・Biogen社は同社の10月14日付press releaseにおいて、同社がAmerican Neurological Association Annual Meeting 2021において発表したTofersenの第3相試験結果を公表しました

・TofersenはSOD1変異家族性ALSに対する治療薬候補として開発されたアンチセンス・ヌクレオチド製剤であり、SOD1 mRNAに結合し、変異SOD1蛋白質の発現を阻害することにより、病態改善効果を期待するものです。

・この第3相試験(NCT02623699)では、108名のALS患者が対象となり、プラセボ対照で28週間、tofersenの有効性や安全性などが検証されました(tofersen群 72名、プラセボ群 36名)

・Tofersenは28週間で合計6回くも膜下腔内に投与されたようです。主要評価項目は28週間でのALSFRS-Rの変化量でした。

・既に結果が報告された(N Engl J Med. 2020 Jul 9;383(2):109-119)第1/2相試験では、最高用量において髄液中SOD1蛋白質濃度がプラセボに比較して33%減少しており、ALSFRS-Rの平均変化量もプラセボに比べて12週間で4点以上の差があり(症例数が少なく、有効性に関する議論はできない状況でしたが)、第3相試験はいけるんちゃうかなと思わせるものでした。Biogen社はSMAに対するスピンラザでも、アンチセンス・オリゴヌクレオチド製剤の実用化を実現しており、実績があるので、まあ大丈夫じゃろうくらいに思っていました。

・結論は残念ながら主要評価項目は達成できず、28週でALSFRS-Rのプラセボとの差は1.2点(p=0.97)でした。第1/2相での好ましい結果についてはsmall study effectとして解釈できるものであったのかもしれません。

・一方で、副次評価項目である髄液中SOD1蛋白質濃度はプラセボ群と比較して、急速進行群では38%、緩徐進行群では26%の減少ということで、そこまで大幅な減少とはいえないのかもしれませんが、概ね第1/2相試験の結果を再現するものでした。別の副次評価項目の血漿中ニューロフィラメント軽鎖量は急速進行群では67%、緩徐進行群では48%の減少ということで、こちらも望ましい結果ということになりそうです。他の副次評価項目の静的肺活量などは有効性について有意差までいかないもののtrendがみられたということです。症例数がそこまで多くはないので、検出可能な差は小さくはなく、definitiveなことは言えないのかもしれません。

・Biogen社といえば、aducanumabの前例(臨床的効果に基づく承認ではなく、アミロイドβプラークを減少させることができるという事実に基づく承認)があるので、今回のバイオマーカーの望ましい変化についてはどう判断されるのでしょうか。

・ただ、tofersenの場合には、もう1つ別の第3相試験(NCT04856982)が既に開始されていて、発症前のSOD1変異家族性ALS患者を対象にした試験が行われている最中です。FDAの判断はこちらの試験結果が出てからになるのかもしれません。神経変性疾患においては、発症後に原因物質候補を除去してもあまり治療的効果は期待できないということなのでしょうか。

・またアメリカ版の患者申出療養制度ともいえるExpanded Access Programにおいて、tofersenはなんと無料で提供されうるとの記載があり、これまでこの種の制度には高額の自己負担費用がかかるものと思っていたので驚きました。財源はどこから拠出されるのかについても興味があるところです。