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メタ解析に思うこと
2020年05月12日
メタ解析といえば教科書的にはエビデンスの上位に位置するものとなりますが、解析対象となった論文の内容によっては、必ずしもそうではないものとなりうることに注意が必要な実例がいくつもありますので、とりあげてみたいと思います。
今回の記事を書くきっかけになった論文は2020年5月15日付のJournal of affective disorders誌に掲載された「Comparative efficacy and tolerability of pharmacological treatments for the treatment of acute bipolar depression: A systematic review and network meta-analysis」(文献1)となります。
私の知る限り、クエチアピン3)やルラシドン4)など特定の薬剤に着目したもの以外では、2014年に報告されたbipolar depressionのネットワークメタ解析(文献2)以来、6年ぶりのbipolar depression急性期に対する薬物療法のネットワークメタ解析の論文になります.
ネットワークメタ解析自体、結果のrobustnessという点で脆弱性を感じます。
MANGA study9)が報告されたころに、自分でWinBUGSを導入して手元にあった介入試験でネットワークメタ解析をしてみましたが、1つ論文が入るのとないのとで結果がコロコロ変わってしまってとまどった記憶があります。
publication biasの影響をとても受けやすい解析手法とはいえると思います。実際にそのような脆弱性を指摘した論文もあります(文献5)。
ネットワークメタ解析は、バイアスに対する脆弱性の高い解析手法として注意を要します。
また初期のころにはrankingといっておそらく統計の専門家なら疑問を感じるであろう有意差なき順位付けをしていた点で、違和感を感じてしまうこともあったのですが、とても流行っているので、とりあえずみてみようということになります。
今回の報告の新しい点は、これまでのbipolar depressionに対するメタ解析では気分安定薬や抗精神病薬などについては解析対象となっていたが、抗うつ薬も含めての薬剤毎の報告はなされてこなかったので、各抗うつ薬を含めて解析してみたということです(結果的にこれが落とし穴になってしまったのですが)
以下結果の概略です
方法と対象
Pubmed,Embaseなど主要な文献データベースの他、trial registerやICTRP(WHO’s International Clinical Trials Registry Platform)などを用いて非公表の結果も探索した
双極性うつ病急性期(DSM-IIIからDSM-5、ICD-10)に対する単剤療法(Olanzapine/fluoxetine合剤を除いて)の二重盲検無作為割付試験(プラセボ対照ないし実薬対照)
有効性についてはMADRSやHAM-Dなどの評価尺度が50%改善した割合(反応率)
忍容性については完遂率で評価(あらゆる理由による中断)
50 RCTを解析:抗精神病薬(クエチアピン、ジプラシドン、オランザピン、アリピプラゾール、カリプラジン、ルラシドン)、抗うつ薬(イミプラミン、tranylcypromine、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、モクロベミド、エスシタロプラム、ベンラファキシンフェネルジン、クロミプラミン、フルボキサミン、イダゾキサン、ブプロピオン)、気分安定薬(divalproex、ラモトリギン、カルバマゼピン、ガバペンチン、リチウム、合剤(オランザピン/フルオキセチン合剤))N=7528、プラセボ N=3920
方法:ネットワークメタ解析結果
有効性について、対プラセボで有意差があったのはtranylcypromine(対プラセボの反応率のOR 16.87 ,95%CI 4.52;62.91)、ベンラファキシン(OR 5.13 ,95%CI 2.23;11.83)、フルオキセチン(OR 3.76 ,95%CI 1.59;8.92)、divalproex(OR 2.94 ,95%CI 1.33;6.46)、イミプラミン(OR 2.87 ,95%CI 1.31;6.32)、オランザピン/フルオキセチン合剤(OR 2.57 ,95%CI 1.93;3.41)、ルラシドン(OR 2.53 ,95%CI 1.88;3.39)、クエチアピン(OR 1.87 ,95%CI 1.62;2.17)、カリプラジン(OR 1.58 ,95%CI 1.19;2.08)、ラモトリギン(OR 1.53,95%CI 1.23;1.90)、オランザピン(OR 1.49,95%CI 1.19;1.86)の順番であった。CANMATの最新のガイドライン20186)の推奨する、クエチアピン、ルラシドン、リチウム、ラモトリギン(以上第1選択)、divalproex、カリプラジン、OFC(以上第2選択)に近い結果となった(リチウムはnegativeだったが)
一方で、エスシタロプラム、カルバマゼピン、セルトラリン、リチウム、パロキセチン、アリピプラゾール、ガバペンチンなどは単剤では双極うつ病急性期にプラセボに対する明らかな優位性は確認できなかった
忍容性についてはアリピプラゾールのみプラセボと比較して有意に脱落が多い結果となった。ベンラファキシン、tranylcypromineはプラセボよりも脱落率が有意に低かった。
治療誘発性の躁転リスクについては、クエチアピンのみプラセボよりも有意にリスクを低下させるとの結果(OR=0.55)であったコメント
ルラシドンはOFCに近くなかなかいい印象なので、3月25日に発売されたラツーダは期待できそうです。(5月24日追記:発売されたじゃなくて発売承認されたの間違いでした。発売日は6月11日とのことです)
ここからは問題点の指摘になります。ベンラファキシンとフルオキセチンのORが良好な数値になっており、対プラセボでも有意にbipolar depressionの改善に有効であるかのようにみえていますが、実はこの結果は、ペンシルベニア大学のAmsterdamグループ単独の報告(例えば文献7、文献8)です。
このグループが主張し続けてきたのは、bipolar II depressionにおいては抗うつ薬単独であっても、躁転リスクはリチウムなどと変わらず、治療効果は良好ですよという主張であり、2000年前後くらいからずーっと一貫して主張し続けてこられたことなのです。
bipolar Iは含まないというのがポイントで、このグループはbipolar II depressionに限っては、抗うつ薬単独でも安全で有効ですよということをがんばって訴え続けておられるのです(おそらく世界的に広くは受け入れられてはいませんが)。
なので、今回のメタ解析のように、bipolar depressionとしてIもIIも一括りにしてしまうと、amsterdamグループの主張とは別の解釈が独り歩きしてしまい誤った解釈がなされてしまう危険すらあります。なので専攻医の皆さんは、メタ解析の結果だけをみるのではなく、必ずある程度はどのような文献が解析対象となったのか、目を通すようにしてみてください。
他にもネットワークメタ解析が変な結果を生み出した実例はあるのですが、ここでは割愛します。ひとえにメタ解析といっても、いろんな質のものがあるので注意してみることが必要です。
引用文献
1)Bahji A et al. J Affect Disord. 2020 May 15;269:154-184. doi: 10.1016
2)Taylor DM et al. Acta Psychiatr Scand. 2014 Dec;130(6):452-69
3)Kishi T et al. J Psychiatr Res. 2019 Aug;115:121-128. doi: 10.1016
4)Ostacher M, et al, World J Biol Psychiatry. 2018 Dec;19(8):586-601. doi: 10.1080
5)Trinquart L et al. PLoS One. 2012;7(4):e35219. doi: 10.137
6)Yatham LN et al. Bipolar Disord. 2018 Mar;20(2):97-170. doi: 10.1111
7)Amsterdam, JD,et al. Am. J. Psychiatry2010 Jul;167 (7), 792–800.
