・ベンゾジアゼピン系薬剤を長期使用した後に中止することのメリットがあるのかどうか。その点についてアセスメントした報告を3つほど眺めてみます。

・文献1はベンゾジアゼピンを中止した場合と中止できなかった場合とで転倒頻度を比較したものです。

・文献2はベンゾジアゼピンおよびZ-drugsを中止した場合と継続した場合とで睡眠の質やQOLについて比較した介入試験の結果です

・文献3はベンゾジアゼピン系睡眠薬を中止した場合に認知機能にどのような影響があるかを評価した試験です。

・3つのうち2つはオープン試験であり試験の質としては高いものではありませんが、その結論は重要といえます。

ベンゾジアゼピン中止と転倒リスク(文献1)

背景

・ベンゾジアゼピン長期使用は高齢者における転倒リスクの増加につながることが報告されている。

・フランスは2007年に高齢者向けにベンゾジアゼピン中止のためのガイドラインを作成した。漸減法や代替療法、CBT併用による減量などが提案された

・今回ナーシングホームにおける1年間のベンゾジアゼピン中止プログラム実施と転倒数の変化について観察を行った

方法と対象


・2011年から2013年にかけて108名の入所するナーシングホームにおいて行われた

・対象は少なくとも1種類のベンゾジアゼピン系薬剤を投与されている患者

・重度の不安を有する患者は除外

・長期ないし高用量投与患者については、4-10週間ないしそれ以上かけての漸減が行われた。1週間当たり25%の減量が推奨されたが、患者ごとに現実的な減量ペースが設定された。長時間作用型であれば短時間作用型に置換するなどの方法もとられた

・対象者に対しては、ベンゾジアゼピン長期使用の有害性などの教育が行われた

・転倒回数については、ベンゾジアゼピン減量開始前半年間(T1期間)、およびベンゾジアゼピン中止後半年間(T2期間)、記録された

結果

・2011年9月の段階で108名中28.7%(31名)がベンゾジアゼピンを処方中であり、平均年齢は89歳であった。その全員が1か月以上処方されており、27名は半年以上処方されていた。また20名は中時間ないし長時間作用型ベンゾジアゼピンであり、11名は短時間作用型ないしZ-drugsを処方されていた

・1年間で完全なベンゾジアゼピン中断を完遂できたのは31名中11名(35.5%)であった

・T1期間(ベンゾジアゼピン減量開始前半年間)中の転倒頻度については、ベンゾジアゼピン離脱を完遂した患者群と、非完遂群において2.1回±1.3回(非完遂群)、2.3回±0.6回(完遂群)で有意差なし

・一方で、ベンゾジアゼピン離脱完遂群についてはT2期間(ベンゾジアゼピン中止後半年間)において転倒数は0.5±0.2回と有意に減少した。非完遂群は有意差なし

結論

・ベンゾジアゼピンからの完全な離脱はなかなか困難であるが、中止できた場合、高齢者にとっては転倒リスクの有意な減少をもたらしうるため中止が望ましいといえそう

高齢原発性不眠症患者のゾピクロン、ゾルピデム、テマゼパム長期使用からの離脱の影響(文献2)

背景

・ベンゾジアゼピンないしベンゾジアゼピン関連薬剤(ベンゾ系薬剤)は不眠に対して短期間の使用が推奨されているが、長期使用されることはしばしばである

・高齢者に対するベンゾ系薬剤の使用はふらつきや転倒、認知機能障害などの原因となりうる

・フィンランドでは2009年に、ベンゾ系薬剤の販売量は、1000人当たり51.4DDD (defined daily doses)であり、そのうち90%がゾピクロン、ゾルピデム、テマゼパムで占められていた

・長期使用後のベンゾ系薬剤の中断は、不眠や不安の悪化などの反跳症状を伴うことがあり、これらの症状出現は個人差が大きく、使用していた薬剤の用量や期間、併存症などの影響を受ける

・長期ベンゾ系薬剤からの離脱が、高齢者のQOLや睡眠にどのような影響を及ぼすかについての介入試験は少ない

・今回離脱6か月後に睡眠ないしQOLがどのように変化するか、離脱群と非離脱群で比較してみた

方法

・ベンゾジアゼピン系薬剤離脱に対するメラトニン2mg置換の有効性についての介入試験の一部

・もともとの介入試験は、被検者をメラトニン2mg群とプラセボ群に無作為割付し、1か月間経過をみたもので、被検者は1週間に50%ずつそれまで内服していたベンゾ系薬剤を漸減するようにアドバイスされた(強制ではない)。減量に抵抗感の強いものやもともと高用量(2DDD以上)使用者は25%ずつ減量。結果的にはメラトニンの離脱症状予防効果は明らかではなく、ベンゾ系薬剤からの離脱率はメラトニン群 67%、プラセボ群 85%で、ベンゾ離脱補助薬としてのメラトニンの効果は否定的であった。

・今回はさらにそこから5か月間(トータルで6か月間)、二重盲検のままで経過をみたもの

・参加者は55歳以上で、1か月以上毎晩ゾルピデム、ゾピクロンないしテマゼパムを睡眠薬として使用中のもの(大半が1年以上)で、原発性不眠症患者(DSM-IV)。そのほかの睡眠薬やベンゾ、向精神薬を内服中は除外。10本以上/日の喫煙者も除外

