エビデンスの変化
2021年09月16日
・GRADE Working Groupメンバーである相原 守夫先生が”内科医のエビデンスに基づく医療情報”で触れておられたので、一度まとめておきたいと思いつつ、時間がたってしまったのですが、京都大学の古川先生らのグループからのネットワークメタ解析における抗うつ薬の有効性と受容性が、年代によってどのように変化するかについての論文(文献1)をまとめておきます。
・エビデンスの成熟には時間がかかりそうということで、発売直後の薬剤の評価は注意したほうがいいというものです。最近のCOVID-19に関する論文など、主要評価項目が客観的指標で構成されている領域ならまだしも、精神疾患など、主要評価項目が心理的尺度などの主観的指標で、バイアスの入りやすい領域におけるネットワークメタ解析では特に注意が必要なのかもしれません。
抗うつ薬ネットワークメタ解析結果の経年変化
背景
・ネットワークメタ解析用の解析ツールは近年大幅に進歩している
・Shinyアプリケーションにより、過去40年間の抗うつ薬の有効性、受容性、エビデンスの信頼性を統合したプロットを用いて、抗うつ薬の効果に関するエビデンスの進化と信頼性のレベルを可視化した
・可視化することで、より早い時期に最適な薬剤の選択が容易になったかどうかを検討する。
対象と方法
・18歳以上の大うつ病の急性期治療における二重盲検RCT(公表、未公表含む)
・対象薬剤は、アゴメラチン、アミトリプチリン、ブプロピオン、シタロプラム、クロミプラミン、デスベンラファキシン。デュロキセチン、エスシタロプラム、フルオキセチン、フルボキサミン、レボミルナシプラン、ミルナシプラン、ミルタザピン、ネファゾドン、パロキセチン、レボキセチン、セルトラリン、トラゾドン、ベンラファキシン、ビラゾドン、ボルチオキセチン(いずれも承認用量範囲内の試験のみを対象)
・主要評価項目は、8週に一番近い時点での反応率(評価尺度の50%以上の改善)、受容性(あらゆる理由による中断率)
・エビデンスの進化を観察するため、異なる時点でネットワークメタ解析を実行した
・各RCTのバイアスリスク(低い,高い,不明確)は,7つの領域(ランダム化の手法,割付隠蔽,参加者の盲検化,治療者の盲検化,評価者の盲検化,選択的報告バイアス,減少バイアス)について評価された。どの領域も高リスクと評価されず、3つ以下の領域が不明確なリスクと評価された場合は低リスク、1つの領域が高リスク、またはいずれも高リスクではないが4つ以上の領域が不明確なリスクと評価された場合は中リスク、その他のすべての状況では高リスクのバイアスを持つ研究と分類
・1990年、1995年、2000年、2005年、2010年、2016年の時点をとり、その1年前までに完了したRCTを含む解析を各時点で行った
・CINeMA(Confidence in Network Meta-Analysis)フレームワークを用いて、NMAのエビデンスの信頼性を評価し、各薬剤間のオッズ比のエビデンスの信頼度を「高い」「中程度」「低い」「非常に低い」に分類した
・190のhead-to-head のRCTsと460のプラセボ対照試験
結果
・発売直後は有効性に関するオッズ比は高い数値を示すものが多く、20年以上の経過観察可能であった薬剤については、大半の薬剤の有効性に関するオッズ比は年々減少し、安定するまでに10年以上を要した。新薬発売後の有効性データには注意が必要
・発売直後の薬剤の有効性が高く評価され、その後年々落ち着いていく現象は、 “wish bias”、“the fading of reported effectiveness”、 “novel agent effects”などと呼ばれている。発売直後の薬剤においては、このような現象に注意する必要がある。
・この原因としては、介入試験において患者層が高度に選択されていること、small study effect、選択的報告バイアス、出版バイアスなどの影響が考えられている
・エビデンスはすぐに古くなるため、タイムリーに新しい情報を手に入れることが必要
コメント
・この論文はフリーで公表されていますので、実際に論文のfigure. 3などを見てみるととても興味深い傾向がみてとれると思います。
引用文献
文献1.Yan Luo, Anna Chaimani, Toshi A Furukawa, Yuki Kataoka, Yusuke Ogawa, Andrea Cipriani, Georgia Salanti ;Res Synth Methods. 2021 Jan;12(1):74-85. doi: 10.1002/jrsm.1413. Epub 2020 May 25.