・Lancet Psychiatry誌にLeuchtグループらによる統合失調症再発予防のための心理社会的介入についてのネットワークメタ解析の結果が報告されました(文献1)。家族関係への介入などの技法により、通常治療のみと比較して、1年後の再発率を50%以上低下させることができる可能性を示唆する結果となっており、心理社会的介入、特に家族への介入が再発予防に重要であるというインパクトのある結果となっています。

統合失調症再発予防のための心理社会的介入

背景


・抗精神病薬は再発予防に有効であるが、コクラン・レビューによると、薬物治療にもかかわらず、24%の患者が1年以内に再発している。

・これまでに認知行動療法とその他の心理的介入との有効性などを比較したメタ解析(Cochrane Database Syst Rev. 2018 Nov 15;11(11):CD008712.)はあるが、この報告では認知行動療法と、その他の介入(支持的精神療法、心理教育、家族介入、SSTなど)全体の再発リスクなどが比較されており、個別の治療法毎の比較はなされていない(結論はCBTとその他の介入とで52週以上での再発リスク有意差なし)

・今回、ネットワークメタアナリシスを行い,統合失調症患者の再発予防のための心理社会的介入の手法毎の有効性を以下の点から検討した(1)26週まで、52週まで、それ以降の3つの時点での再発率、(2)その他の有効性のアウトカム、(3)受容性(あらゆる理由による脱落)と忍容性(有害事象)。

対象と方法


・盲検ないし非盲検無作為割付試験

・急性期試験は除外

・参加者の80%以上が統合失調症,統合失調症様障害,統合失調感情障害の診断を受けていること

・12週以上の時点での再発ないし再入院が評価されているもの

・主要評価項目は再発率であり、3つの異なる時点(6カ月まで、12カ月まで、12カ月以上)に分けて評価。

・副次評価項目として、全体的な症状、陽性症状、陰性症状、抑うつ症状、QOL、アドヒアランス、総合的な機能、有効性欠如による中断を評価。また、受容性(あらゆる理由による中断)、忍容性(有害事象による中断)を評価

