・セロトニン1A受容体の脱感作とかわざわざそんなめんどくさいことをさせなくても、最初からセロトニン1A受容体アンタゴニストを投与すればいいんじゃないか(臨床試験ではうまくいっていないですが)とか、動物実験ではセロトニン2C受容体アゴニストもアンタゴニストも、セロトニン6受容体アゴニストもアンタゴニストも、いずれも抗うつ薬類似作用を発揮するとか、モノアミン仮説がわからないので、何かよい総説はないかと探してみましたが、2011年の古い物(文献1)しか見当たりませんでした。

・2020年現在にどこまで通じるのかわかりませんし、今となっては間違っている記載が多々あるかもしれませんが、とりあえずは見ておこうということでざっと通してみます。

 

うつ病動物モデルとセロトニン受容体サブタイプ

 

背景

 

・SSRIの登場以前はモノアミン再取り込み阻害作用を有する三環系抗うつ薬ないしモノアミン酸化酵素阻害薬(モノアミンの代謝酵素を阻害する)がうつ病治療に用いられてきた。これら古典的薬剤と比較してSSRIは副作用が少ないため成功してきた

・SSRIはセロトニントランスポーターを選択的に阻害し、そのため全てのシナプス後セロトニン受容体における細胞外セロトニン濃度を上昇させる。SSRI慢性投与は細胞外セロトニン濃度をさらに上昇させるか、維持させる効果がある

・さらにSSRI慢性投与によりセロトニン自己受容体の脱感作や、セロトニントランスポーターの脱感作、受容体の発現低下、神経栄養因子の動員、海馬神経細胞新生の亢進などが報告されている

・1987年のフルオキセチンの承認以降、行動薬理学の分野では、SSRIの薬理作用を動物実験で検証してきたが、古典的動物モデルではSSRIの行動薬理学的作用ははっきりしなかった。というのは、それまでのアポモルヒネ誘発性低体温モデル、レセルピン誘発性眼瞼下垂または低体温モデル動物、または定型的な強制水泳試験のようなモデルは、カテコールアミン系への三環系抗うつ薬ないしMAOIの効果を検証するために開発されたものであったからである。

・これら定型的なモデル動物や試験でSSRIが効果を示さなかったことは臨床効果への疑問につながったが、実際に臨床的有効性が示されてからは、新たな行動試験や動物モデルにおいてその行動薬理学的作用が検証されるようになった。

・このレビューでは、動物行動薬理学的実験によりセロトニン系がどのようにSSRIの抗うつ作用発現に寄与しているかをより正確に理解することである

・中枢神経系では7つの主要なファミリーに属する少なくとも14のセロトニン受容体サブタイプが同定されている。

・現在ではうつ病や不安症におけるSSRIの治療効果には、複数のセロトニン受容体サブタイプが関与していることが明らかになっており、1つの受容体が他の受容体よりもより重要であるかどうかは明らかではない。驚くべきことに、いくつかの5-HT受容体におけるアゴニストおよびアンタゴニストは、詳細なメカニズムは異なるにしても、どちらも抗うつ薬のような行動効果をもたらすことが知られている(例えばセロトニン1Aアゴニストとアンタゴニスト)

・齧歯類を用いたうつ病の行動薬理学的検査は、薬物投与の期間に基づいて、急性試験と慢性試験に分けることができる。急性試験はSSRIの効果が1回または少数回の投与で明らかになる行動試験であり。慢性試験では通常2週間以上の投与を必要とする。

 

急性試験

 