・被検者はベースライン時点で睡眠衛生についての指導を実施

・1か月後に血中濃度を測定し、離脱成功者は70名、非成功者は20名。その後5か月後に再度血中濃度を測定し、ベンゾ系薬剤の使用から離脱を継続できているかどうかを確認。最終的に離脱に成功していた群と、失敗した群とでQOL(VAS)、睡眠状況(the Basic Nordic Sleep Questionnaire(BNSQ))を質問紙で確認

結果

・1か月時点で離脱成功者70名のうちで、6か月後も離脱に成功していたのは30名、36名は不定期的にベンゾ系薬剤使用、3名は定期的にベンゾ系薬剤使用、1か月時点で離脱非成功者20名のうち、6か月後に離脱に成功したのは4名、不定期的使用が8名、定期的使用は6名。トータルで6か月時点での離脱成功者は34名、離脱非成功者は55名

・6か月時点での睡眠潜時は、離脱成功者で有意に短かった。ベースラインの睡眠潜時が30分以上の割合は離脱成功者で52%であったが6か月後に24%まで減少。非成功者では52%から51%と高いまま。つまり中止すると睡眠潜時が有意に改善する可能性がある

・QOLについては1か月後、6か月後で群間の有意差はなかったが、離脱群の方が数値的に良好であり、1か月後からベースラインと比較して有意差を示した。

・総睡眠時間は6か月時点でベースラインとの差なし、群間有意差なし。うつ尺度なども有意差なし

結論

・高齢の原発性不眠症患者においては、ゾピクロンやゾルピデムを使い続けるよりも、中止した方が、もともとの入眠潜時が30分を超えている場合は、寝つきが良くなる可能性があり、さらにQOLも改善する可能性がある

・ただし自己評価式なので、ベンゾをやめられたかどうか、自分でわかっているため、バイアスが入る可能性がある

高齢者のベンゾジアゼピン系睡眠薬からの離脱の効果(文献3)

背景

・2003年時点でイギリスの65歳以上の15%が睡眠薬を定期的に内服しているといわれている。そのうち80%がベンゾジアゼピン系薬剤といわれている。4週間を超えた処方は控えるように言われているが、繰り返し処方されている現実がある

・高齢者に対するベンゾは認知機能への悪影響などが報告されており、今回は、ベンゾジアゼピン系薬剤からの離脱が認知機能などへどのように影響するかを調べた

対象と方法

・イギリスでの多施設無作為割付試験

・65歳以上で6か月以上ベンゾジアゼピン系睡眠薬を内服中の患者、かつ睡眠薬をやめたいと希望した者(介入群)。および対照群(C群)として睡眠薬を継続したものを設定

・ベンゾ中断希望者をAとBの2群に無作為割付。A群は開始後よりベンゾを漸減し、8-9週で中断。B群は3か月間継続し、その後漸減を開始し、開始20週後で中断

・12週後の検査はA群とB群の比較で、中断後数週後の認知機能の比較、52週後はA群+B群(中断群)とC群(継続群)との比較でベンゾ中止後32週以上後の認知機能などの比較となる

結果

・12週時点(A群が中断して3-4週後)での認知機能についてはA群、B群で群間有意差なし

・52週後の認知機能(map search、reaction time in speed of information processing、total digit span、単純反応時間)については中断群(A群+B群)と継続群(C群)とで有意差あり。中断群において一部認知機能が継続群より有意に良好であった

・睡眠については睡眠日誌でアセスメントされ、12週後において睡眠時間や中途覚醒時間、入眠困難などはA群とB群で有意差なし。52週後の中断群(A群+B群)と継続群C群との比較では、睡眠に関する問題などにおいて有意差なし

・睡眠薬を継続していても、中断しても、睡眠に関する指標は有意差なかった。このことは睡眠薬を継続することの意味が有意なものがないことを示唆している

結論

・ベンゾジアゼピン長期使用後に中断すると、その後すぐには有意な変化はないが、半年くらいたってから認知機能はやや改善する可能性があり。また睡眠状態については、やめても継続しても睡眠日誌では有意な差がなかった。このことは睡眠薬(テマゼパムやニトラゼパム)を長期継続した場合に、耐性が形成され、効果がなくなっている可能性があることを示唆している。

まとめ

・ベンゾ系薬剤を長期使用していると、離脱症状により中断しにくくなりますが、耐性が形成されその効果がほとんど無くなっている可能性もあります。中止できた場合には利益がある可能性もありますので、漸減中止を目指す意義があります。

 

引用文献

文献1:Javelot H et al. Pharmacy (Basel). 2018 Apr 6;6(2):30. doi: 10.3390/pharmacy6020030.
文献2:Ritva Lähteenmäki et al. Basic Clin Pharmacol Toxicol. 2019 Mar;124(3):330-340.
文献3:H V Curran , R Collins, S Fletcher, S C Y Kee, B Woods, S Iliffe Psychol Med. 2003 Oct;33(7):1223-37. doi: 10.1017/s0033291703008213

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