・ここ最近の振り返りという事でまとめておきます。院内勉強会で扱ったものについてはまた後日まとめたいと思います。専攻医勉強会では統合失調症の急性期治療に関連した内容に入り、いくつかの論文をまとめたスライドで話を進めています。急性期治療に関するスライドに含めた論文は、以下のようなものになります。

1.Huber et al. Schizophrenia Bulletin, Volume 6, Issue 4, 1980, Pages 592–605
・まだ統合失調症の診断にSchneiderとBleulerの基準も用いられていた1950年代からの調査も含めて長期臨床経過を分類した論文。最近でも引用されることがあるようです。

2.井上 新平ら「統合失調症の臨床疫学」:臨床精神医学 34(7):855-861.2005
・いわずとしれたDOSMed試験などの長期経過のまとめられた論文

3.Maren Carbon, Christoph U. Correll Dialogues Clin Neurosci. 2014 Dec; 16(4): 505–524
・これも専門医試験に出題されうる経過の図(各病相間の移行割合など)が入っているのでとりあげました。

4.BAPガイドライン J Psychopharmacol. 2020 Jan;34(1):3-78. doi: 10.1177/0269881119889296. Epub 2019 Dec 12.
・CHR、初発精神病などにわけて詳しくエビデンスが解説してあるのがいいです

5.M. Huhn et al. Lancet. 2019 Sep 14;394(10202):939-951. doi: 10.1016/S0140-6736(19)31135-3. Epub 2019 Jul 11
・有効性に関する解析については、文献25の論文にもあるように、プラセボ反応率が年代によって変化しているので、appendixのプラセボ反応率で調整したネットワークメタ回帰分析の図の方がよりバイアスが少ないと思われること。一方で副作用については客観性が高い指標も多いため、副作用については有用と思われることから多く引用しました。

6.Harringan et al. J Clin Psychopharmacol. 2004 Feb;24(1):62-9. doi: 10.1097/01.jcp.0000104913.75206.62.
・QT延長について調べた論文。ベースラインにQT延長がなく、通常使用する用量の範囲内では、その薬剤の代謝に関わるCYP阻害作用のある薬剤と併用していてもそこまで心配しなくてもよさそうというもの

7.EUFEST study : Lancet. 2008 Mar 29;371(9618):1085-97
・オープンラベル試験ですが、各薬剤の継続率に差があることと、継続できさえすれば有効性指標についての経時変化はほぼ変わらないことなどが示されています。

8.PAFIP study:Int J Neuropsychopharmacol. 2020 Apr 23;23(4):217-229. doi: 10.1093/ijnp/pyaa004.
・これもオープンラベルですが継続率の違いや、初回エピソードにおける性機能障害の副作用について詳細な図があるのが注目点となります

9.McEvoy et al. Am J Psychiatry. 2007 Jul;164(7):1050-60. doi: 10.1176/ajp.2007.164.7.1050.
・早期精神病における二重盲検試験

10.Emsley R, Rabinowitz J, Medori R; Early Psychosis Global Working Group. Schizophr Res. 2007 Jan;89(1-3):129-39. Epub 2006 Nov 7.
・初発精神病における二重盲検試験

11.Green AI et al; HGDH Study Group. Schizophr Res. 2006 Sep;86(1-3):234-43. Epub 2006 Aug 2.
・初発精神病における二重盲検試験。オランザピンの体重増加が強烈です。その他の薬剤もですが初回エピソードでは副作用が出やすいことを示唆するものです。

12.Moller et al. Int J Neuropsychopharmacol. 2008 Nov;11(7):985-97. doi: 10.1017/S1461145708008791. Epub 2008 May 9
・初回エピソード統合失調症における二重盲検試験。ハロペリドールのEPSの出現のしやすさなど。

13.Cheng et al. J Psychopharmacol. 2019 Oct;33(10):1227-1236. doi: 10.1177/0269881119872193. Epub 2019 Sep 5.
・初回エピソード統合失調症における二重盲検試験。リスペリドンと比較したアリピプラゾールの特性がいろいろな指標の経時変化で示されています

14.Kim et al. NPJ Schizophr. 2021 May 25;7(1):29. doi: 10.1038/s41537-021-00158-z.
・早期統合失調症におけるアリピプラゾールとD2アンタゴニストの比較のメタ解析など

