・統合失調症に行為障害の既往がある場合とない場合とで、その攻撃性に対してクロザピン、オランザピン、ハロペリドールのどれが最も有効かについての介入試験の結果が文献1にて報告されました。

・この研究の背景として、CATIE試験の解析結果(Br J Psychiatry 2008; 193:37–43)では、行為障害の既往がない場合には、投薬により暴力的行動の有意な減少がみられたものの、行為障害の既往があると、暴力的行動は抗精神病薬により有意な改善がみられなかったと報告されており、行為障害の既往があると抗精神病薬が有効ではない可能性を示唆する結果が報告されたことがあります。

・CATIE試験ではクロザピンは選択されていませんし、果たして行為障害が合併すると抗精神病薬の攻撃性改善効果がどうなるかの検証が今回の介入試験のポイントになります。またこの介入試験の特徴として、暴力的行動の尺度として、Modified Overt Aggression Scale (MOAS) が用いられており、身体的、対物的、自傷的、言語的暴力行為を程度と頻度で得点化していることもあげられます。

・以下文献1の概略となります

背景

・クロザピンは攻撃的行動や暴力的行動に対して最も有効な抗精神病薬である。このことはFrogleyらのシステマティックレビュー(Int J Neuropsychopharmacol 2012; 15:1351–1371)でも報告されている、

・Citromeらの介入試験(Psychiatr Serv 2001; 52:1510–1514)でもこのことは支持される結果となった。この介入試験では、統合失調症(86%)ないし統合失調感情障害(DSM-IV)で入院中の患者(18-60才でPANSS totalで60点以上。平均罹病期間19.5年)が対象となり、14週間で行われた。被検者は最初1週間で前治療薬と試験薬をcross-titrationで置換。オランザピン、リスペリドン、ハロペリドールは1週間で各々20mg、8mg、20mgをターゲット用量とされ、クロザピンについては24日間で500mgを目指した。最終用量はクロザピン526.6mg、オランザピン30.4mg、リスペリドン11.6mg、ハロペリドール 25.7mgであった。主要評価項目はPANSSであり、クロザピン N=40、オランザピン N=39、リスペリドン N=41、ハロペリドール N=37に無作為割付された。結果は14週間でのPANSS敵意尺度の変化の効果量はクロザピン 0.25(改善)、オランザピン 0.06(改善)、リスペリドン 0.05(悪化)、ハロペリドール 0.30(悪化)(この介入試験ではリスペリドンは平均11.6mgで敵意尺度については有意な改善がみられていないが、例えばBr J Psychiatry. 1995;166:712–26においては、慢性期統合失調症患者への介入試験でリスペリドン4mg以上でハロペリドール10mgと比較して有意な敵意改善効果が報告されている)となった。ベースラインと比較した場合、クロザピンのみ有意に敵意が改善。クロザピンはハロペリドールないしリスペリドンより有意に敵意を改善した。リスペリドンないしオランザピンとハロペリドールとの間には有意差はなかった。クロザピンの有効性については、PANSSの鎮静や幻覚妄想などの尺度を共変量として調整後も保持され、鎮静とは無関係に敵意に対して有効であることを示唆する結果となった

・しかしこのCitromeらの介入試験では、もともと攻撃性を有する患者が選択されたわけではなく、またPANSS尺度の敵意における改善度で評価されたものである点が問題となる。

・クロザピン以外の第2世代抗精神病薬の攻撃性に対する有効性についてのエビデンスは豊富ではないが、敵意について、第1世代と第2世代とを比較したメタ解析(Neuropsychopharmacology 2018; 43:2340–2349)では、小さいながらも有意な第2世代抗精神病薬の第1世代に対する優位性が報告されている。ただしこの優位性については高用量投与時(CP換算500mg以上)に限られていた

・クロザピン以外の薬剤についての攻撃性に対する有効性については、CATIE試験の解析でも報告されており、介入開始後6か月間での攻撃的行動が評価され、ペルフェナジン、オランザピン、リスペリドン、ジプラシドン、クエチアピンにおいて、薬剤間の有意な差はみられなかったと報告されている

・これらの報告はPANSSの敵意尺度などを使用しており、攻撃性を評価するための尺度を用いていない問題点がある

・成人統合失調症患者における暴力の重要なリスク因子として、15才未満における行為障害の既往があげられている(Schizophr Bull 2017; 43:1021–1026)。統合失調症ないし統合失調感情障害患者について2年間以上の観察における攻撃的行動は、行為障害があると、ない場合に比較して2.6倍になったことが報告されている(Schizophr Res 2005; 78:323–335)

