・メタ解析においては抜け落ちてしまう情報もあります。時にそれが本質的に重要な情報である場合もあります

・下の図は2018年の認知症+うつに対する抗うつ薬の有効性についてのメタ解析(Cochrane Database Syst Rev. 2018 Aug 31;8)ですが、これだけみると、ああ、抗うつ薬効かないのか、という結論になります。

figd01

・しかし、元データをみると、より重要な情報が含まれていることがわかります。たとえばアルツハイマー型認知症のうつ症状に対するミルタザピンとセルトラリンのプラセボ対照比較試験(Lancet. 2011 Jul 30;378(9789):403-11 )でのCSDD(Cornell Scale for Depression in Dementia)の経時変化が以下です

figd02


・さらに別のアルツハイマー型認知症のうつ症状に対するセルトラリンのプラセボ対照比較試験(Am J Geriatr Psychiatry. 2010 Feb;18(2):136-45 )のCDSSの経時変化は以下となります

figd03


・これらのデータをみて、何がわかるでしょうか。それはプラセボが良く反応しているということです。そこから認知症のうつに対しては環境的介入が重要そう、ということが推測できます。このような情報はメタ解析からは読み取れません。

・今回、このような観点から、環境的介入と薬物療法、通常ケアなどを比較したネットワークメタ解析の結果(文献1)が報告されたのでみてみます。結果として有効であると主張されている内容の一部にはネットワークメタ解析であるが故の脆弱なものも含まれており(わずかn=14の介入試験の結果が有効であると主張されているなど)、注意して解釈する必要があります。

・薬物療法による介入がぱっとしないことは予想できるのですが、いろんな手法の存在する非薬物療法的介入において、どれがよさそうか、についてはある程度知っておいてよさそうです。ただし薬物療法の場合の二重盲検試験と比較して、非薬物療法はよくてsingle blindなので、よりバイアスも入りやすく、質が異なるものを比較しているという点で注意が必要となります。

 

認知症とうつ(文献1)

 

背景

・認知症患者の約16%は大うつ病の診断を受け、32%は周辺症状として診断閾値下のうつ症状を経験している。

・認知症ではうつ症状は身体的症状(食欲不振、エネルギー低下など)や行動的症状(イライラ、社会的孤立、悲しみなど)として表出される

・認知症のうつ症状は、QOLの低下、機能低下、死亡リスクの増加などと関連し、介護者の苦痛、負担、抑うつの増加とも関連する

・認知症患者の大うつ病と抑うつの治療には、薬物療法(抗うつ薬、抗精神病薬など)および非薬物療法(回想法、運動療法など)が行われているが、抗うつ薬投与の有害性(転倒など)が報告され、非薬物療法の重要性が認識されている

・しかし、薬物と非薬物の効果を直接比較した無作為化試験はまれであり、エビデンスが乏しい。今回薬物療法と非薬物療法をネットワークメタ解析で比較した

方法と対象

・解析対象となったのは、認知症患者の周辺症状としてうつ症状を有する患者(非大うつ病)ないし認知症に大うつ病を合併する患者のうつ症状に対する薬物療法ないし非薬物療法についての無作為割付比較試験 N=235

・認知症周辺症状としてうつ症状を有する患者対象(非大うつ病)にした試験N=213

・認知症に大うつ病を合併する患者を対象にした試験 N=22

非薬物療法の介入内容としては以下のようなものに分類された(Nはnodeの数)

・通常ケア:患者のニーズと好みに基づいて、医療と社会的ケア(例:入浴などの日常生活動作のサポート)を適切に利用することと定義 N=102(非大うつ病)、N=6(大うつ病)

・アニマル・セラピー:動物と過ごすこと N=2(非大うつ病)

・経皮的電気刺激:経頭蓋的電気刺激  N=7(非大うつ病)

・回想法 N=26(非大うつ病)

・レクリエーション療法:ゲームや料理、読書など N=33(非大うつ病)

