3年ぶりに認知症の教科書ともいえる論文(文献1)が改訂となりました。認知症診療に携わる全ての臨床医がチェックすべき論文と思われます。
今回はその中から、今回認知症のリスク因子として抽出された12の因子について、まとめておきたいと思います。

 

Dementia prevention, intervention, and care: 2020

 

サマリー

 

・若年死亡率の低下に伴い、認知症高齢者の数は増加している。しかし、教育、栄養、ヘルスケア、ライフスタイルの変化などの改善により、多くの国で認知症の年齢別発症率は低下している。

・2017年のLancet Commission on dementia prevention, intervention, and careでモデル化された認知症の9つの潜在的な危険因子である、教育不足、高血圧、聴覚障害、喫煙、肥満、うつ病、運動不足、糖尿病、社会的接触の少なさ、に加えて今回、認知症の危険因子をさらに3つ追加した。

・追加された因子は、過度のアルコール摂取、外傷性脳損傷(TBI)、大気汚染である。

・修正可能な12の危険因子を合わせると、世界の認知症発症の約40%に関与しており、理論的には認知症発症を予防または遅延させることが可能である。

・予防効果は認知症の発生が多い低所得国や中所得国(LMIC)ではより高い可能性がある。認知症予防のための介入は、ライフコースの中で早すぎることも遅すぎることもない

・教育不足が認知症リスクと関連するため、政策は、すべての人を対象とした児童教育の実施を優先すべきである。頭部外傷を最小限に抑え、有害な飲酒を減らすことで、若年発症の認知症や晩年発症の認知症を減らすことができる可能性がある。

・中年期の収縮期血圧管理は、認知症予防のため、130mmHg以下を目指すべきである。中年期後期になっても禁煙することで、リスクは軽減される。受動喫煙は認知症の危険因子としてはあまり考慮されていない。多くの国では、受動喫煙を制限している。

・特に大気汚染の多い地域では、大気汚染の改善を急ぐべきである。

・中年期以降も認知的、身体的、社会的に活動的であることを推奨する。

・補聴器の使用は、難聴による認知症リスクを減少させるようである。

・中年期から晩年にかけての持続的な運動は、肥満、糖尿病、心血管系のリスクを減少させることで認知症を予防すると考えられる。

・うつ病は認知症のリスクになるかもしれないが、晩年になると認知症がうつ病を引き起こす可能性がある。

・行動を変えることは難しく、純粋に因果関係があるとは限らないが、個人の行動変容が認知症リスクを減らす可能性は非常に大きい。

・低所得国や中所得国(LMIC)では、誰もが中等教育を受けられるわけではなく、高血圧、肥満、難聴の割合が高く、糖尿病や喫煙の有病率が上昇しているため、予防が可能な認知症の割合がさらに高くなっている。

・アミロイドβやタウなどのバイオマーカーはアルツハイマー型認知症への進行リスクと関連するが、これらのバイオマーカー陽性のみで認知が正常な人の大半は認知症を発症しない。

・認知症の人は多くの領域で複雑な問題や症状を抱えている。介入は個別化され、本人だけでなく介護者への介入も考慮すべきである。

・周辺症状を管理するために、患者のニーズに合わせて心理社会的介入を行うことは、少なくとも短期的には有効であるというエビデンスが蓄積されてきている。

・介護者に対するエビデンスに基づいた介入は、何年にもわたって抑うつや不安症状を軽減し、費用対効果も高い。

・認知症患者は同年代の人に比べて身体的な健康問題を抱えているが、地域の医療ケアを受けることが少なく、ケアへのアクセスやケアの組織化が困難であることが多い。認知症患者は他の高齢者に比べて入院が多く、その中には自宅で管理しうる病気も含まれている。COVID-19の流行では、認知症患者は死亡率は相対的に高かった。

・認知症の予防、介入、ケアのために早急に行動を起こすことは、認知症患者とその家族、ひいては社会全体の生と死の問題を大きく改善することになる。

 

12のリスク因子について

 

教育および中年期、高齢期の認知刺激の効果


・小児期の高い教育レベルと高い生涯学習達成度は認知症リスクを減少させる

・20歳以降プラトーに達するまでの教育により全般的な認知機能は増加することが示されている。小児期に認知面での刺激を与え、認知的キャパシティーを増加させることが重要であることを示唆するものである

