・うつ病についてはMayo clinicなどでdecision aidが公表されており(https://depressiondecisionaid.mayoclinic.org/app/depression)、一部薬剤の性機能障害のリスクなどについてはCANMATガイドラインなどとも異なっており、?と思う部分もあるものですが、SDM(Shared Decision Making)の1つの形を提示したものとして興味深いものです。

・専攻医勉強会をする中で、初回エピソードの統合失調症において、このようなSDMができないものかと考えてみました。

・幸いなことに、ここ最近抗精神病薬の急性期治療(ただし初回エピソードについての試験は除く)における短期的な副作用発現リスクについてのメタ解析が出そろってきており、数字を並べるだけならある程度(貼付剤を除いて)可能な状況かと思います。

・ちなみに初回エピソード統合失調症における抗精神病薬の有効性については、APAガイドライン2020(https://psychiatryonline.org/doi/book/10.1176/appi.books.9780890424841)の記載「初回エピソードについて第2世代抗精神病薬では薬剤間の有効性の差は明らかではない。患者の特性と作用機序、副作用プロフィールに応じて選択する」や、BAPガイドライン2019( J Psychopharmacol. 2020 Jan;34(1):3-78. doi: 10.1177/0269881119889296. Epub 2019 Dec 12.)の記載「初発精神病の項目:薬剤選択については、特定の薬剤が別の薬剤と比較して有意に優れているとの明らかなエビデンスはない」にあるように、有効性の差について明白なエビデンスがない現状においては、忍容性を主体に薬剤選択をすることは合理的と思われます。

・実際には患者さん用になるべくわかりやすいスライドもつくってみたのですが、ここでは薬剤名を伏せ、ネットワークメタ解析の結果として提示された点推定値を主に用いて、薬剤毎のプロフィールをまとめてみます。

・データは主にM. Huhn et al. Lancet. 2019 Sep 14;394(10202):939-951. doi: 10.1016/S0140-6736(19)31135-3. Epub 2019 Jul 11)もしくはPillinger et al. Lancet Psychiatry. 2020 Jan;7(1):64-77.から引用しています。

薬剤A

・プロラクチン上昇:約7週間でプラセボとの平均差=-7.10ng/ml(男女混合の数値):有意差あり(有意に低下)
・眠気:対プラセボの相対リスク=1.46:有意差あり
・抗コリン系副作用出現リスク:対プラセボの相対リスク=1.30:有意差なし
・抗パーキンソン病薬併用リスク:対プラセボの相対リスク=1.32:有意差なし
・体重増加:平均7週間でプラセボ群との平均差=0.48kg:有意差なし
・血糖値上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=2.34mg/dl:有意差なし
・コレステロール上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=2.34 mg/dl:有意差なし
・中性脂肪上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=1.76mg/dl:有意差なし
・アカシジア:7週間程度で対プラセボの相対リスク=1.95:有意差あり

薬剤B

・プロラクチン上昇:約7週間でプラセボとの平均差=38ng/ml(男女混合の数値):有意差あり
・眠気:対プラセボの相対リスク=2.03:有意差あり
・抗コリン系副作用出現リスク:対プラセボの相対リスク=1.31:有意差あり
・抗パーキンソン病薬併用リスク:対プラセボの相対リスク=1.80:有意差あり
・体重増加:平均7週間でプラセボ群との平均差=1.44kg:有意差あり
・血糖値上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=3.52mg/dl:有意差なし
・コレステロール上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=2.34mg/dl:有意差なし
・中性脂肪上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=3.52mg/dl:有意差なし
・アカシジア:7週間程度で対プラセボの相対リスク=2.73:有意差あり

薬剤C

・プロラクチン上昇:約7週間でプラセボとの平均差=4.47ng/ml(男女混合の数値):有意差あり
・眠気:対プラセボの相対リスク=2.17:有意差あり
・抗コリン系副作用出現リスク:対プラセボの相対リスク=1.94:有意差あり
・抗パーキンソン病薬併用リスク:対プラセボの相対リスク=1.05:有意差なし
・体重増加:平均7週間でプラセボ群との平均差=1.94kg:有意差なし
・血糖値上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=3.6mg/dl:有意差なし
・コレステロール上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=15.6mg/dl:有意差あり
・中性脂肪上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=40.5mg/dl:有意差あり
・アカシジア:7週間程度で対プラセボの相対リスク=0.99:有意差なし

薬剤D

・プロラクチン上昇:約7週間でプラセボとの平均差=7.04ng/ml(男女混合の数値):有意差あり
・眠気:対プラセボの相対リスク=1.75:有意差あり
・抗コリン系副作用出現リスク:対プラセボの相対リスク=1.14:有意差なし
・抗パーキンソン病薬併用リスク:対プラセボの相対リスク=1.94:有意差あり
・体重増加:平均7週間でプラセボ群との平均差=0.32kg:有意差なし
・血糖値上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=-5.22mg/dl:有意差あり(有意に低下)
・コレステロール上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=-1.17 mg/dl:有意差なし
・中性脂肪上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=0mg/dl:有意差なし
・アカシジア:7週間程度で対プラセボの相対リスク=3.93:有意差あり

