抗精神病薬の減量について
2022年03月02日
・抗精神病薬をどのように減量するかについては様々な報告があり、鳥取医療センター(当時)の助川先生らの報告されたSCAP法(文献1)などが良く知られていますが、離脱症状や再発リスクを最小化することを目的として、D2受容体の占有率に基づく減量方法が提案されました(文献2)
・この論文に出会ったのは、最近でた抗精神病薬中止後の有害事象に関するメタ解析の論文(文献3)に引用されていたことに起因します。
・文献3では、どこかに過感受性精神病の証拠になるようなデータがないか、探してみたのですが、残念ながら直接的な証拠に出会うことはできませんでした。そもそも中止前の抗精神病薬のCP換算がわからないので、中止前にD2受容体の過感受性が形成されていたのかもわからないのですが、中止後の陽性症状の悪化やジスキネジアなどは有害事象としてほとんどみられないものでした(唯一ハロペリドール中止後の精神病症状出現がわずかに継続群と比較して有意差あり。しかし105名中4名にみられたのみ)。
・ドパミン過感受性による陽性症状再燃が存在するという主張に対して現状エビデンスが乏しいとするBPAガイドラインを書き換えるほどの証拠は見つかりませんでした。有害事象として不安が比較的多くみられていましたが、コリン離脱やアドレナリン離脱でも生じうるため、D2離脱によるものだけではないと思われます。
・Horowitzらが提案したのは、一定用量毎の減量(下図左)ではなく、下図右のようにD2受容体占有率の変化量が一定となるように減量する方法です(Schizophr Bull. 2021 Jul 8;47(4):1116-1129.より引用)。
・また減量にかける時間も、遅発性ジスキネジアの寛解まで2-3年かかることから、長期投与中の患者については、全体でこのくらいの時間かけて漸減するのが妥当ではないかと提案しています。
・D2占有率の変化量をなるべく一定に保つための減量法として、直近の用量の25-50%(D2受容体占有率の変化量にして5-10%の変化割合に相当)を3-6か月毎に減量する方法や、直近の用量の10%ずつを1か月ごとに減量する方法などが挙げられています。
・また、クロザピンやクエチアピンのように、半減期の短かかったり、D2受容体からの解離が速いとされる薬剤では、より注意が必要で、個々の反応に応じて6-12週間ごとにD2(またはコリン受容体、ヒスタミン受容体)占有率を2.5-5%ずつ減量することが提案されています。
・この方法だと、高用量域では割と思い切った減量が可能な一方で、特に低用量域においては慎重な減量が求められることになります。果たしてSCAP法と比較して有害事象の発生率に差があるのか、興味深いところです。
文献1:Sukegawa T, et al: Study protocol: safety correction of high dose antipsychotic polypharmacy in Japan. BMC Psychiatry 14:103, 2014.
文献2:Mark Abie Horowitz et al. Schizophr Bull. 2021 Jul 8;47(4):1116-1129. doi: 10.1093/schbul/sbab017.
文献3:Lancet Psychiatry. 2022 Mar;9(3):232-242. doi: 10.1016/S2215-0366(22)00014-1.