・ICD-11からはゲーム障害(ゲーム症)が依存症の仲間入りするようで、DSM-Vでも研究用のカテゴリーですが、インターネットゲーム障害という診断名が登場しています。

・今回、インターネットゲーム障害に対して、PROTECTと呼ばれる認知行動療法的介入について、どの程度予防効果があるかについての介入試験結果が報告されました(文献1)

・PROTECTは思春期(12歳から18歳)におけるインターネット使用障害に対して開発された心理療法で、主に3つの領域における非適応的対処がインターネット使用障害の病態と強く関連すると仮定するものです。1つ目の問題が動機づけの問題や退屈に対する感受性の問題、2つ目の問題が不快な作業の先延ばしと関連する成果への不安、3つ目の問題が社会的スキルの欠如とそれに伴う社交不安になります。これら問題と向き合うことなく、インターネットにのめりこむことで、問題の先送りをしたり、問題から回避することで、より不安や不適応が増悪し、問題が大きくなるという仮説の下で介入が行われます。1つ1つの病態仮説に対して、それぞれの問題を抱える同世代の生徒が主役の物語を提示し、グループで話し合うことで問題点を自分たちのこととして捉え、よりスムーズに介入が進むように構成されています。PROTECTでは非適応的反応を4つのモジュールで修正していきます。

・4つのモジュールにおいて、認知再構成、問題解決技法、行動活性化、マインドフルネスの技法など様々な技法が取り入れられているのが特徴です。

思春期のゲーム障害と特定不能のインターネット使用障害のためのCBTに基づく介入

 

背景

・ICD-11では物質関連依存症と非物質関連依存症は神経生物学的に類似しているため、 “物質使用または依存行動による障害 ”に分類された

・ゲーム症(ゲーム障害)は、ICD-10では衝動制御障害に含まれていたギャンブル障害に加えて、新規の非物質関連依存症としてICD-11に記載された。インターネット使用障害など、その他の依存症は、依存症的行動に起因する「その他の特定の」または「特定不能の」障害として含めることが推奨されている。

・疫学研究ではゲーム症の有病率は4.6%、インターネット使用障害の有病率は6.0%と報告されている。特に、青年期は報酬系に関連する障害を発症しやすいと考えられている

・ 今回、ゲーム障害および特定不能のインターネット使用障害に対するPROTECTの長期的予防効果についてのクラスター無作為化比較試験を実施した

対象と方法

・ドイツのライン=ネッカー広域連合の全高校に校長室経由で連絡し、33校の高校が任意で参加した。データは2015年10月1日から2018年9月30日の間に収集された

・ゲーム障害と特定不能のインターネット使用障害のリスク評価のためのスクリーニングにCIUS( Compulsive Internet Use Scale )が使用され、20点をカットオフとして、中リスク以上の参加者(全スクリーニング対象者の上位36.4%に相当)が組み入れられた

・参加者は、ベースライン、1ヶ月時点、4ヶ月時点、12ヶ月時点で評価され、症状の重症度が評価された。また12ヵ月時点で依存症発症の有無を面接調査された

・PROTECTは、学校ベースの、マニュアル化された、認知行動療法に基づく予防グループ介入である。介入は、訓練を受けた心理士によって通常の学校時間内に実施。1回90分のセッションを4回実施。

・性別、年齢、学校の種類、成績、過去1か月以内の病欠、および平均オンライン使用時間も評価

・主要評価項目は、CSASで評価したゲーム障害または特定不能のインターネット利用障害の症状重症度(スコア範囲:0~56、スコアが高いほど病的)

・構造化臨床面接を用いて、ゲーム障害または特定不能のインターネット使用障害(DSM-5のインターネットゲーム障害の診断基準を5つ満たすと定義)および閾値以下のゲーム障害または特定不能のインターネット使用障害(DSM-5の診断基準を3つ満たすと定義)の発症率を調査

