・7月に引き続き9月3日付The New England Journal of Medicine誌にALSの臨床試験についての話題が掲載されました(文献1)。


・Amylyx社のALS治療薬候補AMX0035の第2相試験(CENTAUR試験:NCT03127514)です。

・AMX0035は既存薬の組み合わせでウルソのタウリン抱合体であるタウロウルソデオキシコール酸(taurursodiol)1gとフェニル酪酸ナトリウム(尿素サイクル異常症治療薬)3gの合剤(最初3週間は1日1回投与、その後1日2回投与)になります。

・タウロウルソデオキシコール酸は漢方薬の原料である熊胆(ゆうたん:熊由来の動物性生薬)の主成分でもあるということです。

・発症18カ月未満のdefinite ALS患者(孤発性ないし家族性)137名が対象となり、2:1の割合でAMX0035とプラセボに無作為割付され、24週間経過観察されました。

・主要評価項目はALSFRS-Rの変化率であり、副次的評価項目としては筋力、呼吸機能、人工換気導入までの期間などでした。

・主要評価項目は、AMX0035群平均-1.24点/月、プラセボ群平均-1.66点/月で統計的に有意にAMX0035はALSFRS-Rの変化率を改善することを示唆する結果が得られました。副次的評価尺度については統計的有意差が得られたものはありませんでした。

・最初のALS治療薬としての承認薬剤のリルゾールはどうなのか?リルゾールの承認に向けた臨床試験が行われたのは1992年頃であり、この頃にはALSFRS-Rは国際的な症状評価尺度としては使用されていなかったため、比較対象となりうるデータを見つけることができませんでした。

・国内2番目のALS治療薬として承認されたエダラボンについては、投薬期間の24週間でのALSFRS-Rの変化量は、エダラボン群では平均-5.70点、プラセボ群では-6.35点との結果が報告されています(プラセボに対して約10%の改善効果)。一方でAMX0035は同じ期間でプラセボ比約25%の改善度を示しています(試験の規模が違うことと、両薬剤で対象となった患者の患者背景が異なるため、単純な比較はできませんが)。なかなか良い数字のように見えます。


・試験の規模がそこまで大きくないことと、副次的評価項目で有意差がみられなかったことは気になりますし、毎度のことながら第3相で結果がひっくり返る薬剤を多くみてきたので、全然楽観視はできないのですが、この結果を受けてアメリカALS協会では、早くもFDAに対して1年以内のAMX0035の早期承認を求める嘆願活動を開始しています(https://www.als.org/stories-news/als-association-i-am-als-call-amylyx-fda-make-promising-new-drug-available-our-als)

・タウロデオキシコール酸については、実はドイツで既に第3相試験が動いています(NCT03800524)。440名のALS患者を対象にタウロウルソデオキシコール酸2g/dayを18カ月投与し、プラセボと比較してどうなるかについて臨床試験が進行中です。順調にいけば結果は2021年6月には判明しそうなので、こちらの結果もどうなるか要注目というところです。

 

・最近のALS臨床試験の気になる動向としては、Biogen社が新たなアンチセンス・オリゴヌクレオチド製剤であるBIIB105の第1相試験(NCT04494256)の開始をアナウンスしたことです。

・この製剤の注目すべき新しい点は、これまでは直接的に有害性を発揮する蛋白質の発現を阻害するためのアンチセンス・オリゴヌクレオチド製剤が使用されてきたのと異なり、BIIB105は病態に間接的に関与している蛋白質の発現を抑制することにより、病態改善を図ろうという治療戦略である点です。

・BIIB105がターゲットするRNAはataxin 2 RNAであり、孤発性ALSにおいてはataxin 2発現量を減少させるとTDP-43蛋白症に関連した病態の改善効果が期待できることが報告されていることによるものです。

・これは2017年のNatureに報告されたモデルマウスでの基礎実験の報告(Nature. 2017 Apr 20;544(7650):367-371. doi: 10.1038/nature22038. Epub 2017 Apr 12.)を臨床応用するものであり、ヒトでの効果がどうなるのか期待されます

引用文献

1)September 3, 2020 N Engl J Med 2020; 383:919-930 DOI: 10.1056/NEJMoa1916945