・強制水泳試験(FST):ストレスに対する脆弱性の増加ないしうつ病の治療のいずれかと相関するストレスに対する反応の行動パターンを測定する。水(通常は円筒形)の容器にラットを配置し、最初は、ラットが脱出しようとするが、最終的にはラットの鼻を水面に出すことを維持するために必要な動作を除いて、不動(受動的な行動)の姿勢をとるようになる。テストは、2つの水泳暴露で構成され、最初は15分間の暴露であり、24時間後に5分間の暴露を実施する。不動時間は、2回目の5分間の試験中に記録される。FSTでは、抗うつ薬は能動的な対処行動を増加させることにより、不動時間を減少させる。異なるクラスの抗うつ薬の効果を測定したり、変異齧歯動物のうつ病関連行動への影響を評価したりするために最も頻繁に使用されている行動検査。FSTではSSRIの効果を測定することができなかったため、LuckiらはFSTの手順とスコアリングを改変した。水深が深くし、シリンダーが大きくすることにより、自由遊泳を可能にした。定型的なFSTでは、動けない状態で過ごした時間の合計のみを採点していたが、修正版FSTでは、5分間の試験で泳ぎと登りの頻度を測定するスコアリングシステムが導入された(水泳は、チャンバー全体の水平方向の動きとして定義され、上昇行動は、チャンバーの前足の垂直方向の動きとして定義)。修正ラットFSTでは、ストレスに対する受動的反応(不動)と能動的反応(水泳や上昇行動の増加)を区別する。フルオキセチン、セルトラリン、パロキセチン、シタロプラムなどは水泳行動を選択的に増加させ、ノルアドレナリン作動系薬剤は上昇行動を選択的に増加させる。セロトニン系、ノルアドレナリン双方の作用を持つ薬物は水泳と上昇行動の両方を増加させる

・テールサスペンション試験(TST):テールサスペンション試験は、より簡便で、かつマウスの抗うつ薬に対する行動反応を、FSTと同様の行動原理に基づいて、迅速に試験する方法。この試験では、マウスを粘着テープで尻尾を棒に固定して吊るす。6分間のテストの間、マウスが動かずに過ごした時間は、うつ状態に似た行動の指標になる。TSTは、FSTにおける冷水による低体温効果がないこと、泳ぐことを困難にする運動障害を有するモデルを試験できることなどFSTに比べて多くの利点がある

・低反応率分化強化(DRL)行動試験:低反応率分化強化スケジュールは先の反応から一定時間経過した最初の反応を強化する手続き。定められた反応時間よりも長い反応間時間を分化強化し、定められた反応時間未満での反応では報酬は得られない。72秒以上の反応間時間を持つ応答を強化するスケジュールの下で維持されたオペラント行動は、抗うつ薬に対する特異的な感受性を示す。SSRIを含む抗うつ薬は、このスケジュールの下で応答するラットの応答速度を低下させ、強化率を増加させる。このような強化は抗うつ薬に特異的な反応

・薬物弁別試験:薬物弁別試験は、ラットに訓練薬を投与した場合にのみ、特定のレバーの上で与えられる餌の報酬に反応するように訓練するもの。薬物の相互受容特性の判別に用いられる。この手法は、依存性薬物の研究に最もよく用いられている。シタロプラムが識別刺激として訓練された場合、セルトラリンとパロキセチンには反応したが、ジアゼパムやクロザピンは反応しなかった。薬剤の類似性の判別に用いられる

 

慢性試験

 

・慢性的軽度ストレス(CMS)試験:慢性的軽度ストレスモデルの根拠は、環境的ストレス因子、特に予測不可能で制御不能なストレス因子への曝露が、うつ病を発症リスクを高めるという仮説である。 ストレス因子への馴化を防ぐために、不規則に投与される軽度のストレス因子(例えば、ストロボ照明、汚れたケージ、光周期の変調など)が用いられる。数週間にわたって慢性ストレスが投与された場合に、ヒトのうつ病に似たような行動および内分泌学的変化がラットおよびマウスに生じうることが報告されている。CMSによる一般的な行動偏倚は甘味水溶液の消費量減少などの無気力症の出現である。さらにFST行動、睡眠変化、グルーミング、運動量の変化は、CMSによる病理学的変化がより多様であり、CMSがうつ症状の多くをモデル化している可能性を示唆する。CMSによって引き起こされた変化は、多くの抗うつ薬、特にフルオキセチン、セルトラリン、シタロプラムの慢性的投与によって、改善がみられる。ただしCMSに曝露されたすべてのげっ歯類が病理学的な行動変化を示すわけではなく、CMSに反応したすべての動物が抗うつ薬投与後に改善を示すわけではない。このような反応性の個人差はヒトのうつ病にも見られる。CMSの欠点の1つは、異なる実験環境において抗うつ効果の再現性が乏しい場合があることである。