・副次評価項目は、先延ばし、一般精神病理、抑うつ症状、社会不安、パフォーマンス不安・学校不安、感情調節、学校関連社会行動・学習行動、自己効力感など

*PROTECTとは

・12-18歳の思春期層に対して開発された介入方法

・インターネットとビデオゲームの使用頻度の高くインターネット使用障害発症リスクのある全ての青年に適応可能

・DSM-V研究用試案におけるインターネットゲーム障害は過去12カ月間に以下の9項目中5項目以上が存在する場合に診断される
(1)ゲームへの熱中(ゲームをしていない時間にもゲームのことばかり考える。ゲームのために生活を組み立てる)(2)ゲームをしないと離脱症状が出現する(ゲームができない、もしくはやめようとすると抑うつ、不安、怒りなどを感じる)(3)耐性(ゲームへの欲求が増して、よりゲームに費やす時間が増大する)(4)ゲームをやめようとしても不成功に終わる(抑制コントロールの喪失)(5)他のレクリエーションへの興味を喪失する(社会的活動に不参加となりしばしば孤立する)(6)心理的問題があるにも関わらずゲームを続ける(社会的に有害な作用があるがゲームを継続する)(7)ゲームに費やす時間を他者に偽る(8)ゲームを現実生活の問題やネガティブな気分から逃避するために使用する(9)ゲームのため重要な対人関係や仕事、教育機会を喪失したりその危険がある

・インターネット使用障害は、2つの強化メカニズムの結果として発症すると考える。第一のメカニズム(満足)は、インターネットが高い報酬をもたらすと認識され、インターネットの使用を繰り返し、増加させることにつながる場合に強化される。第二のメカニズム(補償)は、インターネット利用を優先する結果、運動、社会活動、学業、芸術、個人的に重要なプロジェクト、奉仕活動、自然に関する活動など、通常気分に強い影響を与える健全な活動がおろそかになることで強化される。これらの健全な活動は、青年期の感情制御の発達に重要なものである。現実世界でこのような体験を欠如することがインターネット使用への傾倒をもたらす

・PROTECT病因モデルは、思春期のインターネット使用障害が、主に3つの問題領域における否定的感情の不適応的対処と強く関連していると仮定する。これらは、(1)動機づけの問題または退屈への感受性の問題、(2)不快なタスクの先延ばしと関連する成果への不安、(3)社会的スキルの欠如とそれに伴う社交不安である。これらの状態は、思春期のインターネット使用障害に関連する危険因子であることが分かっている

Module 1:退屈と動機付けの問題

・現実世界とインターネット世界の良い点、悪い点を考える。これによりインターネットの利益と有害性についての知識を獲得することを目指す

・バランスを保つ:母親の食事の勧めを無視しSNSに熱中し、その後もネットゲームに熱中して親友の誕生日を忘れてしまうTONIの症例が提示される。この症例を通じて、TONIが現実世界とインターネット世界とのバランスのとれた生活をしているかどうかグループで議論する

・悪循環について考える:TONIがインターネットに多くの時間を費やすようになったのは、どのような負の感情のせいかを考える。あるいはコンピュータゲームをした後に、どのような肯定的な感情を経験するかを考える。最後に、TONIの過度のインターネット利用がもたらす長期的な否定的影響について考察する(母親とトラブルになる、パーティーに参加できない、サッカーの練習に付き合うかどうか聞かれなくなる、無気力になる、新しいことに挑戦する意欲がなくなる、友人/仲間や家族との連絡が減るなど)。インターネットは、これらの否定的な結果によって引き起こされる不快な感情を調整するための短期的な戦略として機能することが説明される

・続いて、認知が感情や行動に影響を与えることを学ぶ。非現実的な認知があれば、それを認知再構成し再評価する作業を行う。この過程をPROTECTでは”reality check”と呼ぶ。状況に対する推論の誤りが怒りや恐れなどの否定的な感情につながることを認識する

・思春期にみられやすい推論の誤りとして、“must thoughts(べき思考)”、または“demandingness (要求性思考)”がある。要求性思考とは、自分にも他人にも非現実的な要求を突きつけるもので、誰もそれを満たすことはできないものである。TONIの物語の中で、要求性思考に伴う機能不全のパターンを取り上げる作業を行う。セラピストはTONIの物語において、「これらの考え方はTONIの役に立つのか」かどうかを問いかける。生産的ではない役に立たない思考をセラピストは抽出していき、それらの思考が怒りや抑うつにつながることをみていく

・続いて「より現実的で役に立ち、TONIの気分を良くするような代替思考は何でしょう」と問いかけ、適応的思考について考え、認知の再構成を行っていく

・思考停止法について指導する:時には、あまりに不快な考えが浮かんできて、それに激しい感情で反応することがある。そんなときには思考停止法で対処する。思考停止法は、落ち込むような考えに対して自己主張するための手軽な方法で、自分に言い聞かせるだけでよい。こんなことを考え続けるのは嫌だ!と。現実でも内面でも、大きな声で「ストップ!」と叫んでみる。交通標識のようなものを思い浮かべて、思考を停止させることもできる。また、テーブルを手でたたいたり、足を軽くたたいたりして、思考から距離を置いてもよい。その後よりポジティブなことを考えたり、楽しい活動に没頭するようにする

