・過食性障害(binge eating disorder)に対する新たな介入試験の結果が報告されました(文献1)

・過食性障害は代償行為を伴わず、神経性過食症(bulimia nervosa)は代償行為(下剤乱用や自己誘発性嘔吐)を伴う点で異なります。

・今回報告されたdasotralineは既に2019年に過食性障害に対する新薬承認申請がFDAにより受理されており、審査結果が注目されます。

・現在までにFDAにより摂食障害に対して承認されている薬剤は、神経性過食症(代償行為あり)に対するフルオキセチンと成人期過食性障害(代償行為なし)に対するリスデキサンフェタミン( Lisdexamfetamine dimesylate)のみであり、まずはこれら2剤のエビデンスについて、文献2によりみていきます。

 

神経性過食症と過食性障害の薬物療法の安全性について

 

背景

 

・摂食障害に対する標準的な治療法は、認知行動療法および対人関係療法と考えられている

・精神療法と薬物療法を併用することの有用性ははっきりしていない。

・神経性無食欲症については、フルオキセチンやその他のSSRIとCBTを組み合わせることは、CBT単独と比較して治療的な有用性がないという強いエビデンスがある

・現在のところ神経性無食欲症に対してFDAが承認した薬剤はない

・神経性過食症および過食性障害に対してFDAが承認している2剤についての有効性と安全性のエビデンスを概観する

 

神経性過食症に対するフルオキセチン

 

・1994年にFDAはフルオキセチンを神経性過食症に適応承認した

・387名の女性神経性過食症患者を対象とした多施設介入試験(Fluoxetine Bulimia Nervosa Collaborative Study Group)では、フルオキセチン20mgないし60mgの有効性が8週間、プラセボ対照で検証された。フルオキセチン60mg群では過食エピソードはベースラインと比較して67%減少し、嘔吐エピソードは56%減少した。プラセボ群では過食エピソードはベースラインから33%減少、嘔吐エピソードは5%の減少であり有意差を認めた。フルオキセチン20mg群では嘔吐エピソードの減量のみ有意差があり、ベースラインから26%の減少であった。

・別の介入試験(Goldsteinら)では、398名の神経性過食症患者(女性が96.2%)が対象となり、16週間以上でフルオキセチン60mgの有効性がプラセボ対照で検証された。フルオキセチン60mg群ではベースラインと比較して過食エピソード、嘔吐エピソードともに50%減少し、プラセボ群では過食エピソードは18%減少、嘔吐エピソードは21%減少と有意差を認めた。

・維持療法におけるフルオキセチンの有効性も報告されている(Romanoら)。まずオープン試験で8週間232名の神経性過食症患者に対してフルオキセチン60mgが投与され、反応群(150名)が、フルオキセチン継続群(N=74)とプラセボ群N=74(N=76)に無作為割付され52週間経過観察された。過食嘔吐の再燃率は3か月時点でフルオキセチン群19%、プラセボ群37%で有意差を認めたが、6か月、12か月時点では有意差は認めなかった

・安全性については、8週間の試験では、フルオキセチン20mg群では不眠が17.8%、60mg群では不眠が23.2%、プラセボ群では7.8%で有意差あり。振戦は20mg群で3.1%、60mg群では9.03%、プラセボ群で0%で有意差あり。副作用による中断率は5%未満であった

・16週間の試験における安全性については、不眠が60mg群で34.5%(プラセボ群:18.6%)、嘔気が60mg群で30.4%(プラセボ群:12.7%)、脱力感が60mg群で21.3%(プラセボ群:6.9%)、不安が60mg群で17.6%(プラセボ群;8.8%)、振戦が60mg群で14.2%(プラセボ群:2.0%)、浮動性めまいが60mg群で12.5%(プラセボ群:3.9%)、あくびが60mg群で12.2%(プラセボ群:0%)、発汗が60mg群で9.5%(プラセボ群:2.0%)、性欲減退が60mg群で6.4%(プラセボ群:1.0%)。副作用による中断は60mg群10.8%(プラセボ群:5.9%)などであった

・52週間の試験では、反応群のみが対象となったこともあり、鼻炎のみが有意に多い副作用であった(フルオキセチン群 31.6%、プラセボ群 16.2%)

 

過食性障害に対するリスデキサンフェタミン

 

・2019年に日本でも小児期ADHDに承認された商品名ビバンセ。デキストロアンフェタミンのプロドラッグ。

・リスデキサンフェタミンはFDAにより2007年に6-12歳のADHDに、2008年に成人ADHDに承認。2015年にはFDAにより中等度から重度の過食性障害の維持療法に承認

・260名の過食性障害を対象とした第2相試験では11週間で(最初3週間で漸増し、その後8週間は30mg、50mg、70mgないしプラセボの固定用量)評価され、過食頻度が50mg群ではベースラインから平均4.1回/週減少、70mg群ではベースラインから平均4.6回/週減少(プラセボ群では3.3回/週の減少)とプラセボ群に比較して有意な減少を認めた

・2つの第3相試験でも11週間(3週間漸増、8週間固定。50mg、70mgないしプラセボ)で行われ(試験1がN=383、試験2がN=390)、過食頻度が実薬群ではベースラインから3.87日/週(試験1)、3.92日/週(試験2)減少し、プラセボ群の2.51日/週減少(試験1)、2.26日/週減少(試験2)より有意に過食頻度が減少した。

