・エンドキシフェンはエストロゲン受容体陽性の乳癌治療薬候補であり、タモキシフェンの活性代謝物です。抗エストロゲン作用により乳癌の増殖を抑制するとされています。またプロテインキナーゼC阻害作用を有しており、血液脳関門の透過性を有するとされています

・今回、エンドキシフェンの急性躁病エピソードに対するインドでの第3相試験の結果が報告されました(文献1)。Jina製薬などがスポンサーとなり実施された試験のようですが、clinicaltrials.govにエントリーされていなくてどうなのかなと思うところはあります(結果がnegativeの場合に非公表となるなどの懸念から。インドのレジストリにはエントリーされているようです)。ただし、前駆物質のタモキシフェンは以前から抗躁作用を有する可能性は注目されていて双極性障害の国際的なガイドラインの一部(CINP2017年版:文献2)にも記載があり、もともと注目はされていました。

・CINP2017年版では、急性躁病ないし混合性エピソードに対する治療選択肢の第4段階として、タモキシフェン単剤療法ないしリチウム/バルプロ酸との併用療法が記載されています。第3段階にはセレコキシブの文字もあり、ガイドラインの割にあまり土台がしっかりしていない治療法の記載もあって、かなりchallengingなガイドラインだなあと当時思った記憶があります。

・そもそもなぜエンドキシフェンが躁病に効果があるとされるのか?それは躁病の病態仮説にプロテインキナーゼC経路が関与しており、リチウムもバルプロ酸もこの経路への作用を通じて抗躁作用を発揮するのではないかとの仮説があるため(文献3)で、プロテインキナーゼC阻害作用を有するエンドキシフェンが効くのではということのようです。

・2008年には小規模のプラセボ対照無作為割付比較試験が行われ(文献3)、positiveな結果も報告されています。

。今回の第3相試験では、18-65才の急性躁病エピソード(DSM-V:双極I型障害)入院患者228名(YMRS20点以上かつ中核4症状(破壊的-攻撃的行為、易怒性,会話(速度と量の増加))のうち2項目以上で2点以上、CGI-BP4点以上かつこれまでに気分安定薬ないし抗精神病薬1剤以上で治療反応歴があるもの)が対象となりました。

・試験期間は21日間でactive control(divalproex 1000mg)対照で無作為割付二重盲検比較試験で行われました。アカシジア、焦燥性興奮への対処としてロラゼパム、ジアゼパムの併用は許可され(実際に併用されたのは両群ともに1割程度)、リスペリドン、ハロペリドールの屯服としての併用は許可されました

・主要評価項目は21日間のYMRSの変化量でした。また副次評価項目として反応率(YMRS50%以上の改善率を示した割合)なども評価されました。

・エンドキシフェン8mgに116名、divalproexに112名が割付されました。21日後のYMRSの変化量はエンドキシフェン群 15.6点、divalproex群 15.8点で有意差なく、両群ともにベースラインからの躁症状の有意な改善効果を認めました。反応率はエンドキシフェン群49%、divalproex群50%でした

・副作用による脱落はエンドキシフェン群1名、divalproex群で0名であり、頻度の高い副作用としてはエンドキシフェン群では頭痛7.8%(divalproex群:3.6%)、落ち着きのなさ2.6%(divalproex群0%)、嘔吐4.3%(divalproex群 3.6%)、不眠3.5%(divalproex群 4.5%)などでした。

・というわけで結果はdivalproexと同等の有効性が示されて、安全性もまずまずということのようでした。果たしてインドで承認されるのでしょうか?エンドキシフェン8mgがタモキシフェン換算でどの程度の量なのかわからなかったのですが、文献3ではタモキシフェンの平均用量は41.8mgでした。両者の分子量はほとんど変わらないようですので、タモキシフェン換算でも同じくらいとみていいのでしょうか。タモキシフェンの1日用量は20-40mgとされていますので、臨床用量の半分以下の用量で効果が認められたと考えていいのかもしれません。

・躁病治療においては急性期のみならず維持療法期間を見据えた治療選択を考慮する必要がありますので、長期安全性や有効性などについても重要な指標となります。プロテインキナーゼCは正常ではがん抑制性に作用しているとの報告(Cell. 2015 Jan 29; 160(3): 489–502.)もあり、長期的安全性についての検証も必要です。また抗エストロゲン作用のない選択性の高いプロテインキナーゼC阻害剤についてはどうなのか。プロテインキナーゼCの複数のアイソザイムについて、どのアイソザイムへの阻害作用が有用なのか、プロテインキナーゼC活性化剤を投与したモデル動物は躁病モデル動物になりうるのか?など、細かい疑問はいろいろありますが、今後の検証課題かもしれません。

引用文献
文献1:Ahmad A. et al. Bipolar Disord. 2020 Dec 25. doi: 10.1111/bdi.13041. Online ahead of print.
文献2:Int J Neuropsychopharmacol. 2017 Feb 1;20(2):180-195. doi: 10.1093/ijnp/pyw109.
文献3:Arch Gen Psychiatry. 2008 Mar;65(3):255-63. doi: 10.1001/archgenpsychiatry.2007.43.