全般不安症(GAD)に対するヨガとCBT、ストレス教育に関する介入試験がJAMA Psychiatry誌に掲載されていたので、現段階でのGADのエビデンスと一緒にまとめてみました。ヨガは2017年にはアメリカ人の14.3%が体験したそうです。大人気ですね。

 

全般不安症に対するヨガ、CBT、ストレス教育(文献1)

 

背景


・全般不安症は強い苦悩と機能障害を伴うが、およそ半分の患者しか治療を求めず、1/3の患者しか精神科専門治療を受けていないといわれている。


・認知行動療法(CBT)は全般不安症に対する心理療法の第1選択となっているが、コストや偏見などの理由により多くの患者がCBTを受けていない。薬物療法にも抵抗を感じたり、有効性が乏しい場合もあり、患者はヨガなどの代替療法を求めることがある

・ヨガは人気があるが、不安に対する効果はよくわかっていない。

・伝統的にはヨガは姿勢や運動、呼吸の制御とリラクゼーション、瞑想などの訓練を伴う

・ヨガの人気は上昇しており、2017年には全米の約14.3%が健康のためのヨガを体験したと報告されている

・マインドフルネスに基づくアプローチはGADに有効性が確認されているが、ヨガの有効性はよくわかっていない。これまでの不安に対するヨガの効果についてのメタ解析の結果は結論がはっきりせず、より質の高い研究が求められている

・そこで今回ヨガのCBTに対する非劣性、ストレス教育に対するヨガおよびCBTの優位性、治療開始後6か月時点でのヨガのCBTに対する非劣性やストレス教育に対するヨガおよびCBTの優位性などを検証すべく、介入試験を行った

 

対象と方法


・Single blind無作為割付比較試験

・試験期間:12週間

・18歳以上の全般不安症患者(DSM-V)。PSTD、物質使用障害、摂食障害の合併は除外。希死念慮を有する場合も除外。過去5年間に5回以上のヨガないしCBTセッションを受けたことがないこと。2週間以内に向精神薬投与を受けていないこと

・治療は3-6名の小集団毎に施行されブロックランダマイゼーションで治療法が決定された

・ヨガ群 N=93
・CBT群 N=90
・ストレス教育群 N=43

・全ての群について、治療は1回120分、合計12回のセッションが3-6人の集団に対して行われ、各回20分の宿題が与えられた

・ヨガ群ではKundalini yogaがGuru Ram Das Center for Medicine and Humanologyにおいて開発された手法により行われた

・CBTは5つの治療コアモデュール(心理教育、認知再構成、漸進的筋弛緩法、不安への曝露、in vivo曝露訓練)を含み、メタ認知(不安への不安)をターゲットとしたが、マインドフルネスの要素は含まない

・ストレス教育はストレスの生理的、心理的反応や、カフェインやアルコール、喫煙などのライフスタイルの影響、レジリエンスに関与する要因、運動や食事の重要性などの教育が行われた

・主要評価項目は12週後のCGI-Iによる治療反応性(much improved ないしvery much improved)

・副次的評価項目は6か月時点での反応率

 

結果

 

・完遂率はヨガ群 64.5%、CBT群 74.4%、ストレス教育群 65.1%で有意差なし

・主要評価尺度の反応率については、ヨガ群(54.2%)はストレス教育群(33.0%)より有意に反応率が良好であった(OR 2.46 CI 1.12-5.42)

・CBT群(70.8%)はストレス教育群(33.0%)より反応率が有意に良好であった(OR 5.00 CI 2.12-11.82)

・非劣勢マージンΔを17.85%(反応率の差)に設定したところ、ヨガ群とCBT群の反応率の差は16.6%であり、ヨガ群のCIはマージンを超えるため、ヨガ群のCBT群に対する非劣性は支持されなかった。ただしCBTはヨガよりも有意に反応率が良好ということも統計的には示すことができなかった