薬剤E

・プロラクチン上昇:約7週間でプラセボとの平均差=0.95ng/ml(男女混合の数値):有意差なし
・眠気:対プラセボの相対リスク=1.64:有意差あり
・抗コリン系副作用出現リスク:対プラセボの相対リスク=0.72:有意差なし
・抗パーキンソン病薬併用リスク:対プラセボの相対リスク=1.60:有意差なし
・体重増加:平均7週間でプラセボ群との平均差=0.70kg:有意差なし
・血糖値上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=0.72mg/dl:有意差なし
・コレステロール上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=1.95mg/dl:有意差なし
・中性脂肪上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=-0.88mg/dl:有意差なし
・アカシジア:7週間程度で対プラセボの相対リスク=1.35:有意差なし

薬剤F

・プロラクチン上昇:約7週間でプラセボとの平均差=48.51ng/ml(男女混合の数値):有意差あり
・眠気:対プラセボの相対リスク=1.33:有意差なし
・抗コリン系副作用出現リスク:対プラセボの相対リスク=1.42:有意差なし
・抗パーキンソン病薬併用リスク:対プラセボの相対リスク=1.61:有意差あり
・体重増加:平均7週間でプラセボ群との平均差=1.49kg:有意差あり
・血糖値上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=3.52mg/dl:有意差なし
・コレステロール上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=2.34mg/dl:有意差なし
・中性脂肪上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=3.52mg/dl:有意差なし
・アカシジア:7週間程度で対プラセボの相対リスク=1.47:有意差なし

薬剤G

・プロラクチン上昇:約7週間でプラセボとの平均差=-1.17ng/ml(男女混合の数値):有意差なし
・眠気:対プラセボの相対リスク=3.27:有意差あり
・抗コリン系副作用出現リスク:対プラセボの相対リスク=3.89:有意差あり
・抗パーキンソン病薬併用リスク:対プラセボの相対リスク=:有意差あり
・体重増加:平均7週間でプラセボ群との平均差=1.44kg:有意差あり
・血糖値上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=1.62mg/dl:有意差なし
・コレステロール上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=12.1mg/dl:有意差なし
・中性脂肪上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=28.2mg/dl:有意差なし
・アカシジア:7週間程度で対プラセボの相対リスク=1.01:有意差なし

薬剤H

・プロラクチン上昇:約7週間でプラセボとの平均差=5.05ng/ml(男女混合の数値):有意差あり
・眠気:対プラセボの相対リスク=2.17:有意差あり
・抗コリン系副作用出現リスク:対プラセボの相対リスク=1.11:有意差なし
・抗パーキンソン病薬併用リスク:対プラセボの相対リスク=1.21:有意差なし
・体重増加:平均7週間でプラセボ群との平均差=1.21kg:有意差あり
・血糖値上昇:6週間程度でプラセボとの平均差=-2.52mg/dl:有意差なし
・アカシジア:7週間程度で対プラセボの相対リスク=2.38:有意差あり

・これらのほかにコスト、性機能障害(Serretti et al. Int Clin Psychopharmacol. 2011, 26;130-140)、遅発性ジスキネジア(Carbon M. et al World Psychiatry 2018 Oct;17(3):330-340. doi: 10.1002/wps.20579.)などのリスクについても言及していいと思いますが、ここでは省略します。

・このままではSDMに使用できないと思われるので、例えば
「抗精神病薬の副作用には様々なものがあります。以下の副作用の中からあなたが避けたい副作用を、重視するものから順に順位付けをしてください
(  ) 手のふるえや筋肉のこわばりなどのパーキンソン症状
(  ) 体重増加
(  ) プロラクチンというホルモンの増加による無月経など
(  ) 性機能障害
(  ) 眠気
(  ) 口の渇きや便秘など
(  ) 足がむずむずするアカシジアという副作用
(  ) 血糖値やコレステロール、中性脂肪の増加」
などの質問をしてみるのは良い方法かもしれません。

・これについては、中込先生の論文(中込和幸 臨床精神薬理 14:688-703,2011)を参照すると、患者さんへの困っている副作用についてのアンケート結果から、口渇、体重増加、眠気、月経不順(高プロラクチン血症)が上位であることがわかります。

・この順番で上記薬剤を選択すると、最終的に薬剤A、E、ついで薬剤Dが残りそうなことがわかります。LAI製剤があることや、クロザピン治療につなげうる薬剤であることを考慮すると(CP換算600mgまで投与できる)、薬剤Aが最有力候補となります。これは日本臨床精神神経薬理学会のアルゴリズム委員会が作成した初回エピソード統合失調症に対する治療アルゴリズム(Takeuchi H. et al. Hum Psychopharmacol. 2021 Nov;36(6):e2804. doi: 10.1002/hup.2804. Epub 2021 Jul 9.)の第1選択薬と同じであり、アルゴリズムが妥当性を支持する結果と思われます。ただし、SDMで患者さんが別の薬剤を選択する可能性もあるため、その場合には異なる薬剤で治療を開始することもありうるでしょう