認知機能を維持することと認知症リスク

・中国での大規模研究では、教育レベルが高い人が成人期での認知的活動が高くなるとの可能性を除外するため、教育レベルが異なる場合でも共通して行われると考えられる認知的活動(読書、ゲーム、賭博)を考慮して認知症リスクとの関連を調べた

・その結果、65歳以上でより頻繁に読書やゲームや賭博をする人は、認知症リスクが少ないことがわかった(OR=0.7 CI 0.6-0.8、N=15882)

・この結果は別の小規模研究の結果とも一致している。30-64歳の205名が66-88歳までフォローアップされ、教育レベルや職業、現在の脳器質的健康度によらず、旅行や社会的活動、楽器の演奏、芸術、運動、読書、第2言語を話すなどの活動が活発な人は、認知機能が保持されやすいことと関連した

認知機能の低下と認知的活動との関連

・認知的に要求の高い仕事に就いている人は、要求の低い仕事に就いている人に比べて、退職前、時には退職後に認知機能の低下が少ない傾向がある

・1658人を対象とした12年間の研究では、勤務年数ではなく退職年齢の高齢化が認知症リスクの低下と関連していることを報告している

・別の研究では、健康、年齢、性別、経済力を調整後に、非退職者と比較して、退職者はエピソード性記憶の喪失が2倍に増加していることを報告している(n=18575、平均年齢66歳)。

・同様に、平均年齢61歳で退職した3433人を対象とした研究では、言語記憶は退職前よりも退職後において38%(95%CI22~60)早く低下した。

健常者およびMCIに対する認知的介入の効果

・認知的介入は全般的ないし特定の領域の認知面の改善のための介入戦略ないしスキルからなる

・一般人口を対象にした3つのシステマティックレビューによると、コンピューターによる認知トレーニングを含む特定の認知介入による全般的な認知面での改善が得られるとのエビデンスは存在しない。ただしトレーニングを行った領域については改善が得られるかもしれない

・MCIに対する少なくとも4時間以上のコンピューターによる認知トレーニング(N=351、対照群 N=335)の17の介入試験のメタ解析によると、全般的認知機能の中等度の改善効果(Hedge’s g=0.4 CI 0.2-0.5)を認めた。しかし、質の高い研究は少なく、認知症の予防に関する長期的な質の高いエビデンスは現在のところ存在しない。

・MCIに対するコンピュータによる多様な介入についての30の試験のメタ解析はADLへの効果(d=0.23)およびメタ認知的効果(d=0.30)を対照群と比較して認めた

・MCIに対する5つの高品質試験(4つが集団対象、1つはコンピュータを用いたもの)についてのシステマティックレビューでは、MCIに対する認知トレーニングの効果については、結論を導くには不十分であると結論付けている

・健常高齢者、MCI、認知症に対する認知トレーニングについてのメタ解析の高品質な系統的総説では、大半の試験が低品質であり、positiveな結果を報告しているが、試験の質が低く、結果も多様であることから、結果が臨床的に意義のあるものかどうかわからないと結論付けている

・健忘型MCIを対象とした行動活性化(認知、運動、社会的活動の活性化)についての1つの介入試験(N=221)の結果は、支持的介入(attention control)と比較して、2年間での記憶機能の低下(Hopkins Verbal Learning Test-Revisedの総得点で6単語以上の記銘力の低下で定義)は行動活性化群1.2%、対照群9.3%で有意に認知機能の低下を防ぐ効果を認めるとの結果であった。同時に日常生活機能などについても有意に保持される結果となった。

聴覚障害

・聴覚障害は2017年の報告では最も高いPAF(population attributable fraction:認知症発症の何%を占めるか)を示し、聴覚障害は9-17年間のフォローアップ期間において、認知症発症の相対リスクが1.9と報告された。

・その後の同じ3つの前向き研究を用いたメタ解析によると、聴覚障害が10dB悪化する毎に、認知症発症のオッズ比が1.3(CI 1.0-1.6)ずつ増加することが報告されている。

・小規模のアメリカでの194名を対象とした前向きコホート研究では(ベースラインで平均54.5歳)、平均19年間のフォローアップにおいて、中年期での聴力障害は、海馬や嗅内皮質を含む急速な側頭葉体積の減少と関連したことが報告されてる

