・2018年の勉強会でPMDD(月経前不快気分障害)について触れる機会があったのですが、その際に抗うつ薬とホルモン製剤とで、有効性はどのように違うのかという疑問が残りました。当時少し調べたのですが、試験毎に使用されている評価尺度の違いなどにより、結論にたどり着くことができませんでした

・唯一みつけることのできた論文(Obstet Gynecol. 2005 Sep;106(3):492-501)によると、ドロスピレノン 3mgとエチニルエストラジオールの合剤(ヤーズ配合錠)のPMSに対するプラセボ対照試験において、24日間 active pill、4日間inactive pill(24/4)のサイクルで投与したところ、3サイクル後のDRSP(Daily Rating of Severity of Problems )総得点の変化量は実薬群平均 -37.49点、プラセボ群平均 -29.99点で差は平均-7.5点(有意差あり)となりました

・一方セルトラリンの症状発現後(黄体期投与ではなく、症状発現後に投与)の投与試験(JAMA Psychiatry. 2015;72(10):1037-1044)では5サイクル後でのDRSP総得点の平均変化量はセルトラリン群 -29.7点、プラセボ群-22.4点で差が平均-7.3点(有意差あり)という数字が出ているので、この試験でのセルトラリンの投与方法は一般的ではないものの、だいたい全体的な効果としては同じくらいなのかな、程度の感覚でした。

・今回、選択的プロゲステロン受容体調節剤であるウリプリスタル酢酸エステルのPMDDに対する介入試験の結果が報告されました(文献1)。主要評価項目がDRSPなので、なんとなくの比較はできそうです。

・プロゲステロンとPMDDの関係性はよくわかっていないようですが、基礎実験では、中枢神経ではプロゲステロンは、扁桃体に最も高い濃度で存在することがわかっており、プロゲステロン受容体は、情動処理に重要な部位である扁桃体、海馬、視床下部、視床、前頭皮質などに存在することが報告されているようです。

・今回試験で用いられたウリプリスタル酢酸エステルは選択的プロゲステロン受容体調節剤であり、FDAでは子宮筋腫治療薬として承認されているようです。プロゲステロン受容体を介した転写活性を制御し、中枢神経ではプロゲステロンの拮抗作用を発揮すると考えられています。

・対象となったのは、18-46歳の女性で月経周期正常なPMDD患者であり、現在治療中の精神疾患を有する人や最近3か月間以内に向精神薬による治療歴がある人は除外されました。

・卵胞期と黄体期の間で、DRSP( Daily Record of Severity of Problems )得点の増加率を100×(黄体期スコアの平均値-卵胞期スコアの平均値)/(卵胞期スコアの平均値)として定義し、11の症状のうち少なくとも5つで50%以上増加していることが必要とされました。PMDDの診断には平均黄体期スコア3.0点以上かつ、平均卵胞期スコア2.0点未満が用いられました。

・スウェーデンの複数の大学病院産婦人科で2017年1月から2019年10月まで実施され、主要評価項目はDRSPでスマートフォンのアプリを用いて連日記録されました。プラセボ対照無作為割付二重盲検比較試験で、期間は28日間×3サイクルでした。

・ウリプリスタル酢酸エステル(UPA)5mg群(n=48)とプラセボ群(n=47)とで比較され、症状評価は試験期間中の最終2サイクルにおける月経前5日間のDRSPの平均得点で行われました。無月経となった患者については月経周期が規則的と仮定した場合の各サイクルの最終5日間の平均得点で行われました。

・結果ですが、脱落はUPA群 8名(うち7名が副作用による脱落。主に頭痛、倦怠感、嘔気、1名はうつ症状の悪化で脱落)、プラセボ群 9名でした。

・UPA群において、57.5%(23名)は月経周期が35日以上に延長、27.5%(11名)が無月経、15%(6名)が正常周期でした。

・UPA群とプラセボ群とのDRSP得点の比較において、群×時間の交互作用は有意であり、最終月経前5日間のDRSP得点の平均値のベースラインからの変化量の平均値は、UPA群で-30.4点、プラセボ群 -16.6点で、群間差は-13.8点でUPA群はプラセボ群より有意にDRSP得点が改善する結果となりました。

・DRSP得点の下位尺度において、UPA群とプラセボ群の有意差がみられた項目は、抑うつ気分、イライラ感や怒り、他者への葛藤や問題、気力減退であり、身体症状(頭痛、筋肉痛、食欲亢進など)についてはプラセボと有意差がみらませんでした。

・そのほか社会的機能、家族機能についてもUPA群はプラセボ群より有意に良好でした。

・最終月経周期における完全寛解率はUPA群50%(20名)、プラセボ群21.1%(8名)で有意差ありでした。

・結論として、UPAはPMDDの身体症状には効果が期待できないものの、精神症状の緩和には有効そうです。ただし多くのUPA投与群で月経周期が乱れたためunblinding biasが混入した可能性がある点については注意が必要となります。

・対象となった患者群や試験デザインが異なるため、単純な比較はできませんが、ヤーズ配合錠やセルトラリンの過去の試験結果よりもDRSP得点の改善度は数値的に良好であり、なかなかの良い結果といえそうです。今後の大規模試験での検証が期待されます。

引用文献
文献1 Comasco E. et al. Am J Psychiatry. 2021 Mar 1;178(3):256-265