・児童思春期に対する向精神薬の安全性についての報告(文献1)がでました。

・参考にすべき点もありますが、今回の報告の解析方法には問題もあり、結果の解釈について慎重にならないといけない部分もあります。

・それは主要評価尺度がプラセボに対して有意な副作用を認めた項目数となっている点です。

・Nが大きくなればプラセボとの差が小さな副作用でも有意差が出現しうるため、適応承認されていたり、規模の大きなRCTが行われた薬剤ほど有意差が出やすい傾向があります。

・異なるメタ解析間の比較をしているため、ある薬剤では有意差がでやすく、一方でまた別の薬剤では有意差がでにくいということが起こりえます。

・なので参考にするならば児童思春期に対して適応承認されている薬剤で副作用がどのようになっているかのだいたいの傾向をみるくらいの見方をすることが望ましいことになります。その他の薬剤については結果の解釈に注意する必要があります。

・各薬剤の副作用ごとにNを抽出しようと思いましたが、論文中の表にはネットワークメタ解析が使用された項目については、すべての薬剤をひっくるめたNが記載されており、薬剤毎のNを求めるにはさらに元論文をあたる必要があり、大変な手間がかかるため断念しています。専攻医の皆さんは少し批判的にこの論文を吟味してみてください。

 

児童思春期精神疾患における80種類の向精神薬について78の副作用に関する系統的メタレビュー

 

背景

 

・早期介入とDUI(duration of untreated illness)短縮の観点から児童思春期の精神疾患に対して向精神薬が投与される機会があり、実際に適応承認されている薬剤もあるが、その安全性について比較された文献は少ない。そこで今回、80の向精神薬の78の副作用に関して系統的メタレビューを行った。

・解析の対象となったのはネットワークメタ解析、メタ解析のみならず、リアルワールドでの結果を反映するためコホート研究も含まれた(メタ解析の解析対象の大部分がRCTであり、RCTにおいては対象となる患者層が厳格に選出されており、小規模であったり、さらに試験期間も短期間であるものが多いため、結論を一般化することが困難であったり、長期間投与後に出現しうる副作用や、まれで重篤な副作用がもれてしまう可能性があるため)

 

方法と対象

 

・78の副作用は19のカテゴリーに分類された。以下の通り

1)中枢神経系(焦燥性興奮、不安、無力症、イライラ感、認知機能障害、うつ症状、浮動性めまい、頭痛、躁症状、精神病症状、鎮静、不眠、けいれん、希死念慮/自殺関連行動/自殺企図)。

2)栄養および代謝(食思不振、むちゃ食い/食欲亢進、コレステロール増加、中性脂肪増加、メタボリックシンドローム、耐糖能異常/糖尿病、インスリン抵抗性、腹囲長の増加、体重増加/BMIの増加、体重減少)

3)循環器系(不整脈/頻脈、心筋症、脳血管疾患、冠動脈疾患、高血圧、低血圧、心筋炎、QT延長、心臓突然死)

4)消化器系(腹痛、便秘、下痢、消化器症状、肝障害、悪心・嘔吐)

5)生殖器系(夜尿、腎臓病/腎不全、月経周期変化、多嚢胞性卵巣症候群、性機能障害)

6)運動器系(アカシジア、錐体外路系副作用、振戦、ジストニア、遅発性ジスキネジア)

7)衝動制御障害および危険な行動(犯罪行為、ギャンブル、物質乱用、自殺でない自傷行為)

8)内分泌系(女性化乳房/乳汁漏出症、低/高プロラクチン血症、甲状腺機能低下/甲状腺機能亢進症)

9)血液系(貧血、白血球減少症、血小板減少症)

10)口腔系(う蝕、ドライマウス、唾液分泌過多)

11)呼吸器系(急性呼吸不全、喘息、鼻咽頭炎・上気道感染症/肺炎)

12)静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)

13)骨系(骨減少症/骨粗鬆症、骨折)

14)事故(あらゆる事故、転倒)

15)悪性症候群(悪性症候群/発熱/CK上昇)

16)あらゆる癌

17)有害事象による中止

18)重篤な有害事象

19)死亡(あらゆる理由による死亡、自然死によるもの、自殺による死亡)。

 

・向精神薬は4つのカテゴリーに分類

1)抗うつ薬

2)抗精神病薬

3)ADHD治療薬

4)気分安定薬

 

・主要評価項目は安全性/副作用項目数比=(プラセボと比較して有意に多かった副作用の項目数)/(全副作用項目数)。全副作用項目数は79の副作用分類のうち、各薬剤で報告されている副作用の数(ただし、79の副作用のうち20%以上(16個以上)の副作用について報告されている薬剤が解析対象となった)

・9つのネットワークメタ解析、39のメタ解析、90のRCTs,8つのコホート研究(N=120637(抗うつ薬)、N=66764(抗精神病薬)、N=148664(ADHD治療薬)、N=1621(気分安定薬))が解析対象となった

 

結果

 

抗うつ薬 

 