・嗅球摘除術(OB):嗅球の両側摘除は、げっ歯類に重度の行動的および内分泌的変化を引き起こしうつ病モデルとして使用されてきた。OBモデルでみられる最も一般的な行動変化は、オープンフィールド装置における活動亢進である。これらの変化は、SSRIのフルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、およびフルボキサミンを含む慢性的な抗うつ薬投与によって改善する。OBは、扁桃体や海馬など、嗅球に投射したり、嗅球から投射を受けたりする多くの領域で神経変性を引き起こす。OBは、縫線核における神経細胞の損失を引き起こし、セロトニン神経伝達の異常につながる可能性がある。うつ病患者では対照群に比べて嗅覚検出閾値が高く、嗅覚課題のパフォーマンスがうつ病の重症度と逆相関しているという報告は、OBモデルがうつ病と多くの生理学的特徴を共有している可能性があることを示唆している

・Novelty-suppression of feeding(NSF)テスト/novelty-induced hypophagia(NIH)テスト:新奇な環境では,餌を与えた時に摂食するまでの時間が長くかかる。明るく開放的な新奇環境に齧歯類を置き、食べ物に近づくまでの潜時と、新奇環境で消費される食べ物の量を測定する。NSF試験では、消費を促進するために食物欠乏を用いるのに対し、NIH試験では食物欠乏なしで例えば甘味があるような好まれる食物を用いる。新奇環境に曝露することで、食物への接近潜時が増加し、従来環境に比べて餌消費量が減少する。ベンゾジアゼピンなどの抗不安薬は、従来環境での行動を変化させることなく、新奇環境での食物への接近潜時を減少させ、餌消費量を増加させる。SSRIは、ラットおよびマウスに慢性投与された場合、これらの試験において抗不安薬と同様の効果をもたらすことが知られている。NSFおよびNIHテストは、慢性抗うつ薬治療の抗不安効果に敏感な数少ない行動テストの一つ

・社会的敗北ストレステスト:マウスをより大きなマウスのいるケージで共存させることにより、抑うつ関連行動をおこさせる。数週間社会的ストレスを受けたラットは、FSTでの運動量の減少、ショ糖嗜好性の減少、不動時間の増加などを示す。シタロプラムまたはフルオキセチンを慢性的に投与すると、動機付けと報酬感受性に関連した行動が正常化される. 長時間社会的敗北に曝露されたマウスは、強い回避反応を示し、他のマウスとの交流に費やす時間が減少する。フルオキセチンまたはイミプラミンを4週間慢性投与すると、社会的相互作用が改善する。
u学習性無力モデル:学習性無力とは、逃れられないストレスにさらされた動物が、REM睡眠の変化、体重減少、性的行動の減少、CRFおよびコルチゾール濃度の上昇など、ヒトうつ病に類似した病態を示すもの。脱出不可能なストレスに曝露された学習性無力状態では、その後、脱出が可能な状況であっても脱出することをしなくなる。電気ショックなどを用いて学習性無力状態が作り出される。SSRI慢性投与により、逃走までの潜伏期間が短縮されたり、学習性無力を発現する動物の数が減少したりする。

 

SSRIの行動学的影響における内因性セロトニン系の役割

 

・齧歯類における行動研究ては、セロトニン合成を阻害することによりうつ病の行動的特徴を再現することに成功していない

・ラットやマウスに対して、トリプトファン水酸化酵素阻害剤であるパラクロロフェニルアラニン(PCPA)投与によりセロトニン合成を阻害しても、強制水泳テストにおける行動的特徴に影響を与えることができないことが知られている(Gavioliら 2004)。さらに神経毒によりセロトニン神経を破壊しても、ラットに強制水泳テストにおいて不動時間の増加がみられないことが報告されている(Luckiら 1994)

・近年、トリプトファン水酸化酵素の遺伝子(tph1遺伝子およびtph2遺伝子)に変異を有するマウスにおいてうつ病的な行動表現型がみられることが報告されている。いずれの遺伝子もセロトニン合成を制御しており、Tph1遺伝子は主として末梢組織に、tph2遺伝子は主に神経細胞におけるセロトニン合成に関与している。tph2遺伝子ノックアウトマウスでは、テールサスペンションテストにおける不動時間の延長が報告された(Savelievaら 2008)。また中枢神経でのセロトニン合成能が80%低下する変異tph2遺伝子をマウスにノックインすると、テールサスペンションテストにおいて不動時間が有意に延長することが報告された(Beaulieuら 2008)。しかしこれらの研究の結果は、セロトニン系が発生時に重要な役割を果たしている可能性を除外できない