15.Zhu et al. Lancet Psychiatry. 2017 Sep;4(9):694-705
・初回エピソード統合失調症のネットワークメタ解析。初回エピソードに対する試験そのものが少ないため、比較対象となる薬剤の種類やデータが乏しく、確定的な結果が出せない現状がわかります。

16.Hiroyoshi Takeuchi et al. Neuropsychopharmacology (2019) 44:1036–1042; https://doi.org/10.1038/s41386-018-0278-3
・初回エピソードと2回目のエピソードで同じ薬剤を使用しても有効性が異なることを報告したもの。貴重な報告です。

17.APA guideline 2020:https://psychiatryonline.org/doi/book/10.1176/appi.books.9780890424841
・BAPガイドラインに比べてざっくりとした記載の印象ですが、各薬剤の副作用比較の図とかはわかりやすいです。ネット公表版では図の一部が欠落してて不完全です。

18.Hitoshi Sakurai et al. Pharmacopsychiatry. 2021 Jan 12. doi: 10.1055/a-1324-3517
・日本臨床精神神経薬理学会のエキスパートコンセンサスです

19.Hiroyoshi Takeuchi et al. Hum Psychopharmacol. 2021 Nov;36(6):e2804. doi: 10.1002/hup.2804. Epub 2021 Jul 9.
・日本臨床精神神経薬理学会の治療アルゴリズムです

20.Lee et al. Clin Psychopharmacol Neurosci. 2020 Aug 31;18(3):386-394. doi: 10.9758/cpn.2020.18.3.386.
・韓国でのアルゴリズムです

21.日本神経精神薬理学会 統合失調症薬物治療ガイドライン 2015(2017年改訂)

22.日本神経精神薬理学会 統合失調症薬物治療ガイドライン 2022
・2017年改訂版でのCQ1-4が無くなってしまったことと、そのかわりになる論文が文献23で示されています。

23.Hui et al. Int J Neuropsychopharmacol. 2022 Apr 22:pyac002. doi: 10.1093/ijnp/pyac002. Online ahead of print.
・Asian Network of Early Psychosis Wriing Groupによる素晴らしいガイドライン。10年予後で有名なDr.Huiらのグループが精力的に初回エピソードと治療中断可能性の問題に取り組んでこられてきたことがよくわかるものです。

24.CU Correll et al. NPJ Schizophr. 2022 Feb 24;8(1):5. doi: 10.1038/s41537-021-00192-x.
・各ガイドラインの比較の系統的レビュー

25.S. Leucht et al. Am J Psychiatry. 2017 Oct 1;174(10):927-942. doi: 10.1176/appi.ajp.2017.16121358. Epub 2017 May 25.
・プラセボ反応率が年々違うことや、プラセボ反応率に影響しうる要因などを解析したもの。結果はなかなか興味深いです。

26.Schneider-Thoma et al. Lancet. 2022 Feb 26;399(10327):824-836. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01997-8
・維持療法期のネットワークメタ解析。主要評価項目の解析にBayesian NMAを使用しており、そのため文献27と結果が一部異なります。

27.Giovanni Ostuzzi et al. World Psychiatry. 2022 Jun;21(2):295-307. doi: 10.1002/wps.20972
・維持療法期のネットワークメタ解析。文献26と比べてサンプルサイズが50未満の試験は除外するなどinclusion criteriaの違いはありますが、主要評価項目の解析にFrequentist NMAを用いており、文献26との結果の違いの原因となっています。

28.JE Thomas et al. Curr Neuropharmacol. 2015;13(5):681-91. doi: 10.2174/1570159x13666150115220221.
・ルラシドンやアセナピンなどのアカシジア出現頻度を以前からの第2世代薬と比較したものです。抗コリン作用が乏しい分、出現しやすいのかと思います。

29.Carbon M. et al. World Psychiatry 2018 Oct;17(3):330-340. doi: 10.1002/wps.20579.
・アリピプラゾールの遅発性ジスキネジア出現リスクが頭一つ抜けて有意に少ないことをmoderation analysisで示したものです。

30.H Taipale et al. Lancet Psychiatry. 2021 Aug 30;S2215-0366(21)00241-8. doi: 10.1016/S2215-0366(21)00241-8
・プロラクチンと乳癌リスクに関してのnested case-control研究。長期投与に際して重要な結果かと思います

31.Pillinger et al. Lancet Psychiatry. 2020 Jan;7(1):64-77.
・抗精神病薬の代謝系副作用についてのネットワークメタ解析です。中性脂肪などのデータは他にないものになります。