・リアリティー・オリエンテーション N=4(非大うつ病)

・心理療法:認知行動療法、カウンセリング、問題解決療法、力動的対人関係療法、支持的療法など N=24(非大うつ病)

・認知症患者へのサポート:当事者への電話や情報提供などによる心理社会的サポート N=1(非大うつ病)

・作業療法 N=15

・音楽療法 N=25

・多職種連携ケア:複数のヘルスケア専門家によるケアプランの作成 N=11(非大うつ病)、N=1(大うつ病)

・複数の感覚刺激:活動や物を通じて異なる感覚刺激を統合する N=5(非大うつ病)

・日常生活動作の修正 N=4(非大うつ病)

・マッサージとタッチセラピー:マッサージ、鍼治療など N=4(非大うつ病)、N=1(大うつ病)

・高照度光療法 N=4(非大うつ病)

・社会的交流:介護者やその他の人との交流 N=22(非大うつ病)

・運動:エアロビクス、バランストレーニング、レジスタンス運動など  N=30(非大うつ病)、N=4(大うつ病)

・環境修正 N=3 (非大うつ病)

・介護者と当事者への教育 N=7(非大うつ病)

・介護者への教育 N=17(非大うつ病)、N=2(大うつ病)

・深部脳刺激 N=2(非大うつ病)

・認知リハビリテーション:治療目標を設定したリハビリテーション介入 N=27(非大うつ病)

・認知刺激療法:週に1-2回の認知機能賦活セッション(ゲームや芸術療法など) N=27(非大うつ病)

・介護者へのサポート N=3(非大うつ病)

・アロマテラピー N=2(非大うつ病)

非抗うつ薬系の薬物療法としては以下のnodeを設定

・抗菌薬:ドキシサイクリン+rifamin N=1(非大うつ病)

・降圧薬:nomidipine、プロプラノロール N=3(非大うつ病)

・抗精神病薬 N=21(非大うつ病)

・コリンエステラーゼ阻害薬 N=18(非大うつ病)

・dextromethorphan+キニジン N=1(非大うつ病)

・etanercept N=1(非大うつ病)

・ホルモン治療:エストロゲン、DDAVP、オキシトシン、プロゲステロン N=10(非大うつ病)

・高脂血症治療薬:アトルバスタチン N=1(非大うつ病)

・メマンチン N=6(非大うつ病)

・気分安定薬:カルバマゼピン、リチウム N=2(非大うつ病)

・プレドニゾロン N=1(非大うつ病)

・精神刺激剤:メチルフェニデート N=1(非大うつ病)

・鎮痛薬:アセトアミノフェン、オピオイド N=2(大うつ病)

抗うつ薬についてはN=15(非大うつ病)、N=18(大うつ病)

・評価尺度としては、Cornell Scale for Depression in Dementia(CSDD)がN=100、Geriatric Depression ScaleがN=58、Neuropsychiatric Inventory - DepressionがN=38など

・試験期間は11週未満がN=109(43%)、11-20週がN=78(30.5%)、21-30週がN=29(11%)、31週以上がN=40(16%)