8)Amsterdam, JD J. Clin. Psychopharmacol.1998.;18 (5), 414‐417.
9)Cipriani A et al. Lancet. 2009 Feb 28;373(9665):746-58. -
SEP-363856とTAAR1アゴニスト作用
2020年05月08日
4月16日付のThe New England journal of medicine誌に「A Non-D2-Receptor-Binding Drug for the Treatment of Schizophrenia.」という論文が掲載されて、Non-D2か、なんだクロザピンのことか?と思ったら、まだ名前もついていない新規化合物(SEP-363856)の第2相試験の結果で、しかもよくわからない受容体がでてきたのでちょっと調べてみました。
よくわからない受容体というのは、TAAR1(trace amine-associated receptor 1)というもので、普段は細胞内にいたり、細胞膜に出てきてD2受容体と同時局在化したりしているそうです。
TAAR1のアゴニストというのが、trace aminesというものらしく、まずはそこからwikipediaなどで調べてみました。
trace aminesとは
モノアミン神経伝達物質に構造的に類似しているが、典型的なモノアミンと比較して、生体内での濃度が低いことが特徴で、TAAR1(trace amine-associated receptor 1)アゴニストとして機能する。
中枢神経におけるtrace aminesの生合成経路としては、チロシンからAADCによりtrace aminesの一種であるp-Tyramineが合成され、p-TyramineからはCYP酵素によりドパミンが合成される。ドパミンからはCOMTを介してtrace aminesの一種である3-Methoxytyramineが合成される。
生体内では中枢神経、末梢神経に分布している。
trace amineはモノアミン神経系におけるシナプス間隙におけるモノアミン神経伝達物質の量を制御する役割を有している。TAAR1(trace amine-associated receptor 1)とそのアゴニストの機能について
TAAR1(trace amine-associated receptor 1)はG蛋白共役型の細胞内受容体で、胃や小腸などに分布する他、中枢神経のモノアミン神経系のシナプス前終末内に分布しており、神経伝達物質の放出を調節する機能を有する。
(ここからは文献1からの引用となります)
アンフェタミンはTAAR1活性化作用を有する。
ノルエピネフリン、セロトニン、ヒスタミンはすべてTAAR1の部分アゴニストであり、ドパミンはTAAR1に親和性の高いアゴニストである(ドパミン過剰で自身の発火頻度を低下させる自己調節作用のように機能するのでしょうか。多分選択性が低いので、通常はそこまでTAAR1を介した作用は目立たないのでしょう)
中枢神経におけるTAAR1は辺縁系とアミン系において豊富に発現しており、腹側被蓋野/黒質ドパミン系と背側縫線核セロトニン系の投射先に一致している。これら神経伝達物質の活動性を制御するのに適した配置となっている。
TAAR1欠損マウスにおいては、ドパミン神経およびセロトニン神経の発火頻度が顕著に亢進しており、TAAR1活性化はモノアミン神経伝達をダウンレギュレートすることを示唆している。2004年にTAAR1の強力なアゴニストとして発見されたT1AMは動物モデルでの実験で、低用量では食行動減少、高用量では摂食行動の増加、一方で視床前野への投与で覚醒度の増加、NREM睡眠の減少などが観察された(これら作用はアドレナリン作動性およびヒスタミン作動性の調節によるものと推測された)。
またT1AMは学習促進効果も観察されている(これについてはヒスタミン神経系を介することを示唆する報告がある)。
TAAR1とドパミン系との関連については、TAAR1をノックアウトしたマウスでは、野生型のマウスと比較して運動機能、行動テストでは変化がないものの、アンフェタミンやMDMA投与後の運動量増加は野生型よりも多く、これら薬物への感受性亢進を示した。
一方TAAR1アゴニストは、アンフェタミン誘発性の運動亢進を抑制し、コカイン投与後の運動増加に対するオランザピン投与による抑制作用を増強した。
このことはTAAR1がドパミン作動性神経伝達を調節していることを示唆するものである。NMDA受容体拮抗薬もまた運動を増加させるが、この多動性は抗精神病薬によって抑制される。
ドーパミン作動性精神刺激薬と同様に、TAAR1アゴニストはNMDA受容体拮抗薬であるフェンサイクリジンによって誘発された過活動を抑制した。TAAR1のグルタミン酸神経系への影響を示唆するものである。
TAAR1アゴニストは、ラットにおいてPCP反復投与によって誘発された実行機能障害を完全に逆転させた。統合失調症の認知機能障害に対しても有効な可能性があるADHDの病態とドパミントランスポータ(DAT)の機能不全との関連が報告されている。
DATノックアウトマウスはADHDモデルマウスとして知られている。TAAR1アゴニスト投与はDATノックアウトマウスの多動性を改善することが報告されており、ADHDモデルマウスに対するメチルフェニデート類似作用を有する。
一方でTAAR1の欠損は、前頭前野におけるグルタミン酸伝達欠乏に関連する固執性と衝動性亢進と関連することが示されている。
TAAR1アゴニストは、強迫行為の動物モデルである、スケジュール誘発性多飲行動を抑制した。
強迫性障害とTAAR1の関連性を示唆するものであり、OCD治療に対する可能性も期待されている。
TAAR1部分アゴニストにおいては、ラットの強制水泳テストにおいて抗うつ薬類似作用を示し、ストレス誘発性高体温テストにおいて抗不安作用を示唆する効果をみせた。これら効果は部分アゴニストにおいてのみ観察された。
TAAR1部分アゴニストは動物モデルにおいてコカインの嗜癖行動を減少させ、依存症治療にも有望な可能性が示されている。
またTAAR1活性化は、覚醒剤により誘導される報酬と動機付けのプロセスを制御していることがわかっており、動物実験では覚醒剤を求める嗜癖行動を減少させることが示されている。TAAR1と睡眠覚醒リズムとの関連も報告されており、TAAR1過剰発現マウスでは覚醒亢進が、TAAR1ノックアウトマウスでは覚醒度の低下とNREM睡眠増加が報告されている。
TAAR1過剰発現はまた、青班核ノルアドレナリン作動性神経と腹側被蓋野のGABA作動性ニューロンの発火を増加させ、これらはいずれも覚醒促進と関連している。
これらのことよりTAAR1アゴニストはナルコレプシー治療にも適応できるのではないかと期待されている。
(ここまで文献1からの引用)
以上のように、TAAR1は中枢神経でいろいろな役割を果たしており、TAAR1アゴニストが基礎実験レベルで様々な精神疾患に対しても有効性が期待できることがわかりました。