・ネットワークメタ解析

・心理的介入は以下のように分類

  • アクセプタンス・アンド・コミットメントセラピー:N=1(n=40):ネガティブな感情を克服するための、マインドフルネスをベースにした第3世代認知行動療法
  • 包括型地域生活支援(ACT):N=3(n=191):チームが患者の自宅を訪問し、臨床評価と危機介入を行い、心理社会的・機能的支援を行うもの
  • ケース・マネジメント:N=3(n=220):ケースマネージャーが定期的に(週1回など)患者と連絡を取り、特に必要な場合にはより集中的なサポートを提供する
  • 認知行動療法:N=9(n=570):個別のケースフォーミュレーションと患者との共同目標の設定に基づいて行われる。既存の対処法の改善、新しい対処法の開発と実践、妄想的な信念や幻覚に関する信念の修正、機能不全のスキーマの修正など。自己に関する否定的な信念を再評価するなどし、自己不全感への介入も行われる。
  • 認知トレーニング:N=1(n=59):記憶と注意のトレーニング、言語表現と論理のトレーニング、認知リハビリテーションなど
  • 家族関係介入:N=19(n=973):患者の親族を含む介入。患者を介護する親族との同盟関係の構築、有害な家族の雰囲気の軽減、親族の問題予測および問題解決能力の向上、患者のパフォーマンスに対する合理的な期待の維持、親族の行動や信念を望ましい方向に変化させることなど
  • 家族への疾病教育:N=15(n=983):統合失調症の症状、薬理学的および心理社会的な治療法、再発の予防などに関する情報提供。特に家族の役割に焦点が当てられるもの
  • 家族支援:N=2(n=46):主に家族への介入の対照条件として用いられる。例えば、系統的な介入を行わずに、同じ状況を経験している家族と一緒に時間を過ごすことなど(ソーシャルネットワークプラセボとも定義される)
  • 健康教育:N=2(n=73):健康に関する一般的な話題(健康的な食事や運動など)についての講義。
  • 統合的介入:N=11(n=1117):異なる治療法の組み合わせ(例:認知行動療法+家族関係介入+ACTなど)
  • マインドフルネス:N=1(n=36):瞑想と集団ディスカッションなどで構成。精神病体験について悩んだり、判断したり、反芻したりすることは苦痛をもたらすが、精神病体験を観察し、受け入れることは力を与え、心を落ち着かせることができるという洞察に導く手法。
  • 動機付け面接法:N=2(n=112):患者の個人的な考えや両価的側面を探り、チェンジトークを引き出し、現在の行動と患者自身の将来の目標との間の不一致を強調する。目標は、患者の自発的な変化への動機づけを高めること
  • 患者への心理教育:N=9(n=455):、精神病の症状、精神病のモデル、薬物療法の効果と副作用、薬物療法の維持、精神病の心理療法、再発の初期症状、再発予防などについて教育
  • リハビリテーション:N=6(n=951):地域社会で自立して生活できる能力を高めることを目的とした、就業のためのデイプログラム、レクリエーションや社会活動、アパートでの生活、移行的な雇用機会など
  • 再発防止プログラム:N=2(n=92):再発の初期症状を認識するための教育、症状をモニタリングするシステム、症状が一定の閾値を超えた場合のクライシスプランと介入など
  • サポートグループ:N=5(n=134):患者の親族を対象としたサポートグループで、経験を共有し、相互支援や介護の経験についてなどを話し合うこと。通常、専門家が直接関与することなく、ピアリーダーによって運営される。ピアリーダーは、個々のニーズや懸念に対して共感的かつ支援的な対応を促す。
  • SST:N=5(n=128):地域社会で生活するために必要なスキルを習得するための介入。ロールプレイ、問題解決、宿題などを用いて、症状管理や再発予防などのスキルを指導。
  • 集団支持療法:N=4(n=218):安全で支援的な雰囲気を提供することを目的とした集団療法。患者は、病気の影響を含む個人史を語り、病気の性質や内容を理解することを支援することができる。
  • 遠隔診療:N=4(n=121):電話などで定期的に連絡を取り、症状のモニタリングを行う。症状が一定の基準を超える場合は、臨床医との面会が手配される。
  • 通常治療:N=61(n=4798):薬物療法など標準的な精神科治療を受けること

結果


・72 studies(n=10364)。平均年齢32.3歳、平均罹病期間7.6年、ベースラインのPANSS total 52.34点

・追跡期間の中央値は52週間

・12か月時点での再発率の通常治療に対するオッズ比は、家族関係介入がOR 0.35(95% CI 0.24 – 0.52)、再発率16%。再発防止プログラムがOR 0.33(95% CI 0.14-0.79)、再発率 15%。認知行動療法がOR 0.45 (95% CI 0.27-0.75)、再発率 20%。家族への疾病教育がOR 0.56(95% CI 0.39-0.82)、再発率 23%。統合的介入が OR 0.62(95% CI 0.44-0.87)、再発率 25%。患者への疾病教育がOR 0.63 (95% CI 0.42-0.94)、再発率25%。通常治療群では再発率 35%であった

・家族関係介入は、統合的介入、患者への疾病教育、リハビリテーション、家族支援、ケースマネジメントより有意に再発率が低かった受容性に関しては、統合的介入が通常治療より有意に良好。その他の介入間の有意差なし

・忍容性に関しても統合的介入が通常治療より優れていた。再発防止プログラムはノンコンプライアンスの割合が他の多くの介入法よりも高かった。

・包括型地域生活支援は6か月時点での再発率で通常治療より有意に良好(通常治療と比較した再発のORは最も良好)。

議論

・12か月時点での再発率でみた場合、家族関係介入、家族への疾病教育、認知行動療法、患者への疾病教育、統合的介入、再発防止プログラムが通常治療のみより優れるとの結果になった

・家族関係介入は、統合失調症の症状や機能といった他の尺度の改善にも有効であった。したがって、再発防止効果は、症状の軽減、機能の改善、家族の直接関与、コンプライアンスの改善などの要因によって媒介される可能性がある

 

文献1:Bighelli I. et al,. Lancet Psychiatry. 2021 Oct 8;S2215-0366(21)00243-1. doi: 10.1016/S2215-0366(21)00243-1.