・抗うつ薬のうち、16項目以上の副作用について記載のあった薬物は

1:エスシタロプラム(安全性/副作用項目数比=1/17:プラセボと有意差のあった項目:体重増加 OR 2.3(CI 1.01-5.25))

2:フルオキセチン(1/16:プラセボと有意差のあった項目:体重減少 MD -1.2kg(CI -1.85 -0.55))

3:ビラゾドン(2/16:プラセボと有意差のあった項目:副作用による中断 OR 8.55 (CI 1.13-64.8)、嘔気/嘔吐 OR 4.40 (CI 2.43-9.76))

4:パロキセチン(3/16:プラセボと有意差のあった項目:あらゆる錐体外路系副作用 OR 5.12(CI 1.09-24.1)、不眠 OR 4.05(CI 1.94-8.49)、嘔気/嘔吐 OR 3.69 (CI 1.01-13.5))

5:セルトラリン(4/19:プラセボと有意差のあった項目:下痢 OR 3.04(CI 1.25-7.38)、不眠 OR 4.05(CI 1.94-8.49)、嘔気/嘔吐 OR 2.65 (CI 1.03-6.77))、体重増加)

6:ベンラファキシン(7/16:プラセボと有意差のあった項目:腹痛 OR 2.36(CI 1.29-4.32)、食思不振 OR 4.25(CI 1.55-11.63)、副作用による中断 OR 3.19 (CI 1.01-18.70)、頭痛 OR 0.56(CI 0.35-0.92)、高血圧、重篤な有害事象 OR 4.14 (CI 1.15-14.9)、希死念慮ないし自殺関連行動 OR 0.13 (0.00-0.55)→有意な増加)


・参考としてデュロキセチン(3/13:プラセボと有意差のあった項目:下痢、副作用による中断、嘔気/嘔吐)

・エスシタロプラムは12歳以上の大うつ病にFDAより適応承認
・フルオキセチンは7歳以上のOCD、8歳以上の大うつ病にFDAより適応承認


抗精神病薬

・抗精神病薬のうち、16項目以上の副作用について記載のあった薬物は

1:ルラシドン(安全性/副作用項目数比=1/33:プラセボと有意差のあった項目:嘔気/嘔吐 OR 3.1 CI 1.50-6.60)

2:アセナピン(2/22:プラセボと有意差のあった項目:BMI増加、血糖値増加)

3:クエチアピン(5/37:プラセボと有意差のあった項目:コレステロール増加 MD 10.8(CI 6.6-14.5)、高プロラクチン血症 SMD 0.4(CI 0.1-0.7)、鎮静 OR 5.40 (CI 2.90-9.30)、中性脂肪増加 MD 19.5(CI 11.8-27.2)、体重増加 OR 6.20 (CI 2.60-13.6))

4:ジプラシドン(4/25:プラセボと有意差のあった項目:あらゆる錐体外路症状 OR 20.6(CI 3.50-69.0)、浮動性めまい OR 9.15 (CI 1.20-69.7)、嘔気/嘔吐 OR 4.80(CI 1.10-21.1)、鎮静 OR 8.70 (CI 2.70-22.0))

5:パリペリドン(5/26:プラセボと有意差のあった項目:アカシジア OR 5.60 (CI 1.80-17.7)、あらゆる錐体外路系副作用 OR 6.30 (CI 2.30-16.8)、高プロラクチン血症 SMD 0.61(CI 0.35-0.86)、鎮静 Log OR -2.4(CI -4.4 - -0.3)、体重増加 SMD -0.7(CI -1.0 - -0.5))

6:リスペリドン(12/44:プラセボと有意差のあった項目:アカシジア OR 4.0(CI 1.40-10.9)、あらゆる錐体外路症状 OR 3.70(CI 2.20-6.0)、脱力感 OR 3.89 (CI 1.77-8.53)、便秘 OR 3.42 (CI 1.33-8.80)、消化器症状 OR 3.74 (CI 1.15-12.2)、血糖値増加 MD 3.70(CI 1.10-6.40)、高プロラクチン血症 OR 38.6(CI 8.60-126)、食欲増加 OR 4.82 (CI 2.35-9.88)、上気道感染症 OR 3.14(CI 1.26-7.80)、鎮静 OR 7.30(CI 4.60-11.2)、頻脈 OR 6.87(CI 1.49-31.7)、体重増加 OR 6.0 (CI 3.0-11.0))

7:アリピプラゾール(10/35:プラセボと有意差のあった項目:アカシジア OR 3.10 (CI 1.0-9.0)、あらゆる錐体外路症状 OR 3.80 (CI 2.20-6.20) NNH=4.1、脱力感 OR 8.54(CI 2.59-28.1)、食思不振 OR 5.11(CI 1.14-23.0)、コレステロール増加 RR 2.50(CI 1.40-4.40)、発熱 OR 5.89(CI 1.23-28.2)、鎮静 OR 6.10 (CI 2.80-12.2)、唾液分泌過多 OR 10.5 (CI 1.30-84.2)、振戦 OR 11.5 (CI 1.40-91.6)、体重増加 OR 4.40 (CI 2.0-8.90)):多くが自閉スペクトラム症に対する試験結果から得られたもの

