・オレキシン受容体拮抗薬には既に発売中のスボレキサントとレンボレキサントの他に、ダリドレキサントとかアルモレキサントとかセルトレキサントなど、いろいろと開発中の薬剤があるようなので、特性の違いを調べておこうと思ったら、興味深い介入試験(文献1)があったので、まとめておきます。

・この介入試験の結果に注目した理由は、以前の勉強会で取り上げた文献2の結果が頭にあったこともあります。睡眠薬投与により希死念慮が改善するかどうかを検証したものです。

・この文献2では、SSRI投与中の大うつ病患者で、かつ睡眠潜時が30分以上ないし中途覚醒時間が30分以上などの睡眠障害を有し、なおかつScale for Suicide Ideationで3点以上の希死念慮を有する患者が対象となりました。

・主要評価項目はScale for Suicide Ideationなどで評価した希死念慮であり、ゾルピデムCR 12.5mg群(n=51)とプラセボ群(n=52)とに無作為割付され、試験期間は8週間でした

・結果ですが、主要評価項目の8週後のScale for Suicide Ideationでは有意差はありませんでした。両群ともにScale for Suicide Ideationはベースラインと比較して有意に改善し、8週後にはゾルピデム-CR群の61%、プラセボ群の57%がScale for Suicide Ideationで0点を達成しました。

・Insomnia Severity Indexで評価した不眠尺度はゾルピデムCRにより有意に改善し、その改善度はより不眠が重度の群で大きい結果でした。

・副次評価項目のC-SSRSで評価した希死念慮においてはゾルピデムCR群は8週後にプラセボ群より有意に良好でした。またC-SSRSの改善度は、ベースラインの不眠が重度なほど大きい傾向(有意差なし)がありました。しかしのC-SSRSの改善度は効果としては全体としては軽度(効果量 -0.26)であり(ベースラインの不眠が重度の群での効果量は-0.41)、多重比較の補正(Bonferroni correction)を行うと有意差はなくなりました

・HAM-Dで評価されたうつ尺度については、両群間有意差はありませんでした

・以上より、ベースラインの不眠が重度の群においては、ゾルピデムCRは希死念慮の改善にもやや有用である可能性はあるものの、うつ症状尺度、希死念慮尺度いずれもプラセボと比較して、統計的に有意に改善しうることは示されませんでした。

・今回は選択的オレキシン2受容体拮抗薬のセルトレキサントの大うつ病に対する第1b相試験の結果(文献1)です。

・この試験は、HAM-D17で平均点19点のmoderateなうつ病患者を対象に、ジフェンヒドラミンおよびプラセボ対照で行われた小規模の介入試験です。文献1の概略は以下となります

大うつ病に対する選択的オレキシン2受容体拮抗薬セルトレキサントの効果

背景

・大うつ病(非定型の特徴を伴うものを除く)においては入眠困難や睡眠維持困難、早朝覚醒などの過覚醒症状が特徴であり(専門医試験的に押さえておくべきことは、うつ病の睡眠の特徴として、(1)睡眠潜時の延長・中途覚醒の増加・早朝覚醒などの睡眠障害(2)徐波睡眠の減少(3)レム潜時の短縮(4)相対的レム活動の増加などでしょうか)、このような症状は睡眠中における扁桃体などの辺縁系の活動を抑制する能力の低下を反映すると言われている。

・過覚醒状態は、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA-axis)の過活動と関連し、慢性的な中枢神経系の活性化と、大うつ病サブタイプにおける持続的な交感神経系の活性化などを反映すると考えられている。

・うつ病患者と健常者ととHPA活性の差異は夜間に最大になる。概日リズムにおける低活動期に覚醒を抑制できないと、神経生物学的な異常につながり、それがうつ症状の原因となると考えられている。

・オレキシン受容体は脳全体に分布しており、ストレスやパニックに対する生理的反応に関与する特定の脳部位に選択的に発現している。外側視床下部のオレキシン神経は、覚醒状態の維持に関与しており、睡眠中は活動せず、覚醒状態では高い活動性を示す。

・オレキシンは、ストレス下においてオレキシン1受容体とオレキシン2受容体の両方を活性化し、HPA-axisの活性化を引き起こすが、これはオレキシン2受容体拮抗薬によって選択的に阻害され、血圧と心拍数の上昇はオレキシン1受容体拮抗薬によって阻害されることが基礎実験で示されている。