続いて、今回の主役である、SEP-363856について、文献2で調べてみました。以下文献2からの引用となります。ただし、動物実験の細かいところはよくわからないため割愛しています。
SEP-363856について1950年代のクロルプロマジンの発見以来、多くの新規抗精神病薬が上市されてきたが、ほぼ同様な作用機序であり、D2受容体遮断やセロトニン2A受容体遮断を介した陽性症状の改善をターゲットとしてきた(セロトニン2A遮断が陽性症状の改善に寄与しているかどうかについては、あまり単純な話ではないため、ここでは触れないでおきます。たとえばセロトニン2A受容体と自我障害との関連については文献3などの興味深い報告がヒントになるかもしれません)。
一方で陰性症状や認知機能障害については現在の抗精神病薬による治療では治療効果は不十分である。さらにおよそ30%の患者が治療抵抗性といわれている。
従来の創薬戦略は、目的とする受容体に対する高い選択性と親和性を有する薬剤を開発することが主体であった。しかし精神疾患においてはターゲットとすべき受容体がよくわかっていない場合も多く、うまくいっていない。
そこで研究者らは、ターゲットとする受容体を決めるのではなく、疾患の臨床表現型を改善しうる薬剤を求めて開発を行う方向性も模索している。そのような創薬戦略で探索されている治療薬候補の中には、抗てんかん薬や抗ウイルス薬などが含まれている。
今回のSEP-363856開発においても、マウスの行動プラットフォームを用いたin vivoでの薬剤スクリーニングと、同時にin vitroでのD2受容体ないしセロトニン2A受容体への直接的な親和性がなく、抗精神病薬類似の効果を有する薬剤のスクリーニングを行い薬剤探索を行った。
SEP-363856はD2受容体ないしセロトニン2A受容体を介さずに、in vivoにおいて抗精神病薬様の効果を示し、統合失調症の陽性症状および陰性症状に対しての有効性が期待できる物質である。
詳細な作用メカニズムについては不明な点があるが、薬理学的解析によるとTAAR1(trace amine-associated receptor 1)およびセロトニン1A受容体に対するアゴニスト作用を有することを示唆する結果が得られている。
統合失調症のみならず、その他の精神疾患への有効性も期待できる薬剤と思われるSEP-363856の受容体親和性は、in vitroの実験により、TAAR1、セロトニン1A受容体、セロトニン7受容体、セロトニン1B 受容体、セロトニン1D受容体、セロトニン2B受容体、α2A受容体に対するアゴニスト作用を有し、D2受容体に対しては弱い部分アゴニスト作用を有することがわかっている。
細胞培養の研究により、TAAR1は通常細胞内に位置しているが、細胞膜においてD2受容体と同時に局在化することも明らかになっている。
SEP-363856はフェンサイクリジン投与マウスの過活動を抑制し、Prepulse Inhibitionの障害を改善するなど、抗精神病薬としての特性が期待できることが明らかとなった。またSmartcube Systemというマウスの行動観察プラットフォームにより、SEP-363856は抗精神病薬としての特性を有することがわかった。
SEP-363856 は 腹側被蓋野神経細胞を抑制するが、これはTAAR1 の活性化を介する可能性が高い。しかしながら抑制は記録された細胞の半分にしか認められず、SEP-363856による腹側被蓋野神経細胞の選択的な抑制を示唆している。
セロトニン1A受容体は、背側縫線核、皮質、大脳辺縁部前脳領域(海馬や扁桃体など)で高密度に発現しており、基底核、視床、黒質、腹側被蓋野では低密度に発現していることが確認されている。背側縫線核では、セロトニン1A受容体は自己受容体であり、神経細胞の発火を抑制する働きをしている。対照的に、海馬と扁桃体ではセロトニン1A受容体はシナプス後受容体として存在する。
セロトニン作動性神経系は統合失調症の病態生理に関与している可能性が報告されている、その一部はセロトニン2A拮抗薬の抗精神病作用と関連する可能性がある3)(セロトニン2A遮断薬のピマバンセリンが第2世代抗精神病薬との併用の統合失調症に対する第3相試験(NCT02970292)が2019年に終了し結果はnegativeでしたが、併用した抗精神病薬はリスペリドンなどのSDAも含まれており、すでにセロトニン2A受容体が強力に遮断された状況下で併用投与されており、これは問題だったと思われます)。
さらに、セロトニン2C拮抗薬およびセロトニン2A/セロトニン2Cの両方の受容体を標的とする化合物(例えばリタンセリン、バビカセリン、ミアンセリンなど)は、統合失調症において一定の有効性が期待できる可能性があることが報告されている(例えば Int Clin Psychopharmacol. 2002 Mar;17(2):59-64)。
うつ病や不安症に対するセロトニン1Aアゴニストの抗うつ薬併用の治療効果についてはエビデンスがあるが、これらの受容体が統合失調症にどのように寄与しているかについてはあまり知られていない。
統合失調症患者の大脳皮質と扁桃体におけるセロトニン1A受容体密度の変化が、死後脳研究6)や神経画像研究7)によって明らかにされている。
セロトニン1A受容体の活性化は、D2受容体遮断による錐体外路症状を防ぎ8)、前頭皮質のドパミン作動性神経伝達を調節し9)、NMDA受容体拮抗薬によって誘発された認知障害や社会的相互作用障害を減弱させることが、齧歯類モデル動物で示されている8)。
さらに、セロトニン1A受容体での部分アゴニスト作用とD2受容体の部分アゴニスト作用を有するアリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、カリプラジン、セロトニン1A部分アゴニスト作用を有する、ペロスピロン、ルラシドンなどは、より治療上の利点が存在することが期待される。
TAAR1アゴニストや多くの抗うつ薬(特に セロトニン1A 活性を有するもの)はレム睡眠抑制作用を示すが、これはほとんどの D2 阻害作用を有する抗精神病薬では観察されない。したがって、SEP-363856 で観察された強いレム睡眠抑制作用は、TAAR1アゴニスト作用と セロトニン1A 受容体アゴニスト作用の相乗作用によるものである可能性がある。(ここまで文献2からの引用)
動物実験では統合失調症への効果が期待できそうなことがわかりました。最後に今回の第2相試験の報告の概略です。
SEP-363856の統合失調症に対する第2相試験4)
背景
SEP-363856の作用機序は十分にはわかっていないが、TAAR1とセロトニン1A受容体に対するアゴニスト作用があることが報告されている2)。
TAAR1アゴニスト作用により、中脳腹側被蓋野の神経発火を抑制し、ドパミン神経の発火を抑制する。