・CATIE試験の解析結果では、使用された薬剤では、行為障害の既往がない場合には、投薬により暴力的行動の有意な減少がみられたが、行為障害の既往があると、暴力的行動は抗精神病薬により有意な改善がみられなかったと報告されており、行為障害の既往があると抗精神病薬が有効ではない可能性を示唆している。しかしクロザピンは投与されていない。

・クロザピンは統合失調症患者の自殺関連行動の改善においても、オランザピンよりも優れていることが報告されており(Arch Gen Psychiatry 2003; 60:82–91)、この効果は精神病症状の改善とは無関係であった

・またクロザピンは児童思春期の行為障害患者の攻撃性に対して有効であることが報告されている(Clin Psychopharmacol Neurosci 2019; 17:43–53)

・今回、統合失調症圏患者に対して、行為障害の既往の有無でクロザピン、オランザピン、ハロペリドールの効果を検証した。


対象と方法

・18-60才の統合失調症ないし統合失調感情障害患者(DSM-IV)で明らかな身体的暴力行為を行ったもの。かつ暴力行為4週間以内に言語的、対物的、身体的な攻撃的行動が明らかなもの

・15才までの小児期の行為障害やアルコール依存などの行動上の問題についてはDSM-IV II軸障害に対する構造化面接を用いた

・最初2週間のスクリーニング期間で前治療薬はCP換算750mgまで減量

・身体的暴力行為から介入開始までの中央値は20日間

・スクリーニング後にクロザピン、オランザピン、ハロペリドールに無作為割付

・介入期間:12週間

・主要評価項目はModified Overt Aggression Scale (MOAS) で評価した攻撃的行動の総得点。MOAS総得点は、身体的、対物的、自傷的、言語的暴力行為を重症度で得点化し、12週間の各暴力行為の得点の合算で評価(そのためベースラインからの変化という比較検討ができない。薬剤間の12週間での攻撃的行動の総得点の比較となる)

結果

・行為障害の既往あり N=53、行為障害の既往なし N=46

・ハロペリドール群 行為障害既往あり 最終用量 19.4mg N=13 行為障害既往なし 24.47mg N=19

・クロザピン群 行為障害既往あり 552.5mg N=21 行為障害既往なし 525.9mg N=12

・オランザピン群 行為障害既往あり 23.42mg N=19 行為障害既往なし 25mg N=15

・暴力行為で逮捕歴がある患者の割合は、行為障害の既往の有無で有意差はなし(行為障害合併群 26.4%、行為障害非合併群 28.3%)

・12週間完遂率は行為障害合併群 64.2%、非合併群 73.9% 有意差なし

・12週間のMOAS総得点は、行為障害非合併群では、ハロペリドール群 平均28.7点、オランザピン群 平均 24.9点、クロザピン群15点でクロザピン群とハロペリドール群、オランザピン群とで有意差あり。行為障害合併群では、ハロペリドール群 71.6点、オランザピン群 40.7点、クロザピン群 26.6点で、クロザピン群はハロペリドール群、オランザピン群より有意に、オランザピン群はハロペリドール群より有意に良好であった

・行為障害を合併していると、身体的暴力行為は、非合併群と比較して3倍も起こりやすかった

・行為障害の既往の有無に関わらず、クロザピンは統合失調症患者の攻撃性の改善に有用であることを示唆する結果が得られた。オランザピンについても行為障害を合併するとハロペリドールより有意に攻撃的行動が少ない結果となった

・PANSS総得点の12週間での変化量は群間の有意差なし(クロザピン群 -2.4点、オランザピン群 -5.3点、ハロペリドール群 -2.6点)。行為障害の合併の有無でも変化量は有意差なし

・行為障害合併群ではMOAS総得点にみる攻撃性得点がクロザピン群ではハロペリドール群の37%少ないなど顕著な差がみられた(行為障害非合併群では52%)

結論

・小規模試験の結果だが、統合失調症圏の患者の暴力行為に対するクロザピンの有効性は、行為障害の合併の有無に関わらず期待できるかもしれない。

引用文献
文献1:Krakowski M et al. Am J Psychiatry. 2021 Jan 21;appiajp202020010052. doi: 10.1176/appi.ajp.2020.20010052.