・tph2遺伝子多型(セロトニン合成速度が変化する)が強制水泳テストにおけるSSRIに対する反応性を修飾する可能性が報告されているが、この報告については再現性が確認されておらず、また強制水泳テスト以外の試験においての検証はなされていない

・セロトニンの枯渇がモデル動物におけるうつ病行動特性を誘発するとは限らないが、強制水泳テストやテールサスペンションテストにおいてSSRI投与が効果的であるためには、セロトニン系の機能が保持されていることが重要であると考えられている。その根拠として、パラクロロフェニルアラニン(PCPA)を投与すると、強制水泳テストやテールサスペンションテストにおけるフルオキセチンの効果は阻害されるが、ノルエピネフリン再取り込み阻害剤であるデシプラミンの効果はPCPA投与の影響を受けないことがあげられる。この結果は急性試験におけるSSRIの効果がセロトニン系を介することを支持するものである

・学習性無力モデルラットを用いた実験において、セロトニン1A受容体遮断薬(WAY100,635)投与下において、セロトニン1A受容体アゴニストを投与すると、無力行動の改善はみられなくなったが、フルオキセチンおよびパロキセチンによる無力行動の改善効果は保持されていた。またPCPA投与によりセロトニンを枯渇させても、無力行動は変化せず、フルオキセチン、パロキセチンの無力行動改善効果は保持されていた(Zazpeら  2007)。PCPAのSSRIへの影響は急性試験と慢性試験で異なるのかもしれない

・一酸化窒素は多くの中枢神経系受容体の細胞内メッセンジャーである。一酸化窒素合成酵素(NOS)を阻害することによってNOシグナルを減少させると、ラットの強制水泳テストにおいて抗うつ薬様の効果が得られることが示されている。これらの行動効果は、PCPAを用いたセロトニンの枯渇によって阻害されるため、NOS阻害による行動効果はセロトニン系に依存していることが示唆されている。また亜鉛投与は、多くの動物モデルおよび予備的臨床研究において、抗うつ薬に類似した効果をもたらすことが報告されている。PCPAを投与すると、亜鉛の抗うつ薬様効果が阻害されることが報告されている。

 

セロトニン1A受容体

 

・特異的なリガンドを用いた受容体オートラジオグラフィーによりセロトニン1A受容体は海馬や外側中隔などの辺縁系や大脳皮質のシナプス後膜において高密度に発現していることが報告されている。中隔に存在する受容体はコリン放出を制御し、前頭前野においてはグルタミン酸放出を制御し、腹側被蓋野ではドパミン放出を制御している。これらの領域における細胞内シグナル経路は主としてGi/o蛋白質とカップリングし、アデニル酸シクラーゼの活性を抑制している。

・同時にセロトニン1A受容体は脳幹部や延髄縫線核の神経細胞の細胞体や樹状突起に位置し、神経発火やセロトニン合成、シナプス末端からのセロトニン放出を抑制する機能を有する。

・セロトニン1A受容体は不安やうつ症状、体温調節、コルチコステロン分泌、学習と記憶に関与していると考えられている。

・セロトニン1A受容体の部分アゴニストであるブスピロン、イプサピロンは抗不安薬として上市されている。またセロトニン1A受容体機能の障害がうつ病患者において報告されている(Savitzら2009)

・セロトニン1A受容体のプロモータ領域におけるある種の遺伝子多型はうつ病や不安障害のリスク因子として同定されており、SSRI治療抵抗性に関与していることが報告されている

・セロトニン1A受容体アゴニストは抗うつ薬類似効果を発揮することが、各種の動物実験において報告されている。セロトニン1A受容体アゴニスト(8-OH-DPAT)や部分アゴニスト投与(ブスピロンなど)はラット強制水泳試験における不動時間を減少させ、同時にセロトニン1A受容体阻害薬による前処置により、その作用が阻害されることが報告されている。

・セロトニン1A受容体アゴニストは、学習性無力モデル、低反応率分化強化(DRL)行動試験においても抗うつ薬類似作用を発揮し、セロトニン1A受容体部分アゴニストは慢性的軽度ストレス(CMS)試験、嗅球摘除試験において抗うつ薬類似作用を発揮することが確認されている。またセロトニン1A受容体アゴニストないしブスピロンの慢性投与はnovelty-induced hypophagiaテストにおいて食べ物への近接潜時を短縮させ、歯状回における神経新生を増加させ、神経細胞の生存を促進することが報告されている。