・問題解決技法と行動活性化トレーニング:行動に直接介入する。問題解決技法を用いて行動変容を図る。まずは現在の行動パターンを分析する。退屈して何もする気が起きないのはどのような状況か、退屈をしないのはどのような状況かなど。続いて、非適応的な行動の代替となる行動にはどのようなものがあるかを考える。その代替行動のメリット、デメリットをリストアップし、最も適切な代替行動を選択し“change plan”を作成する。またchange planを実行できた場合に、自分に与えるご褒美を考える(自分自身のchange planを作成することが宿題となる)

Module 2:成果への不安と先延ばし

・まず「イライラするDavid」という症例が提示される。Davidは1週間後に数学のテストがあり、そのテスト範囲を1週間では理解できないと思っている。そして失敗への大きな不安を抱える。また良い成績をとらないといけないと考えている。テストに失敗すると考えると数学の授業も怖くなってしまう。イライラして帰宅したDavidはインターネットをはじめ時間を忘れて入り込んでしまう。その後数学の教科書を見ると罪悪感、嘔気を感じる。そのため再びインターネットを始めてしまう。Davidは数学のことをすっかり忘れてしまう。

・Davidがインターネットをすることについて、現実世界とインターネット世界とのバランスのとれた生活をしているかどうかグループで議論する。インターネット使用障害に典型的に見られる機能的および機能不全的な認知と行動を特定し評価する。この不適切な行動パターンと思考が現実世界とインターネット世界のアンバランスにどのように寄与しているかを議論する

・続いてDavidの症例で、退屈しのぎの悪循環について、Davidがどう考えるか、正の思考、負の思考を考える。また短期的、長期的な否定的な結果を予測する。インターネットの機能不全的な使用は、否定的な現実世界と肯定的な仮想世界という長期的な二項対立をもたらし、先送りや回避行動が恐怖を引き起こし、ますます強い抵抗につながることを学ぶ

・続いて、先延ばしを減らし、悪循環を断ち切ることを考える。先延ばしにすればするほど、しなくてはならないことから遠ざかり、さらにしたくない仕事をするよりも、他のこと(ゲームなど)を先にしなくてはならないという誤った信念の形成につながりうることを学ぶ。もっとも簡単な解決法は、したくない仕事への嫌悪感が益々増悪する前に、その嫌な仕事に取り掛かることである。仕事が終わったら自分自身にご褒美を準備する

・成果への不安についても同様に、物事に対して恐れを感じると(Davidのテストのように)、それを遠ざけようとしてしまい、遠ざけるとそのことが益々恐怖に感じるようになる。この恐怖を取り除く唯一の方法は、その対象に直面することである。それにより不安を生じる状況に速やかに対処すべきである

・続いてDavidの症例について、「べき思考」や「過度な一般化」などの認知のゆがみについて検討する。セラピストはDavidの物語において、「これらの考え方はDavidの役に立つのか」かどうかを問いかける。生産的ではない役に立たない思考をセラピストは抽出していき、それらの思考が怒りや抑うつにつながることをみていく。さらにより適応的な、現実的な思考はどのようなものかについて考える。

・最後にDavidの症例について問題解決技法を用いて行動変容を図ることを考える。まずは現在の行動パターンを分析する。インターネットをするのはどのような状況でどのような問題があるか、インターネットをすることの代替となる行動にはどのようなものがあるかを考える。その代替行動のメリット、デメリットをリストアップし、最も適切な代替行動を選択し“change plan”を作成する。またchange planを実行できた場合に、自分に与えるご褒美を考える(自分自身が先延ばしをすることについてchange planを作成することが宿題となる)

Module 3:社交不安

・まず一緒にプールに行く友達を探すがうまくいかないLeilaの症例が提示される。

・Leilaがインターネットをすることについて、現実世界とインターネット世界とのバランスのとれた生活をしているかどうかグループで議論する

・続いてLeilaがインターネットに多くの時間を費やすようになった不快な感情と、ネットでチャットをした後に感じる快感について考える。さらにインターネットを長時間使用することによって生じる長期的な否定的結果について考える(本当の友人がいない、他者に近づく方法を学ばない、他者に排除される、本当の友人のために努力する動機が少ない、自己効力感、自尊心が低下するなど)