・安全性については、第2相試験における副作用による中断率はリスデキサンフェタミン群3.1%であり、1.5%に重大な副作用がみられた。1名がメタンフェタミン過量摂取による死亡。口喝が30mg群の33.3%、50mg群の33.8%(プラセボ群:7.9% )、プラセボに対する体重減少率が30mg群で3.28%、50mg群で5.2%、70mgで5.28%であった。

・第3相試験では、副作用による中断率はプラセボと有意差なく、口喝、頭痛、不眠が10%以上の実薬群にみられた。心拍数は平均4.41-6.31回/分増加し、収縮期血圧は0.2-1.45mmHg増加、離脱症状についてはAmphetamine Cessation Symptom Assessmentにて評価されたが、12週間の投与により有意な離脱症状スコアのプラセボに対する増加はみられなかった

 

神経性無食欲症

 

・低用量テストステロン(J Clin Endocrinol Metab. 2019 Oct 1;104(10):4347-4355.)のプラセボ対照比較試験はネガティブ

・152名を対象とした16週間のオランザピン(最大10mg、平均7.77mg)のプラセボ対照比較試験(Am J Psychiatry. 2019 Jun 1;176(6):449-456.)が行われ、脱落数(OLZ 34名対プラセボ 35名)、入院率(OLZ 10.7%対プラセボ 3.9%)いずれも有意差なし。BMIについてはオランザピン(0.259/月)がプラセボ(0.095/月)よりも有意に増加率が高かった。しかしYBOCSやEDE得点の体重への関心などについては有意差なし。食事への関心はオランザピンで有意に増加。オランザピンは体重を増やす効果はあるかもしれないが、精神症状の改善は有意なものはみられなかった

 

過食性障害に対するdasotralineの有効性と安全性

 

背景


・過食性障害は最も頻度の高い摂食障害であり、生涯罹患率は女性で1.3-3.5%、男性で0.4-2.0%と報告されている

・過食性障害は、20代を発症のピークとする慢性疾患であり、その他の精神疾患罹患率が2-3倍になり、かつ糖尿病など身体疾患合併リスクも高まる

・心理療法としては認知行動療法、対人関係療法などの有効性が報告されている

・Dasotralineはドパミンおよびノルアドレナリントランスポーター阻害薬であり、半減期が長い(47-77時間)。(アトモキセチンはノルアドレナリントランスポータ阻害薬であり、ドパミントランスポータの阻害作用がほとんどない点で異なる)

・今回成人中等度から重度過食性障害に対するdasotralineの有効性と安全性を評価した

 

対象と方法

・18-55歳の過食性障害患者(DSM-5)。過去6か月間で平均1週間あたり2回以上の過食エピソード、最近2週間で3回/週以上の過食エピソードを有するもの

・これまで神経性無食欲症、神経性過食症の既往があるものは除外。精神病性障害、双極性障害、ADHDの既往、および最近6か月以内の中等度以上のうつ病の既往があるものは除外。最近12カ月以内の物質使用障害は除外。

・多施設無作為割付プラセボ対照比較試験

・Dasotralineは4mg、6mg、8mgの可変用量。

・主要評価項目は12週間での過食頻度(1週間あたりの日数)の変化(評価者が評価するものと加えて日記でも評価)。

・副次的評価項目はCGI-S、寛解率(最近4週間で過食エピソードがないものとして定義)、YBOCS-BEなど

 

結果

・Dasotraline群 N=155

・プラセボ群 N=160

・完遂率はdasotraline群 66.7%、プラセボ群 72.4%

・過食頻度の変化はdasotraline群 -3.74日/週、プラセボ群 -2.75日/週で有意差あり(効果量 0.74)

・CGI-Sにおいてもdasotraline群 -2.67点、プラセボ群 -1.53点で有意差あり(効果量 0.95)

・寛解率はdasotraline群 46.5%、プラセボ群 20.6%で有意差あり。YBOCS-BE特典も有意差あり(-17.05点対-9.88点)効果量 0.96

・10%以上に見られた副作用は不眠、口喝、食欲減退、不安、嘔気、体重減少、頭痛

・副作用による中断率はdasotraline群 11.5%、プラセボ群 2.5%

・Dasotraline群の5.1%が重度の不眠で中断

・Dasotraline群の5名で精神病症状がみられ(幻聴や妄想など)1名が中断に至った

結論

・数%に重大な副作用(不眠、精神病症状)が起こりうるため注意を要するが、dasotralineは成人中等症以上の過食性障害に対して有効な可能性がある

・dasotralineはADHD治療薬としての承認を目指していたが、2018年にFDAより不承認となっている。現在過食性障害治療薬としての承認を申請中

 

引用文献


1)Susan L McElroy et al. J Clin Psychiatry. 2020 Sep 8;81(5):19m13068. doi: 10.4088/JCP.19m13068.
2)Bello NT, Yeomans BL. Expert Opin Drug Saf. 2018 Jan;17(1):17-23. doi: 10.1080/14740338.2018.1395854. Epub 2017 Oct 31.