・癌患者などの介護者、配偶者を支援するサポートプログラムとしてCOPEモデルによるものがあります。このCOPEモデルは創造性(Creativity)、楽観性(Optimism)、計画性(Planning)、専門家の情報(Expert information)の4つの柱からなるプログラムです。

・このプログラムについては、緩和ケア領域においてその介護者への介入が報告されており(Susan C McMillan et al. Cancer. 2006 Jan 1;106(1):214-22. doi:10.1002/cncr.21567.)介護者のQOLや負担軽減に有効であることが報告されていますが、今回はイランより乳癌患者の配偶者への有効性が無作為割付非盲検試験にて検討されました(文献1)

乳癌配偶者のためのサポートプログラム

背景


・乳癌患者の配偶者のストレスは高いことが報告されている(Sajadian A, et al. Iran J Breast Dis 2015;8:7-14)。介護者、特に患者の配偶者が感じる心理的問題には、介護の負担や癌患者の治療プロセスに伴うストレスが含まれる。

・乳癌女性の配偶者が経験する主な問題として、将来に対する絶望と不安、および孤独への恐れが挙げられている(Morgan MA, Cancer Nurs 2011;34:13-23.)

・乳癌女性の夫におけるストレスや介護負担などの心理的問題に特別な注意を払う必要があるにもかかわらず、この問題はイランのような発展途上国ではあまり注目されてこなかった 。そこで本研究では、乳癌患者の配偶者に対する支援プログラムの効果を明らかにすることを目的とした。

対象と方法

・ステージ1-3の乳癌で、少なくとも1回の化学療法の既往がある女性の配偶者。

・25-60歳

・除外基準は精神疾患罹患、向精神薬の使用、薬物およびアルコール中毒、うつ病不安ストレス尺度(DASS-21)に基づく重度の不安(12点以上)および重度のうつ病(13点以上)。また、再発乳癌の女性の配偶者も除外

・無作為割付非盲検試験

・介入群 n=40
・対照群 n=40

・評価項目は、介護負担(Caregiver burden inventory :CBI)、うつおよび不安尺度(Depression anxiety stress scale :DASS-21)、カウンセリングヘの満足度(Client satisfaction questionnaire)、QOL(World Health Organization QOL brief version :WHOQOL-BREF))など

・介入は週2回、6セッション実施。最初の3セッションは小グループセッション(各グループ3〜5名)、次の3セッションは各個人と電話で行われた。

・小グループのセッションは45-60分。電話によるセッションが15-20分。

・介入セッションには、乳癌とその合併症に関する情報、さまざまな状況におけるストレス管理戦略、さまざまなレベルの問題解決スキルの教育、計画における創造性、楽観性、管理の強化、介護者の役割の定義、セルフケア、コミュニケーションスキルの強化、リラックステクニック、関連するホームワークが含まれていた。

・介入プロトコルの開発には、COPEモデル(creativity, optimism, problem-solving, and expert information:McMillan, S. C., et al. Cancer, 106, 214-222.)が採用された

第1セッション

・セッションの目標とルールを説明。その後、乳癌について、治療の段階、薬の副作用、癌が患者のQOLに与える影響、病気の女性の生活における配偶者の役割、起こりうる出来事などを説明した

第2セッション(Creativityセッション)

・治療過程における介護者の役割と、治療過程における配偶者の同席の重要性について説明。 その後、問題に対する解決策や対処方法を考えることにおける創造性の利点と技法を定義し参加者のモチベーションを高めた。

・創造性は、安全で推奨される臨床ケアの範囲内にとどめなければならないことを理解した上で、個人が創造性を発揮して課題を克服することが奨励される。問題を克服できる課題としてとらえることは、その人が目標に到達するのを妨げる可能性のある障害を特定することと同様に重要である。

・問題に対して創造的に考える方法としては、その問題について他の人に話してその人の見解を聞く、過去に同じような状況でうまくいったことを考え、それを新しい問題に合わせて修正する、目標が現実的かどうか評価する、ブレインストーミングを行う、などがある。最後に横隔膜呼吸を用いたリラクゼーション・エクササイズを行った。

