・統合失調症の再発・再燃には様々なリスク因子が報告されており、BAPガイドラインでは再発・再燃の予測因子として、服薬アドヒアランスの悪さ、男性であること、DUPが長いこと、病前の社会機能の悪さ、ベースラインでの陰性症状の重症度、物質使用障害の併存、治療者との治療関係の希薄さ、患者とその家族や介護者との間の相互作用の希薄さ、ライフイベントや家族の高感情表出(high EE)などがあげられています。しかし性別などはいかんともしがたいため、今回は修正可能な(modifiable)リスク因子についての中国からの報告(文献1)をまとめてみます

統合失調症再発・再燃予防のための修正可能なリスク因子

背景


・統合失調症における再発・再燃の予測因子については、観察期間、統計手法、医療制度などが異なるため、未だコンセンサスが得られていない。今回、中国の10の精神科病院における統合失調症患者を対象に、多施設後ろ向き観察研究を実施した。

・リスク因子として様々な情報を収集し、退院後1年間の統合失調症患者における再発・再燃のリスク因子を3つの異なる統計手法を用いて解析することで、整合性を検証し、臨床的予後を改善するために修正可能なリスク因子を同定することを目指した

対象と方法

・18-65歳の統合失調症患者(ICD-10)

・2009年から2012年までの特定の期間内で中国の10か所の精神病院にて回復(recover)ないし改善(improve)し退院した患者 n=1487

・情報は2つのリソースから質問紙により収集された。1つは病院カルテより患者の人口統計学的情報と統合失調症罹病期間、発症年齢、生涯入院回数、最終入院期間、身体・精神疾患の家族歴、喫煙/アルコール依存症歴などが収集された。もう1つは退院後1年目に17項目の半構造化質問紙を用いた電話インタビュー(主に患者の介護者に対して)により収集された。

・再発・再燃の定義として自己申告または介護者による電話インタビューで臨床的に有意な精神病症状の増悪が見られた場合に再発・再燃と定義した。

・症状の悪化の評価基準として、抗精神病薬治療の変更、通院回数の増加、再入院、自傷行為・攻撃的行動・自殺念慮・他害念慮による監視の強化の4つが評価され、この4つの基準のうち、少なくとも1つを満たした場合を再発・再燃と定義した。

・電話での回答者が報告した服薬行動に基づいてアドヒアランスを評価した。服薬中断は顕著なノンアドヒアランスとした。退院後の服薬行動によって、アドヒアランスを3段階に分類した。(1)アドヒアランス良好(服薬継続がほとんどで、非服薬期間の合計が2ヶ月未満、または服薬中止期間が2週間未満)、(2)中等度のノンアドヒアランス(服薬継続が半分程度の期間、もしくは全非服薬期間が2ヶ月以上かつ6ヶ月未満、もしくは服薬中断期間が2週間以上2か月未満)(3)重度のノンアドヒアランス(服薬がほとんどない、非服薬期間の合計が6ヶ月以上、または2ヶ月以上の服薬中断)

・統計解析はカイ二乗検定、ロジスティック回帰分析、決定木分析の3つの手法により行われた。カイ二乗検定は、再発・再燃に関連する有意なリスク因子を同定するために実施。カイ二乗検定で有意であったリスク因子を用いて、各リスク因子毎の再発リスクのオッズ比をロジスティック回帰分析で導出。ロジスティック回帰モデルでは、服薬アドヒアランス、雇用状況、対人関係、ADL、世帯収入、治療効果、医療費の支払い、家族とのコミュニケーション、病院ランク、性別、退院時の服薬パターンを独立変数とし、再発を従属変数とした

・決定木分析では、全サンプルのうち1,020件をリスク因子を同定するための訓練用サンプルとし、残りの275件が抽出されたリスク因子の妥当性を検証するための検証用サンプルとして使用した。項目はすべてカテゴリー変数[服薬アドヒアランス、雇用状態、収入、ADLなどロジスティック回帰分析の独立変数として用いられた項目]として分析された。

結果

・対象患者の平均年齢は35.5歳で、女性828人(55.7%)、男性659人(44.3%)。また,1,295名の患者から1年後の情報が得られ,うち465名(35.9%)に再発・再燃を認めた。

・中等度のノンアドヒアランスおよび重度のノンアドヒアランス群をノンアドヒアランス群と定義した場合、非ノンアドヒアランス群(=アドヒアランス良好群:過去1年間で非服薬期間の合計が2ヶ月未満、または服薬中止期間が2週間未満)の割合は52.9%であった。

・カイ二乗検定により有意な再発・再燃因子として抽出されたものは以下の9つであった。

(1)服薬アドヒアランスでは,アドヒアランス良好群は,ノンアドヒアランス群よりも再発・再燃リスクが低かった(アドヒアランス良好群対ノンアドヒアランス群の再発・再燃率 22.9% 対 55.7%, OR = 4.23, 95% CI = 3.32-5.38)。

(2) 職業別では、就業者は無職者に比べて再発・再燃リスクが低かった(就業者 vs. 無職者の再発・再燃率。19.7% 対 42.7%, OR = 3.04, 95% CI = 2.29-4.04)

(3)対人関係では、社交的な人は非社交的な人よりも再発・再燃リスクが低かった(社交的 vs 非社交的の再発・再燃率:22.3 % 対 42.8%, OR = 2.61, 95% CI = 1.93-3.52 )。

(4) ADLでは,日常生活が困難な患者は,ADL正常な患者よりも再発・再燃リスクが高かった(ADL正常 vs. 日常生活困難の再発・再燃率 28.4% 対 54.3%,OR = 3.00,95% CI = 2.13-4.21 )