補聴器の使用

・65歳以上の3777名を対象とした25年間の前向き研究において、補聴器を使用している人を除き、自己申告による難聴者で認知症の発症率が増加することが明らかになった。

・50歳以上の高齢者2040人を対象としたアメリカの調査では、2年ごとに18年間にわたって検査を行った結果、補聴器の使用開始後、即時想起と遅延再生の低下が、他の危険因子を調整しても少なくなることが報告された。

・補聴器の使用は、その他の因子について調整後、認知機能低下に対する最も大きな保護的因子である。

・長角障害は認知刺激の減少により認知機能の低下をもたらす可能性がある。

頭部外傷

・ICDは軽症頭部外傷を脳振盪とし、重症頭部外傷を頭蓋骨骨折、脳浮腫、脳挫傷、脳出血と定義している。単回の重症頭部外傷はヒトないし動物モデルにおいて過剰リン酸化タウの広範な病態と関連することが報告されている。

・50歳以上の約300万人が平均10年間フォローされたデンマークのコホート研究において、頭部外傷は認知症リスク(HR 1.2 CI 1.2-1.3)、アルツハイマー型認知症リスク(HR 1.2 CI 1.1-1.2)と関連した。認知症リスクは頭部外傷後6か月間で最も高く(HR 4.1 CI 3.8-4.3)、頭部外傷の回数に応じて増加した(1回の頭部外傷 HR 1.2 CI 1.2-1.3、5回以上の頭部外傷 HR 2.8 CI 2.1-3.8)。

・50歳以上のスウェーデンのコホート研究においても、頭部外傷は1年間の認知症リスクを増加(OR 3.5 CI 3.2-3.8)され、30年間での認知症リスクも増加させた(OR 1.3 CI 1.1-1.4)

・軽症の単回頭部外傷も認知症リスクを増加(OR 1.6 CI 1.6-1.7)させ、より重症の頭部外傷(OR 2.1 CI 2.0-2.2)、複数回の頭部外傷(OR 2.8 CI 2.5-3.2)などと報告された

・178779名の頭部外傷歴のある退役軍人と、性質をマッチさせた頭部外傷歴のない退役軍人との比較において、意識消失のない軽症頭部外傷歴(HR 2.4 CI 2.1-2.7)、意識消失を伴う軽症頭部外傷歴(HR 2.5 CI 2.3-2.8)、中等度以上の頭部外傷歴(HR 3.8 CI 3.6-3.9)などと報告された

・28815名の脳振盪歴のある高齢者を3.9年フォローアップしたコホート研究では、認知症リスクが2倍となり、6名に1名の割合で認知症を発症した(スタチン内服は13%認知症リスクの低下をもたらした)

高血圧

・中年期の持続性の高血圧は晩年の認知症リスクと関連する

・Framingham Offspringコホートでは、収縮期血圧が中年期(平均55歳)で140mmHg以上の1440名が対象となり、18年以上追跡された結果、認知症発症リスクがHR 1.6(CI 1.1-2.4)と増加することが報告された。さらに平均69歳の晩期まで高血圧が持続すると、さらにリスクが上昇(HR 2.0 CI 1.3-3.1)となることが報告された

・後期中年期(平均62歳)における理想的な心血管系パラメータ(現在の非喫煙、BMI 18.5-25、定期的な運動、健康的な食生活、至適血圧(<120/<80mmHg)、コレステロール正常、空腹時血糖正常)を有する人が、これらのリスク因子を少なくとも1つ以上有する対照群と比較された結果、10年間のあらゆる認知症のリスク(HR 0.8 CI 0.1-1.0)、血管性認知症リスク(HR 0.5 CI 0.3-0.8)、アルツハイマー型認知症リスク(HR 0.8 CI 0.6-1.0)の低下と関連した。

・イギリスでの8639名の公務員を対象としたコホート研究において、50歳時点(60歳ないし70歳ではあてはまらず)での収縮期血圧130mmHg以上であることは、認知症リスクの増加(HR 1.4 CI 1.1-1.7)と関連した。45歳から61歳までの間で持続的に収縮期血圧130mmHg以上の群は、心血管疾患がなくても認知症リスクが高血圧がない群と比較してHR 1.3 CI 1.0-1.7と増大することが報告された

