プライマリケアでの抗うつ薬継続期間について
2021年10月06日
・9月30日にNEJM誌に出ていた介入試験ですが、イントロの部分から、あれ?そうだったかな、と思うところもあり、まとめておきます。割と規模の大きな介入試験で注目すべき結果もありますが、全体として現行のガイドラインが書き換わるような結果ではないと思われます。
・まず、これまでのエビデンスですが、イントロで"A few studies have recruited patients who were receiving maintenance antidepressants (mainly tricyclic compounds) for longer than 8 months"とありましたが、引用漏れなのか、例えばReimherrらの報告(Am J Psychiatry. 1998 Sep;155(9):1247-53)はフルオキセチンを最短でも50週間継続した後に、継続群とプラセボ群との無作為割付試験に移行していたり、Kellerらの報告(J Clin Psychiatry. 2007 Aug;68(8):1246-56.)については、ベンラファキシン10週間で治療効果がみられた後(反応ないし寛解後)、最短でも18カ月間継続した後にプラセボ群と継続群に無作為割付していたりして、三環系じゃなくても、こういう試験はされているわけです。こういう試験が引用されていなくて、なんだか違和感を感じました。
・このような試験の結果が、おそらく日本うつ病学会の現行のガイドラインの25ページあたりの記載につながっているのではないかと思われます。
・割と大規模な介入試験で、何か重要なメッセージがあるかもしれないので、一通りまとめておきます
プライマリケアでの抗うつ薬の継続と中断
背景
・プライマリケアでの抗うつ薬処方量は数十年来増加傾向であり、その理由の主たるものが治療継続期間の増加によるものである
・いくつかのシステマティック・レビューでは、抗うつ薬を継続するよりも、中断した方が再発率が高いことが報告されている
・大半の介入試験では、うつ病患者は専門機関に通院中の患者からエントリーされており、3~8か月間抗うつ薬治療を継続し、その治療に反応した患者をプラセボ群と継続群に無作為割付している。少数の試験が、抗うつ薬(主に三環系)を8カ月以上継続中の患者を対象としているが、サンプル数が少なく、明確な結論が出せない
・今回、プライマリケアにおいて、抗うつ薬を9カ月以上継続しており、かつ抗うつ薬を中断してもよいと判断しうる状態の患者を対象に、抗うつ薬の継続と中断とで再発率を比較する無作為割付試験を行った
対象と方法
・イングランドの150のプライマリケア診療所(GP)に通院中の患者で、電子カルテ検索により適格と思われる患者に、招待状を送付するか、受診時に募集を行った。
・最も一般的な3種類の抗うつ薬(シタロプラム、セルトラリン、フルオキセチン)を通常用量で投与されている患者を対象とした。ミルタザピンもイギリスで処方が増えてきているため含まれた。
・エスシタロプラムはイギリスのプライマリケアでは処方率が高くないため、またパロキセチンは処方率が減ってきており、かつ離脱症状リスクがあるため、またベンラファキシンも離脱症状リスクがあるため除外された
・18歳から74歳までのうつ病患者で、過去に2回以上のうつ病エピソードの報告があるか、もしくは2年以上抗うつ薬を内服中の患者
・シタロプラム20mg(n=223)、セルトラリン100mg(n=78)、フルオキセチン 20mg(n=160)、ミルタザピン 30mg(n=17)のいずれかを9カ月以上内服中で、一番最近のうつ病エピソードからは回復しており、抗うつ薬の中止を検討しうる状態であること
・対象薬剤の他の用量、もしくはその他の抗うつ薬を内服中の患者は除外
・試験参加時に改訂版CIS-R(コンピュータで自己評価式の尺度。うつ尺度5領域の合計が21点満点。オリジナル版は過去1週間だが、改訂版では評価期間におけるうつ症状の再発をもらさないために過去12週間(2回目以降の評価間隔に近い期間)で評価)で評価し、ICD-10のうつ病診断基準を満たす場合は除外
・中断群では、シタロプラム、セルトラリン、ミルタザピン内服群は、最初1カ月間はベースラインでの内服量の半分の用量を内服。2か月目から3か月目まではプラセボと半分の用量を交互に内服、3か月目以降はプラセボのみ。ベースラインでフルオキセチン内服群は、1カ月目までフルオキセチン20mgとプラセボを交互に、2か月目以降はプラセボのみ
・試験期間:52週間、6,12,26,39,52週目で評価
・主要評価項目は、うつ病の再発までの期間。うつ病再発は改訂版CIS-Rの質問項目において、必須項目2つのうち1つがyes(1.抑うつ気分(悲しさ、もしくは、惨めさ、もしくは、憂うつな気分)、2.意欲低下(いつも楽しめていることが楽しめない、もしくは、興味をもてない)で、2週間以上続いていること、に加えて、以下の4つの症状(1.抑うつ的思考(性欲減退、焦燥感、罪業感、劣等感、絶望感、生きることへの無価値感、希死念慮)、2.疲労感、3.集中力の低下、4.睡眠障害)のうち1つがyesであることで定義
・副次評価項目は、抑うつ症状についてPHQ-9、全般性不安についてはGAD-7、副作用(Toronto Side Effect Scale)、離脱症状(DESS)、QOL尺度(SF-12)、気分の全般尺度など
・主要評価項目については、ベースラインの抗うつ薬、うつ病重症度、不安の重症度、うつ病罹病機関、発症年齢によりサブグループ解析を行った
結果
・238名が継続群、240名が中断群に割付けされた。参加者平均年齢54歳、平均罹病期間 22年。うつ病エピソード回数が3回以上が93%
・52週間の再発率は,継続群238例中92例(39%),中断群240例中135例(56%)(ハザード比,2.06;95%CI 1.56~2.70)
・副次評価項目の多くが12週時点において継続群が有意に良好であったが、52週時点では有意差が消失。その理由としては中断群の39%がかかりつけ医の判断で抗うつ薬を再投与されていたため、52週時点での副次評価項目に差がなくなったのかもしれない
・重度の有害事象は継続群9例、中断群8例で死亡や自殺企図はなかった。入院が継続群8例、中断群7例など
コメント
・論文の本文中のFigure 2をみて、最初4週目くらいまで両群の再発率の差がないようにみえるのは、最初4週間はフルオキセチン群以外は当初の半分の量で抗うつ薬が継続投与されていたこともあるのかなと思いました。ただ、継続療法期間中に抗うつ薬を減量したら、維持した場合と比較して、再発率が有意に上昇するという古いメタ解析の結果(Psychother Psychosom. 2007;76(5):266-70.)もあるので、やっぱり減らしたら再発率は上昇するでしょうか。ただこの結果は三環系抗うつ薬についての試験が主体のメタ解析なので、最近の薬剤だとまた違うかもしれません。以前当ブログでも取り上げましたが、抗うつ薬を減量しても、そこに精神療法を加えると再発リスクは継続した場合と比較してかわらない(JAMA Psychiatry. 2021 May 19. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2021.0823. Online ahead of print.
)という報告もありましたね。