・副次的評価尺度の6か月後の反応率は、CBT(76.7%)はストレス教育群(48.0%)より有意に良好であった

・ヨガ群(63.2%)はストレス教育群との有意差を示すことができなかった。

・またヨガ群のCBTに対する非劣性も支持されなかった

・ただし注意点としては、ベースラインにおけるうつ病の合併率(CBT群 24.4%対 ヨガ群 12.9%)が有意差があり、さらにフォローアップ期間での投薬率(CBT群 24.4% 対 ヨガ群 3.2%)が有意に異なったことがあげられる。そのためこれら交絡因子について調整したが結果は不変であった

 

結論

 

・ヨガはGADについて、ストレス教育より治療的効果が高そうだが、CBTに対する非劣性は支持されなかった


続いてGADに対するこれまでのエビデンスを概観してみます。
まず注目すべきは2019年のLancet誌(文献2)のネットワークメタ解析になります

 

GADに対する薬物療法のネットワーク・メタ解析(文献2)

 

背景


・GADの生涯罹患率は5.7%と言われており、12か月罹患率は65歳未満で約1.7%、65歳以上で3.4%と報告されている

・GADは診断されにくい疾患であり、イギリスでの調査では一般人口の約3%がGADと診断可能であったが、そのうち約8%しか診断され治療を受けていなかったと報告されている。またプライマリケアにおいてGADが正確に診断されている割合は罹患者の34%であったとされている

・またGAD患者の62%が少なくとも1回以上の大うつ病エピソードを生涯に併発しているといわれている

・これまでの報告ではSSRIおよびSNRIの治療反応率が最も高く、60-75%と報告されている。Berezaら(2012)のレビューでは、第1選択薬での反応率は67.7%であり、第2選択薬での治療での反応率は54.5%と報告されている

・イギリスでの29131名の患者(大うつ病併発は除外)を対象とした報告では、平均3.7か月の治療後に46.0%の患者が処方されたSSRIや三環系抗うつ薬などを中断していたと報告されている(中断理由は不明)

・今回様々な薬物療法の有効性と安全性を比較するため、ネットワークメタ解析を行った

対象と方法

・1998年1月から2016年4月までに報告された89の介入試験(プラセボないし実薬対照) N=25441。71%がプラセボ対照
82%でDSMを診断に使用(罹病期間6か月以上が必要)

・フォローアップ期間は4-26週間(中央値 8週間)

・全ての試験でHAM-Aを評価尺度として使用

 

結果

 

・クエチアピンの効果が最大(プラセボとのHAM-Aの差が―3.60点 CI -4.83 -2.39)だが、忍容性はあまりよくない

・デュロキセチン(MD -3.13 CI -4.13 2.13)、プレガバリン(MD -2.79 CI -3.69 -1.91)、ベンラファキシン(MD -2.69 CI -3.50 -1.89)、エスシタロプラム(MD -2.45 CI -3.27 -1.63)はいずれもプラセボより有意に治療反応率が良好

・その他ocinaplonは良好だがNが少なく根拠に乏しい

・パロキセチンとベンゾジアゼピンはサンプル数が多く、有効性もプラセボより有意に良好だが、脱落もまた多い

・ボルチオキセチンはプラセボと有意差なし(意外なことに)。忍容性は良好だが

結論

 

・安全性、忍容性を相互すると、プレガバリン、デュロキセチン、エスシタロプラム、セルトラリン、ベンラファキシンあたりが優れていそう

・ヒドロキシジン(アタラックス)が意外にも有効性、忍容性良好。しかし長期的には耐性などの問題もありそう

・ボルチオキセチンが結果が出せていないのが意外なところ(抗うつ薬としてはおそらくは優れているとの報告があるため)

 

ボルチオキセチンについては昨年、用量毎にGADに対する有効性などを検証したメタ解析が報告されているのでみてみます(文献3)

 

ボルチオキセチンのGADに対する有効性、安全性メタ解析(文献3)

