・もともと睡眠時間が少なめで過体重気味の人が睡眠時間を増やすとどうなるかという短期的な介入試験の結果がJAMA Internal Medicine誌に公表されました(文献1)

・一番興味があったのは、どうやって睡眠時間を増やしたのかということでしたが、1時間程度のカウンセリングで、個別のライフスタイルに合わせた睡眠衛生指導をして、平日と休日における習慣的な睡眠・覚醒スケジュール、昼寝(ある場合)、環境要因(寝室の温度、騒音、環境光)、就寝時の習慣、テレビ・電子機器の使用、生理的要因(例:運動、カフェイン)などが検討され、就寝時間を8.5時間に延長することを目標に、2週間自宅で行う就寝・起床時間のスケジュールが個別に提供されたとのことです。要は自分の生活スタイルをきちんと見直して、睡眠を確保できる時間を作り出しましょうということになります。

過体重に対する睡眠延長効果

背景


・米国人口の3分の1は、推奨される7~9時間の睡眠をとっていない。定期的な睡眠時間が7時間未満であることは、健康への悪影響と関連することが報告されている。

・前向き観察研究により、睡眠時間の短さは体重増加の危険因子であることが報告されている(JAMA Intern Med. 2020;180(12):1694- 1696)。しかし、睡眠時間の延長が肥満の予防や改善に有効であるかどうかはわかっていない。

・エネルギー摂取量が100kcal/日持続的に増加すると、3年間で約4.5kgの体重増加をもたらすとされている

・実験室での短期的な研究では、健康な人の睡眠を制限すると、エネルギー消費量はほとんど変化せず、平均エネルギー摂取量が約250〜350kcal/日増加することが報告されている(Sleep Med Rev. 2019;45:18-30)

・今回、習慣的に睡眠時間が短い過体重の成人を対象に、実生活の場で客観的に評価したエネルギー摂取量、エネルギー消費量、体重に対する睡眠延長介入の効果を明らかにするために、RCTを実施した

対象と方法


・21歳から40歳の成人男女で、BMIが25.0〜29.9、平均習慣的睡眠時間が一晩あたり6.5時間未満の人。

・過去6ヶ月間、自己申告による睡眠習慣が安定していること。

・習慣的な睡眠時間は、自宅でのアクチグラフ検査(1週間)で確認。

・睡眠ポリグラフ検査で確認された閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI>5)、不眠症または他の睡眠障害の既往、夜勤および交代制勤務(現在または過去2年間)を有する者は除外参加者は全員、ベースライン評価期間で2週間の習慣的睡眠をとり(この期間に習慣的な睡眠覚醒パターンを把握)、その後2週間の睡眠延長(睡眠延長群)または2週間の習慣的睡眠継続(対照群)のいずれかに無作為に割り付けられた。ベースライン評価期間中、参加者は、食事や身体活動を制限されることなく、自宅で日常的な活動を継続した。

・睡眠覚醒リズムは4週間の全期間中アクチグラフで評価

・睡眠延長群では、構造化面接により個別の睡眠衛生カウンセリングを受けた。面接の最後に、参加者は就寝時間を8時間半に延長する目的で2週間自宅で実行すべき個別の推奨事項を提示された。22日目(介入開始1週間後)にはフォローアップ訪問が実施された。アクチグラフでの睡眠データに応じて、さらなる睡眠カウンセリングが提供された。

・対照群では、15日目(介入開始時)と22日目に調査員と面会を実施。対照群のアクチグラフデータはダウンロードされたが、特に睡眠に関する指示を受けず、研究終了まで日常生活と習慣的な睡眠行動を継続するよう指示された

・総エネルギー消費量は二重標識水法で測定。

・2週間ごとに、体内エネルギー貯蔵量の変化を、毎日の体重測定と二重エネルギーX線吸収測定法による体組成(脂肪量と無脂肪量)の変化の回帰係数(傾き、グラム/日)から計算。

