・β遮断薬といえば、心不全や虚血性心疾患、頻脈性不整脈などで使用される薬剤であり、副作用として抑うつなどの精神神経系副作用がありうることがこれまで言われてきました。ところが今回、そうでもないらしいというメタ解析結果が報告されました(文献1)。

・β遮断薬は精神科領域では抗精神病薬誘発性のアカシジアに対して使用されることもある薬剤として頭にうかびます。

・抗精神病薬誘発性アカシジアに対する治療薬については、2018年のシステマティックレビュー(Can J Psychiatry. 2018 Nov;63(11):719-729.)において、β遮断薬は抗精神病薬の切り替え、抗コリン薬、セロトニン2Aアンタゴニスト、クロナゼパムなどと共にレベルI-(Meta-analyses, systematic reviews, or RCTs with a high risk of bias)に位置付けられており(ビタミンB6はレベルI+:Well conducted meta-analyses, systematic reviews, or RCTs with a low risk of bias)、エビデンスのレベルは高いとはいえないものの、推奨されうる治療法の1つになっています。

・β遮断薬の添付文書には副作用として抑うつなど精神症状に関する記載があります。どの程度の頻度かについては、例えばインデラルの添付文書では0.1~5%未満となっています。

・今回β遮断薬の抑うつの副作用について、メタ解析とシステマティックレビューが行われました(文献1)。解析対象となった介入試験の69%(N=197)が心筋梗塞や狭心症、心不全に伴う高血圧症に対する介入試験でした。全試験数はN=285(n=53533)で、24種類のβ遮断薬が含まれました。対象となったプラセボ対照試験の試験期間は15日~24か月間で平均約28週間でした。

・主要評価項目は抑うつの頻度および抑うつによる脱落で、副次評価項目はその他の精神神経系副作用の出現率と精神神経系副作用による脱落とされました。

・結果ですが、Β遮断薬投与群26832人中1600名(5.96%)で抑うつが報告され、精神神経系副作用で最多でした。抑うつによる脱落は13225名中47名でした。プラセボ対照試験(N=31)を用いてメタ解析を行ったところ、β遮断薬による抑うつリスクは対プラセボのオッズ比 1.02で有意差はありませんでした。抑うつによる脱落についても対プラセボのオッズ比 0.97で有意差はありませんでした。

・その他の精神神経系副作用としては、焦燥性興奮 15/6618(0.24%)、不安 228/11308(2.02%)、食欲減退 279/9420(2.96%)、異常な夢 1038/19624(5.29%)、幻覚 130/11380(1.14%)、不眠 1225/21810(5.62%)、性欲減退 108/10356(1.04%)、記憶障害 116/7349(1.58%)、睡眠障害 411/11304(3.64%)、傾眠 395/16072(2.46%)などとなりました。その他倦怠感は 4065/29322(13.9%)でした。これら精神神経系副作用でプラセボとの有意差がでたものは、異常な夢(OR 1.15)のみで、倦怠感(OR 1.35)もプラセボとの有意差がみられました。

・平均28週程度のΒ遮断薬使用と抑うつの関連性は有意ではなさそうという結果となりました

・添付文書に記載された抑うつなどの精神神経系副作用のうち、対プラセボで有意差がみられるものは異常な夢のみであり、その他の精神神経系副作用については、抑うつも含め投与された患者群の基礎疾患に起因するものである可能性が高いことになります。

文献1:Thomas G. Riemer et al. Hypertension. 2021;77:00-00. DOI: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.120.16590.