 

背景


・ボルチオキセチンは直接的な受容体への作用(セロトニン3 、セロトニン7 、セロトニン1D 阻害作用、セロトニン1B 部分アゴニスト作用、セロトニン1Aアゴニスト作用)とセロトニントランスポーター阻害作用を併せ持つ複合的な作用を有する薬剤である。そのため大うつ病のみならず不安障害にも有効性が期待される

・またSSRIと比較して海馬のBDNF発現量を有意に増加させるとの報告もある

・しかし近年のメタ解析ではボルチオキセチンのGADに対する有効性に関して否定的な結果を報告している(Fu et al 2016)。しかし機能障害やQOLについての評価はなされていない。そこで今回は有効性のみならず、その他の指標についてもメタ解析で評価してみた

対象と方法

・18歳以上のGAD(DSM)を対象としたプラセボ対照無作為割付試験

・有効性、QOL、機能障害を評価したもの

・反応はHAM-A50%以上の改善で定義

・寛解はHAM-Aが7点以下で定義

・QOLはSF-36(Short-Form 36 Health Survey)を尺度として用いた。機能障害についてはSDS(Sheehan Disability Scale)を用いた

・2012年から2014年に出版された4つの介入試験(ボルチオキセチン群 N=1074 、プラセボ群 613)、用量は2.5mg(N=308)、5mg(N=458)、10mg(N=308)

・試験期間はいずれも8週間

結果

・反応率はいずれの用量でもプラセボと有意差なし

・QOLはいずれの用量でもプラセボと有意差なし

・機能障害も同様

 

結論

・現段階ではボルチオキセチンは2.5mgから10mgまでの用量においてGADに対する有効性は確認できず(用量をいっしょくたにした過去のメタ解析では有効性を報告したものもあるが、用量毎にわけた今回の解析の方が臨床的には意義がある)

・安全性は良好であった

・まだNが少ないので、エビデンスの質としては低い

 

ボルチオキセチンについて一言

 

最後にボルチオキセチンについてフォローをしておきます。
私個人がボルチオキセチンを評価するのは、その安全性のみならず、2018年のLancet誌に掲載された21の抗うつ薬のネットワークメタ解析の報告(文献4)の図5の結果です。この図5の結果が2009年のMANGA studyと同じ解析(プラセボ対照試験を除外し、head-to-head試験のみで解析したもの)となります。
著作権の関係から図5は引用しませんが、論文そのものは無料で閲覧できますので、ご確認ください。ボルチオキセチンの有効性、安全性についての立ち位置がなんとなくわかると思います。

また2016年のJournal of Affective Disorders誌の論文(文献5)においても、LHH(likelihood to be helped or harmed)=NNH/NNTという指標で解析した結果、ボルチオキセチンがデュロキセチン、エスシタロプラム、ベンラファキシン、セルトラリンなどの薬剤と比較して最も良好な数字を残しており、さらに5mgの試験を除外し10-20mgの試験のみで解析すると、ボルチオキセチンのNNT=5.3、NNH=63.3、LHH=11.9と群を抜いてよい数字となることがわかります。
ですので、大うつ病についてのボルチオキセチンのこれまでのエビデンスは比較的良好といえます。

 

引用文献
1)Naomi M. et al. JAMA Psychiatry. Published online August 12, 2020. doi:10.1001/jamapsychiatry.2020.2549
2)April Slee et al. Lancet. 2019 Feb 23;393(10173):768-777. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31793-8.
3)Bin Qin et al. BMJ Open. 2019 Nov 28;9(11):e033161. doi: 10.1136/bmjopen-2019-033161.
4)Cipriani A et al. Lancet. 2018 Apr 7;391(10128):1357-1366. doi: 10.1016/S0140-6736(17)32802-7. Epub 2018 Feb 21.
5)Citrome L. J Affect Disord. 2016 May 15;196:225-33. doi: 10.1016/j.jad.2016.02.042.