降圧薬、アスピリン、スタチンと認知症リスク

・50歳以上の高血圧症患者9361名を対象としたSPRINT試験は、収縮期血圧120mmHgを目指す積極的介入群(N=4678)において、対照群(標準治療群:収縮期血圧140mmHg未満を目指す N=4683)と比較して心血管系イベントや死亡が有意に少なかったため、試験は早期終了となった。認知機能のアセスメントはその後も継続され、介入終了後2年間において、積極的介入群の認知症リスクは標準ケア群と比較してHR0.8(CI 0.7-1.0)と減少を示した。MCIについてもHR 0.8(CI 0.7-1.0)と減少

・降圧剤投与と認知症リスクについての4つのメタ解析について、すべてのメタ解析において、あらゆる認知症リスクおよびアルツハイマー型認知症リスクの低下を報告している。

・最初の報告では、あらゆる降圧薬についてのRCTが解析対象となり、降圧薬投与はRR 0.9 CI 0.9-1.0とマージナルな有意差を示した。2つ目の報告では、利尿薬についての15の試験と観察研究が対象(N=52599、中央値76歳)となり、平均6.1年間の追跡期間において、認知症リスク(HR 0.8 CI 0.9-0.9)、アルツハイマー型認知症リスク(HR 0.8 CI 0.7-0.9)の減少を報告した。3つ目の報告では、6つの観察研究が対象となり認知症リスク(HR 0.9 CI 0.8-1.0)、アルツハイマー型認知症リスク(HR 0.8 CI 0.7-1.0)と報告されている。4つ目の報告では、Caブロッカーのみが解析対象となり、10 RCTsと観察研究が対象となり(N=75239、中央値 72歳)、フォローアップ期間中央値8.2年において、認知症リスクの低下(RR 0.7 CI 0.6-0.9)が報告された

・2019年のメタ解析では、どのクラスの降圧薬が認知症リスクの低下と関連するかが検討され、薬剤のクラス間の差はないとの結論であった

・コクランレビューでは、血管性疾患リスクのある高齢者へのスタチン投与は認知機能低下や認知症リスクを減少させることはないとの結論であった。

・100mgのアスピリンをプラセボと比較した1つの介入試験(65歳以上の健常者19114名の対象)の結果、アスピリンは認知症リスク(HR 1.0 CI 0.8-1.2)、死亡、運動機能障害、心血管系疾患のリスクを4.7年以上の追跡期間において、減少させることはないとの結論であった

運動不足とリスク、運動とフィットネスの認知症予防効果

・運動についての研究は複雑であり、運動の種類が多く、年齢と共に活動度が変化するなどの問題がある

・1-21年までの観察研究のメタ解析では、運動は認知症リスクの減少と関連することを報告している

・30-60歳までの28916名を対象としたHUNT試験によると、中年期の少なくとも週に1回の中等度から強度の運動が25年以上のフォローアップにおいて認知症リスクの減少と関連(HR 0.8 CI 0.6-1.1)する可能性が報告された

・10308名を対象に28年フォローアップされたWhitehall試験では、中等度から強度の週に2.5時間以上の運動は、10年以上の間の認知症リスクの低下と関連したが、28年間でのリスクの低下とは関連しなかった

・191名の平均50歳の女性を対象とした44年間の観察研究があり、ベースラインでの運動量が少ない群の32%、中等度の群の25%、強度の群の5%が認知症を発症した(強度対中等度 HR 0.1 CI 0.03-0.5)

・19の観察研究のindividual levelメタ解析により(N=404840、ベースライン年齢平均 45.5歳、平均フォローアップ期間14.9年)、診断前の10年間で運動不足な人は、あらゆる認知症リスク(HR 1.4 CI 1.2-1.7)、アルツハイマー型認知症リスク(HR 1.4 CI 1.1-1.7)とリスクが増加することが報告されたが、認知症になって運動量が低下する可能性を考慮し、診断前の10-15年間の運動不足と認知症リスクについて調べたところHR1.01(CI 0.89-1.14)と有意差は消失し(不活発はDMリスク HR 1.42、冠動脈疾患リスク HR 1.24、脳卒中 1.16とは有意に関連)、結論として運動不足は認知症リスクとは関連しないということとなった。(元となったBMJの論文では運動不足と認知症リスクは無関係との結論ですが、このlancet論文では発症前10年間の結果を引用しどちらかというと関係がありそうな書き方になっています)