またSEP-363856はケタミンにより誘発された線条体ドパミン合成亢進を抑制することがマウスの実験で報告されている。
さらにシナプス前ドパミン神経の機能不全を改善することも報告されている。
セロトニン1Aアゴニスト作用を有しており、これを通じて背側縫線核の神経活動を減弱させることが報告されており、フェンサイクリジン誘発性の過活動をおそらくはセロトニン1A受容体活性化により抑制することが報告されている。
以上よりD2受容体を介さないメカニズムにより統合失調症に対する有効性が期待できるため、急性増悪を来した統合失調症患者において無作為割付比較試験を行った(第2相試験)対象と方法
無作為割付二重盲検プラセボ対照比較試験
18歳から40歳までの統合失調症患者(DSM-5)であり、2か月以内の期間において精神病症状の急性増悪をきたした入院患者。CGI-Sで4点以上かつPANSS totalで80点以上。これまでに3回以上の入院歴がある患者は除外
ヨーロッパと北部アメリカの34カ所の施設で行われた。
14日間までのスクリーニングとwashout期間を設けた。この間に全ての向精神薬は中断された
SEP-363856は1日1回眠前投与で用量は50mg~75mgまででflexible
試験期間は4週間
アカシジアなどのEPSに対して抗コリン薬ないしプロプラノロール併用は許可
ロラゼパム、テマゼパム、エスゾピクロンは不安や不眠に対して屯用での使用を許可
主要評価項目は、PANSS totalの4週間での変化量で、副次的評価項目としてCGI-S、BNSS(陰性症状尺度)、MADRSなど
SEP-363856群 N=120
プラセボ群 N=125
結果
エントリーされた患者の平均罹病期間は約5.4年程度。ベースラインのPANSS totalは約100点
4週間の試験期間中、抗不安薬の併用はSEP-363856群32名、プラセボ群30名、睡眠薬の併用はSEP-363856群10名、プラセボ群15名
脱落率はSEP-363856群26名(うち副作用10名、有効性欠如5名)、プラセボ群26名(うち副作用8名、有効性欠如4名)
有効性については、4週間のPANSS totalの変化量はSEP-363856群 -17.2点、プラセボ群 -9.7点で有意差あり
4週後のBNSSのプラセボ群との差は-4.3点(有意差あり)、MADRSの差は-1.8点で有意差あり
EPSの出現率はSEP-363856群 3.3%、プラセボ群 3.2%考察
結果をみて最初の印象は、プラセボの反応が大きいことでした(PANSS totalで10点近く)。このように大きなプラセボレスポンスの介入試験の結果は、ここ最近ではブロナンセリンのパッチ剤の第3相試験、ブレクスピプラゾールの第3相試験などでみられており、なぜここまでプラセボが大きな改善を示すのか、よくわからないといったところです(ドパミン過感受性との関連などが言われていますが、いまいち納得できてません。そういえば年々プラセボ反応率が上昇しているという論文も2017年に出てました5))。
TAAR1アゴニストについては覚醒亢進作用が言われていましたが、そのような副作用はなかったようでした。安全性はかなり高いようです。
第2相にしてはまあまあの規模の多施設介入試験で有効性が確認されましたので、第3相試験にも期待してしまいますが、このような形で第3相試験に進展した薬剤が多く敗れ去っているこれまでの経緯をみると、まだまだ油断はできないというところでしょうか。
1)Schwartz MD et al. Expert Opin Ther Targets. 2018 Jun;22(6):513-526.
2)Nina Dedic et al. J Pharmacol Exp Ther 371:1–14, October 2019
3)Preller KH et al. J Neurosci. 2018 Apr 4;38(14):3603-3611. doi: 10.1523/
4)Kenneth S. et al. N Engl J Med. 2020 Apr 16;382(16):1497-1506. doi: 10.1056
5)Leucht S et al. Am J Psychiatry. 2017 Oct 1;174(10):927-942
6)Brain Res 708:209–214
7)Arch Gen Psychiatry 59:514–520
8)Curr Opin Investig Drugs. 2010 Jul;11(7):802-12.
9)CNS Drugs. 2013 Sep;27(9):703-16. doi: 10.1007/s40263-013-0071-0. -
COVID-19医療従事者のメンタルヘルスへの影響(予備的な結果)
アブストラクトだけみて、重要な論文だと思い、以下の前文を書いてから翻訳してみましたが、論文の問題点が一部みつかって、尻すぼみになってしまいました。しかしながら重要なメッセージは含まれていますので、予備的な結果として残しておきます。
中国湖北省でCOVID-19診療に従事した医療関係者のメンタルヘルスに関する論文が4月29日にAmerican Journal of Psychiatry誌のLetter to the Editorにacceptされ公表されました。COVID-19パンデミックが医療従事者のメンタルヘルスにどのような影響を与えたのか、メンタルヘルスが病的といえる水準にどの程度の割合の医療従事者が至ったのかがわかります。
この報告をみてわかることは、COVID-19診療に従事するだけでも、これほどの精神的影響がありうることであるのに、さらにそのうえ、一部報道でみられたようなCOVID-19医療従事者へ差別的態度が向けられるということは、第一線で診療に従事し、心身ともに疲弊する医療従事者をさらに精神的に追い込む行為であり、社会的に許されることではないということです。以下その概略となります
調査対象となったのは、COVID-19疑い症例ないし確定症例を収容する感染症指定病院に勤務する医療従事者で、オンラインで調査が行われました。
湖北省の感染症指定病院に勤務する2316名の看護師、医師が調査に応じました。
このうち直接COVID-19患者の治療やケアを担当する最前線の医療従事者は885名、その他の医療従事者は1431名でした。
調査が行われたのは2020年1月29日から2月11日(中国では1月29日時点で1日当たりの国内感染者数は1000名を超え、ロックダウンは1月23日から開始されていました)
主要評価項目は、9-item Patient Health Questionnaire[PHQ-9]が6点以上で有意なうつ症状有り、7-item Generalized Anxiety Disorder(GAD-7)で6点以上を有意な不安症状有り、7-item Insomnia Severity Index[ISI]で9点以上を有意な不眠症状有り、22-item Impact of Event Scale-Revised[IES-R]で10点以上を有意なストレス症状有りとされました。
