・ラピッドサイクリングについてのメタ解析が出たので(文献1)、感想を述べたいと思います。

・まず最初に、解析に使用されているwithin subjects meta-analysisというのが、非常に一般的ではありません。

・通常のメタ解析ではプラセボなどの対照薬との比較をして、効果量を出してそれを統合したりしますが、この報告では、治療前後のアウトカム(MADRSやYMRSなど)の変化量を効果量に換算し、統合しています。さらにそれをプラセボ群についても同じこと(治療前後のアウトカムの変化量を効果量に換算して統合する)をして、そのプラセボ群の効果量の95%信頼区間と重なるかどうかで、対象とする薬剤が有意に効果があるかどうかを判断するという、かなりトリッキーなことをしています。このようにすることで、プラセボ対照ではない試験における対象薬の効果量も統合できるのはいいのですが、あまり一般化できそうにない結論がabstractに出てきてしまっています(本文では割と慎重な記載がされているのに、なぜかabstractではそのニュアンスが消えている)

・例えば、うつ病相においてベンラファキシンやシタロプラムの名前があったり(ベンラファキシンは双極II型のみを対象とした試験の結果に基づくので一般化はできないと思われますし、STEP-BDの知見からは抗うつ薬は病相回数を増やしてしまい、不安定化につながるのでよろしくないだろうとの結論であったはずです)、一方でクエチアピンの名前がなかったりなどです。

・クエチアピンは後程触れますが、rapid cyclingの急性期うつ病相において4つのプラセボ対照試験の事後解析結果などが報告されており、これらを通常のメタ解析で統合するとある程度しっかりとした有意な効果量が導けます。このようなメッセージをせめてsensitivity analysisなどで検証して、表に出してほしかったのですが、それがないのは残念でした。

Rapid cyclingにおけるwithin-subjects meta-analyses

背景


・Rapid cyclingでは、非RCと比べて、躁病エピソードが約7倍、うつ病エピソードが約2倍と、エピソードの頻度が高いといわれている(Kupka et al. Am J Psychiatry. 2005;162(7):1273-1280. )。

・Rapid cyclingの生涯有病率は双極性障害患者全体の26-43%であり、様々な身体疾患のリスクが高く、混合状態、物質使用障害、自殺傾向、より悪い心理社会的機能などの疾病負担の増大を伴うとされている。 治療ガイドラインでは、rapid cyclingに対する特定の治療法は推奨されていない
今回より多くの介入技法を含めてWithin-subjects meta-analysesをしてみた

対象と方法

・無作為割付比較試験、クロスオーバー試験を含む

・10名以上の対象者が無作為化されたもの

・18歳以上の双極性障害患者でrapid cyclingの診断を満たすもの

・対照群としてプラセボ、他の薬剤、非薬物療法的介入、waiting list, treatment as usualを含む

・主要評価項目は、介入前後に評価された以下の連続尺度、1)CGIなどの包括的尺度、2)うつ症状評価尺度(MADRSないしHAM-D)、3)躁病症状評価尺度(YMRS)、4)改善(反応)までの時間や悪化までの時間を示すその他の評価項目

・治療前と治療後の各指標(MADRS、YMRS、CGIなど)を用いて、Within-subjectでの効果量Hedge’sg(治療前からどの程度改善したか)を導出した
これらをrandom effects modelで統合し、各治療群毎の効果量を算出

・プラセボの効果量については、すべての試験の結果(異質性の高い一部試験は除外)の効果量を統合し算出

・ベースラインでうつ状態の患者を対象とした試験のみがうつ状態の結果の解析に、躁状態の患者を対象とした試験のみが躁状態の結果の解析に用いられた
Within-subject meta-analysesでは、群間比較での統計的有意差の有無は求めることができないため、各群の95%信頼区間が重複しない場合に、有意差ありと推定した

結果

・30の試験結果を記述した34本の文献が解析対象となった

・介入期間は3週間から100週間までで、中央値は14週間。1 studiyはクロスオーバー試験で、1件のみ非薬物療法的介入(Cognitive psychoeducational therapy)の有効性を検討

・6 studies(20%)がバイアスリスク高と判定

・2 studiesでは、生涯平均で年間4回以上のエピソード、1 studyでは、平均月1回以上のエピソード、1 studyでは、2年以内に8回以上のエピソードであることが条件とされた。5 studiesでは、最大閾値を設定し、前年度にそれぞれ8、12、20回以上のエピソードがあった参加者を除外していた。16 studiesでは、BD の異なるサブタイプの参加者を募集し、9 studiesが 双極I型障害 のみ、5 studiesが 双極II型障害 のみを対象としていた。

(1)非定型抗精神病薬

・Global impressionでは、クエチアピンのwithin-subject効果量(治療前後のCGIの変化量から求めた効果量)は0.79で、抗精神病薬全体でも0.79であった。

・うつ症状については抗精神病薬全体(10試験)のうつ症状改善度の効果量は0.75であり、異質性が大きかった(69%)。 クエチアピンの効果量は非定型抗精神病薬全体と同等であった(0.76、37%の異質性)。うつ病のアウトカムで1試験以上実施された他の抗精神病薬はオランザピン(フルオキセチン併用ないし非併用含む)で、効果量は1.01であった(異質性0%)

