・細胞外の物質に対して抗体で何とかしようという治療戦略はわかるのですが、細胞内抗体(イントラボディ)なるもので、細胞内凝集体を何とかしようという治療戦略があることを最近知りました。

・例えば滋賀医科大学の研究グループの報告(Sci Rep. 2018 Apr 16;8(1):6030. doi: 10.1038/s41598-018-24463-3)とかですが、TDP-43の特定の部位を認識するモノクローナル抗体から一本鎖フラグメントを抽出し、それをコードする遺伝子を細胞内にウイルスベクターなどで注入し、細胞にそのイントラボディを発現させて、蛋白質分解機構による凝集体分解を誘導させようということのようです。これは以前こちらの記事で紹介した手法(https://keiwakai-ohda.jp/byoin/greeting/incho_blog/2021/06/?page=2)と本質的には変わらないかと思います。うまくいけば革新的なことです。

・このような創薬戦略はベンチャー企業でも研究されていて、先のSOLA社の他に、抗体医薬品の開発を主に行っているProMIS Neuroscience社は、各種神経変性疾患における凝集体に対する抗体を開発しています。Aβプラークに対する抗体(PMN310)も開発していて、こちらの資料(https://promisneurosciences.com/wp-content/uploads/2021/08/PromIS-OV-Aug-8-2021.pdf)ではaducanumabと比べてARIA-E(Amyloid Related Imaging Abnormality-Edema)がないのだということで安全性が強調されていたりします。

・ProMIS社の資料によると、同社が開発中のTDP-43に対する細胞外投与されるモノクローナル抗体では、折り畳み異常TDP-43蛋白質の細胞間の伝播を抑制した(プリオン様の異常伝播メカニズムが推定されている)とか、イントラボディに関しては、細胞内のTDP-43凝集体がリソソームによる分解経路により減少したとか、基礎実験ではいろいろ報告されているようです。近々臨床試験開始のニュースが出てくるかもしれませんが、個人的には国産の滋賀医大の研究の進展を応援したいところです。こういうところで日本と海外との資金力の差が出るとすれば残念なことです。