(コメント:感度、特異度の観点から、PHQ-9は10点以上、GAD-7は10点以上、ISIは10点以上を臨床的に有意とする場合が多いので、PHQ-9とGAD-7については拾い上げすぎている感があります。実際にネットで閲覧可能なPHQ-9などをみていただけるとわかりますが。この論文のカットオフ値を適応した場合、必ずしも臨床的に病的なレベルとはいえそうにないことがすぐにわかると思います。なぜこのカットオフ値を用いたのか不明ですし、論文中に異なるカットオフ値を適応した場合の割合なども記載されていればよかったのですが、残念ながらそのようなデータもなく、この報告の数値だけが独り歩きしないことを願います)この論文のカットオフ値を用いた場合、うつ症状を有した割合は全体の46.9%、不安症状は全体の41.1%、不眠は全体の32%、ストレスは全体の69.1%との結果になりました。
最前線の医療従事者はこれらの数値よりも有意に高かった(具体的な数値の記載はありませんでした)とのことです。
一方で、医療従事者の中で専門的なサポートが得られたのは19.2%のみでした。
心理的なサポートを受けることができた医療従事者は、有意に不安、うつ、不眠、ストレスがカットオフ値を超える割合が少なかったということです。
さらに。41.5%の回答者が心理専門職によるサポートや支援を求めており、64.9%の回答者がメンタルヘルスサービスの利用について興味を示したとのことです。(コメント:このデータは重要な結果と思われます。実際に日本の医療現場でも同じようなことが言えるのではないでしょうか)論文の最後では2003年のSARSアウトブレイクの際の出来事にも触れてあり、アウトブレイク後1年以上を経過してもなお、心理的苦痛を訴えた医療従事者が存在していたことが報告されており、長期的視野に立った心理的サポートの重要性が説かれています。
以上となりますが、ごく短期間で出版された報告なため、データが少ないこと(回答者の年齢や性別、有効回答率などの基礎的なデータもない)と、なぜかカットオフ値が標準的ではないことが悔やまれます。
今後日本でも同様の調査、報告が行われ、実際の現場での介入がなされることが期待されます(大学などから遠隔システムでの協力要請があれば、協力したいと思います)
引用文献
Lin K, Yang BX, Luo D, et al: The Mental Health Effects of COVID-19 on Health Care Providers in China
Am J Psychiatry | Letter to the Editor
Accepted 29 April 2020. DOI: 10.1176/appi.ajp.2020.20040374 -
再始動
印象的な出来事があったので、書き留めておこうと思います。
ALS界隈では有名なNeuralstem社というベンチャー企業がありました。2015年当時、ALS当事者の間ではNeuralstem社か、Brainstorm社か、というほど名の知れたベンチャー企業でした。
これらの2つのベンチャー企業はALSに対する再生医療、幹細胞移植における先進的な取り組みで知られていました。
再生医療というとなんだかぼんやりしたイメージですが、wikipediaによると「人体の組織が欠損した場合に体が持っている自己修復力を上手く引き出して、その機能を回復させる医学分野」だそうです。
ALSでは幹細胞移植がこれにあたります。
いちはやくALSに対する実用的な幹細胞移植の臨床試験を開始したのがNeuralstem社とBrainstorm社でした。
ひとえに幹細胞移植といっても、様々なタイプがあります。
臨床試験で報告されているもので一番多いのは中胚葉組織由来の幹細胞です。
中胚葉由来の組織としては、血液、脂肪組織などがあり、骨髄より採取された間葉系幹細胞や脂肪組織由来の間葉系幹細胞などがALSに対する臨床試験に用いられています。
この中胚葉由来の間葉系幹細胞というのが曲者で、てっきり中胚葉由来なので、外胚葉系の神経細胞やグリア(グリア系細胞の中で唯一ミクログリアのみが中胚葉由来ですが)細胞には分化できないだろう。と思っていたら、なんとそんなことはない、というのが現在の見解のようです。
島根大学脳神経内科の長井教授が報告1)されたように、神経栄養因子を分泌するようにもできるし、なんと神経系細胞にも分化できるようです2)。
実際に移植した生体内で目標とする細胞に分化してくれるかどうかはまた別の問題ですが、驚きの多能性を有しているということのようです。
このような中胚葉由来の間葉系幹細胞を用いることの大きなメリットは自家移植が可能なことです。
自身の組織から幹細胞を採取し、それを治療的に用いることができ、同種移植のように免疫抑制剤は必要ではありません。
Brainstorm社のNurOwn細胞はこの方法を用いており、患者自身の骨髄より採取した幹細胞をマル秘の特許技術により神経栄養因子を分泌するように分化誘導し移植する方法になります。
一方で、外胚葉由来の幹細胞を移植する方法もあります。
自身の神経組織から神経幹細胞を採取することは実用的ではありませんので、胎児由来の神経幹細胞を使用する方法がしばしば用いられています(倫理的問題はより大きなものとなりますが)。
また同種移植になるため移植後に免疫抑制剤の投与を必要とします。
Neuralstem社のNSI-566がこれにあたります。NSI-566についてはその安全性もやや気になるところです。
胎児由来神経幹細胞移植は腫瘍化するリスクも報告されています3)
移植の際の投与経路も様々です。静注、くも膜下腔内投与、脊髄内投与などがあります。
このうち静注については注意が必要です。2019年には脊髄損傷に対して自家骨髄幹細胞移植(静注)である、間葉系幹細胞のステミラック注が条件付承認されましたが、これについては批判的な意見もあり、Nature誌でも痛烈に批判されましたし4)、島根大学の松崎教授が解説5)されたように、動物実験では静注された間葉系幹細胞は、新鮮なものはまだよくても、培養を行ったものは、大半が肺の毛細血管にひっかかり、遊走能を失い、ターゲットとする組織には到達しなかったという問題点もあります。
現在ALSに対しては、Mayoクリニックが自家脂肪組織由来間葉系幹細胞移植の臨床試験を行っていますが、これはきちんと投与経路がくも膜下腔内投与となっています。
くも膜下腔内投与は、カテーテルをくも膜下腔に挿入し(ここがやや侵襲的ではありますが)、直接くも膜下腔内に幹細胞を移植する方法になります。
現在第3相試験まで進んでいるBrainstorm社のNurOwn細胞はこの投与経路となります。
一方で脊髄内投与は最も侵襲性の高い治療手技となります。
患者は手術室で椎弓切除術を受け、脊髄を目視下とし、脊髄実質に直接幹細胞を注入する方法になります。この方法をとるのがNeuralstem社のNSI-566となります。