・乳癌患者のQOLは様々な要因に左右されるが、家族、特に配偶者の感情のコントロールは、乳癌患者のQOLを向上させる重要な要因の一つであろう。配偶者へのCOPEモデルによるサポートプログラムの提供は、乳癌患者のQOLを向上させる可能性がある

第3セッション(Optimismセッション)

・感情のコントロールと自己効力感の維持に不可欠な要素として楽観主義に関する内容が提示された。

・このセッションでは、楽観主義を利用する技法を定義し、楽観主義に関する誤解を修正した。

・楽観主義とは、起こっている良いことに焦点を当て、成功を期待し、前向きな自己思考、セルフトーク、セルフケアを実践することである。同時に、問題の深刻さを現実的にとらえ、状況に気を配ることも強調される。また、過去の問題解決の成功例やその時の状況を振り返ることで、現在の問題解決に自信を持つことができる。

第4セッション(planning→論文ではproblem-solvingとなっているが、もともとのCOREプログラムの内容に基づいてplanningとした)

・プランニングについて説明され、その使用方法についてグループで議論された。このセッションではブレーンストーミング法を用いて、参加者の経験を利用しながら、プランニングの分野とそのテクニックを使うことについて議論した。

・問題解決のためには、計画を練ることが重要であり、計画を立てるには、まずすべての情報を収集することが重要である。また、思い込みを避け、客観的に問題をとらえることが、よりよい計画の策定につながる。

・また、計画を実行するためにどのようなリソースが必要かを考え、必要であれば専門家の力を借りることも重要である。計画が固まったら、それを実行に移し、うまくいかないときは調整することも、問題解決のアプローチとして大切なことであることなどが説明された。

第5セッション(Expert Information)

・信頼できる情報源を見つけることと、タイムリーに情報にアクセスする方法を学ぶことが重要である。情報は医療従事者などの信頼できる情報源から得るべきである。

・専門家の助けを求めるタイミングを見極めることは、セルフケアと介護の両方において重要である。各医療従事者とコンタクトを持ち、専門家をよく知ることで、専門的な情報へのアクセスを容易にすることができる。

・患者や介護者に専門家の助けを求めるタイミングを教えることは、COPE介入の重要な部分である。その他、介護者の役割の定義、患者の生活における介護者の存在の重要性と影響、自分自身のケアの方法(状態を改善するための身体活動の増加、適切な栄養)、コミュニケーション能力の向上(新しい状況で使用する新しいスキルの獲得)、ソーシャルサポートに関する情報の提供とその関連要素の説明が行われた。

第6セッション:最後に全体の総括が行われ質問に対する返答などが行われた


・対照群では初回セッションの前に45分間の化学療法の副作用に関するカウンセリングセッションで乳癌女性の介護者に焦点を当てた説明が行われた。倫理的問題を遵守するため、研究終了時に介入プロトコルの簡易版を小冊子として対照群に提供し、ケアやストレス管理に関する質問に回答した

結果

・介入開始後6週時点での評価においては、介入群は対照群と比較して、介護者における介護負担(効果量0.70)、ストレス(効果量0.64)において有意な改善効果を示し、乳癌女性のQOL(効果量0.67)も有意に改善した。

議論


・乳癌患者のQOLは様々な要因に左右されるが、家族、特に配偶者の感情のコントロールは、乳癌患者のQOLを向上させる重要な要因の一つであろう。配偶者へのCOPEモデルによるサポートプログラムの提供は、乳癌患者のQOLを向上させる可能性がある

コメント

やはり専門家ときちんと連携し、正しい情報を適切に得ることが重要といえそうです。配偶者が受診に同伴することもCOPEモデルの重要な要素のようです。

文献1:Seyedeh-Zeynab Hosseinnejad et al. Obstet Gynecol Sci. 2022 Jul 28. doi: 10.5468/ogs.22080. Online ahead of print