・しかしながら、臨床的にはブスピロンとイプサピロンを除いて、セロトニン1A受容体アゴニストの抗うつ薬としての開発は成功していない

・SSRIやその他の抗うつ薬の慢性投与、ECTは、シナプス前およびシナプス後膜のセロトニン1A受容体の反応性を変化させる。海馬などの辺縁系において抗うつ薬の慢性投与はセロトニン1A受容体を介したシナプス伝達の促通が生じることが報告されており、抗うつ作用におけるシナプス後膜のセロトニン1A受容体の関与が重要であることを示唆している

・同時に週単位の抗うつ薬投与後に生じるセロトニン1A自己受容体の脱感作が、セロトニン伝達の増強における重要な要因であり、抗うつ作用が遅れて生じることの根拠となっている。縫線核におけるセロトニン1A受容体を阻害すると、セロトニン放出の脱抑制を引き起こし、抗うつ作用を増強することが報告されており、セロトニン1A受容体阻害薬は抗うつ薬の増強療法の候補として提唱されている(臨床試験ではうまくいっていない)。セロトニン1Aおよび1B受容体拮抗薬であるピンドロールは動物実験ではSSRIとの併用で抗うつ作用を増強させることを示唆する結果が得られており、ヒトに対して抗うつ薬との併用での治療抵抗性うつ病に対する臨床試験が行われたが、結果は芳しくないものであった(明確な有効性を示せていない)。ピンドロールは高用量においてはシナプス後セロトニン1A受容体作用によりSSRIの治療効果を阻害する可能性が報告されており、シナプス前受容体阻害作用とのトレードオフが生じる可能性が報告されている。

・新規抗うつ薬のビラゾドンはセロトニン1A受容体部分アゴニスト作用をSSRI作用を併せ持つ薬剤であり、ラットの大脳皮質および海馬においてフルオキセチン単独よりも細胞外セロトニン濃度を上昇させることが報告されている。またラットおよびマウスの強制水泳試験において抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。しかし細胞外セロトニン濃度を上昇させることの臨床的意義ははっきりしていない(ビラゾドン自体の臨床的抗うつ作用は他剤と比較して有意に優れているというわけではない)。

・セロトニン1A受容体ノックアウトマウスの共通した特徴は不安特性の高い行動特性である。この特性はは発達段階でのセロトニン1A受容体の欠如により引き起こされると考えられており、成熟後にセロトニン1A受容体欠失を生じさせたマウスではそのような行動特性が生じなかったことが根拠である。セロトニン1A受容体ノックアウトマウスでは、正常なセロトニン放出を示すが、セロトニン1A自己受容体欠損のため、フルオキセチン投与後のセロトニン濃度の上昇が増加する。しかしながらセロトニン1A受容体ノックアウトマウスにおいてはSSRI投与に対して治療抵抗性を示す。このことはおそらくシナプス後膜のセロトニン1A受容体が欠損していることに起因すると考えられている。

・セロトニン1A自己受容体の密度が高いマウスは、ベースライン時の強制水泳試験とテールサスペンション試験での不動時間の増加など、ストレス因子に対する応答が増強した。また、セロトニン1A自己受容体の密度が低いマウスでは、フルオキセチンによる海馬の細胞外セロトニン濃度の上昇が増強され、 novelty-induced hypophagia試験において慢性的なフルオキセチン投与に対しより迅速な反応を示した。

・セロトニン産生神経細胞を破壊ないしセロトニン合成が阻害されても、セロトニン1A受容体アゴニスト投与は抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。このことは、抗うつ作用の発揮がシナプス後膜のセロトニン1A受容体を介したものであることを示唆するものである

・結論として、シナプス前膜のセロトニン1A受容体はうつ病関連行動のリスク因子となり、同時にその阻害がSSRIの作用を増強する可能性がある(この仮説は現時点では臨床的には否定的だが)。またおそらくSSRIおよびセロトニン1A受容体アゴニストの抗うつ作用はシナプス後膜のセロトニン1A受容体を介したものであることが推測される

 

セロトニン1B受容体

 

