クロナゼパムの代謝とCYP遺伝子多型に関する報告(文献1)がありましたので、それに関連して向精神薬代謝とCYPに関する報告をいくつかまとめてみました。

向精神薬とCYP1A2

・主にCYP1A2により代謝される向精神薬(CYP1A2の基質となるもの)としては、デュロキセチン(主にCYP1A2で一部CYP2D6)、オランザピン(主にCYP1A2、一部CYP2D6)、クロザピン(CYP1A2とCYP3A4)、ラメルテオンなどがある

・フルボキサミンはCYP1A2の強い阻害作用を有する

CYP1A2と喫煙

・喫煙はCYP1A2を誘導し、CYP1A2により代謝される薬剤の血中濃度を低下させることが知られている

・向精神薬では、主にデュロキセチン、オランザピン、クロザピン、ラメルテオンがそれにあたる。

・デュロキセチンについては、喫煙者と非喫煙者で血中濃度が約2倍(喫煙者で0.325 [ng/mL]/[mg/d] 対 非喫煙者で0.7 [ng/mL]/[mg/d] :用量で調整後)異なるとの結果が報告されている(J Clin Psychiatry . 2018 Sep 4;79(5).)

・オランザピンについては喫煙者においてはCYP1A2活性の低下により非喫煙者への7mg投与が喫煙者の10mg投与に相当するとの報告がある(喫煙者では40%のクリアランス増加との報告もある)。

・クロザピンについては、非喫煙者への100mg投与が喫煙者への200mg投与に相当するとの報告がある(BMJ Open. 2014 Mar 4;4(3))

CYP1A2とカフェイン


・CYP1A2に関して言えば、カフェインはCYP1A2で代謝されるため、喫煙者はカフェインの作用が減弱する

・CYP1A2阻害作用を有するフルボキサミン、シメチジンはカフェインの作用を強める

・CYP1A2で代謝されるクロザピン、オランザピン、デュロキセチン、ミルタザピンについてはカフェインと代謝が競合するため、カフェイン急性投与では相互に作用を強め合い各薬剤の血中濃度が増大し副作用出現リスクが高まる(精神科薬物相互作用ハンドブック 医学書院)が、慢性カフェイン投与ではそう単純ではなく、慢性的にカフェイン摂取量が多くなると(コーヒー1日3杯以上)CYP1A2が誘導され、代謝が促進されるため、むしろ血中濃度が減るとの報告もあり、オランザピンの有効性も減弱したことが報告されている(World J Biol Psychiatry. 2020 Jan;21(1):29-52)

オランザピンとバルプロ酸

・バルプロ酸とオランザピンはしばしば統合失調感情障害や双極性障害などにおいて併用されるが、バルプロ酸はオランザピン血中濃度を減少させることが知られている。ただしその相互作用機序はよくわかっていない。

・オランザピンLAI投与中でバルプロ酸併用中患者と、オランザピン経口剤投与中でバルプロ酸併用中患者とで、オランザピン血中濃度(用量で調整)を比較したところ、オランザピンLAI投与中患者では血中濃度はVPA非併用群と有意差がなかったが、オランザピン経口剤投与中患者ではバルプロ酸併用によりオランザピン血中濃度が20%程度有意に減少するとの結果であった(J Clin Psychopharmacol . Nov/Dec 2019;39(6):561-566)

・バルプロ酸は主にグルクロン酸転移酵素によるグルクロン酸抱合40%、およびβー酸化(30-35%)で代謝され、10%がCYPで代謝(主にCYP2A6など)されるため、オランザピンへの影響はCYPを介した相互作用ではないことが推測される

向精神薬とCYP2D6


・主にCYP2D6で代謝される向精神薬には、ベンラファキシン(主にCYP2D6、一部がCYP3A4)、ボルチオキセチン、パロキセチン、アリピプラゾール(CYP2D6とCYP3A4)、ブレクスピプラゾール(CYP2D6とCYP3A4)、リスペリドン(主にCYP2D6、一部CYP3A4)、ミアンセリン、ミルタザピン( CYP2D6とCYP3A4 )