・運動の認知症予防効果については、3つの質の高いメタ解析が報告されている。1番目は、50歳以上の認知的に正常な成人を対象(39RCTs)に、1回あたり45~60分持続する任意の頻度の中等度から強度の運動の効果を調べたもの。この解析では、1回45-60分の中等度または高強度の抵抗運動(13研究)または有酸素運動(18研究)について、全体的な認知機能の改善(SMD=0-3、CI 0-2-0-4)が報告されたが、ヨガについては両群の間に差はなかった。

・MCIを対象としたRCTのメタ解析では、介入群(0-3、0-1-0-5)で全体的な認知能力が向上し、有酸素運動の効果はより高い(0-6、0-5-0-6)ことが報告されている。

・長期の運動に関するRCTの第3のメタ分析では、5つの研究(4つが12ヵ月、1つが24ヵ月)で、ベースラインの認知が正常な2878人が対象となった。認知症発症率は運動群で3.7%、対照群で6.1%でRR 0.6(CI 0.3-1.1)であり有意差は示されなかったがNが少ないためと考察された。

・2017年以降、WHOのガイドラインが発表されており、具体的な活動レベルが提示されている

・認知症リスクに対する筋力トレーニングなどの特定の種類の運動の効果に関するエビデンスは乏しい。

糖尿病

・230万人の2型糖尿病患者を含む14のコホート研究では102174名の認知症発症を含み、糖尿病は認知症の相対リスク女性1.6(CI 1.5-1.80)、男性1.6(CI 1.4-1.8)t報告された。認知症リスクは糖尿病の罹病期間と重症度に伴い増加した。

・どの糖尿病治療薬が認知症リスク低減と関連するかについてはよくわかっていないが、1つのメタ解析においてメトフォルミンが有意に認知機能障害リスク低減と関連する(OR 0.6 CI 0.4-0.8)と報告された(3 studies)。また縦断的にその他の糖尿病治療薬ないし無投薬と比較して認知症発症率を有意に減少させる(HR 0.8 CI 0.4-0.9)(6 studies)と報告された。ただし、その他の報告ではメトフォルミンの優位性は支持されなかった。一方でインスリン療法の有害性の可能性(RR 1.2 CI 1.1-1.4)が報告された。

・2型糖尿病は認知症の明白なリスク因子であるが、どの薬剤がより良いかは不明確であり、認知症予防においてintensiveな治療が標準的治療を上回るとの根拠もない。

過剰なアルコール摂取

・フランスでの5年間の前向き研究では3100万人の入院患者が対象となり、アルコール使用障害は認知症リスクと関連することが報告された(女性HR 3.3 CI 3.3-3.4 男性 HR 3.4 CI 3.3-3.4)

・とりわけ65歳未満発症の若年性認知症においてアルコール使用障害との関連が明らかである。若年性認知症では56.6%がアルコール使用障害を有していたと報告されている

・45 studiesのシステマティックレビューでは、軽度から中等度までの飲酒は認知症リスクの減少と関連することを報告した(RR 0.7 CI 0.6-0.91)。1週間で21単位未満(1単位はアルコール10mlないし8gに相当)のアルコール摂取は認知症リスク低減と関連するかもしれない

・週21単位以上の飲酒と長期禁酒は、14単位未満の飲酒と比較して認知症リスクの17%の増加と関連した。また14単位以上の飲酒はMRI上右海馬の萎縮と関連していた。

体重コントロールと肥満

・35歳から65歳までの589649名を含む19の観察研究(最大42年追跡)のレビューにより、BMIが30以上は認知症相対リスクがRR 1.3(CI 1.1-1.6)であったが、BMI 25-30については有意なリスク増加と関連しなかった(RR 1.1 CI 1.0-1.2)。

・7 RCTs(N=468)と13の観察研究(N=551)の認知症のない肥満成人(平均50歳)を対象としたメタ解析によりBMI25以上の人が2kg以上の減量をすると有意な注意および記憶力の改善と関連することを報告した。

喫煙

・60歳以上の4年以上禁煙している50000名の男性を対象とした観察研究により、喫煙者と比較して、その後の8年間の認知症リスクが有意に減少することが報告された(HR 0.9 CI 0.7-1.0)

