数となっています(島根県でも同様の状況を早めに想定して、もしもの場合のためにホテルなど収容施設を県で確保してもらっておいたほうがいいのではないでしょうか)。

    また非常事態において全従業員にマスクと同様にゴーグルも装着するようにしたことが記載されており、参考にしようと思います。

    ちなみにイタリアでは4月15日現在1日あたり2500名を超える新規感染患者が報告され、500名以上の死者数が報告されていますが、新規患者数はピーク時の半分以下の数値となっており、緩やかにではありますが減少しているようです。


    Fagloliniらによる報告では地域の中核機能を担う総合病院精神科において、何が起き、何をしてきたのか、現在までの経過がレポートされています。その概略は以下のようになります。

    Dr.Andrea Fagloliniらによる報告


    ”COVID-19 Diary From a Psychiatry Department in Italy”

    1月31日にローマで最初の3名の患者が発生した時には、まだシエナからは遠い場所での出来事と感じていました。


    しかし2月中旬以降ロンバルディア州において急速に感染者数の増加が確認され始めてからは、状況が急変しました。3月22日までで4826名の医療従事者が感染しており、感染者数全体の9%が医療従事者でした。


    これほどの状況の深刻さ、急速な感染拡大についてはほとんど想像していた人はいませんでした。


    精神科についても、対応を速やかに行い、90%以上の外来診療が遠隔診療(ほとんどが電話)に切り替えられました。

    通常の外来診療と同じだけの時間を電話診療に費やしました。

    WhatsAppやFaceTimeなどのアプリを使用可能な患者については、これらアプリを使用したビデオ診療も十分に機能し、電話よりも効果的でした。

    一部の重症患者のみ、対面での診療が行われました。


    マスクは乏しく、ゴーグルも無かったため、素材や滅菌の方法も含めて自作のマスク作成法についての情報を共有し(安全性は低下するものの、何もしないよりもよいだろうということで)、正規のマスクやゴーグルが入手可能になるまで、全従業員に少なくとも眼鏡ないし眼鏡がない場合にはサングラス、および自作のマスクを着用するように推奨しました。


    会議については、すべてビデオ通話に変更され、外来についても椅子の間隔を離すなどして、人が話している場合は少なくとも2m、くしゃみや咳をしている場合は少なくとも3m、呼吸をしているだけの場合は少なくとも1.5mの距離がとれるようにされました。


    精神科の入院患者も制限され、必要最低限、絶対必要な入院に限定されました。


    大学病院は、救急部とすべての入院病棟を2つの主要なエリアに分割することを決定しました。

    COVIDエリアとNon-COVIDエリアで、病院内の異なる別々のエリアに配置されました。

    精神科はnon-COVIDエリアでしたが、COVID陽性の精神疾患患者が入院した場合には、COVIDエリアに入院し、感染予防と管理のために職員を再教育し、リエゾンで対処しました。


    北イタリアで、トスカーナ州よりもさらに感染状況が深刻な地域では、COVID陽性の精神疾患患者を、精神病棟に入院させる場合もあるようです。

    そのような患者は通常、身体症状よりも精神症状がより重篤なケースになります。


    一般的には、多くのCOVID陽性の精神疾患患者については、遠隔医療により自宅での精神疾患治療を行っています。


    入院患者でCOVID陽性の場合には、COVIDエリアに入院していますが、精神症状が重篤で、暴力的行動が顕著な場合には、COVIDエリアに保護室を設けて、そこで処遇しています。

    患者数が増加しているため、COVIDエリアの保護室が利用できない状況に備え、精神科病棟内の比較的大きな部屋をCOVID陽性患者のための保護室として使用できるように準備をしています。


    精神科以外の部署の同僚たちは並外れた業務量と心理的負荷に直面しています。

    そのうち何人かは不安や疲弊状態、無力感に陥り、精神的な健康が損なわれています。この状況を打開するため、私たちは個別の心理的サポートを提供するプログラムを開始しました。


    特にCOVIDエリアで勤務する医療従事者を対象に、業務のシフト終了時にWhatsAppで提供されるビデオセッションを通じて、心理的サポートプログラムが提供されています。


    一部の同僚は不眠や不安を発症し、時にそれが警告症状やパニックに発展する場合もあり、さらに退職という選択肢をとる人もいました。

    そのような心理状態は、より合理的でない行動(マスク、ゴーグル、ガウンを着用しているときに注意を払わないなど)に結びついたり、ストレスにより生体の防御能を低下させうることを考えると、大きな苦痛であり危険でもあります。