Brainstorm社もNeuralstem社も、2010年頃からALSに対する幹細胞移植の第1相試験を開始しています。
Brainstorm社はイスラエル Hadassah Medical Organizationにて2010年1月から第1相試験を開始(NCT01051882)し、Neuralstem社は2011年5月からEmory大学にて第1相試験(NCT01348451)を開始しました。第1相試験での安全性確認後、Brainstorm社は2013年12月に第2相試験を開始しました(NCT02017912)。
この第2相試験の結果が論文としてpublishされたのは、去年12月であり、ごく最近のことです6)
結果の概要ですが、この第2相試験では、48名のALS患者がエントリーし、36名がNurOwn細胞を投与(くも膜下腔内および筋肉内に単回投与)され、12名がプラセボを投与されました。
患者は投与前3ヶ月間および投与後6ヶ月間症状経過観察されました。主要評価項目であるALSFRS-Rの変化率は治療前後でNurOwn投与群とプラセボ群とで有意差を認めませんでした。
しかしながらALSFRS-Rの変化量が少なくとも1.5点以上改善した群を反応群と定義すると、治療4週後の反応率はNurOwn投与群では47%でプラセボ群では9%であり有意差を認めました。
また治療前のALSFRS-Rの変化量が2点/月以上の急速進行群においては、4週後のNurOwn投与群の反応率は80%に対してプラセボでは0%、12週後の反応率はNurOwn群では53%、プラセボ群では0%といずれも有意差を認めました。
治療後の時間経過と共に反応率が低下していることについて、追加投与の必要性を示唆するものかもしれないと考察されています。
また髄液中MCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)濃度(免疫細胞浸潤と神経炎症の指標)については、NurOwn投与後に有意な減少がみられました。
プラセボ群では投与前後での有意差はありませんでした。このことはMCP-1がALSのバイオマーカーとなりうる可能性を示唆するものと考察されました。
この結果を受けて、FDAはNurOwn細胞の第3相試験の実施を承認しました。
このように、主要評価項目において有意な結果が得られず、副次的な評価項目のみで有意差が得られても第3相試験が実施されることはしばしばみられることです(そして残念ながら多くが第3相試験でnegativeとなる)。
現在、NurOwn細胞については、200名のALS患者を対象とした第3相試験が実施中(NCT03280056)であり、2020年中に結果が判明するものと期待されています。
もし有効性が確認されれば大きなニュースになることと思われます。
Brainstorm社のNurOwn細胞については、第1相試験の開始から足掛け10年かかっていますが、比較的順調に進捗している印象があります。
一方で、Neuralstem社のNSI-566はどうでしょうか。
第1相試験で安全性が確認されたのち、第2相試験の実施まではスムーズでした。
2012年12月に第2相試験(NCT01730716)が開始されています。
結果が査読付き論文にpublishされたのは2016年でしたので、NurOwnよりも早く公表されたことになります7)。
この第2相試験は、オープン試験であり、15名のALS患者が対象となりました。
結果の概略ですが、発症2年以内の患者がエントリーされ、頸髄のC3からC5の間の領域に両側性のNSI-566細胞の単回移植を受けました。また最後の3名では腰髄領域にも移植を受けました。
主要評価項目は忍容可能な最大用量を調べること(安全性の評価)でした。
移植後9ヶ月間の経過観察期間において、最も高頻度に報告された副作用は、手術に伴う一過性の疼痛と、併用された免疫抑制剤(同種移植のため、免疫抑制剤が必要)に起因したものでした。
2名では重大な合併症を併発しました。1名では脊髄腫脹がみられ、疼痛と部分的な麻痺が生じました。
またもう1名では脊髄損傷に起因した疼痛が出現しました。
副次的評価項目である、病態進行の程度については、過去の臨床試験のプラセボ群の臨床経過(historical placebo)と比較して、有意な進行遅延は認めませんでした。しかし、被検者が少ないため、有効性に関する結論を出すのは困難とのことでした。
2016年にこの報告が出てから、Neuralstem社の動向がぱったりと途絶えてしまいました。一時はもう開発を諦めてしまったのかと思っていました。
第3相試験の実施には数十から数百億円程度かかると言われており、ベンチャー企業にとっては大変な負担となります。
うまく立ち回ると途中で巨大な製薬会社に買収されたり、提携するなどして資金面での問題があまりなくなる場合もあるのですが、Neuralstem社については、そのようなニュースもなく、数年間新たな動きもないため、最近では忘れかけられていました。
しかし、2019年11月、復活ののろしがあがります。なんと2019年11月にNeuralstem社はSeneca biopharma社と社名を変更し、2020年3月にはNSI-566の第3相試験の実施に向けて、FDAと協議したとのpress releaseが出されました。名前がかわった理由はよくわかりません。新たな資本が注入されたとかのニュースも見当たりません。
第3相試験の実施にあたっては、まず製薬会社はIND(Investigational New Drug Exemption:新薬臨床試験開始届)をFDAに提出し、審査に合格する必要があります。そのINDを提出するための準備としての協議をFDAと行ったそうです。
名前が変わった理由ですが、Seneca社のpress releaseによれば、「今回の社名変更は、これまでの神経疾患関連の研究に重点を置いていた組織から、有望な新科学を発見し、バイオ医薬品のパイプラインを開発し、それらの製品を商業化することに焦点を当て、同時に株主の皆様に価値を提供することを目的とした新たな哲学を表しています」とCEOが語っています。なんだかよくわからないコメントですが、ベンチャー企業にとっては株主の存在は重要です。社名変更は会社哲学の変更ということでしょうか。
第3相臨床試験の実施はまだまだこれから、というところですが、ALSに対する神経幹細胞移植の臨床試験が再開の動きをみせたことは歓迎すべきことと思います。1)Nagai A. et al. PLoS One. 2007 Dec 5;2(12):e1272.
2)Rosa Hernández et al. Biomol Ther 28(1), 34-44 (2020)
3)PLoS Med. 2009 Feb 17;6(2):e1000029.
4)Nature. 2019 Jan;565(7741):535-536.
