・福島県立医大の三浦先生らが抗精神病薬とうつ症状の改善について興味深い報告をされました(文献1)。その内容の概略と感想を書きます。

・この報告の素晴らしいところは、メタ回帰分析を行い、うつ症状の改善度とその他の症状の改善度との相関を調べているところです。最後にコメントしますが、その結果から面白い考察も可能かと思います。

・これまでにも統合失調症の急性期試験を解析対象として、抗精神病薬とうつ症状の改善度についての報告はいくつかされています。有名なものとしては、文献2のネットワークメタ解析の結果(Fig.2D)がありますし、文献3の2009年のLancet誌の報告も第1世代と第2世代の比較という点で注目されました。またCATIE試験の事後解析としてうつ症状の効果についての報告(文献4)もありますし、うつ症状が主体の統合失調症患者に対するオランザピンとジプラシドンの直接比較試験(文献5)、アミスルプリドとオランザピンの直接比較試験(文献6)、急性期におけるうつ症状に対するリスペリドン、ハロペリドールに対するアミスルプリドの優位性を報告したpooled analysisの結果(文献7)などもあります。

・今回は統合失調症急性期患者を対象としたプラセボ対照試験を解析対象とし、抗精神病薬のうつ症状への効果について、その他の症状の改善度との相関なども含めて解析されたものです。

統合失調症治療における抗精神病薬の抗うつ作用

方法と対象

・統合失調症と関連疾患についてプラセボ対照無作為割付比較試験を抽出。非公表も含む。

・クロザピンは除外(わずか1つの小規模(N=16)試験しかないため)、筋注製剤、LAIも除外

・主要評価項目はMADRSないしHAM-DないしCDSSにより評価されたうつ症状尺度の平均変化量。もしこれら尺度が使用できなければPANSSのAnxiety/Depression項目ないしBPRSのDepressionクラスターを効果量評価のため使用

・副次評価項目は症状重症度、CGI-S、QOL、あらゆる理由による中断率、忍容性欠如による中断率、有効性欠如による中断率など

・メタ回帰分析により交絡因子を同定。抗精神病薬が第1世代か第2世代か、neuroscience-based nomenclature(向精神薬の国際分類法による命名:M1:D2遮断薬(ハロペリドールなど)、M2:D2およびセロトニン2受容体遮断薬(クロルプロマジン、ルラシドン、オランザピン、ジプラシドン、ゾテピンなど)、M3:D2およびセロトニン1A部分アゴニスト(アリピプラゾール、ブレクスピプラゾールなど)、M4:D2、セロトニン2、ノルエピネフリン、α2アンタゴニスト(アセナピン、パリペリドン、リスペリドン)、M5:D2およびセロトニン2アンタゴニストおよびNET再取り込み阻害(クエチアピン))、出版年(1999年以前か、2000年から2009年までか、2010年以降か)、国、サンプルサイズ(400より多いか少ないか)、平均年齢(30-35歳、35-40歳、40-45歳、45-50歳)、含まれた疾患(統合失調症+統合失調感情障害か統合失調症のみか)、評価尺度(HAM-DかMADRSか、CDSSかPANSSかBPRSか)などについてうつ症状改善度との相関の有無を調べた。

結果と議論

・35RCTs(N=13890)

・平均年齢39.2歳、平均介入期間5.7週間(3-7週)

・ルラシドン 7RCTs、オランザピン 7 RCTs、パリペリドン 6 RCTs、クエチアピン 5 RCTS、ブレクスピプラゾール 4 RCTs、ハロペリドール 4 RCTs、リスペリドン 4RCTs,アセナピン 3 RCTs、アリピプラゾール 2 RCTs、ジプラシドン 2 RCTs、カリプラジン 1 RCT、クロルプロマジン 1 RCT

・クロルプロマジン、ハロペリドール、ジプラシドンを除いて、抗精神病薬はプラセボより有意なうつ症状改善効果を有していた

・うつ症状改善のSMDの平均値は、アリピプラゾール -0.40、パリペリドン -0.39、カリプラジン -0.36、クエチアピン -0.32、オランザピン -0.31、アセナピン -0.30、リスペリドン -0.24、ルラシドン -0.21、ブレクスピプラゾール -0.19など。ジプラシドン、ハロペリドール、クロルプロマジンは有意差なし。

・メタ回帰分析の結果、HAM-DないしMADRSないしCDSSで評価されたうつ症状の改善度は、PANSSないしBPRS totalスコアの改善度、陽性症状、陰性症状、CGI-Sの改善度と有意な相関関係を有した。陰性症状の改善度との相関係数が最も大きかった。しかしPANSS総合精神病理評価尺度の改善度とは有意な相関を示さなかった

・うつ症状の改善度と参加者の平均年齢、性別比とは有意な相関はみられなかった

・出版年度が1999年以前では抗精神病薬のうつ症状改善効果はプラセボと比較して有意差がなかった。2000年以降では有意となった。

・第2世代抗精神病薬、M2-M5群であることは有意なうつ症状改善と関連した。第1世代、M1群はプラセボと有意差がなかった

・錐体外路症状がうつ症状と関連する可能性は注意が必要であり、その点においてCDSSはうつ症状と陰性症状、錐体外路症状の分離に最も優れていると言われており、CDSSを用いることが望ましそう