・セロトニン1B受容体は基底核、側坐核、黒質などで高密度で発現する他、帯状回、海馬、扁桃体などでも多く発現がみられている。セロトニン1B受容体はセロトニン神経末端での自己受容体としての機能と、非セロトニン神経系におけるヘテロ受容体として、その神経の伝達物質の放出を制御する機能とを有する。

・セロトニン1B受容体は、片頭痛、運動活動、薬物嗜癖、攻撃性、うつ病、不安などに関与していると考えられている。

・セロトニン1B受容体は、環境ストレスへの曝露や抗うつ薬投与によって制御されるため、うつ病の治療標的となりうる。学習性無力状態では皮質や海馬、中隔、背側縫線核でのセロトニン1B受容体の発現亢進をもたらすことが報告されており、抗うつ薬の慢性投与は背側縫線核でのセロトニン1B受容体mRNA減少と、セロトニン1B自己受容体の効力を減少させ、その結果セロトニン放出の増加につながることが報告されている。

・顆粒細胞や錐体細胞に存在するセロトニン1Bヘテロ受容体は海馬神経新生の増加に関与していることが報告されている(Banasrら 2004)

・同時にセロトニン1B受容体は結合蛋白質p11により制御されている。P11はセロトニン1B受容体の機能を増強することが知られている。マウスでの抗うつ薬治療はp11を増加させ、同時にp11を過剰発現させるようにしたトランスジェニックマウスでは抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。またp11遺伝子除去したマウスでは強制水泳試験やテールサスペンション試験において不動時間が増加し、うつ病類似行動が引き起こされることが報告されている。

・セロトニン1B受容体アゴニスト投与はマウスの強制水泳試験において抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。この効果はセロトニン1B受容体除去およびアンタゴニスト投与により阻害されたが、セロトニン除去によっては阻害されなかった。このことはセロトニン1Bアゴニストによる抗うつ作用がシナプス後膜セロトニン1B受容体を介したものであることを示唆している。

・セロトニン1B受容体アンタゴニスト投与は、シタロプラムおよびパロキセチンの抗うつ作用を阻害することが報告されており、これら薬剤の治療的効果の一部はセロトニン1B受容体を介したものである可能性がある

・他のグループは、シナプス前セロトニン1B自己受容体が抗うつ作用発揮に必要であることを主張している。セロトニン1B受容体アンタゴニストをパロキセチンと同時投与するとラットの強制水泳試験におけるパロキセチンの抗うつ作用が増強したが、フルオキセチンないしシタロプラムと併用した場合には抗うつ作用の増強はみられなかった。またセロトニン1B受容体アンタゴニスト単独投与は、細胞外セロトニン濃度を上昇させ、抗うつ薬類似作用を発揮し、抗うつ薬の作用を増強することも報告されている。

・これらの作用はおそらくはセロトニン1B自己受容体の阻害によるセロトニン放出の脱抑制に起因したものであろう。研究グループ間の異なった結論は、セロトニン1B受容体がヘテロ受容体および自己受容体とで異なる機能を有することに起因する可能性があり、あるいは研究室間の手技の違いなどに起因するものかもしれない。

 

セロトニン2A受容体

 

・セロトニン2A受容体は大脳皮質、梨状皮質、嗅内野、前障、嗅球、前嗅核や多くの脳幹核において高密度に発現している。辺縁系や基底核においても中等度の発現がみられる。セロトニン2A受容体はGq/11蛋白質とカップリングしており、IP3/PKC経路につながっている。

・セロトニン2A受容体アゴニストはLSDなどの催幻覚剤の効果発現と関連している。SSRIなど抗うつ薬の慢性投与は齧歯類において、前頭皮質におけるセロトニン2A受容体密度の減少につながり、おそらくこのことと抗うつ作用との関連が推測される。うつ病患者においてはセロトニン2A受容体密度の増加が報告されている。またセロトニン2A受容体遺伝子多型とSSRIへの治療反応性との関連も報告されている(McMahonら 2006)。

・選択的なセロトニン2A受容体アンタゴニストは強制水泳試験において抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されており、セロトニン2A受容体アンタゴニストの慢性投与は嗅球除去モデルにおいて強制水泳試験や社会的相互作用テストなどでの抗うつ薬類似作用が報告されている