・参加者は毎朝起床後、飲食前に2回、裸体重を測定するように指示され、体重は、行動への影響を最小限にするため、参加者に隠蔽された。

・体組成の変化は、脂肪量のエネルギー係数を9.5 kcal/g、無脂肪量のエネルギー係数を1.0 kcal/gとして、貯蔵エネルギーの変化に換算した。

・安静時代謝量は、空腹時30分後と標準化した朝食後4時間の間接熱量測定により測定した。

・活動エネルギー消費量は、総エネルギー消費量から安静時代謝量と食事の熱効果を差し引くことで算出された。

結果

・対照群41人、睡眠延長群39人。平均年齢29.8歳、男性41人(51.3%)、女性39人(48.7%)

・睡眠延長群の参加者は、対照群の参加者と比較して平均睡眠時間がベースラインから有意に増加した(1.2時間;95%CI、1.0 -1.4時間)。参加者の勤務日(1.3時間;95%CI、1.0~1.5時間)または非勤務日(1.1時間;95%CI、0.7~1.5時間)いずれも有意に増加。

・睡眠効率の変化は2群間で有意差なし。

・エネルギー摂取量は、対照群と比較して睡眠延長群で有意に少なかった(-270.4 kcal/日;95% CI,-393.4 to -147.4 kcal/日)。

・対照群ではエネルギー摂取量がベースラインから有意に増加し(114.9 kcal/日;95%CI、29.6~200.2 kcal/日)、睡眠延長群ではエネルギー摂取量がベースラインから有意に減少した(-155.5 kcal/d;95%CI、-244.1~-66.9 kcal/d)

・すべての参加者を考慮すると、睡眠時間の変化はエネルギー摂取量の変化と逆相関していた(r = -0.41; 95% CI, -0.59 to -0.20)。睡眠時間が1時間増加するごとに、エネルギー摂取量は約162 kcal/日減少した(-162.3 kcal/日;95% CI,-246.8 to -77.7 kcal/日)。

・総エネルギー消費量やその他のエネルギー消費量の指標に、両群間の有意差なし。

・睡眠延長群では、対照群と比較して、体重が有意に減少(-0.87 kg; 95% CI, -1.39 to -0.35 kg)。

・対照群ではベースラインからの有意な体重増加(0.39 kg; 95% CI, 0.02 to 0.76 kg)があり、睡眠延長群ではベースラインからの有意な体重減少(-0.48 kg; 95% CI, -0.85 to -0.11 kg)がみられた

議論

・健康的な睡眠時間に延長することが、客観的に評価されたエネルギー摂取量および体重に有益な効果をもたらすことを示唆する結果が得られた。Hallの動的予測モデルによると、本試験で観察された約270kcal/日のエネルギー摂取量の減少は、その効果が長期的に持続した場合、3年間で約12kgの体重減少を予測する。これが続けられるかどうかはわからない

・一方でメタ解析では、健常者における1~14日間の短期睡眠制限は、平均エネルギー摂取量の約253kcal/日の増加と関連することが報告されている( Sleep Med Rev. 2019;45:18-30)。また別のメタ解析では、睡眠時間が1時間減少するごとに肥満リスクが9%増加することが報告されている(Sleep Breath. 2019;23 (4):1035-1045)

・睡眠延長群は対照群と比較して、十分な睡眠を得るという主観的スコアが有意に高く、日中のエネルギーと覚醒度が高まり、気分も良くなった

・健康な睡眠習慣は肥満および関連疾患の予防のためにも重要である

コメント


・対照群ではそのままの生活の継続なのになぜか消費カロリーが有意に増えてしまっているのがどういう理由なのか気になります。

・ちなみにアクチグラフによる睡眠ないし覚醒の判定にはAW2式とCole式の2つの方法があるようですが、だいたいポリグラフとの睡眠覚醒判定の一致率は88%くらいのようです(文献2)

引用文献


文献1:Tasali E. et al. JAMA Intern Med. 2022 Feb 7. doi: 10.1001/jamainternmed.2021.8098. Online ahead of print.

文献2:Cole R.J. et al. Sleep 1992;15(5):461-469