・急性期に対する介入では、第2世代抗精神病薬によりうつ症状は有意に改善すると言えそう。ただし効果量は0.19~0.4とsmallからmedium。このうつ症状の改善は陰性症状の改善、陽性症状の改善+使用する抗精神病薬のクラス(第2世代)により部分的に説明できるかもしれない。

・初発ではなく、罹病期間がある程度長い患者のため、前治療薬などの影響などもある可能性があり、その点が除外できない。初発精神病で検証できるとよい

コメント


・ハロペリドールは陽性症状の改善は有意でしたが、うつ症状の改善は有意なものではありませんでした。ハロペリドールは陰性症状の改善が有意ではなかったことと関連があるかもしれません。しかしジプラシドンについては陰性症状の改善が有意であったにも関わらずうつ症状の改善は有意ではありませんでした。M2に属するオランザピンやルラシドンは有意なうつ症状改善効果を示していることから、サンプル数が少ないためか、なんらかのその他の要因が関与しているためと思われます。

・陰性症状の評価尺度がPANSS negativeであれば純粋に陰性症状を抽出できていない可能性があり(抽象的思考の困難、常同的思考については陽性症状とも関連した尺度であるため)、評価尺度としてはSANSやPANSS FSNSなどが望ましいといわれています。

・うつ病でみられるような、ベースラインの重症度が高いほど、プラセボに対する薬剤の優位性が高くなるとの関連性は、統合失調症のうつ症状についてはみられませんでした。この結果が一番興味深いものでした。

・ベースラインのPANSS 不安/抑うつ尺度が高いほど、有意に抗精神病薬のうつ症状に対する治療効果は小さくなる傾向があり、ここを覆しうる抗精神病薬が登場すれば興味深いものです。クロザピンだとどういうデータがでるのかは知りたいところです。自殺リスクを減少させると言われているため、もしかしたらクロザピンについてはベースラインのうつ症状が高いほど、うつ症状に対する治療効果が高いという結果になるかもしれません。

・patient level dataを用い、薬剤毎に解析を行うと、ベースラインのうつ症状の重症度が高いほど、うつ症状の改善効果が高い薬剤がみつかるかもしれません。そのような薬剤があれば真に統合失調症のうつ症状に有効な薬剤と言えるのかもしれません。

・細かいことを言えば、統合失調症のうつ症状には、awakeningによるものや、post-psychotic depression、陽性症状に伴う二次的なものなど様々な亜型がありうるため、一括りに議論しにくいものかもしれません。

 

引用文献

文献1:Miura I, Nosaka T, Yabe H, Hagi K. Antidepressive Effect of Antipsychotics in the Treatment of Schizophrenia: Meta-Regression Analysis of Randomized Placebo-Controlled Trials. Int J Neuropsychopharmacol. 2020 Nov 5:pyaa082. doi: 10.1093/ijnp/pyaa082. Online ahead of print. PMID: 33151310
文献2:Huhn M. et al, Lancet. 2019 Sep 14;394(10202):939-951. doi: 10.1016/S0140-6736(19)31135-3. Epub 2019 Jul 11.
Comparative efficacy and tolerability of 32 oral antipsychotics for the acute treatment of adults with multi-episode schizophrenia: a systematic review and network meta-analysis
文献3:Second-generation versus fi rst-generation antipsychotic drugs for schizophrenia: a meta-analysis Stefan Leucht, Caroline Corves, Dieter Arbter, Rolf R Engel, Chunbo Li, John M Davis lancet Vol 373 January 3, 2009
文献4:J Clin Psychiatry. 2011 Jan;72(1):75-80. doi: 10.4088/JCP.09m05258gre. Epub 2010 Sep 21. Impact of second-generation antipsychotics and perphenazine on depressive symptoms in a randomized trial of treatment for chronic schizophrenia. Addington DE, Mohamed S, Rosenheck RA, Davis SM, Stroup TS, McEvoy JP, Swartz MS, Lieberman JA.
文献5:J Clin Psychopharmacol. 2006 Apr;26(2):157-62. A 24-week randomized study of olanzapine versus ziprasidone in the treatment of schizophrenia or schizoaffective disorder in patients with prominent depressive symptoms. Kinon BJ, Lipkovich I, Edwards SB, Adams DH, Ascher-Svanum H, Siris SG.
文献6:Eur Psychiatry. 2006 Dec;21(8):523-30. Epub 2006 Nov 20. A double-blind randomised comparative trial of amisulpride versus olanzapine for 2 months in the treatment of subjects with schizophrenia and comorbid depression. Vanelle JM, Douki S.
文献7: Eur Neuropsychopharmacol. 2002 Aug;12(4):305-10. Amisulpride improves depressive symptoms in acute exacerbations of schizophrenia: comparison with haloperidol and risperidone. Peuskens J, Moller HJ, Puech A.