    このプログラムは、同僚たちがストレスを管理し、できるだけ多くの心理社会的健康を取り戻すことを支援する目的で行われています。


    また、今後、より多くの医療従事者を支援することを目的としたグループプログラムを開始しようとしています。

    これは、コミュニケーションを促進し、話し、経験を共有し、仕事の終わりに恐怖や希望を表現することを目的としたものです。

    病院で働く人たちは、マスクと防護服を着用したまま長時間病院内で過ごし、時には他人(同僚を含む)を感染源の可能性があると見なしていることもあります。

    仕事が終わったら、イタリア国民全員が自宅で過ごすことが義務づけられているため、家に帰る以外の選択肢はありません。

    そのため、仕事の終わりには、自宅にいながら、インターネットを介して、グループで社会的な接触を提供することの利益があると考えられます。遠隔通話により、経験を共有し、お互いを慰め合う場を提供することは、特に家に誰もいない人たちにとって有益であると考えています。

     

    以上Dr.Andrea Fagloliniらによる報告でした


    危機的状況において、他の部署の同僚を心理的に支援するための機能としての精神科医療の必要性がわかります。

     

    続いて、ワシントン大学医学部のDr. Ginger E. Nicolらによる、COVID-19パンデミックと精神医療についての総論的な解説2)になります。いくつかのポイントをかいつまんで引用します


    Dr.Ginger E. Nocolらによる解説です。


    "What Were You Before the War?"
    Repurposing Psychiatry During the COVID-19 Pandemic.

     

    パンデミックの心理的影響

     

    不確実な状況や恐怖に長期間暴露されることは、メンタルヘルスに永続的な負の影響を及ぼしえます。


    2013年にPublic Health Preparedness誌に”Posttraumatic Stress Disorder in Parents and Youth After Health-Related Disasters”との論文が掲載されました3)


    驚くべきことに、この論文のintroductionに現在の状況が予測されています。”専門家は来世紀中には、1800万人から1億人が罹患し、89000人から20万7千人が死亡するパンデミックが起きることを予測している”とあります(現段階での死者は世界中で13万人以上とされています)。来世紀どころか論文がでてから7年後にパンデミックが生じてしまいました。


    パンデミックの災害としての特徴は、他の多くの自然災害と異なり(被災者が集合する)、被災者の分離、隔離、検疫を要する点です。

    そのため家族は引き離され、特に子供に対する影響に注意する必要があります。

    カナダでのSARS流行後のPTSDの発生率は自然災害やテロと同程度(28.9%)であることが報告されています。

    2009年のH1N1インフルエンザ流行における流行地域ないし2003年のSARS流行地域に在住していた398名の保護者へのアンケート調査(PCL-Cを用いて親のトラウマを測定し、PTSD-RIを用いて、親の報告により子供のトラウマ症状を測定した)により、隔離などを経験した親の25%がPTSDのリスクがあるとされ(非隔離経験者は7%)、隔離を経験した子の30%がPTSDリスクがあるとされました(非隔離では1.1%)。


    このことはパンデミックに伴う隔離によるストレスによる親と子供に与える長期的影響を避けるため、コミュニケーションを促進するような迅速な介入が必要であることを示唆する結果といえます。

     

    研究的視点の重要性

     

    同時に重要な着眼点として、パンデミックの脅威とその精神衛生への影響を後世のために記録する義務があります。

    具体的には精神疾患を有する人々はどのように対処しているのか?孤立、不確実性、必要なケアへのアクセスの欠如に対して、どのような反応を示しているのか?どのような戦略が機能しているのか?などの観点からの研究に取り組む必要があります。

     

    治療薬の探索と向精神薬

     

    最近のCOVID-19関連基礎研究では、69種類のFDA承認薬が、治療薬候補として報告されており5)、そのうちのいくつかは向精神薬に属します。


    例えば、COVID-19に関連した肺および心臓の損傷はサイトカインストーム6)に起因していると言われており、免疫反応を最小限に抑える治療法が探索されています。


    抗うつ薬の一部は、シグマ-1受容体(S1R)アゴニストとして作用し、S1Rの活性化は細胞ストレスを緩和し(小胞体ストレスセンサーであるIRE1の活性を阻害することで)、サイトカインの発現を抑制するといわれています。S1Rアゴニストは齧歯類では心保護作用があり、炎症反応を抑制し、敗血症動物モデルでは生存率を高めています。(S1Rアゴニストとしてはフルボキサミンやアミトリプチリンなどでしょうが、私個人的には、細胞内レセプターであるS1Rと抗うつ薬との関連性において、現実的な治療的有効性についてはとても懐疑的な立場です)

