・神経ステロイド製剤であるbrexanoloneは2019年5月FDAにより産後うつ病に対して静注製剤として承認されました。

・その後まもなくして経口投与可能な神経ステロイド製剤の第2相試験の結果がNew England Journal of Medicine誌に掲載されたので、産後うつに対する臨床試験かと思ったら、大うつ病に対する試験で驚いた記憶があります(Handan Gunduz-Bruce et al. N Engl J Med. 2019 Sep 5;381(10):903-91)。小規模試験でしたが、15日目で反応率のNNTが2.6とかなりの数字を叩き出しておりなかなかの結果でした。この時はまだ開発中のコードネームのような薬剤名(SAGE-217)でしたが、今回、一般名zuranoloneが与えられ、産後うつ病に対する第3相試験の結果が報告されました(Kristina M Deligiannidis et al. JAMA Psychiatry. 2021 Jun 30;e211559. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2021.1559.)。ちなみにzuranolone(SAGE-217)もbrexanolone(SAGE-547)もSAGE therapeutics社の開発した薬剤となります。

・zuranoloneはGABA A受容体のアロステリック調節剤であり、ベンゾジアゼピン系薬剤と異なりδサブユニットにも作用し、シナプス外のGABA A受容体にも作用することが特徴とされています。

・試験はプラセボ対照で行われ合計153名の通院中の周産期うつ病患者(妊娠第3三半期から産後4週までの発症)が対象となり、ベースラインのHAM-D17で26点以上と比較的症状の重たいケースが対象となっています

・試験期間は2週間(投薬期間も2週間)で、主要評価項目はHAM-D17の変化量でした。

・結果ですが、脱落はzuranolone群2名、プラセボ群1名で重大な副作用としてはzuranolone群の1名が記憶障害を伴う錯乱状態(鎮静を要し7時間で改善)を呈しました。この患者は減量してその後も試験を継続しました。またzuranolone群の1名で鎮静のため試験中断となりました。

・2週間での反応率はzuranolone群 72%、プラセボ群 48%であり、NNT 4.17となかなかの数字です。プラセボとの有意差は投与開始3日目から明らかとなり、投与終了してから4週後のHAM-Dも両群有意差があり、治療効果が保たれていました

・zuranoloneは1日1回経口投与が可能なことが最大の利点であり、brexanoloneの第3相試験(Lancet. 2018 Aug 31. pii: S0140-6736(18)31551-4. )では、治療開始から60時間連続で静注投与が必要であったため、外来での治療ができませんでした。

・brexanoloneとの治療効果の比較ですが、ベースラインの患者群が似ている(HAM-D17で26点以上)study 1の結果と比較すると、brexanoloneでは投与終了時点(投与開始から60時間)でのHAM-D変化量は、brexanolone60mg群 19.5点、90mg群17.7点、プラセボ群14.0点でした。一方zuranoloneについては、投与3日目のHAM-D変化量はzuranolone群 12.5点、プラセボ群9.8点でした。やはりbrexanoloneは持続静注していたため、プラセボ効果も大きかったのでしょうか。zuranoloneの投与終了時点でのHAM-D変化量はzuranolone群 17.8点、プラセボ群 13.6点とbrexanolone投与終了時点と近い数字になっています。

・というわけで、アメリカで産後うつ病に対して新たな経口製剤が承認されるかもしれません。抗うつ薬と比較して治療効果発現が迅速であることが期待され、今後国内でも使用可能となることが期待されます。