8:オランザピン(13/25:プラセボと有意差のあった項目:アカシジア OR 3.70(CI1.10-12.7)、貧血、あらゆる錐体外路系副作用 OR 6.40 (CI 2.40-13.8)、コレステロール増加 MD 4.5 (CI 1.2-7.7)、CK上昇、血糖値上昇 MD 2.1(CI 0.1-4.3)、高プロラクチン血症 OR 15.6 (CI 4.40-41.1)、高血圧、肝機能障害 OR 18.7 (CI 3.60-96.4)、性機能障害 MD 11.5(CI 8.80-14.1)、鎮静 OR 8.50(CI 4.0-16.6)、中性脂肪増加 OR 5.10 (CI 2.80-9.40)、体重増加 OR 15.1(CI 6.60-31.1))

コメント

・FDAより自閉スペクトラム症に対して適応承認の得られているアリピプラゾール(6-17歳)、リスペリドン(5-16歳)についてはデータが多く、副作用に着目したネットワークメタ解析も行われており、それ故に抽出された項目数が多いと思われます。

・オランザピンはFDAより思春期(13歳以上)の統合失調症、双極性障害に承認されており、この点でNが多く副作用項目も多くなっているのかもしれません。

・ただしTEA試験(文献5)のように思春期精神病患者に対する抗精神病薬投与により非常に高い割合で副作用がみられたという報告もあるため、児童思春期に対する抗精神病薬投与についてはかなり慎重になるべきということになります。

ADHD治療薬

・ADHD治療薬のうち、16項目以上の副作用について記載のあった薬物は

1:メチルフェニデート(安全性/副作用項目数比=5/25:プラセボと有意差のあった項目:腹痛 RR 1.50(CI 1.26-1.79)、食思不振 RR 3.21 (CI 2.61-3.94)、不眠 OR 4.66(CI 1.99-10.9)、嘔気/嘔吐 RR 1.38 (CI 1.04-1.84)、体重減少 SMD -0.77(CI -1.09- -0.45))

2:グアンファシン(4/16:プラセボと有意差のあった項目:腹痛 OR 4.51 (CI 1.34-15.2)、副作用による中断 OR 2.64(CI 1.20-5.81)、QT延長 Hedge's g=0.33 (CI 0.12-0.54)、鎮静 RR 2.43(CI 1.06-5.58))

3:アトモキセチン(5/20:プラセボと有意差のあった項目:食思不振 RR 2.51(CI 1.77-3.57)、消化器症状 RR 1.76(CI 1.51-2.07)、高血圧 SMD 0.12(CI 0.02-0.22)、嘔気/嘔吐 RR 1.91(CI 1.24-2.94)、体重減少 SMD -0.84(CI -1.16- -0.52))


気分安定薬

・気分安定薬のうち、16項目以上の副作用について記載のあった薬物は

1:リチウム(安全性/副作用項目数比=0/16)

2:バルプロ酸(4/19:プラセボと有意差のあった項目:白血球減少、鎮静 NNH 7.8(CI 5.3-15.0)、血小板減少症、体重増加 効果量 0.4(CI 0.04-0.73))

コメント


・冒頭で述べたようにプラセボとの有意差の有無で副作用項目を抽出しているため、児童思春期の精神疾患に適応症を有する薬剤はNが多くなり、それゆえに有意差が出やすくなり、抽出される項目数が多くなる傾向があるため、項目数の大小のみで安全性を評価することはできません。

・そのため今回の報告の結果を薬剤毎の比較に用いることはできません。

・抗うつ薬における希死念慮ないし自殺関連行動の増悪についてはベンラファキシンのみが有意であり、この結果は2016年のlancet誌に掲載されたネットワークメタ解析の結果を反映したものです。

・この報告ではパロキセチン、セルトラリンなどの抗うつ薬については、自殺関連行動ないし希死念慮の増悪傾向がみられましたが、統計的有意差はありませんでした。

・同様の結果は2012年のコクランレビュー(文献3)でも報告されていますが、この報告内において自殺関連事象の対プラセボの相対リスクが1を切る(プラセボより少ない傾向がある)抗うつ薬はエスシタロプラムとミルタザピンでした(ただし有意差はなし。ミルタザピンについては有効性についても有意差なし)。

・一方で自殺関連事象についてはpublication biasにより正しく論文に反映されていない(過少に報告されている可能性)のではないかということを指摘する報告(文献4)もあり、論文中の結果をうのみにしてはいけないのかもしれません。

引用文献

1)Marco Solmi et al., World Psychiatry. 2020 Jun;19(2):214-232. doi: 10.1002/wps.20765.
2)Cipriani A, Zhou X, Del Giovane C et al. Lancet 2016;388:881-90.
3)Cochrane Database Syst Rev. 2012 Nov 14;11:CD004851. doi: 10.1002/14651858.CD004851.pub3
4)BMJ. 2014 Jun 4;348:g3510. doi: 10.1136/bmj.g3510.
5)Lancet Psychiatry. 2017 Aug;4(8):605-618