・受刑者の再犯を防ぐために刑務所内で行われる心理的介入について、再犯防止にどの程度寄与しうるのかについてのメタ解析結果が報告されました(文献1)。

・刑務所内のみで行われた無作為割付試験を対象としているのが今回のメタ解析の新しい点で、得られた結論は再犯防止について重要なメッセージが含まれていると思われます。以下内容をざっとまとめてみます。

再犯を防ぐための心理的介入(文献1)

背景

・刑務所から釈放された人は、犯罪を繰り返すリスクが高く、年間の新規犯罪の約5分の1を占めている。 刑務所から釈放された人の1/3~1/2が2年以内に再犯しており、再犯の社会的コストはかなりのものとなる

・認知行動療法プログラムは最も効果的な介入の一つであり、メタ解析では20~30%の再犯リスクの減少が報告されている。さらに、risk-need-responsivity principleを遵守した治療プログラムは再犯の減少と関連しているが、この関連性は主に非ランダム化試験に基づいている。

・これまでの報告は対象者が限定的あったり、行われた場所が様々(刑務所や警備のしっかりした病院などを含む)であったりした。

・そこで今回刑務所にて行われた再犯を防ぐための心理的介入についての無作為割付試験を対象に、メタ解析を行った

*Risk-Need-Responsivity(RNR)モデル

・1990年にAndrews, Bonta & Hogeにより提唱されたモデル。犯罪者の再犯を防ぐための介入モデルで、日本の刑事施設においても2012年より法務省の作成した「受刑者用一般リスクアセスメントツール」(通称Gツール)においてRNRモデルの考え方が導入されている

・RNRモデルの3つの中核的原則
(1)リスク原則:犯罪者の再犯のリスクに合わせてサービスの内容を調整する。犯罪者に提供される治療サービスのレベルが、犯罪者の再犯のリスクに比例していれば、犯罪者の再犯を減らすことができることを想定する
(2)ニーズ原則:犯罪を誘発する要因を評価し、それを治療の対象とするもの。 犯罪誘発性要因とは、犯罪行動に直接結びつく動的なリスク要因のことであり、介入により変化させうる要因である(静的なリスク要因は過去の犯罪歴など変化させることのできない要因)。これらは主要な(犯罪誘発性)動的リスク/ニーズ要因として7つ(下表)、マイナーな(非犯罪誘発性)リスク/ニーズ要因として4つが提唱されている。非犯罪誘発性のマイナーなリスク/ニーズ要因としては低い自尊感情、漠然とした個人的苦痛の感情、精神疾患、低い身体的健康度があげられている

rnr001

(3)応答性原則:犯罪者の学習スタイル、モチベーション、能力などに合わせた認知行動療法的介入を行うことで、犯罪者が更生的介入から学ぶ能力を最大限に高めること。

・RNRモデルは犯罪者更生の現場で広く用いられており、非ランダム化試験では再犯防止についての有効性が報告されているが、ランダム化試験での有効性の検証は乏しい。

対象と方法


・拘置所や刑務所における心理学的介入のRCTで,出所後に発生する犯罪再犯をアウトカムとして報告したものを対象とした

・介入は心理学的手法(例:CBTやマインドフルネスベースの心理療法)または心理教育的手法(例:職業訓練や教育訓練)など

・主要評価項目は再犯率

・29 RCTs (n=9443:85.9%が男性。17.1%が思春期)

結果

・全体として、心理的介入は再犯リスクを有意に減少させる(OR 0.72 95%CI 0.56-0.92)との結果となった。しかしsmall-study effectによる課題評価の可能性を考慮し、50名未満のstudyを除外すると(14 RCTsで解析)、OR 0.87(95% CI 0.68-1.11)と有意差は消失した

・通常ケアを対象としたRCT(10 RCTs)では再犯リスクのOR 0.97 (95%CI 0.70-1.34 )とほとんど差がない結果となったが、wait listを対象としたRCT(2 RCTs)ではOR 0.74(95% CI 0.56-0.99)と有意差がみられる結果となった

・介入のモダリティによる効果の違いについてはCBTベースの介入ではOR 1.00(95% CI 0.69-1.44)と有意差なく、心理教育的介入ではOR 1.11(95% CI 0.38-3.20)と有意差がみられなかった。一方で、治療的コミュニティプログラム(ピア活動での集団治療プログラムをベースにするもの)ではOR 0.64(95% CI 0.46-0.91)と有意な効果がみられた

議論

・CBTベースの介入では再犯リスクの有意な減少はみられなかった。これは再犯リスクの一因である、釈放後の住居、雇用、経済的困難に対処していないことが原因かもしれない

・刑務所内での介入は、釈放後の心理社会的なニーズを対象とした介入と連動していなければ効果的ではないかもしれない。刑務所内で得られた治療効果を維持するために、地域社会でのアフターケアが重要である可能性がある

コメント

・刑務所の中だけではいくらがんばっても、それほど高い再犯防止効果を得ることはできず、釈放後のアフターケアが重要であるという点は非常に重要な観点かと思われます。法務総合研究所研究部報告59(https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00103.html)において、アメリカでの最近の再犯防止の取り組みが紹介されており、「リエントリー」と呼ばれるコミュニティを強化する考え方が重視されており、地域社会におけるプログラムが実践されていることが紹介されています。医療観察法入院退院後のケアにおいても同様の考え方が適応できるものと思われます。


文献1:Beaudry G et al. :Lancet Psychiatry. 2021 Sep;8(9):759-773. doi: 10.1016/S2215-0366(21)00170-X.