5)松崎有未 島根医学 vol.39.2 2019.8 1-6
6)Neurology. 2019 Dec 10;93(24):e2294-e2305
7)Neurology. 2016 Jul 26;87(4):392-400. -
症状クラスタリングと治療反応性(2)
2020年04月26日
どの抗うつ薬がどの症状に効くのかの続きです。
Yale大学の研究グループからここ何年か症状クラスタリングによる報告が続いています
この報告を取り上げた理由は、このうちの1本の論文(文献8)に、これまで私自身があまり認識していなかった結果が示されていたことがあります。
デュロキセチンの用量効果関係です。
まず最初に、抗うつ薬の用量効果関係についても触れておきたいと思います。
最近の報告で抗うつ薬についての用量効果関係を示したもので、注目されたものに文献1があります。
用量が固定された介入試験における、用量効果関係について、いくつかの薬剤についてメタ解析を行ったものです。
公表、非公表を含む77の介入試験(シタロプラム:17、エスシタロプラム:16、フルオキセチン:27、ミルタザピン:11、パロキセチン:28、セルトラリン:11、ベンラファキシン:16、 投薬群 N=19364(プラセボ群:N=6881))が解析対象となりました。
SSRIについてはhayasakaらによる等価用量換算法が使用され、ひとくくりにして解析されました。
評価項目としては、約8週間(4-12週)の治療反応率(評価尺度の50%以上の改善として定義)、副作用による中断、あらゆる理由による中断が抽出されました。
その結果、治療反応率については、SSRIについてはフルオキセチン換算で20-40mg程度まで効果増加が見込まれ、そこからはやや低下ないし横ばい。
ベンラファキシンについては、75-150mg程度まで効果は用量とともに増加し、それ以上はゆるやかに増加。
ミルタザピンについては30mgまで効果は増加するが、それ以上だと効果が減弱する、との結果でした。
SSRI、ミルタザピンについては逆U字型の効果用量関係、一方でベンラファキシンについては臨床用量範囲内においては、ある用量までは効果が増加し、その後漸増傾向ということになります。
副作用による脱落については、予想通り用量と共に増加するとの結果でした。
SSRIやミルタザピンについては、臨床用量の範囲内においても効果が最大となる至適用量が存在する可能性があるといえます。
ただし、個々の患者についてはこの結果を一律に適応することはできず、例えば文献2にあるように、薬物代謝に個人差があることに注意を要します。
例えば、CYP2D6の遺伝子多型はパロキセチン代謝に影響をあたえます。
文献2によると、日本人15名中CYP2D6*10アリル保有者は11名、CYP2D6*10アリル非保有者は4名でした。
CYP2D6*10アリル保有者の薬物代謝速度定数Kmは50.5 ng/mlであり、一方で非保有者では122.5ng/mlと有意差があり、非保有者で代謝速度が遅く、同じ用量でもパロキセチン血中濃度が高い結果でした。
パロキセチンの有効性は39.1ng/ml以上で期待できるとの報告もあり、CYP2D6*10アリル保有者では、パロキセチンの用量がより高用量で十分な臨床効果がえられる可能性があり、至適用量が20mg以上に位置する可能性があります。
このように患者の個別性にも配慮が必要ということになります。
しかしおしなべると、SSRIについては、効果用量関係は逆U字型といえるのかもしれません。
これについては、臨床効果が期待できるセロトニントランスポータの占有率80%を超えると、それ以上の増量に意味がなくなるということを示唆するのではないかとの考察もあります。
SSRIの効果用量関係が逆U字型となる可能性については、古くからそのような報告はありました。
文献3ですが、1996年にはすでにフルボキサミンについて、効果が100mg程度で最大化し、それ以上ではむしろ有効性は減り、副作用は増加する傾向がみてとれるという効果用量関係が報告されています。
また2009年には文献4にあるようにパロキセチンについて、20mg投与で効果不十分な場合に、さらに増量した場合と、維持した場合とで有効性に有意差なく、20mを超えての使用がSPECTで評価したセロトニントランスポータ占有率を増やすことはなかったとの結果が報告されています。
さらにセルトラリンについても、2001年に公表された文献5にあるように、50mg投与3週間での非寛解群を50mg継続と150mg増量とに無作為割付し、その後の経過をみたところ、維持群と増量群とでその後の治療反応率(いずれも約40%)に有意差はなく、増量に治療的意義がないのではないかと考察されています。
さらにセルトラリンについては、近年日本の研究グループにより臨床的に重要なsingle blind studyの結果が報告されたことも忘れてはいけません(文献6)。
このSUN D studyは新規発症の大うつ病患者を対象とした大規模試験であり、実臨床に近い点で大きな意義があります。
2011名が対象となった大規模試験であり、試験は2段階にわけられました。第1段階では最初3週間でセルトラリン50mg(N=970)対セルトラリン100mg(N=1041)の介入試験が行われ、第2段階では寛解群はそのまま継続、3週後に非寛解群が、継続群とミルタザピン併用群とミルタザピン置換群に無作為割付し6週間経過観察されました。
最終的には8群の比較が行われたことになります。
最終的な結果は、新規発症の大うつ病について、セルトラリン50mgと比較して100mgまで増量して投与することの利益を全体として見出すことはできませんでした。3週後にセルトラリンで寛解しない群については、ミルタザピンとの併用ないし置換により9週後の治療的効果が増大したというものでした。
これまでミルタザピン併用の有効性は比較的規模の大きな2つの介入試験で否定的(文献7)となっていましたが、これらは慢性期で治療抵抗性の患者を対象としたものであり新規発症ではまた話が違うのかもしれません。
さて、前置きが長くなりましたが、今回の本題です。扱う論文は2本あります(いずれも同じ研究者の入ったグループからの報告です)。1本目は文献8、2本目は文献9となります。以下文献8の概略となります。
症状クラスタリングによる抗うつ薬の治療反応性予測
背景
・大規模試験におけるうつ病の因子分析により、うつ病の症状尺度は2個から5個程度のクラスターに小分類できることが報告されている。しかし、うつ病の臨床試験では、ほとんどが症状尺度の合計得点の変化を主要評価項目としており、下位尺度の変化まではわからない
・多くの患者は初期治療により寛解せず、複数の治療法の試行錯誤により結果的に寛解に至ることが多い。そのため、初期のうちから、患者の呈する症状の特徴から最も適した治療法が選択できるようになると、より患者の予後改善に寄与しうると思われる
・これまでにも、薬剤毎に有効性の高い症状を抽出する報告はなされている。例えばSSRIは気分の落ち込みの改善に有効であると言われてきた。また症状をサブグループ毎にまとめて解析を行い、ノルトリプチリンがエスシタロプラムより自律神経症状の改善に有効であり、一方でエスシタロプラムは気分の改善と認知機能の改善により有効であったとの報告がある。
・しかしながら従来型の統計解析手法は欠点があり、例えば因子分析は症状のクラスタリングにおいて複雑な組み合わせを生成しうる可能性がある。さらにクラスター数の選択などにおいて解析者のバイアスを受けやすい。
・一方で階層的クラスタリングは各症状を1つのクラスタに割り当てる決定論的な方法であり、クラスター数の事前指定が必要ではない点で優れている
・今回階層的クラスタリングを用いて、症状のクラスタリングを行い、治療法による反応性の違いを抽出した対象と方法
