・無作為割付比較試験(RCT)については、試験のエントリー基準(inclusion criteria)が事細かに定めてあり、除外基準(exclusion criteria)も定めてあるため、この厳しい選択基準をくぐり抜けた人しか参加することができません。

・特に精神疾患の介入試験では、物質使用障害や身体合併症を併存したり、希死念慮が一定以上ある方などは除外されることが多く、リアルワールドの臨床場面で対応すべき患者像と乖離があることがしばしば指摘されてきました。ただ、実際のどの程度乖離しているのかについての報告は乏しく、なんとなくRCTにエントリーしうる患者層は全体の半数以下かなとか、1/3くらいかなとかぼんやりとしたイメージしかありませんでした。

・今回、この疑問に答えるコホート研究の結果が報告(文献1)されました。結論からいうと、統合失調症(および統合失調感情障害)については、RCTのエントリーしうる患者の割合はなんと1/5程度と、かなり少ないことがわかりました。選ばれた一群のみがRCTに参加し、その結果からエビデンスが構築されるわけですし、臨床家はこの情報に頼らざるを得ないわけですが、このようなRCTから構築されたエビデンスをどこまで一般化していいのかという疑問も生じます。今回の報告の結果からは、一般臨床場面ではRCTへの参加層を超えた、さらに難しいケースに数多く対面しているといえるかと思います。

臨床試験参加に不適合な統合失調症患者の特徴と転帰

背景

・医療行為の有効性と安全性に関するエビデンスの多くは、高度に標準化された体系的な研究である無作為化臨床試験(RCT)に基づいている。RCTにエントリーしうる患者は、精神疾患では希死念慮が乏しいとか、併存症(物質使用障害やパーソナリティ障害など)がない、身体合併症がないなど、厳しい除外基準をくぐりぬけた、選別された一群のみがエントリー対象となっている。そのためRCTの結果(efficacy)は、日常臨床における介入の有用性(effectiveness)と異なる場合があり、efficacy-effectiveness gapと呼ばれている。

・今回、日常臨臨床でみられうる多様な統合失調症患者を対象にその特徴と転帰について2つの大規模レジストリのデータを用いて検討した。

対象と方法

・フィンランドとスウェーデンの大規模全国レジストリの登録データを利用(患者との対面は実施せず)。フィンランドでは2005年から2017年まで、スウェーデンは2006年から2016年までのデータを用いた。

・これらレジストリから統合失調症ないし統合失調感情障害患者で、で少なくとも1回入院し、追跡調査開始時に第二世代抗精神病薬を使用していた患者を抽出。

・これら患者について、統合失調症のRCTにおける一般的なinclusion criteriaおよびexclusion criteriaを適応し、患者を適合群、不適合群に分類

・追跡期間は、再発予防RCTの典型的な期間である12か月とし、外来患者として非定型抗精神病薬を単剤で12週間継続使用した後を追跡開始時点と定義した。

・対象患者を3群に分類して解析
(1)抗精神病薬による再発予防に関する標準的なRCTへの適合群(すべてのエントリー基準を満たし、除外基準のいずれにも該当しない)
(2)何らかの理由でRCTに不適合群(すべての組み入れ基準を満たすが、除外基準を1つ以上満たす)
(3)不適合群をさらに特定の除外基準毎に分類(年齢、物質使用、自殺のリスク、治療抵抗性、重篤な身体疾患、気分安定剤または抗うつ剤の使用、知的障害、遅発性ジスキネジア、妊娠/授乳)

・使用された抗精神病薬についてはオランザピン、クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾールに分類し、残りはすべてのLAIとその他の経口抗精神病薬に分類

・主要評価項目は12か月間の精神病症状による入院

・副次評価項目は、あらゆる精神疾患による入院、あらゆる理由による入院、抗精神病薬追加の必要性、あらゆる理由による抗精神病薬中断

結果

・フィンランドのコホート(n = 17801)の平均年齢は47.5才で、8972人(50.4%)が女性。スウェーデンのコホート(n = 7458)の平均年齢は44.8才で、3344人(44.8%)が女性。

