・統合失調症の専攻医勉強会を進めるにあたって、この分野は避けて通れないので、何年か前から少しずつまとめていた論文集の見直しと、ここ2年ほどで新たに出版された論文を付け加えるアップデート作業をしていて、疾患概念について知らなかった点に気がつきました。

・今までCHR-P(Clinical High Risk for Psychosis)とUHR-P(Ultra High Risk for Psychosis)はほぼ同じ概念だろうと思ってあまり気にしてなかったのですが、厳密には違うようです。

・Dr. Fusar-Poliによれば、CHR-PはUHR-Pかつ/またはbasic symptoms(基底症状)を含む概念ということで、UHR-Pよりも幅広い概念のようです(Fusar-Poli et al. JAMA Psychiatry. 2020 Jul 1;77(7):755-765)。

・さらにUHR-Pとは何か?ということですが、オーストラリアでYungらによりARMS(at risk mental state)の概念が1990年代後半に提唱され、ARMSの基準を満たす前駆状態のことがUHR-Pと呼ばれたようです。アメリカでもこの考え方を導入し同時期にCOPS(Criteria of Psychosis-Risk Syndrome)の概念が定められました。ARMSとCOPSは似ていますが細かいところで診断基準が異なっており、詳細は辻野尚久先生らの総説(発症危険状態の評価:臨床精神医学 41(10):1407-1412, 2012)をご参照いただければと思いますが、この2つの概念が出てからは、だいたいCOPSかARMSのことをUHR-Pと呼ぶようです(Fusar-Poliら 2020)。

・ARMSないしCOPSにはそれに対応する操作的診断基準と構造化面接法が定められており、ARMSに対してはCAARMS、COPSに対してはSIPS/SOPSが対応します。CHR-Pに関するメタ解析などに含まれるstudyでは、SIPSを用いたものの比率が一番高いようです。

・さらに基底症状を軸にした診断基準としてはドイツのケルン早期発見研究で用いられた予測的基底症状(COPER)および認知的基底症状(COGDIS)があり、それに対応する評価尺度としてずボン基底症状評価尺度(BSABS)、その英語版のSPI-Aなどがあるようです。このあたりの詳しいところは針間博彦先生の総説(臨床精神医学 41(10):1395-1405,2012)をご参照ください。

・というわけで、細かいところですが、CHRに関する論文を読むときに、このあたりの用語の違いをおさえておくと混乱が少なくなるのでいいかと思います。CHR-Pに関する系統的レビューなどに含まれる論文では、CHRの診断的評価にCAARMSを用いたのか、SIPSを用いたのか、それともSPIなどか、それ以外かなどにわかれており、どの基準を用いたかで、オーストラリアからの報告なのか、北米なのか、それ以外なのか、ということも読みとれます。

・CHRの論文を読んでいて気になるのはcomobidityの多さです。UHR患者の90%が何らかの非精神病性の精神疾患を合併しているとの報告(Early Interv Psychiatry. 2021 Feb;15(1):104-112 )もあり(一番多いのは不安障害)、機能的予後はUHR症状が改善しようがしまいが、有意差はないとの報告もあることから(Am J Psychiatry. 2011 Aug;168(8):800-5)、これら併存疾患で機能的予後が規定されているような気がしなくもないです。

・CHRに含まれる患者群は多種多様であることを踏まえて、どのように介入するかは個別に検討する必要がありそうです。