うつ病

・62,598人を対象とした32 studiesのメタ解析では、2年から17年の追跡期間で、抑うつエピソードは認知症の危険因子であることが示された(効果量 2.0、CI 1.7-2.3)。

・ノルウェーのHUNT研究では、心理的苦痛が25年後の認知症発症を予測することが示唆されたが、確実な結論ではない(HR1.3, CI 1.0-1.7)。イギリスのWhitehall研究では、10189人を追跡調査し、晩年にはうつ症状が認知症リスクを増加させるが、若年のうつ症状では増加しないと報告している(追跡調査11年HR 1.7; CI 1.2-2.4; 追跡調査22年HR 1.0, 0.7-1.4)。

・71-89歳の認知的に健康な男性4922人を対象とした14年間の縦断的研究では、うつ病は認知症の発症率の1.5倍(CI 1.2-2.0)の増加と関連したが、この関連性はうつ病発症後5年以内に認知症を発症した人によって説明されていた。

・抗うつ薬の使用はそのリスクを低下させなかった。抗うつ薬による治療が認知症リスクを軽減するかどうかという問題は、未解決である。

社会的接触

・社会的接触は認知症の予防因子として認められているが、認知症の進行に伴って孤立が起こる可能性がある。

・中年以降は結婚している人が多いが、高齢になると、一般に女性は男性よりも長命なため、未亡人となると社会的な接触が少なくなる。

・全世界の812047人を対象としたシステマティックレビューとメタ解析では、生涯独身者(RR1.4、CI1.1-1.9)と未亡人(1.2、1.0-1.4)は既婚者に比べて認知症リスクが高く、その関連性は異なる社会文化環境で一貫していた。

・社会的孤立と認知機能に関する51の縦断的コホート研究のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、ベースライン時に50歳以上の102035人の参加者が含まれており、2~21年の追跡調査が行われ、高頻度の社会的接触は晩年の良好な認知機能と有意に関連し(r=0.05 CI 0.04-0.065)、性差は認めなかった

・新たなメタ解析では、長期研究(10年以上)において、良好な社会的交流が認知症リスクに対して軽度に保護的であることがわかった(n=8876, RR=0.9, CI 0.8-1.0)。孤独感は認知症リスクとの関連は有意ではなかった

・イギリスでの28年間の観察研究では、10308人が対象となり、60歳での社会的接触の頻度が高いほど、15年間の追跡期間で認知症リスクが低いことが報告された(1標準偏差の社会的接触頻度の増加によりHRは0.9、CI 0.8-1.0)

・日本の縦断的コホート研究では、65歳以上の成人13984人を対象に、平均10年間の追跡調査で、婚姻状況、家族との交流、友人との交流、コミュニティ集団への参加、仕事従事の有無の5段階評価の社会的接触尺度を算出した。その結果、最高得点の人は低得点の人に比べて46%認知症になる可能性が低く、得点は認知症リスクの低下と直線的に関連していることがわかった。

大気汚染

・動物実験では、空気中の粒子状汚染物質が、脳血管疾患や心血管疾患、Aβ沈着、アミロイド前駆蛋白質処理などを介して神経変性過程を加速させることを示唆する結果が得られている

・二酸化窒素(NO2)濃度が高いこと(>41-5 μg/m3; 調整後HR 1-2、CI 1.0-1.3)、交通機関の排気ガスからの微粒子状物質(PM2.5)(調整後HR 1.1、CI 1.0-1.2)、住宅用木材燃焼からのPM2.5(1 μg/m3増加でHR=1.6、CI 1.0-2.4)は、認知症発症率の増加と関連することが報告されている。

・大気汚染物質曝露と認知症発症の関連について1-15年追跡調査を行った13の縦断的研究の系統的レビューでは、PM2.5、NO2、一酸化炭素への曝露がすべて認知症リスクの増加と関連していることが報告された

コメント


定年延長の流れがありますが、認知症予防の観点からは望ましいことなのかもしれません。仕事を辞めて何もしないよりも、なんらかの生産的活動に従事するか、仕事を続ける方が認知症リスクは低いようです。年をとってからも身体や頭を使うような何かを持っておいた方が、心身共に健康度が高いといえそうです。

引用文献
1)Lancet. 2020 Aug 8;396(10248):413-446. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30367-6. Epub 2020 Jul 30.