・自閉スペクトラム症の易刺激性と常同行為に対する薬物療法に関する話題です。

・文献1では自閉スペクトラム症の易刺激性(irritability)に対して、非定型抗精神病薬の有効性がどの程度かについて、ネットワークメタ解析をおこなったものです。といっても、試験数は多くなく、これまでに自閉スペクトラム症の易刺激性に対してプラセボ対照2重盲検試験が行われた非定型抗精神病薬はアリピプラゾール、リスペリドン、ルラシドンの3剤しかなく、アリピプラゾール(4 RCTs, n=288)、リスペリドン(4 RCTs n=180)、ルラシドン(1RCT, n=100)ということで、ルラシドンの結果は参考程度にしたほうがよさそうです。

・易刺激性の主要評価項目としてはABC-I(Aberrant Behavior Checklist Irritability subscale)が用いられており、この尺度は易刺激性を自己ないし他者への攻撃性の他、かんしゃく、情動易変性、抑うつ気分などの15項目(45点満点)で評価しています。試験期間は大半が6-8週間でした。

・ネットワークメタ解析の結果、ABC-Iの変化量は、アリピプラゾール -6.62点(95% CI -10.88 to -2.22)、リスペリドン -6.89点(95% CI -11.14 to -2.54)となり、ほぼ両者同じような結果となりました。直接比較をした試験(Psychiatry Hum Dev 45:185–192, 2014.、およびこのメタ解析には入っていないBAART試験:Pharmacotherapy. 2019 June ; 39(6): 626–635.)も両者有意差がない結果となっているので、あとは忍容性の差で選択するということになるでしょうか。児童思春期統合失調症の介入試験でもみられるように、若年者に対する非定型抗精神病薬の使用は、様々な副作用が出現しやすいため、使用する場合、用量設定などは慎重にする必要がありそうです。ちなみにルラシドンはABC-Iについては有意差なし(-1.61点 95%CI -9.50 to 6.23)との結果でした。

・続いて文献2ですが、この文献は、自閉スペクトラム症の易刺激性に対するリスペリドンの有効性に関する2つの介入試験の事後解析で、易刺激性の6つのサブタイプ(受動型攻撃、積極型攻撃、自傷行為、非攻撃型など)によって、リスペリドンのABC-Iで評価した有効性が異なるかどうかを検証したものです。

・自閉スペクトラム症の攻撃性については、受動型攻撃と積極型攻撃に分類され、受動型攻撃(cold aggression)は、報酬を得るため(例えば、食べ物や好みのものを得るため、あるいは環境的な要求(服を着ること)から逃れるため)に行うものと定義されています。

・解析対象はRUPP Autism Networkが実施した2つの無作為化臨床試験でした。1つ目の試験は、5~17歳の自閉スペクトラム症(DSM-IV-TR)児101名を対象とした、リスペリドンの8週間の二重盲検プラセボ対照試験で、2つ目の試験は、4歳~13歳の自閉スペクトラム症児124名を対象に、リスペリドンのみとリスペリドン+ペアレントトレーニングの24週間のRCTで、最初の8週間は両試験ともに投薬および盲検評価がほぼ同一でした。両試験とも、ベースラインのAberrant Behavior Checklist-Iritability subscale(ABC-I)のスコアが18点以上が参加条件でした。リスペリドンの平均用量は1つ目の試験は1.7mg、2つ目は2.1mgで、主要評価項目は8週間のABC-Iの変化量でした。

・エントリー時点でParent Target Problems(PTP)を用いて、患者の易刺激性を分類しました。ベースライン時に、保護者に患者の行動に関する2つの主な問題点を説明してもらい、その行動の頻度、継続時間、強度、日常機能や家庭生活への影響についての情報を得ました。その結果を基に、患者を以下の6群に分類しました。(1)積極型攻撃のみ n=65(2)受動型攻撃のみ n=32(3)自傷行為のみ n=33(4)積極型攻撃と受動型攻撃の双方を伴う n=6 (人数が少ないため解析から除外)(5)積極型攻撃と自傷行為を伴う n=17(6)非攻撃型(攻撃や自傷を伴わないかんしゃくのみなど)n=53

・結果ですが、積極型攻撃+自傷行為群は、IQ70以下(82%)の割合が、積極型攻撃のみ(48%)、受動型攻撃のみ(47%)、非攻撃型(5%)の群と比較して有意に高く、また、自傷行為のみの群は、非攻撃性型(47%)と比較して、IQが70以下(67%)の割合が有意に高い結果となりました。