・躁症状については、2つ以上の試験で検討された薬剤はなく、全体の効果量は1.11

(注)

・Rapid cyclingのうつ病相急性期におけるクエチアピンのプラセボ対照RCTは事後解析も含めて以下の4つがあり、よりエビデンスの質が高いと思われる通常のpairwise meta-analysisが可能である(ただし、SuppesらとVietaらは標準誤差が与えられていないため、Thaseらの数値で代用しています。より厳密には標準偏差が同じと仮定してサンプルサイズの平方根で比率をとって標準誤差をだせばよいですが300mg群のサンプルサイズがそこまで違わないのでしてません)。通常のメタ解析を行うと、クエチアピン300mgもクエチアピン600mgもラピッドサイクリングの急性期うつ病相において有意に有効との結論がでる

・McElroyら 2010(EMBOLDEN II) 8 weeks MADRS変化量 Quetiapine 300mg -16.29(n=46), Quetiapine 600mg -16.08(n=35),プラセボ -14.37(n=24) 有意差なし SE 0.6?

・Thaseら 2006(BOLDER II) 8 weeks MADRS変化量 Quetiapine 300mg -19.99(n=44), Quetiapine 600mg -19.24(n=46), プラセボ -13.73(n=53) 有意差あり SE 1.0?

・Suppesら 2014 8 weeks MADRS変化量 Quetiapine 300mg -20.3(n=36),プラセボ -13.5(n=38) 有意差あり

・Vietaら 2007(BOLDER) 8 weeks MADRS変化量 Quetiapine 300mg -20.7(n=42), Quetiapine 600mg -21.1(n=31),プラセボ -11.6(n=35) 有意差あり

Q300

 

Q600

 

(2)気分安定薬

・ラピッドサイクリングに関して1つ以上の試験で検討されたのはリチウムとラモトリギンのみ

・Global Impression:5つの試験でプールされた効果量は0.67(異質性59%)。このうち3試験で検討されたラモトリギンは効果量が低かった(0.58、異質性61%)。

・うつ症状:リチウムは効果量が比較的高く(1.01、2試験の異質性0%)、ラモトリギンは低めであった(効果量=0.70、3試験の異質性59%)

・躁症状:divalproexの1試験のみで効果量=0.91

(3)抗うつ薬

・2つ以上の試験で検討された抗うつ薬はなく、全て単一の小規模試験からの帰結で信頼性が乏しい。さらにrapid cyclingにおける抗うつ薬についてはSTEP-BDの帰結(病相回数の増加と関連)に要注意

・うつ症状に関して4試験合計の効果量は1.19であった(異質性52%)

(4)対照群(1つを除いてプラセボ群で構成)

・Global Impressionの対照群の効果量は全体で0.67(異質性0%)で、非定型抗精神病薬(全体の効果量、クエチアピン、オランザピン)、抗うつ薬(全体の効果量、シタロプラム)、気分安定薬(リチウム、バルプロ酸)の効果量の方が対照群よりも大きかった。気分安定薬全体の効果量は対照群と同等であった

・うつ症状:対照群の効果量(0.60、異質性51%)は、気分安定薬(全体、リチウム、ラモトリギン、バルプロ酸薬)、抗精神病薬(全体、クエチアピン、オランザピン)、抗うつ薬(全体、シタロプラム、エスシタロプラム、パロキセチン、ベンラファキシン)より数値的に低かった。甲状腺治療と同等の効果量であった(0.60)

・躁症状:対照群の効果量(0.33、異質性0%)は抗精神病薬(全体、クエチアピン、オランザピン/OFC、アリピプラゾール)と比較した場合、低い値であった。

・対照群の95%信頼区間との重なりがないことで有意な効果とみなした場合、うつ症状ではオランザピン(3試験)、シタロプラム(1試験)、ベンラファキシン(1試験)が対照群と比較して有意に有効性が高いと判断された。

・躁症状については、分析したすべての治療(非定型抗精神病薬)が対照群より有意に有効であった(クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール)。

議論

・一般的ではない解析を行ったため、結果の普遍性に疑問が生じる部分がある

・ベンラファキシンについては双極II型障害のみを対象とした試験からの帰結であるため一般化はできないだろう(特にSTEP-BDの帰結に反する点に注意が必要)

・クエチアピンについても急速交代型うつ病相において従来型のメタ解析でプラセボ群と有意差がみられるため、おそらく有効性が期待できる薬剤といえる(この論文の解析手法では入ってこない)

・うつ病相ではその他、オランザピンがよく、リチウムも効果量だけみると比較的良好

・Rapid cyclingの急性期躁症状に関しては気分安定薬による検討が極めて乏しい(1試験のみ)

・ルラシドンがどのように入ってくるのか、興味深いところ


文献1 Strawbridge et al. Acta Psychiatr Scand. 2022 Jul 2. doi: 10.1111/acps.13471. Online ahead of print