・抗精神病薬の薬剤毎の用量効果関係についてのメタ解析結果が文献1にて報告されています。この論文の結果は臨床医として知っておいた方が良いと思われます。

・ただし、プラセボ対照試験のみを解析対象としているため、解析対象となった試験の数は少なく、エビデンスの質としてはそこまで確かなものではありません。

・固定用量の介入試験について、プラセボ対照ではないものについても、ネットワークメタ解析を行い、対プラセボの効果量を推定し解析に含むことは可能と思われるため、そのような解析を行ってみても面白いのかもしれません。

 

背景

 

・急性期統合失調症治療における抗精神病薬の用量効果関係はよくわかっていないが、臨床家にとって、最小有効用量と最大有効用量を知ることは重要である

・多くの薬剤では用量効果関係は横軸に用量の対数をとるとS字型曲線となることが知られている

・今回、抗精神病薬の用量効果関係についての臨床試験を基にメタ解析を行い、最大有効用量に近い用量(ED95)を決定するために定量的な解析を行った

・さらに、現在承認されている用量よりもさらに高用量を用いた臨床試験を行うべき薬剤がないかどうかについても検討した
最後に、最大有効用量の近似値(ED95)を用いて等価用量換算を行った

 

対象と方法

 

・統合失調症ないし統合失調感情障害慢性期の急性増悪に対する、2種類以上の固定用量でのプラセボ対照介入試験

・さらに初発精神病、陰性症状主体群、高齢者、治療抵抗性とにわけて解析を行った

・症状変化はPANSSないしBPRSを使用(陰性症状主体の試験についてはPANSS negativeかSANSを使用)

・試験毎に用量効果関係を25パーセンタイル、50パーセンタイル、75パーセンタイルの3点に制御点を有するスプライン曲線で近似。その後各試験のスプライン曲線を多変量random-effects modelで統合

・ED50をプラセボと比較して最大効果の50%の症状改善効果が得られる平均用量と定義。ED95は最大効果の95%の症状改善効果が得られる平均用量。ED95を有効性に関する等価用量換算に使用

・解析に使用された試験の数は、アミスルプリド N=3、アリピプラゾール N=5、アリピプラゾールLAI N=1、アセナピン N=6、ブレクスピプラゾール N=4、カリプラジン N=4、クロザピン N=1、ハロペリドール N=1、イロペリドン N=4、ルラシドン N=7、オランザピン N=4、オランザピン LAI N=1、パリペリドン N=5、パリペリドンLAI N=4、クエチアピン N=4、リスペリドン N=4、リスペリドン LAI N=1、セルチンドール N=4、ジプラシドン N=5

・試験期間の中央値は6週間(4-26週)

・用量効果関係を、プラトー型、逆U字型、漸増型に3分類(下図)

プラトー型逆U字型漸増型


結果

 

・陰性症状主体の患者に対するアミスルプリド:50-300mgの低用量アミスルプリドによる陰性症状主体の患者に対する2つの臨床試験から、ED95 は約70mg/dayであり、さらに、用量効果関係はプラトー型で、高用量でより有効性が増大することを示唆する結果は得られなかった

・陽性症状に対するアミスルプリド:陽性症状の急性増悪に対する1つの試験(100mgを400mg、800mg、1200mgと比較)の結果から、用量効果関係は逆U字型であり、537mg程度で効果が最大となることを示唆する結果となった

・経口アリピプラゾール:5つの急性期に対する固定用量試験(2-30mg)の結果からED95は約12mgであり、用量効果曲線はやや逆U字型に近く、高用量がより有効であることを示唆する結果は得られなかった

・アリピプラゾールLAI(lauroxil):1つの急性期に対する試験があり、441mgと882mgがプラセボと比較。プラトー型でありED95 は463mg

・アセナピン:急性期の6つの試験があり0.4mgから20mgを比較。ED95 は15mgであり、用量効果曲線はプラトー型であった

・ブレクスピプラゾール:4つの急性期試験があり、ED95が3.4mgであり、用量効果曲線はプラトー型であった

・クロザピン:治療抵抗性に対する小規模(N=48)試験があり、100mg、300mg、600mgが比較。クロザピンの固定用量での比較試験はこれのみ。ED95 は567mg。用量効果曲線は小規模にて推定困難(無理やり当てはめると漸増型)