・SSRIにセロトニン2A受容体アンタゴニストを併用するとオペラント行動を用いたテストにおいて抗うつ作用が増強することが報告されている。この作用機序としては、セロトニン2A受容体アンタゴニストがSSRIによる細胞外セロトニン濃度増加をさらに増強することによる可能性が推測されている

・セロトニン2A受容体アンタゴニストは、その他の神経伝達物質の放出を制御することにより抗うつ作用を発揮する可能性が報告されている。例えばセロトニン2A受容体アンタゴニストは前頭前野でのドパミン放出を抑制IS、一方でアゴニストはドパミン活性を亢進させることが報告されている。またセロトニン2A/2C受容体アゴニストであるDOI投与は、皮質ではグルタミン酸放出を増加させることが報告されている。非定型抗精神病薬によりセロトニン2A受容体遮断すると、SSRIによりもたらされた青斑核での神経発火抑制が、改善することが報告されており、治療抵抗性うつ病における非定型抗精神病薬増強の治療的有用性の根拠となっている。

 

セロトニン2C受容体

 

・セロトニン2C受容体は受容体オートラジオグラフィーにより当初は脈絡叢に見いだされ、その後海馬や扁桃体、前嗅核、 endopiriform nucleus、帯状回、梨状回、視床核、黒質などでの存在が同定された。セロトニン2C受容体は主にGq/11蛋白質とカップルし、イノシトールリン酸を増加させ、細胞内カルシウム濃度を増加させる。セロトニン2C受容体を介した薬理作用は複雑であり、その理由としてセロトニン2C受容体が多くの神経系に発現する受容体であり、薬剤の慢性投与によるダウンレギュレーションなどの制御様式も定型的なものではないからである。

・ミアンセリン、ミルタザピン、トラゾドン、ネファゾドンはセロトニン2C受容体に高い親和性を有する。またSSRIはフルオキセチンを除いてはこの受容体への親和性は乏しい。いくつかの非定型抗精神病薬もセロトニン2C受容体遮断作用を有しており、細胞外ノルエピネフリン、ドパミン濃度を増加させ、SSRIによる細胞外セロトニン濃度の増加を増強する。

・セロトニン2C受容体アゴニストはラット強制水泳試験、社会的ストレスモデル、嗅球除去モデルなどにおいて抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。さらに選択的セロトニン2C受容体アンタゴニストはラット強制水泳試験におけるフルオキセチンの治療的効果を阻害することが報告されている。

・しかしながら、セロトニン2C受容体遮断薬であるミアンセリンは強制水泳試験において抗うつ薬類似作用を発揮する。この作用はおそらくはα2受容体遮断を介したものと推測されている。

・マウスの強制水泳試験においては、セロトニン2C受容体アゴニストは、閾値下用量のイミプラミン、パロキセチン、シタロプラム、フルボキサミン投与により抗うつ薬類似作用を増強させる。しかし通常用量のパロキセチンおよび高用量フルボキサミンとの併用により、抗うつ薬類似作用が阻害される。

・セロトニン2C受容体アンタゴニストが抗うつ作用を発揮することの十分な根拠がある。ミアンセリンやミルタザピンはセロトニン2C受容体阻害薬であり、アゴメラチンはメラトニン受容体アゴニストでありかつセロトニン2C受容体のアンタゴニストである。いずれも抗うつ薬としての有効性が報告されている。

・S32006はセロトニン2C受容体阻害薬であり、ラット強制水泳試験で不動時間を減少させ、慢性投与により、慢性的軽度ストレス試験においてアンヘドニアを減少させることが報告されている。

・セロトニン2C受容体アゴニストとアンタゴニストがいずれも抗うつ作用を発揮することは逆説的であるが、セロトニン2C受容体アゴニストとアンタゴニストがそれぞれ異なるメカニズムで抗うつ作用を発揮していると考えることも可能である。例えば、セロトニン2C受容体刺激はSSRIによるシナプス後セロトニン受容体刺激の主要な構成要素である可能性があり、一方でセロトニン2C受容体アンタゴニストは、セロトニン以外のノルエピネフリンやドパミンなどのその他の神経伝達物質放出を促進することにより、抗うつ作用を発揮しているのかもしれない。

 

セロトニン3受容体

 

