・dose-response meta analysisは視覚的にわかりやすく結果が提示され、妙に説得力があるのですが、運動とうつの関連についてのdose-response meta analysisが公表されました(文献1)

・前向き観察研究からの帰結なので、うつに対する脆弱性の高い人が運動をしない可能性があるという逆因果関係などのバイアスには注意が必要ですが、週2.5時間の早歩き程度の運動量を継続すると、うつ(大うつ病のみではなく、スクリーニング用紙などでカットオフ値以上のうつ状態を含む)の相対リスクは25%低下し、現在の罹患率から推定すると、うつを11.5%(うつ病だと7.3%)減少させることができる可能性があるとの結論でした。

・睡眠時間を増やした先日の報告(JAMA Intern Med. 2022 Feb 7. doi: 10.1001/jamainternmed.2021.8098. Online ahead of print.)もですが、忙しくても生活習慣をきちんと見直せば、時間はつくれるもののようです。1週間くらい自分の生活記録をしてみて、振り返ってみるのもいいかもしれません。

運動とうつ病リスク

背景

・前向き観察研究(n=49)のメタ解析(Am J Psychiatry. 2018; 175(7):631-648.)では、平均7.4年の追跡期間で身体活動レベルが最も低い群と比較して、最も高い群はうつ病発症の調整後オッズ比が0.83(95% CI, 0.79-0.88) と報告された。この効果は高齢者においてより良好(オッズ比=0.79)であった。

・別のメタ解析(Br J Sports Med. 2021; 55(16):926-934)では、111の前向きコホート研究を対象にうつ病ないし診断閾値下のうつ状態発症率について、身体活動度が高い群は低い群と比較して調整後オッズ比が0.79(95% CI, 0.75-0.82) と報告された

・運動量とうつ病リスクとの関連についてdose-responseメタ解析はこれまでされていないのでしてみた

対象と方法

・18歳以上を対象とした前向きコホート研究

・身体活動度を3段階以上で評価したもので、うつ病発症リスク(DSMないし ICDによる診断もしくはスクリーニングでカットオフ得点以上で定義される)を報告したもの。サンプルサイズが3000人以上かつフォローアップ期間が3年以上

・身体的活動量の指標として、1週間あたりの安静時代謝率(1 MET)を超過して消費されたエネルギーを反映する運動量(marginal metabolic equivalent task hours=mMET-h/週)を使用。1週間あたりの運動時間に軽い運動では1.5 mMETを、中等度の運動では3.5 mMETを、激しい運動では7.0 mMETを掛け合わせてmMET-h/週を算出。エネルギー消費量について報告した1つの報告については、1 kcal/kg= 1 MET-hに換算。またほとんどの報告が仕事以外の運動を活動量指標としていたが1つの報告は仕事も含めた運動量を用いており、この報告については、仕事量をMETに換算し、その分を差し引いて、身体活動量を求めた

・Dose-responseメタ解析については、人年数の0、37.5、75パーセンタイル点にノットを有する制限付き三次スプライン曲線でフィッテングした
さらに、どの程度リスクを低減できるかの指標であるPIFs(potential impact fractions)をWHOが推奨する運動量である、8,8 mMET-h/週(中等度の強度の運動を週に2.5時間行ったことに相当)、さらなる健康のために推奨される運動量である17.5 mMET-h/週、さらに推奨運動量の半分の4.4 mMET-h/週について算出した

結果

・15 studies(n=191130)

・運動を全くしていない成人に対して、WHO推奨運動量の半分(4.4 mMET-h/週)をしている人は、うつリスクが18%(95%CI、13%-23%)低かった。

・推奨される8.8 mMET-h/週の運動をしている人は、うつリスクが25%(95%CI、18%-32%)減少することを示唆する結果が得られた。この運動量を超えると潜在的な利益は減少し、不確実性が高くなった。

・PIFを見積もると、すべての成人が少なくともWHOの推奨する週に8.8 mMET-hの運動を行うと、うつ患者(大うつ病のみではなく、一部試験でのエントリー基準(スクリーニング用紙でのカットオフ以上になったケースも含む)に合致するもの)を11.5%(95%CI、7.7%-15.4%)減少させることができる可能性がある。17.5 mMET-hでは13.9%、4.4 mMET-hでは6.4%となった。

・大うつ病についてはPIFは8.8 mMET-hでは7.3%、17.5 mMET-hでは8%、4.4 mMET-hでは3%となった

議論

・軽度の運動であってもうつ病リスクの低減にかなり寄与しうる可能性があることを示唆する結果となった。週2.5時間の早歩き程度の運動量を積み重ねると、うつのリスクは25%低下し、その半分の量では、運動しない場合に比べて18%低下した。

・うつ病の予防効果は、運動に伴う身体イメージの改善、社会的交流の増加、内因性カンナビノイド系の活性化などの神経内分泌機能の変化、脳構造の変化、対処戦略の向上などの影響も関与している可能性がある。

・考慮すべきバイアスとして、ベースラインでうつ症状を有する場合(2つの試験でベースラインのうつ病を除外していなかった)、ないしうつ病の寛解状態であった場合、逆因果バイアスが混入する可能性がある

・限界としては、運動量が、全て自己報告式であったこと。そのためリコールバイアスや、 social-desirability(社会的望ましさ)バイアスが混入しうる

文献1:Pearce M. et al. JAMA Psychiatry. 2022 Apr 13. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2022.0609. Online ahead of print