・社交能力(social competence)のトレーニング:初対面の人に声をかけるときに、感じる不安や恐怖、ぎこちない態度は相手に伝わる可能性があるため、誰かと話をする前に、何を言いたいか考えておく。話しかけるのに適したタイミングを待つ。話すときは、はっきりと話す、さらに、常に相手に話す機会を与え、相手の話を遮ることなく、最後まで話させるなどの会話技法についてトレーニングする

・Leilaの症例について認知のゆがみを検討する。「べき思考」や「皆が」「いつも」「誰も~ない」などの思考や、「破局的思考」について検討する。これらの思考が現実的かどうかを考え、さらにより適応的な、現実的な思考はどのようなものかについて考える。
・最後にLeilaの症例について問題解決技法を用いて行動変容を図ることを考える。まずは現在の行動パターンを分析する。どのような行動が社交場面での危機や回避につながっているか、どのような行動をとればより安全に他者にアプローチできるかを考える。その代替行動のメリット、デメリットをリストアップし、最も適切な代替行動を選択し“change plan”を作成する。またchange planを実行できた場合に、自分に与えるご褒美を考える(自分自身が回避をすることについてchange planを作成することが宿題となる)

Module 4:感情制御

・感情の星とよばれる図を提示し、自身の感情状態をセルフモニタリングするトレーニングを行う

・感情体験がいかに多面的で状況に左右されやすいかを視覚化する

・感情には4つの側面があり、1つは感情の認知的側面、2つ目は感情の生理的側面、3つ目は感情によって生起する気持ち、4つ目は気持ちにより生じる行動の側面であり、自身がどの状態にあり、それがどのような感情に起因するのかを同定することが目標

・マインドフルネスの技法に基づくもので、自身の体、知覚などに注意を向ける

・これまでのmoduleでみた3つのストーリーの主人公について、自身がその主人公であるとなりきって、行動の背景にある感情を探る

・感情は、ある状況下で適切な行動を示すために有用であり、出来事に対する適切な反応に寄与する特定の行動を活性化する要素を持っている。各感情の具体的な機能に焦点をあて、感情の星の外側に書き留める。例えば恐怖なら「自身を守る」など

・その後3つのリラクゼーション技法を導入し、感情制御の訓練を行う。具体的には「内なる安全な場所」「漸進的筋リラクゼーション」「熊のグミ」の3つの技法についてトレーニングを行う。

結果

・合計422人のリスクのある生徒(平均15.1歳、女性229人、男性193人)が、PROTECT介入群(n = 167)または評価のみの対照群(n = 255)に無作為割付

・介入は、3~11人から成る24のグループで実施。平均出席セッション数は、4セッション中3.7であった

・PROTECT介入群では、ゲーム障害と特定不能のインターネット利用障害の症状重症度が、対照群と比較して有意に低下した

・12カ月間の症状改善度はPROTECT群 39.8%、対照群 27.7%で効果量cohen d=0.67

・合計12人(5.7%)が、12か月後にDSM-5診断基準を少なくとも5つ満たす、特定不能のインターネット使用障害を発症した(PROTECT群6人、対照群6人)。

・合計40人(19.0%)がインターネットゲーム障害のDSM-5診断基準を3または4つ満たす閾値以下のゲーム障害(合計10人[PROTECT群3人,対照群7人])または特定不能のインターネット使用障害(合計33人[PROTECT群10人,対照群23人])に該当した(両方を満たすのが3名)

・発症率に有意差なし

・副次評価項目では、PROTECT介入群では、評価のみの対照群と比較して、先延ばしの減少が著しく大きいことがわかった。

・その他の副次評価項目では時間×群の交互作用は有意ではなかった

議論

・PROTECTは12カ月間でゲーム障害または特定不能のインターネット使用障害の症状の重症度を対照群と比較して有意に低下させた。一方で対照群における自然経過による症状軽減も大きかった。

コメント

・最初に4回のセッションを行い、その後1年間の経過観察期間での症状変化でみたものですが、途中でBooster sessionのようなものがあれば、1年後の発症率も違いが出たかもしれません

 

引用文献

文献1:Lindenberg K et al. JAMA Netw Open. 2022 Feb 1;5(2):e2148995. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.48995.