・ハロペリドール:急性期に対する1つの固定用量試験があり、4mg、8mg、16mgが比較。用量効果曲線は逆U字型であり、ED95 は6.3mg

・ルラシドン:6つの急性期に対する固定用量試験があり、20mgから160mgまで比較。用量効果関係は漸増型であり、ED95 は147mg。さらに高用量で有効性の増大が期待できる可能性がある

・経口オランザピン:2つの急性期に対する固定用量試験があり、1mgから15mg±2.5mgまで比較。用量効果関係は漸増型であり、ED95は15.1mg。さらに高用量で有効性の増大が期待できる可能性がある結果となった

・経口オランザピン:陰性症状主体の患者に対する1つの固定用量試験があり(N=174)5mg、20mgがプラセボと比較。ED95 は6.5mgとなり、用量効果関係は逆U字型となった。2点しか観察点がないため一般化困難

・オランザピンLAI:1つの急性期に対する固定用量試験があり、210mg(2週に1回)、405mg(4週に1回)、300mg(2週に1回)が比較。405mgを203mg(2週に1回)に変換し比較。用量効果関係は漸増型だが、2点しか観察点がなく、一般化は困難

・経口パリペリドン:5つの急性期に対する固定用量試験があり、1.5mgから15mgが比較。ED95は13.4mgとなり、用量効果関係は漸増型となった

・パリペリドンLAI:4つの急性期に対する固定用量試験があり、25mgから150mgが比較。ED95は120mg。用量効果関係はプラトー型に近い漸増型

・クエチアピン:4つの急性期試験があり、75mgから800mgが比較。ED95は482mgであり、用量効果関係はプラトー型。速放製剤と徐放製剤とでわけて解析すると、速放製剤のED95は297mg、徐放製剤では739mgと大きな違いがあった(ただし徐放製剤の最小設定用量が300mgでありそれ以下の効果が不明)

・経口リスペリドン:3つの急性期試験があり、2mgから16mgまで比較。ED95 は6.3mg。用量効果関係は逆U字型

・リスペリドンLAI:1つの急性期試験があり、25mg(2週間に1回)、37.5mg、75mgを比較。ED95 は37mgであり、用量効果関係は逆U字型

・ED95の数値から、有効性についてリスペリドン1mgに対する等価用量換算を行うと、アリピプラゾールは1.84mg、アセナピン 2.39mg、ブレクスピプラゾール 0.54mg、ハロペリドール 1.01mg、ルラシドン 23.49mg、オランザピン 2.42mg、パリペリドン 2.13mg、クエチアピン 77.01mgなどとなった

・全体を平均するとリスペリドン換算で急性期においては3.66mgを超えたあたりで効果はプラトーに達する傾向がみら、それ以上の増量は有意な効果の増強はもたらさないとの結果となった

結論

・オランザピン、パリペリドン、ルラシドン、ジプラシドン、セルチンドール、イロペリドンについては、用量効果関係が、承認用量範囲内で漸増型を示し、さらに高用量において効果が増強する可能性を示唆する結果となった。ただし今回の解析は副作用を考慮しておらず、さらに高用量では有害性が有効性を上回る可能性があり、慎重な解釈を要する。

・個々の患者では代謝能力なども異なるため、個別の症例で用量を最適化することが望ましい

コメント

・以前より統合失調症に対する抗精神病薬の有効性についての用量効果関係は、D2受容体の占有率との関係から、あるところでピークに達し、それ以上は効果増大せず有害性が増大してくると言われていましたが、逆U字型の用量効果関係を示す薬剤があったり、一方で承認された用量の範囲内では効果は最大に達するようにみえず、さらにそれ以上の用量での効果の増大が見込める可能性がある薬剤があるなど、臨床上重要な知見が含まれている論文と思われました。今後さらに固定用量での試験結果が集積されて、結論が確かなものになっていくことが期待されます。

 

引用文献
1)Stefan Leucht et al. Am J Psychiatry. 2020 Apr 1;177(4):342-353.