・またリスペリドンによるABC-Iの改善度は群間有意差はありませんでした。どのサブタイプでもリスペリドンによりABC-Iは同程度に有意に改善するとの結果になりました。

・ただし、この結果に関しては、各群毎にABC-Iの全得点の変化を見ており、ABC-Iの下位尺度の変化をみていない点には注意が必要です。つまり、自傷行為群で、リスペリドンにより自傷行為が実際に改善しているかどうかはわかりません。

・実際、アリピプラゾールの自閉スペクトラム症の易刺激性に対する効果をABC-Iの下位尺度毎にみた試験の解析結果(J Child Adolesc Psychopharmacol. 2010 Oct;20(5):415-22)では、下図の赤枠のとおり、自傷行為に対してプラセボに対しての有意な効果は認めていません。

自閉スペクトラム

・リスペリドンについてもこのような解析結果があるといいのですが、残念ながらみつけることができませんでした。

・続いて、文献3では自閉スペクトラム症の限局的、反復的行動に対する薬物療法のメタ解析結果が報告されています。

・この報告では、自閉スペクトラム症の限局的、反復的な行動パターン(RRB)を評価した薬物療法についての介入試験が対象となりました。評価項目は様々なものがあるため(ABC-SB、Y-BOCS/CY-BOCS強迫行為下位尺度、RBS総得点、ASOS-RRB(Autism Diagnositic Observation Schedule-Restricted Repetitive Behavior)、RLRS(Ritro-Freeman Real Life Rating Scale Sensory Motor Behaviors subscale)、N-CBRF-P自傷行為/常同行為下位尺度、SRS(Social Responsiveness Scale: Autistic Mannerisms)、SBS(Stereotyped Behavior Scale)、GARS、CPRS常同尺度、CARS Body Use Subscale、OACIS反復行動、ASQ常同行為、RBQなど)、各評価尺度で評価されたRRBの変化量をSMD(標準化平均差)に変換し、比較されました。

・解析対象は64 RCTs(n=3499)でした。結果ですが、抗精神病薬は全体としてASDのRRBに対してプラセボと比較して小さいながら有意な改善効果を示しました(SMD= 0.28, 95% CI . 0.08ー0.49)。個別にみると、リスペリドン (N=3, n=208) SMD=0.40(95% CI 0.13 -0.68)、ルラシドン (N=1,n=150) SMD=-0.22(有意差なし)、アリピプラゾール (N=3、n=293)SMD=0.36 (95% CI 0.08-0.48)となりました。

・抗うつ薬については全体として改善効果はプラセボと有意差がありませんでした(SMD=0.24 95% CI -0.12ー0.61)。個別にみると、シタロプラム (N=1, n=149)SMD=-0.05 (95% CI -0.37 – 0.27)、フルオキセチン(N=4, n=340) SMD=-0.03 (95% CI -0.33 – 0.27)、フルボキサミン(N=1、n=30)SMD=1.03(95% CI 0.27 - 1.79)、ブスピロン(N=1、n=112)、SMD=0.83 (95% CI 0.45 -1.22)との結果でした。

・その他の薬剤は、オメガー3不飽和脂肪酸 (N=6 , n=268) 有意差なし SMD=0.23(95% CI -0.01 – 0.47)、メチルフェニデート(N=6,n=210)有意差なし SMD=0.19 (95% CI -0.05 – 0.43)、ナルトレキソン(N=4,n=97)有意差なし SMD=-0.07、アトモキセチン(N=4, n=281)有意差なし SMD=0.16、Divalproex (N=1, n=13)小規模で結論は出せないものの、SMD=1.42(CI 0.12-2.72)、グアンファシン(N=1 ,n=62)SMD=0.65(CI 0.14 – 1.16)などという結果でした。

・リスペリドンとアリピプラゾールは小さいながらも有意なRRBに対する改善効果を示しましたが、それほどメリットもないため、忍容性との兼ね合いで投与については慎重に判断すべきということになります。また自閉スペクトラム症の常同行為に対して抗うつ薬の有効性が支持されなかったというのはやや意外で注目すべき結果かと思います。

文献1:Fallah MS, Shaikh MR, Neupane B, Rusiecki D, Bennett TA, Beyene J.J Child Adolesc Psychopharmacol. 2019 Apr;29(3):168-180.

文献2:Devon Carroll et al., Child Adolesc Psychiatr Clin N Am. 2014 Jan;23(1):57-72. doi: 10.1016/j.chc.2013.08.002.

文献3:Melissa S. Zhou et al. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 2021;60(1):35–45