・アドヒアランス向上のため、いろいろな剤型、投与経路があるのは望ましいことです。

・日本では2019年9月10日にロナセンテープが発売となりましたが、アメリカではちょうど同時期の2019年10月にアセナピン貼付剤がFDAにより承認されました。

・いずれ日本にも入るといいなと思うのですが、両薬剤の薬物動態や臨床試験などについてまとめておきます。

・アセナピンの長所としては主にグルクロン酸抱合で代謝されるため、肝機能障害があっても代謝遅延や蓄積などの心配があまりないことです。ブロナンセリンは主としてCYP3A4で代謝されます。

・単回投与の際、アセナピン貼付剤のTmaxは約16時間、半減期30時間(文献1)とされています。ブロナンセリン貼付剤はTmax約25時間程度、半減期約42時間時間でブロナンセリン貼付剤の方がいずれもやや長いようです。

・アセナピン貼付剤については熱を加えると吸収速度が倍になる(約8時間)ため、炎天下や電気毛布などで熱する場合には要注意のようです。ブロナンセリンパッチはどうなのでしょうか。

・ブロナンセリンパッチの第3相試験の結果は文献2にて公表されています。

・アセナピンパッチの第3相試験の結果は文献3にて公表されています。

ブロナンセリンパッチの第3相試験の概略(文献2)

・6週間のプラセボ対照二重盲検無作為割付比較試験
・参加者:18歳以上の統合失調症(DSM-5)患者。最近2カ月以内で精神症状悪化したもの
・PANSSの妄想、概念の統合障害、幻覚、猜疑心、不自然な思考内容のいずれか2項目以上で4点以上、かつPANSS total 80点以上など
・主要評価項目:PANSS totalの6週間での変化量
・ブロナンセリンパッチ40mg N=196
・ブロナンセリンパッチ80mg N=194
・プラセボ N=190
・結果:参加者平均年齢: 40.9才、平均罹病期間:13.8年、 ベースラインのPANSS total平均: 100.9点
・6週後のブロナンセリンパッチ40mgのPANSS totalのプラセボとの差:平均 -5.6 点(95%CI -9.6~-1.6 ) 有意差あり
・6週後のブロナンセリンパッチ80mgのPANSS totalのプラセボとの差:平均 -10.4 点(95%CI -14.4~-6.4 )  有意差あり
・中断は、プラセボ群52名(うち副作用による中断17)、ブロナンセリンパッチ40mg群 47名(うち副作用17名)、ブロナンセリンパッチ80mg群 33名(うち副作用12名)

アセナピンパッチの第3相試験の概略(文献3)

・6週間のプラセボ対照二重盲検無作為割付比較試験
・参加者:18歳以上の統合失調症(DSM-5)患者で自発入院患者
・3から14日間のプラセボ run-in期間。この期間でPANSS totalが20%以上改善ないしパッチが合わない患者は除外
・急性増悪期。CGI-Sで4点以上かつPANSS total 80点以上かつ概念の統合障害、妄想、幻覚による行動、不自然な思考内容のいずれか2項目以上で4点以上
・主要評価項目:PANSS totalの6週間での変化量
・アセナピンパッチ7.6mg N=204
・アセナピンパッチ3.8mg N=204
・プラセボ N=206
・結果:参加者平均年齢:42.0才、平均罹病期間:15.7年、ベースラインのPANSS total平均:96.7点
・6週後のアセナピンパッチ7.6mgのPANSS totalのプラセボとの差:平均 -4.8点(95%CI -8.06 ~-1.64) 有意差あり
・6週後のアセナピンパッチ3.8mgのPANSS totalのプラセボとの差:平均 -6.6点(95%CI -9.81 ~-3.40 ) 有意差あり
・中断は、プラセボ群44名(うち副作用による中断14名)、アセナピンパッチ7.6mg群 46名(うち副作用18名)、アセナピンパッチ3.8mg群 38名(うち副作用10名)

コメント

・忍容性は両者同等のようです。アセナピンパッチはなぜか3.8mgが数値的に上回る結果となりました。ブロナンセリンパッチ80mgの結果が良さげにみえたので、ここからは遊びですが、ネットワークメタ解析にかけてみました。

・pubmedで調べてひっかかる介入試験はこの2つだけですし、ベースラインの患者特性もそこまで違わないのでまあいいでしょう。ただアセナピンパッチの試験はプラセボrun-in期間があり、試験にエントリーされた患者の質が異なるのはこうして比較する際によろしくないことではあります。そこは目をつむってやってみます。

・使用ソフトはRでnetmetaパッケージを用いて頻度論によるネットワークメタ解析を行いました。

・結果は図の通りでアセナピンパッチ7.6mgを基準にすると有意差が出てしまってますが、遊びでしたことなので、コメントは差し控えます。アセナピンパッチの試験でもプラセボ反応率が大きい(6週間で15点くらい)のが印象的でした。今後日本でも発売されれば一つの治療選択肢になりそうです。

fig01

fig02


文献1:Carrithers B et al. Patient Preference and Adherence 2020:14 1541–1551
文献2:Iwata N. et al. Schizophrenia Research 215 (2020) 408–415
文献3:Citrome L. et al. J Clin Psychiatry 2021;82(1):20m13602

 

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