32.H. Wu et al. Wu et al. Schizophr Bull. 2022 May 7;48(3):643-654. doi: 10.1093/schbul/sbac001
・抗精神病薬と体重増加に関するdose-response meta-analysisです。dose-response meta-analysisは恣意的な操作が入っている解析ではありますが、図がきれいでいいですね。

33.J Greger et al. J Clin Psychopharmacol 2021;41: 5–12
・後方視的なチャートレビューのため質は高くはないのですが、長期的な代謝系副作用についての報告です

34.S. Leucht et al. Am J Psychiatry. 2020 Apr 1;177(4):342-353. doi: 10.1176/appi.ajp.2019.19010034. Epub 2019 Dec 16.
・各抗精神病薬の短期的有効性に関するdose-response meta-analysisです

35.S. Leucht et al. JAMA Psychiatry. 2021 Nov 1;78(11):1238-1248.
・維持療法期におけるdose-response meta-analysis

36.H. Taipale et al. Lancet Psychiatry. 2022 Apr;9(4):271-279. doi: 10.1016/S2215-0366(22)00015-3. Epub 2022 Feb 16
・大規模コホートによる抗精神病薬の用量と再燃リスクについての報告で、0.9~1.1DDD投与した場合と比較して0.6DDD未満だと明らかに再燃リスクが増大することを示し、かつ再燃を繰り返すたびに抗精神病薬の用量が増えていくことをWithin-individual modelで示した観察研究です。

37.J. Tiihonen et al. JAMA Psychiatry. 2019 May 1;76(5):499-507.
・大規模コホートによる単剤療法と併用療法の再入院リスクをwithin-individual analysisで比較した報告です。観察研究なのでバイアスリスクはありますが、このような解析は大規模コホートならではとなります。

38.I. Bighelli et al. Lancet Psychiatry. 2021 Nov;8(11):969-980. doi: 10.1016/S2215-0366(21)00243-1. Epub 2021 Oct 12.
・再燃予防における心理的介入のネットワークメタ解析です。通常治療のみと比較して、家族関係介入などが大幅に再燃リスクを減らしている結果は重要なものです。

39.Cochrane Database Syst Rev. 2018 Nov 15;11(11):CD008712
・CBT対その他の心理的介入の再発・再燃リスクの比較

40.三宅 誕実ら 臨床精神薬理 15:1099-1107,2012
・統合失調症におけるうつ症状の総説です

41.S. Leucht et al. Lancet. 2009 Jan 3;373(9657):31-41. doi: 10.1016/S0140-6736(08)61764-X. Epub 2008 Dec 6.
・2009年の古いメタ解析ですが、第1世代と第2世代の比較を引用しました

42.B Galling et al. Acta Psychiatr Scand. 2018 Mar;137(3):187-205. doi: 10.1111/acps.12854.
・統合失調症における抗うつ薬増強のエビデンスです。有効性は乏しいものですが、統合失調症における抗うつ薬の使用は少なくとも全体として陽性症状などを有意に悪化させることはなさそうです。

43.M. Krakowski et al. Am J Psychiatry. 2021 Mar 1;178(3):266-274. doi: 10.1176/appi.ajp.2020.20010052. Epub 2021 Jan 21.
・統合失調症と攻撃性に関する比較試験です

44.L Citrome et al. Psychiatr Serv. 2001 Nov;52(11):1510-4. doi: 10.1176/appi.ps.52.11.1510.
・これも統合失調症と敵意、攻撃性に関する試験です。

45.A. Serretti et al. Int Clin Psychopharmacol. 2011 May;26(3):130-40. doi: 10.1097/YIC.0b013e328341e434.
・性機能障害についてのメタ解析です。

46.Yaara Zisman-Ilani et al., JAMA Psychiatry. 2021 Nov 1;78(11):1183-1184
・SDMについて

47.中込和幸 臨床精神薬理 14:688-703,2011
・アドヒアランスについての総説です

・今年に入って2月と6月に維持療法期間における抗精神病薬の有効性に関するネットワークメタ解析の報告が2報(26と27)でて、細かいところで結果がかなり異なる部分があり、inclusion criteriaの違いかと思って、frequentist NMAでいろいろやってみたのですが違いを再現できず、Prof. Stefan Leuchtにメールで聞いてみたら筆頭著者のDr. Schneider-Thomaにつないでいただき教えていただきました。一言でいえばFrequentist NMAとBayesian NMAの違いということらしいです。昨年に引き続き親切に教えていただいてありがとうございます。