・げっ歯類では、オレキシン受容体拮抗薬は、予測不可能な慢性ストレスによる行動上の影響を改善し、HPA-axis機能を正常化し、オレキシンによる副腎皮質刺激ホルモンの上昇を抑制した。

・以上のように前臨床試験では、オレキシン受容体拮抗薬のうつ病への有効性が期待される結果が報告されているが、現在のところ、臨床的な証拠はほとんどない。

・オレキシン受容体のデュアルアンタゴニストであるフィロレキサントは大うつ病を対象とした第2相試験でプラセボに対する優位性を示すことができなかった

・大うつ病の睡眠構造では、深睡眠の減少が報告されている。前臨床試験では、 オレキシン1受容体拮抗薬とオレキシン2受容体拮抗薬を組み合わせて投与すると、レム睡眠潜時が大幅に短縮し、レム睡眠の持続時間が延長することが示されている(Front Neurosci. 2014 Feb 14;8:28. )。これらの結果は、オレキシン2受容体遮断下でオレキシン1受容体遮断薬を追加投与すると、ノンレム睡眠を犠牲にしてレム睡眠にバランスをシフトさせることにより、レム睡眠の調節障害を引き起こす可能性を示唆するものである。この結果は、デュアルアンタゴニストが大うつ病に伴う睡眠障害には逆効果である可能性を示唆している。

・そのためオレキシン1受容体阻害作用のないオレキシン2受容体に選択的な拮抗薬は大うつ病に対して有用である可能性がある。

・セルトレキサントはヒトオレキシン2受容体遮断の選択性がオレキシン1受容体への選択性と比較して約2桁高く、動物実験ではノンレム潜時、ノンレム時間を延長させることが確認されている(J Pharmacol Exp Ther 354:471–482,2015)

・今回、大うつ病患者に対するセルトレキサントの有効性をジフェンヒドラミンおよびプラセボ対照にて検証した

対象と方法

・18-64才のBMI 18-30までの大うつ病患者(DSM-IV)。精神病症状を伴わない。Inventory of Depressive Symptomatology(IDS-C30)で30点以上

・主要評価項目であるうつ症状はHAM-D17、およびHAM-D6(中核症状:抑うつ気分、罪責感、仕事と活動、精神運動制止、不安の精神症状、全身の身体症状の6項目)、Quick Inventory of Depressive Symptoms (QIDSSR16)で評価

・睡眠ポリグラフ検査を1日目、5日目、10日目で施行

・投薬期間は妊娠可能女性は10日間(催奇形性が不明のため)、その他28日間

・セルトレキサント 20mg n=22
・プラセボ n=12
・ジフェンヒドラミン 25mg n=13

結果

・エントリー時点で抗うつ薬を投与されていたのは21%(10名)のみ。うち9名がSSRI、1名がデュロキセチン

・10日間投与後のHAM-D17より睡眠尺度を除外した得点の変化量は、セルトレキサント群 -4.5点、プラセボ群 -2.3点、ジフェンヒドラミン群 -2.3点で有意差あり

・10日間投与後のHAM-D6についての変化量は セルトレキサント群 -3.8点、プラセボ群 -1.5点、ジフェンヒドラミン群 -1.8点で有意差あり

・自己評価式尺度( IDS-C30 )では群間有意差なし

・ポリグラフで測定した11日目の総睡眠時間、入眠潜時、中途覚醒時間は群間有意差なし

・希死念慮についての尺度の詳細は記載されておらず

・安全性は概ね良好であったが、試験終了後のフォローアップ期間でジフェンヒドラミン群の1名で自殺既遂あり

結論

・小規模試験にて何らかの結論はだせないが、セルトレキサントは短期的にうつ病の中核症状に有効な可能性がある

・ベースラインのHAM-D17の平均点は19点であり、重症度が高くない群に対する結果となる。今後さらにより重症度の高い群での検証が必要

コメント

・結論はでませんが、もしかしたらオレキシン2受容体の選択的遮断はうつ病の症状改善に寄与しうるかもしれません。現在大規模な複数の第3相試験(NCT04533529、 NCT04532749)が行われており、来年6月頃には結果の大勢が判明すると思われますので、結果を待ちたいと思います

引用文献

文献1:Kasper Recourt et al. Transl Psychiatry. 2019 Sep 3;9(1):216.
文献2:William V McCall et al. Am J Psychiatry. 2019 Nov 1;176(11):957-9