・主要評価項目は、各試験使用されたうつ尺度の標準化平均差を求め、それをCSDD得点の平均変化量に変換したものを用いた


結果

ネットワークメタ解析で有意差があった組み合わせは(かつnodeの試験の数が複数あるもの)以下の通り

。回想法は介護者支援より有意に良好 SMD 1.03

・回想法は認知リハビリテーションより有意に良好 SMD 0.42

・回想法は通常ケアより有意に良好 SMD 0.45

・認知刺激療法は回想法と有意差なし

・マッサージ+タッチセラピーは回想法より有意に良好 SMD 1.32

・認知刺激療法は介護者サポートより有意に良好 SMD 1.15

・認知刺激療法は認知リハビリテーションより有意に良好 SMD 0.53

・認知刺激療法は音楽療法より有意に良好 SMD 0.38

・認知刺激療法はプラセボと有意差なし

・認知刺激療法は心理療法と有意差なし

・認知刺激療法は通常ケアより有意に良好 SMD 0.57

・マッサージ+タッチセラピーは認知刺激療法より有意に良好 SMD 1.21

・マッサージ+タッチセラピーは作業療法より有意に良好 SMD 1.27

・作業療法は介護者サポートより有意に良好 SMD 1.07

・作業療法は通常ケアより有意に良好 SMD 0.51

・作業療法はプラセボとは有意差なし

・作業療法は介護者サポートより有意に良好 SMD 1.07

・作業療法は認知刺激療法と有意差なし

・多職種連携ケアは介護者サポートより有意に良好 SMD 0.96

・マッサージ+タッチセラピーは多職種連携ケアより有意に良好 SMD 1.38

・多職種連携ケアは通常ケアより有意に良好 SMD 0.39

・マッサージ+タッチセラピーはアニマルセラピーより有意に良好 SMD 1.32

・マッサージ+タッチセラピーは抗精神病薬より有意に良好 SMD 1.82

・マッサージ+タッチセラピーは高照度光療法より有意に良好 SMD 1.83

・マッサージ+タッチセラピーは抗うつ薬より有意に良好 SMD 1.76

・マッサージ+タッチセラピーは介護者教育より有意に良好 SMD 1.57

・マッサージ+タッチセラピーはコリンエステラーゼ阻害薬より有意に良好 SMD 1.52

・マッサージ+タッチセラピーは認知リハビリテーションより有意に良好 SMD 1.74

・マッサージ+タッチセラピーは運動より有意に良好 SMD 1.5

・マッサージ+タッチセラピーは多職種連携ケアより有意に良好 SMD 1.38

・マッサージ+タッチセラピーは音楽療法より有意に良好 SMD 1.58

・マッサージ+タッチセラピーは心理療法より有意に良好 SMD 1.55

・マッサージ+タッチセラピーは通常ケアより有意に良好 SMD 1.77

・Pairwiseのメタ解析結果で通常ケアと有意差があったのは運動療法 SMD 0.47

・非大うつ病患者において、ネットワークメタ解析で通常ケアと有意差があったのは、認知刺激療法 SMD 0.57、マッサージとタッチセラピー SMD 1.77、多職種連携ケア SMD 0.39、作業療法 SMD 0.51、回想法 SMD 0.45

・薬物による介入だけでは、通常のケアよりも有意に効果が高いものはなかった

・大うつ病患者においては、試験の異質性からネットワークメタ解析が施行できなかった。SSRI(sertraline、fluoxetine、citalopram、escitalopram)とプラセボの有効性を比較した7つのRCTについての結果は一定していない

・ミルタザピンおよびベンラファキシンもプラセボと比較してうつ病の症状の有意な改善とは関連していなかった

・1つの無作為化比較試験において、多職種連携ケアは通常の治療よりも効果的であることが報告されたが、他の非薬物介入(心理療法と運動)の効果を支持するエビデンスは不十分である


コメント

・マッサージ+タッチセラピーについてはかなり高い効果量が出ていて違和感があるのですが、2つのグループから対通常ケアでの3つの介入試験(n=219)が報告されています。この3つの試験のRisk of Biasについては評価者のblindingおよびmissing dataの扱いいずれもlowとなっており、試験の質はそこまで低いとは言えないようです。ただ有効性についての結果が目立ちすぎているのは気になります。

・なお論文中で通常ケアと比較して有効とされた認知刺激療法+コリンエステラーゼ阻害剤、社会的交流+認知刺激療法+運動については、それぞれ1つの介入試験しかなく(特に後者はn=14のみ)、エビデンスの質としては低いため、結果からは除外しています

 

引用文献

文献1:Jennifer A Watt et al. BMJ 2021;372:n532 | doi: 10.1136/bmj.n532