・STAR*Dの第1ステージ12週間(シタロプラム単剤によるオープン試験):平均罹病期間15.5年で80%が慢性期ないし反復性うつ病。HAM-D17で14点以上
・CO-MED試験:平均罹病期間18.7年で78%が反復性うつ病。現在のエピソードが2年以上の患者。HAM-D17で16点以上。エスシタロプラム単剤とエスシタロプラム+ブプロピオン、ベンラファキシン+ミルタザピンの無作為割付single blind比較試験。結果は単剤と併用療法寛解率に有意差なく、ベンラファキシン+ミルタザピンは最も副作用が多いとの結果であった
・そのほか、デュロキセチンの7つの介入試験(対プラセボないしactive comparator:パロキセチン、フルオキセチン、エスシタロプラム)を解析対象とした。いずれも8週間。デュロキセチンについては用量40-60mg/dayを低用量、80-120mg/dayを高用量とした
・症状評価尺度としてSTAR*DとCO-MEDでは自己記入式のQIDS-SR。その他の試験ではHAM-D17。しかしHAM-Dの“病識欠如”についてはQIDS-SRに対応する項目がないため除外した。また体重減少/食欲不振についての項目も試験毎に評価基準が異なったため除外した
・階層的クラスタリングは、各下位尺度の治療に対する反応の類似性によりクラスタリングを行った結果
・階層的クラスタリングの結果、3つの症状クラスターが区別された。QIDS-SRを用いた試験では、睡眠クラスター(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)、中核的感情症状クラスター(気力減退/易疲労感、集中力低下/判断力低下、興味の減退、抑うつ気分、自己の無価値感)、非定型症状クラスター(精神運動焦燥、精神運動制止、希死念慮、過眠、性欲減退、心気症)に分類された。
HAM-Dを用いた試験では、睡眠クラスター(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、易疲労感)、中核的感情症状クラスター(不安の身体症状、不安の精神症状、罪責感、興味の減退、抑うつ気分)、非定型症状クラスター(性欲減退、精神運動制止、希死念慮、精神運動激越、心気症)
→コメント:HAM-DとQIDS-SRのクラスタリングで疑問に感じる点はあります(HAM-Dにおいて易疲労感が睡眠に入っていることや、不安の精神症状、不安の身体症状が中核的感情症状に入っており、精神運動制止と性欲減退が非定型症状に入っていることなど。ただし、ただしこれらはあくまで治療に対する反応の類似性からのクラスタリングであり、各クラスターのネーミングの妥当性はそれほど重視すべきものではないのかもしれません)
各クラスターと治療反応性について
・どの薬剤においても、中核的感情症状クラスターの改善率は、非定型症状クラスターの改善率よりも有意に高かった。抗うつ薬により、中核的感情症状クラスターはより反応性が高い症状といえる。
・一方で非定型症状クラスターでは薬物療法による改善率があまり期待できない症状群であるといえる。
・STARDおよびCO-MED試験の解析において、睡眠クラスターについては、ベンラファキシン+ミルタザピン群は、シタロプラム群、エスシタロプラム+ブプロピオン群、エスシタロプラム群より有意に改善率(slope)が高かった。非定型症状クラスターについては、どの群も改善率有意差なし。中核的感情症状クラスターについては、ブプロピオン+エスシタロプラム群はシタロプラム群より有意に改善率が良好であった
・デュロキセチンの介入試験についての解析結果では、睡眠クラスターについては、高用量デュロキセチン群は、低用量デュロキセチン、エスシタロプラム、フルオキセチン、プラセボより有意に改善率が良好。パロキセチンはプラセボより有意に改善率が良好→コメント:これについてはやや意外な結果でした(鎮静作用の比較的期待できるエスシタロプラムの結果が意外なことと高用量デュロキセチンが睡眠に良いというのも意外でした)
・中核的感情症状クラスターについては、高用量デュロキセチンは、低用量デュロキセチン、エスシタロプラム、プラセボより有意に良好。パロキセチンは低用量デュロキセチン、エスシタロプラム、プラセボより有意に良好。
・非定型症状クラスターについては、高用量デュロキセチンは、低用量デュロキセチン、エスシタロプラム、フルオキセチン、パロキセチン、プラセボより有意に良好。パロキセチンは低用量デュロキセチン、エスシタロプラム、プラセボより有意に良好。エスシタロプラムはプラセボより有意に不良
考察
この論文で最も意外な結果は、高用量(80-120mg)デュロキセチンの効果が最も良好であったことでした。抗うつ薬の用量ー効果曲線については、これまでみたとおり、SSRIでは逆U字型のものが多く、高用量では逆に有効性が低下するとの報告が多くなっています。
しかしSNRIについては、文献1でみたように、ベンラファキシンは、用量増量とともにやや効果は増えていく傾向のようにみてとれました。デュロキセチンも同様の傾向があるのかもしれません。
ただしデュロキセチンについては、30mgと60mgの効果を比較した介入試験(文献10)で、30mgと60mgとで有意差がなく、用量を増やしても、この結果をみるとあまり臨床的意義はないのではないかと思われる結果もでており、このあたりの解釈には注意を要します。
日本では60mgを超えて使えないので、あまり実用的な結果ではないのかもしれません。
結果の一般化にはさらに検証が必要そうな印象です。続いて文献9の結果の概略にうつります
症状クラスタリングによる思春期うつ病に対する治療反応性
背景
・思春期うつ病の治療は困難であり、プラセボ反応率が高く、効果量は小さい。最適な治療法の探索は試行錯誤である。どの治療法がどの症状に適しているのかよくわかっていない。
・そこで思春期うつ病に対する介入試験(TADS)の結果を用いて、症状クラスタリングによる治療反応性の違いを探索した対象と方法
・TADSデータベースを使用
・TADSは12-17歳の大うつ病(DSM-IV)患者を対象とした介入試験(ステージ1からステージ3まであり、結果は文献11、文献12を参照)
・CDRS-Rで45点以上がエントリー
・階層的クラスタリングによりCDRS-Rの各尺度を治療反応の類似性によりクラスタリングを行った結果
・階層的クラスタリングの結果、CDRS-Rの下位尺度はクラスター1とクラスター2とにクラスター化された
・クラスター1は、睡眠障害、社会的引きこもり、学業の障害、過度の疲労感、焦燥感、自尊感情の低下、楽しみの喪失、抑うつ気分から構成される
・クラスター2は、食欲増加、身体症状、過度に泣くこと、食欲減退、罪業感、希死念慮、病的な観念から構成される
・全得点については、12週間でTDASステージ1の結果の通り、フルオキセチン+CBT群、フルオキセチン群において良好な改善度を示した
・クラスター1については、フルオキセチン+CBT群、フルオキセチン単独群の優位性がより目立つ結果となった
・一方でクラスター2については、どの群も同等の変化率を示し、プラセボ群の変化も大きく、プラセボでもよくなりうることを示唆する結果となった
・薬物療法の効果が期待できる症状尺度は、クラスター1(睡眠障害、社会的引きこもり、学業の障害、過度の疲労感、焦燥感、自尊感情の低下、楽しみの喪失、抑うつ気分)の合計といえるのかもしれない
・思春期うつ病において、食欲に関連した問題や、希死念慮、身体症状などは環境的介入により改善しうるといえるのかもしれない。再現性があるかどうかは今後のさらに研究が必要以上となります。思春期うつ病の希死念慮については精神療法が重要であるともいえるかもしれません。
このような治療反応性を元にしたクラスター解析により、また新たな知見が得られるかもしれません。これからの報告も期待されます。
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