・神経症圏の疾患について、ベースラインでの重症度と抗うつ薬への治療反応性を個別患者データによりメタ解析した論文(文献1)をとりあげてみます。

・大うつ病についてはPANDA study(文献2)のイントロに書いてあったように、patient level dataを用いた解析により、ここ最近の流れとしてはうつ病の重症度によらず抗うつ薬は有効であるとの報告が続いています。

・京大の古川先生ら(文献3)は、脱落データの取り扱いについてLOCFではなく混合効果モデルを用いて解析することで、抗うつ薬の治療反応性についてはベースラインの重症度と治療群との交互作用が有意ではないとの結論を報告されています。

・またHieronymusiら(文献4)は、17項目のHAM-Dからうつ病の症状に非特異的な項目を除外し、HAM-D6( 1. 抑うつ気分、2. 罪責感、7. 仕事と活動、8.精神運動制止、10. 不安の精神症状、13. 全身の身体症状の合計得点)を用いることにより、SSRIの治療反応性について、ベースラインの重症度と治療群との交互作用が有意ではなく、ベースラインの重症度によらず、軽症群でも治療効果が得られることを報告しています。

・ただし軽症群に対する抗うつ薬の効果が臨床的に有意といえる程度の効果かどうかということと、HAM-Dがそもそも軽症うつ病に対する評価尺度として妥当かどうかという問題もあります。

・今回はpatient level dataを用いた神経症圏の疾患についての報告となります。

背景

・大うつ病については、抗うつ薬はベースラインの重症度が高いほど有効性が高いとする報告が複数ある。そのため、多くのガイドラインでは軽症うつ病に対して抗うつ薬の使用を推奨していない。しかし最近の報告では大うつ病の重症度と治療反応性には関連性がないとするものもあり、結論がでていない

・抗うつ薬は神経症圏の疾患に対して使用されるが、重症度と有効性の関連性はよくわかっておらず、試験毎でみた場合のメタ解析では、重症度が増すほど有効性が増すとの仮説は支持されていない。しかしそのようは手法による結論はpatient levelでの解析とは異なり誤った結論になる場合がある。そこでpatient level dataで解析を行った

方法と対象

・SSRIないしSNRIを用いたプラセボ対照試験でClinical Study Data Requestより患者レベルデータを抽出されたものに加えてグラクソ社とリリー社より試験情報を提供

・主要評価項目として全般不安症ではHAM-A、社交不安症ではLSAS(Liebowitz Social Anxiety Scale)、OCDはY-BOCS、PTSDではCAPS(Clinician-Administered PTSD Scale)、パニック症では2週間でのパニック発作数を用いた

・全般不安症については8 RCTs(デュロキセチン 4 RCTsとパロキセチン 4 RCTs、抗うつ薬N=2088、プラセボ N=1342)、社交不安症は4 RCTs(パロキセチンのみ、抗うつ薬N=681、プラセボN=514)、強迫症は4 RCTs(フルオキセチン1 RCT,パロキセチン3 RCTs.抗うつ薬N=782、プラセボN=350)、PTSDは3 RCTs(パロキセチン 3RCTs、抗うつ薬N=612、プラセボ N=459)、パニック症は 10 RCTs(フルオキセチン 4 RCTs、パロキセチン 6 RCTs、抗うつ薬N=1160、プラセボN=991)

結果

・ベースラインの重症度と治療反応性について、線形混合効果モデルで解析の結果、治療反応性に関して重症度×治療群の交互作用が有意であったのは全般不安症のみであり、社交不安症、強迫症、PTSDについては、ベースラインの重症度によらず、対プラセボの実薬の効果量は有意な変化なしとの結果になった。

・全般不安症では、HAM-Aベースライン10点の場合、8週後のプラセボとの差は1.4点、ベースライン30点の場合、8週後のプラセボとの差は4.0点との結果であった

・社交不安症については12週後の抗うつ薬群とプラセボ群とのSMD(Standardized mean difference) 0.59、強迫症では12週後のSMD 0.39、PTSDでは12週後のSMD 0.41との結果であった

・パニック症については実薬の対プラセボの発作頻度の減少率については発作頻度のlog尺度をとると、ベースラインの重症度による有意差はなかった。発作頻度の絶対値でみると、ベースラインの重症度が増すと有意に頻度が減少するとの結果になった

コメント

・交互作用の有無のみで、軽症群に対する抗うつ薬の効果の有無について結論付けることはできないとは思います。重症度で層別化してサブグループで解析をしたたらどうなのかは気になります。少なくとも全般不安症の軽症群ではより精神療法を重視すべきということはいえるかもしれません。

引用文献
文献1:de Vries YA et al. Depress Anxiety. 2018 Jun;35(6):515-522. doi: 10.1002/da.22737. Epub 2018 Apr 16.
文献2:Lancet Psychiatry. 2019 Nov;6(11):903-914
文献3:Furukawa TA et al. Acta Psychiatr Scand. 2018 Jun;137(6):450-458. doi: 10.1111/acps.12886.
文献4:Hieronymus F. et al. Lancet Psychiatry. 2019 Sep;6(9):745-752.