・フィンランドのコホートでは、3580人(20.1%)がRCT適合群となった。14221人(79.9%)が少なくとも一つの除外基準を満たしたため不適合群に分類された。スウェーデンのコホートでは、1619人(21.7%)がRCT適合群、5839人(78.3%)が不適合群であった。

・LAI投与率は,適合群よりも不適合群への処方頻度が低かった(フィンランド:適合群:1767[12.4%]対 不適合群 753[21.0%],スウェーデン:適合群:1075[18.4%]対 不適合群:390[24.1%]

・不適合群のうち、フィンランドでは5875人(33.0%)とスウェーデンでは2514人(33.7%)が1つの除外基準を満たすのみで、フィンランドでは3271人(18.4%)、スウェーデンでは1338人(17.9%)が3項目以上の除外基準を満たしていた。

・最も多い不適合の理由は、重篤な身体合併症(広義の身体合併症:フィンランド:7202 [51%]、スウェーデン:2866 [49%]、狭義の身体合併症:フィンランド:5287 [36%]、スウェーデン:1747 [30%])、気分安定剤または抗うつ剤の併用(フィンランド:7983 [56%]、スウェーデン:3281 [56%])であった。次いで、物質使用歴(フィンランド:3808 [27%]、スウェーデン:1828 [31%])、自殺リスク(フィンランド:1690 [12%]、スウェーデン:1032 [18%])となった
*狭義の身体合併症:悪性症候群、中枢神経系疾患全般、頭部外傷、心疾患(虚血性心疾患 、その他の心疾患、脳血管疾患など)、無顆粒球症

・12ヶ月の追跡期間中、RCT不適合群は、適合群に比べて精神病症状による入院率が有意に高かった(フィンランドのコホート:適合群:2609人[18. 4%] 対 不適合群:615[17.2%];ハザード比 1.14[95%CI:1.04 - 1.24];スウェーデンのコホート:適合群:1174[20.1%] 対 不適合群 240[14.8%];ハザード比 1.47[95% CI:1.28-1.92])

・全ての精神科入院およびあらゆる理由による入院のリスクも有意に不適合群で高かった

・スウェーデンのコホートでは、不適合群は適合群よりも抗精神病薬の追加投与を必要とするリスクが有意に高かったが(ハザード比 1.31[95%CI:1.15-1.48])、フィンランドのコホートでは有意差はなかった(ハザード比1.06[95%CI:0.96-1.17])。あらゆる理由による抗精神病薬中止のリスクは、不適合群と適合群の間で有意差なし

・治療抵抗性(フィンランド HR: 1.71、スウェーデン HR:2.31)、遅発性ジスキネジア(フィンランド HR: 1.77(有意差なし)、スウェーデン HR: 2.13)、自殺未遂歴(フィンランド HR: 1.61、スウェーデン HR: 2.13)などの理由でRCTへのエントリーが不適合となったサブグループにおいて、精神病症状による入院リスクが大きかった。

議論

・フィンランドおよびスウェーデンのコホートでは統合失調症患者の8割がRCT不適合となった。

・リアルワールドではRCTの結果ほどうまくいかない可能性がある

・不適合群の約50%が身体的合併症の除外基準を満たしたため、有害事象、及び薬理学的相互作用のリスクは、RCTよりもリアルワールドで高くなる可能性がある。

・今回の解析対象となった一群は外来患者として非定型抗精神病薬を単剤で12週間安定して継続使用可能であった群が対象となっているため、統合失調症患者全体を反映した結果ではない

コメント

・実臨床場面ではなかなか実施することが難しいSDMですが、SDMにあたっては、患者さんとなるべく多くの情報、エビデンスを共有し、話し合うことが求められるとのことです。しかし、厳密にしようとなると、根拠となるエビデンスがどのような背景の患者層により構築されているのか、そして目の前の患者さんがRCT参加者とどのような点で乖離があるのかについても注意しなくてはならないということになりそうです。ただそのような情報はまだまだ乏しいため、今後さらに検証の必要な分野といえそうです。交絡因子のリスクはありますが、リアルワールドデータの結果も無視できないということになりそうです。

引用文献

文献1:Taipale H. et al. JAMA Psychiatry. 2022 Jan 26. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2021.3990. Online ahead of print.