・セロトニン3受容体はイオンチャネル型受容体である。セロトニン3受容体は迷走神経背側複合体に高密度で発現しており、この部位での受容体遮断は制吐作用を発揮する。その他海馬、扁桃体、皮質などで発現がみられる。セロトニン3受容体はGABA介在神経を活性化することにより間接的に皮質錐体細胞を抑制する。

・オンダンセトロンによるセロトニン3受容体遮断は抗うつ薬類似作用を発揮することが報告されている。さらに低用量SSRIとオンダンセトロン併用はマウス強制水泳試験における治療効果を増強させることが報告されている。一方で、セロトニン3受容体アゴニストは抗うつ作用を減弱させることが報告されている。フルオキセチンなどいくつかの抗うつ薬は機能的にセロトニン3受容体遮断作用を有するといわれている

 

セロトニン4受容体

 

・セロトニン4受容体は辺縁系に広く分布している。中隔、海馬、扁桃体などに分布する。セロトニン4受容体アゴニストは、おそらくアセチルコリン放出を制御する作用と関連する、記憶を促進する作用において注目されている。

・セロトニン4受容体アゴニスト(RS 67333)はわずか3日間の投与でセロトニン1A受容体の脱感作を生じさせ、抗うつ薬類似作用をもたらすことが報告されており、速やかな効果発現をもたらすことができる可能性がある。RS 67333をフルボキサミン、シタロプラム、フルオキセチンと同時投与すると、単独投与時と比較して強制水泳試験における抗うつ作用が増強することが報告されている。

・P11ノックアウトマウスではRS 67333投与による抗うつ作用がみられなくなったことから、セロトニン1B受容体同様に、p11がセロトニン4受容体を介した治療的効果の発現に重要である可能性がある

 

セロトニン6受容体

 

・セロトニン6受容体は線条体、側坐核、嗅結節に高密度で発現し、扁桃体や視床下部、視床、小脳、海馬などでも発現がみられる。セロトニン6受容体はアセチルコリン、ノルエピネフリン、GABA、ドパミンなど様々な神経伝達物質の放出の制御に関与している。

・クロザピン、オランザピン、クエチアピン、クロミプラミン、アミトリプチリンなどの薬剤はセロトニン6受容体阻害作用を有する。セロトニン6受容体のアゴニストおよびアンタゴニストは双方ともに齧歯類において認知機能増強作用や、SSRIの効果増強作用が報告されている

・マウスやラットにおいてセロトニン6受容体アゴニストにより抗うつ作用、抗不安作用がみられることが報告されている。セロトニン6受容体アンタゴニストも強制水泳テストにおいて抗うつ薬の不動時間減少作用を増強することが報告されている。このパラドックスについても、セロトニン2C受容体と同様に、セロトニン6受容体が様々な神経系への作用に関与しているためではないかと考えられている

 

セロトニン7受容体

 

・セロトニン7受容体はGs蛋白質を介してcAMP産生を増加させる。視床核、辺縁系、皮質に高密度で発現し、感覚と情動プロセスに関与していることを示唆している。また視交叉上核にも発現しており、睡眠と概日リズムにも関与していると考えられている。また体温調節についても関与している。

・セロトニン7受容体アンタゴニスト投与ならびにセロトニン7受容体遺伝子除去など、セロトニン7受容体の機能低下をもたらすことにより抗うつ薬類似作用がみられることが報告されている。セロトニン7受容体阻害薬は抗うつ薬増強療法として治療的有効性が期待できる可能性がある。セロトニン7受容体アンタゴニストとシタロプラムの同時投与により、マウスのテールサスペンション試験における治療効果増強が報告されている。アミスルプリドは抗うつ薬類似作用を発揮することが知られているが、この作用はセロトニン7受容体阻害を介したものであるかもしれない。

 

コメント

急性試験で生じた行動変化がほんとうにうつ病モデルと考えてよいのかはわからないです。PTSDモデルのような気がしなくもないのですが。

齧歯類の方がレジリエンスの観点からもヒトよりも優れていそうな気もするのですが、in vivoでトランスミッターレベルで定量化できるような技術が開発されれば、また何か違うものが見えてくるのかもしれません。

 

引用文献

The role of serotonin receptor subtypes in treating depression: a review of animal studies

Gregory V. Carr and Irwin Lucki

Psychopharmacology (Berl). 2011 February ; 213(2-3): 265–287. doi:10.1007/s00213-010-2097-z.