     

    さらに、マウントサイナイ医科大学のDr. Joseph F. Goldbergは、”Psychiatry's Niche Role in the COVID-19 Pandemic”と題し4)、精神科医の役割について解説しています

     

    Psychiatry's Niche Role in the COVID-19 Pandemic

     

    アメリカでは多くの州や施設が、地域社会でパンデミックに関連した苦痛を感じている人のために、電話により精神保健の専門家にボランティアでサービスを提供するよう求めています。


    カウンセリングサービスを提供する精神科医は、純粋なカウンセリング(主に能動的で共感的な傾聴によって定義される)とは別に、以下のような点に注意する必要があります。


    (1)安全性のリスクと危険因子の評価(例えば、独居、経済的問題などの存在など)。ただし遠隔診療においては、アルコールやベンゾジアゼピンなどの使用障害についてのアセスメントが困難である問題がある


    (2)病的水準の精神病理と非病理的レベルの苦痛の鑑別を行うこと。過去の病歴から現在再発し、より正式な介入を必要としている可能性があるかどうかの確認を行う。正常な不安状態(了解可能な範疇で無力化していない状態)と病的な不安状態(麻痺、非生産的な状態、無力化した状態など)を鑑別する。大きな人生の激変の後の「うつ病」については、悔しさやフラストレーションなどの情動変化を伴う場合よりも、無気力や絶望、失感情を伴う場合は、病的水準が高い可能性に注意する必要がある。


    (3)外傷的出来事への暴露が将来の心的外傷後ストレス障害の素因となる可能性が高いかどうかを判断する。


    (4)不眠症や不安感など、あまり病的ではない苦痛を伴う症状に対して、短期的な薬物療法が適切であるかどうかを判断する。

     

    クライシスワークの基本的な治療の焦点は、


    (a) 電話での支援、教育、スキルの提供を行う。適切な場合には的を絞った薬物療法を提供することで、人々の当面の身体的・情緒的苦痛を管理すること。


    (b) 目に見える問題により良く対処し、解決するための戦略を考案し、実行することを支援すること


    となります。

     

    危機による「苦痛」には、一般的に不安、焦燥感、不眠、先入観、悲しみ、健康の喪失の恐れ、および孤立、孤独感が伴います。


    身体的苦痛と自律神経亢進を軽減するための行動戦略には、リラクゼーションのテクニック、瞑想とマインドフルネス、運動、ヨガ、スピリチュアルな活動、(仮想的な)グループベースの支援などがあります。


    具体的な問題解決の努力には、適応的な対処スキルを向上させ、日々の生活構造を維持すること、社会的な距離が離れている中で社会的孤立を最小限に抑えるためにインターネットの創造的な利用法を見つけること、育児、家庭教育、財政管理について戦略を練ること、不適応な対処スキル(例えば、悪い衝動の制御、物質使用や行動依存症、自傷行為、セルフケアの喪失)に対処することが含まれます

     

    力動的見地からは、ストレスや恐怖により一部の人において退行が生じ、好訴的となったり、様々な権利の要求を起こしやすくなることに注意が必要です。(未熟な防衛機制が発動しやすくなるということですね。お店で執拗に攻撃的に店員さんにマスクを求めたりする一部の人の心理はこれでしょうか)

     

    最後に第1線で働く同僚の健康に対するリエゾン活動。および精神科医自身のセルフケアの重要性について触れ締めくくられています。

     

    この論文でも触れてありましたが、隔離下においてはアルコールに関する問題には注意したいものです。しかし遠隔医療では、この問題への介入がより困難となることもまた課題です。

     

    1)Fagiolini A et al. J Clin Psychiatry. 2020 Mar 31;81(3). pii: 20com13357.
    2)Nicol GE et al. J Clin Psychiatry. 2020 Apr 7;81(3). pii: 20com13373
    3)Sprang G et al. Disaster Med Public Health Prep. 2013;7(1):105-110
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