(5) 世帯収入では,毎月の世帯収入が3,000元以上(約6万円)の患者は,3,000元未満の患者より再発・再燃リスクが低かった(世帯収入3,000元以上の再発・再燃率28.6% 対 3,000元未満の再発率42.4%,OR = 1.83,95% CI = 1.43-2.36 )。

(6)退院時の治療効果では,改善(improve)した患者の方が回復した患者(recovery)よりも再発・再燃リスクが高かった(回復と改善の再発・再燃率:26.2% 対 38.8%,OR=1.78,95%CI=1.34-2.38)。

(7) 医療費の支払い方法では、自己負担者は医療保険者よりも再発・再燃リスクが低かった(自己負担 対 医療保険者の再発・再燃率:28.3 対 38.9%, OR = 0.62, 95% CI = 0.48-0.81 )。

(8)家族のコミュニケーションについては、家族間のコミュニケーションが良好な患者は、コミュニケーションが不十分な患者よりも再発・再燃リスクが低かった(コミュニケーション良好 対 コミュニケーション不十分での再発・再燃率:31.9 対 39.7%, OR = 1.49, 95% CI = 1.02-2.17)

(9)病院のランクでは、治療のために三次機関は一次・二次機関に行った人より再発・再燃のリスクが低かった(三次機関 対 一次・二次機関の再発・再燃率、33.5 対 42.4%, OR = 1.46, 95% CI = 1.14- 1.89)

・多変量解析の結果、9つの因子は互いに独立しており、相関関係は有意ではなかった

・再発・再燃の高リスク因子を特定するために、ロジスティック回帰分析を行った結果、服薬アドヒアランス(OR = 4.07, 95% CI = 2.94-5.64) 、雇用状況(OR = 2.50, 95% CI = 1.65-3.79) 、ADL(OR = 1.88, 95% CI = 1.27-2.77) 、医療費の支払い方法 (OR = 0.56, CI = 0.37-0.84) が有意な再発・再燃のリスク因子として同定された。

・退院した統合失調症患者では、服薬アドヒアランスが良好で、就業しており、ADLが正常で、医療費の自己負担がある人は再発・再燃が少ないと考えられた。

・決定木モデルの陽性予測値(PPV)は0.726であり、72.6%の再発・再燃を正しく予測することができた。ロジスティック回帰のPPVは0.740であり両モデルとも、再発・再燃を良好に予測することができた。

議論

・服薬アドヒアランス不良が最も強い再発・再燃の予測因子であり、ノンアドヒアランス群の55.8%が再発・再燃したのに対し、アドヒアランス良好群(過去1年間で非服薬期間の合計が2ヶ月未満、または服薬中止期間が2週間未満)の23%のみが再発・再燃した。

・失業は統合失調症患者における再発・再燃の高リスク因子であった。失業率に関する報告では、成人の統合失調症患者の75-90%が失業しており、失業は再発・再燃に寄与していることが報告されている。失業は他の高リスク因子、例えば世帯収入と関連する可能性があるが、相関分析によると、これら2つの要因の間には有意な相関性は認められなかった。この理由として、世帯収入が患者自身の収入を正しく反映していないこと、一人暮らしの患者が4.2%と少なかったことが考えられる。

・退院後1年経過した統合失調症患者においては、ADLの低下が再発を予測することも明らかになった。統合失調症患者のADLの障害を改善するために、社会的スキルのトレーニングが強く推奨される

・本研究では、再発の高リスク因子と予測因子を特定するために、ロジスティック回帰と決定木モデルの両方を使用した。しかし、ロジスティック回帰は、カテゴリー変数を用いており、変数によっては相互作用があるため、説明変数の非線形効果や相互作用の問題を適切に取り扱うことができない。したがって、決定木によってロジスティック回帰の知見を検証する必要がある。また、決定木モデルは一般化線形モデル(ロジスティック回帰)に対していくつかの利点がある。まず、一般化線形モデルと比較して、決定木モデルで出力される結果は、臨床の意思決定プロセスに類似しているため、理解しやすい。第二に、木構造は応答変数を事前仮定なしに分布させることができるため、より柔軟である。

・本研究では、これまでの報告で有意な再発・再燃のリスク因子として報告されてきた喫煙、アルコール依存、地方在住、薬の副作用、低学歴(9年未満)、入院期間(2ヶ月未満)、病気の経過(5年以上)、統合失調症の家族歴は、1年目未満の再発・再燃と有意な相関がみられなかった。この相違は、再発・再燃の定義や観察期間の違いに起因しているのかもしれない。

・limitationとしては服薬アドヒアランスは主として介護者への質問方式で後顧的に評価されたため、正確ではない可能性があること。また再発に関する情報は回答者から電話インタビューで提供されたものであり、誤った情報を与える可能性があり、想起バイアスが混入しやすいこと

コメント

・統合失調症の再発・再燃予防のため疾病教育やLAI導入などによる良好な服薬アドヒアランスの維持とデイケアやSSTなどでADLを保持することの重要性を示唆する結果となりました。

・治療抵抗性統合失調症や統合失調症の再発・再燃に関する文献をみていると、この分野における慶應の先生方の本質的な仕事の多さにびっくりします。臨床的に重要なものばかりなので、いずれこの辺もきちんとまとめておきたいと思います。

 

文献1:Wei-Feng Mi et al. Front. Psychiatry, 11 September 2020 | https://doi.org/10.3389/fpsyt.2020.574763