・psilocybin(シロシビン、nativeの発音ではシロサイビンが近い)はマジックマッシュルームの成分であり、催幻覚作用のある違法薬物です。今回6週間に2回投与でエスシタロプラムとの比較で慢性期大うつ病への有効性や安全性が検証されたのでみてみます(文献1)。psilocybinはセロトニン2A受容体アゴニスト作用を有しており、LSDと類似の作用機序を有することとなります。LSDによるセロトニン2A受容体アゴニスト作用が自我障害(社会的場面において自己意識を保持する機能や共同注意機能を障害する可能性があり、自己と他者との境界の不明瞭化といった病的体験に通じる症状と関連する可能性がある)と関連するとの報告(J Neurosci. 2018 Apr 4;38(14):3603-3611.)もあり、このあたりの副作用についてはどうなのか気になるところです。

・催幻覚作用のある薬剤といえば、2019年にFDAより治療抵抗性うつ病に承認されたエスケタミン点鼻薬も思い浮かびます。こちらはNMDA受容体遮断作用を有する薬剤となり、投与開始第1週から第4週目までは1週間に2回投与、5週目から8週目までは週に1回投与、その後は1-2週間に1回投与となります。ただし、点鼻後に血圧上昇リスク、鎮静リスク、解離症状や知覚変容、離人感などのサイケデリック体験のリスク(61-75%に出現とされる)があるため投与後2時間の血圧モニターなど経過観察が必要なこととなど、かなり厳格な管理が必要とされる薬剤になります。治療抵抗性うつ病に対する介入試験で、投与1時間後からMADRSでプラセボと有意差が生じたことには驚きました(JAMA Psychiatry. 2018 Feb 1;75(2):139-148. )

・今回はpsilocybinの大うつ病に対する第2相試験として行われましたが(NCT03429075)、サイケデリック体験のリスクに対して、心理的介入を併用するなどかなり手間のかかる介入が行われています。

背景

・催幻覚物質であるpsilocybinは、その代謝物であるシロシンのリン酸エステルである。psilocybinとシロシンは、催幻覚作用を持つシロシベ属のキノコに存在する

・シロシンの主な作用は、5-HT2A受容体アゴニスト作用により生じる

・psilocybinは、20世紀半ばには気分障害や依存症の心理療法の補助療法として使用されていた。これまでに、うつ病および不安症に対するpsilocybinのオープン試験が1件、無作為化割付試験が4件実施されている。

・治療抵抗性うつ病患者を対象とした小規模オープン試験を含め、いくつかの患者集団を対象とした試験で、psilocybinを1~2回投与した後に抑うつ症状の軽減が報告されている。

・今回エスシタロプラムを対照として、psilocybinの中等度から重度うつ病に対する6週間の無作為割付試験を実施した

対象と方法

・18-80歳の大うつ病患者でエスシタロプラム投与歴のないもの。精神病の既往のないもの。重大な自殺企図歴のないものなど

・ビデオ面接でHAM-D17が評価され、17点以上がエントリー。GPからの情報によりうつ病の診断を確認

・試験開始2週前までにすべての向精神薬を中止。精神療法も3週前までに中止

・無作為割付二重盲検比較試験

・psilocybin n=30 (1日目朝に25mg摂取。3週後に2回目のpsilocybin25mg投与)

・プラセボ n=29 (1日目にpsilocybin1mg投与、その後1週目から3週目までエスシタロプラム10mg、3週目から6週目まで20mg、朝食後投与)

・幻覚体験が起こりうるため、そのリスクを最小限に抑えるため、心理的サポートが提供された。

・事前に治療的意図の説明や感情制御の方法などの3時間のセッションが提供された。幻覚体験により痛みを伴い内容を経験した際にはそれらを完全に受け入れて探求することが奨励された。また、アクセプト・コネクト・エンボディ(ACE)モデルに基づいて、挑戦的な感情を受け入れ、個人的な意味や価値観につながり、自分の身体に同調するスキルを強化するための視覚化訓練を行った。

・psilocybin投与日には録音済みの音楽を鑑賞、投与開始翌日、1週後、3週後(psilocybin投与2回目の翌日)に催幻覚作用を有する薬剤内服後の心理的デブリーフィングを実施。デブリーフィングでは、ガイドと呼ばれる専門家が参加者が体験した内容を説明するのを傾聴した。その後、参加者は経験した感情にアクセスしやすくするために、視覚化演習を行うことを選択可能とされた。

・試験期間:6週間

・主要評価項目は6週間でのQIDS-SR-16の変化量。副次評価項目はQIDS-SR-16で定義された反応率(50%以上の改善)と寛解率(5点以下)、HAM-D17、BDI-1A、MADRS、STAI、BEAQ(Brief Experimental Avoidance Questionnaire)、WSAS(Work and Social Adjustment Scale)、SHAPS(Snaiith Hamilton Anhedonia Plesure Scale)など

結果

・psilocybin群の平均罹病期間は22年、エスシタロプラム群の平均罹病期間は15年。

・エスシタロプラム群は29名中4名が副作用で中断。1名がコロナウイルス関連問題(ロックダウン)で中断

・psilocybin群は30名中2名がコロナウイルス関連問題(ロックダウン)で中断。1名がプラセボカプセル内服を中止(プラセボと推測したため)

・6週間のQIDS-SR-16の変化量はpsilocybin群 -8.0±1.0、エスシタロプラム群 -6.0±1.0(有意差なし)

・副次評価項目であるQIDS-SR-16での反応率はpsilocybin群70%、エスシタロプラム群 48%で有意差なし。寛解率はpsilocybin群 57%、エスシタロプラム群 28%で有意差あり

・副作用出現率はpsilocybin群 87% 、エスシタロプラム群 83%。不安の増悪と口喝についてはエスシタロプラム群で多かった。psilocybin群では頭痛が最多でだいたい投与24時間以内に生じていた

結論

・psilocybinは短期的にはわずか2回の投与でエスシタロプラムに有意差ない有効性を示した

・psilocybinによるサイケデリック体験は有害事象に含まれなかった(feeling abnormalの項目はあり、これについてはpsilocybin群は0例、エスシタロプラム群では3例)。それは先行研究でサイケデリック体験は良好な転帰と関連する可能性を示唆する結果が報告されているからである。

・今後さらに大規模で長期の試験により、psilocybinの有効性と安全性を確認することが必要

コメント

・3週間に1回の投与でこの結果は驚きですが、心理的サポートも手厚かったので、プラセボと比較したらどうかも気になります。今後、ケタミンとの比較試験(NCT03380442)、治療抵抗性うつ病に対するニコチンアミド対照試験(NCT04670081)などが予定されており、どのような結果が報告されるのか興味深いところです。多くの抗うつ薬がセロトニン2A遮断作用を有するため、その反対の薬理作用を有する薬剤が抗うつ作用を発揮するとなると、わけがわからなくなりそうですが、おそらくセロトニン系以外の作用も関与しているのでしょう。薬理作用についてはそう単純ではないということかと思います。

文献1:Robin Carhart-Harris et al. N Engl J Med. 2021 Apr 15;384(15):1402-1411. doi: 10.1056/NEJMoa2032994.