・パロキセチンは基質でもあり、同時にCYP2D6の強い阻害作用を有する。

 

リスペリドン代謝とCYP2D6遺伝子多型


・リスペリドンは主にCYP2D6で代謝され一部CYP3A4も関与すると言われている

・CYP2D6遺伝子多型については、遅延代謝型(PM: poor metabolizers)、中間代謝型(IM: intermediate metabolizers)、急速代謝型(EM: extensive metabolizers)、超急速代謝型が知られている。PMの遺伝子型を有する日本人はまれであり、IMについてはCYP2D6*1/*5(6.3%)、*5/*10(5.2%)、*10/*10(14.3%)で約25%、EMの遺伝子型を有するのはCYP2D6*1/*1(17.8%).*1/*2(11.2%)、*1/*10(29.7%)と約60%と最多である

・IM群においてはほぼ同じ用量のリスペリドン投与量であっても有意にEM群と比較してDIEPSS得点が高かったとの報告があり、要注意となる(Ito et al. Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences (2018) 4:28 )

・IM群はEM群の用量よりも10%少ない用量により等価用量となるとの報告がある(PMでは25%減量で等価)(Clin Pharmacokinet. 2020 Jan;59(1):51-65)

・リスペリドンの主活性代謝物である9-hydroxy-risperidone(パリペリドン)は主に腎排泄性で60%がそのまま尿中に排泄され、11%が未変化体で便中に、20%がCYP3A4及びCYP2D6で代謝されると報告されている(Curr Drug Metab. 2010 Jul;11(6):516-25)

パロキセチン代謝とCYP2D6多型

・アジアではCYP2D6の非機能型であるCYP2D6*4、CYP2D6*5、CYP2D6*18アリル保有者は少ないといわれている。一方で中間型の活性であるCYP2D6*10アリル保有者は50%程度といわれている

・パロキセチンの有効性は39.1ng/ml以上で期待できるとの報告もある。一方でパロキセチンの用量効果関係は逆U字型であり、至適用量が存在すると言われている(Neuropsychopharmacology 2009;34:999-1010)

・日本人大うつ病患者15名中CYP2D6*10アリル保有者は11名、CYP2D6*10アリル非保有者は4名であった
CYP2D6*10アリル保有者の薬物代謝速度定数Kmは50.5 ng/mlであり、一方で非保有者では122.5ng/mlと有意差があり、非保有者で代謝速度が遅く、同じ用量でもパロキセチン血中濃度が高かった。パロキセチンの有効血中濃度約39ng/mlを実現するためには、*10アリル非保有者で約15mg程度、保有者では27mg程度であった(Pharmgenomics Pers Med. 2014 May 28;7:121-7.)

・CYP2D6*10アリル保有者では、パロキセチンの用量がより高用量で十分な臨床効果がえられる可能性があり、20mg以上使用して効果がでるかもしれない

向精神薬とCYP3A4

・主としてCYP3A4により代謝される向精神薬としては、スボレキサント、レンボレキサント、ベンゾジアゼピン系、ゾピクロン、ゾルピデム、アリピプラゾール(CYP2D6とCYP3A4)、ブレクスピプラゾール(CYP2D6とCYP3A4)、ルラシドン、ブロナンセリン、クエチアピン、ペロスピロン、ミルタザピン( CYP2D6とCYP3A4 )

・グレープフルーツ、クラリスロマイシンはCYP3A4を阻害し、薬剤血中濃度を上昇させるため要注意。クラリスロマイシンとスボレキサント併用により起立困難を生じた症例が報告されている(クラリスロマイシン、イトラコナゾールなどはスボレキサントと併用禁忌になっている。レンボレキサントは併用注意で禁忌ではない)

グレープフルーツについて

・グレープフルーツに含まれるフラノクマリンという物質がCYP3A4阻害作用を有するため、相互作用に注意が必要となる。フラノクマリンを含有する果物は以下のようにグレープフルーツ以外にもあるため注意を要する(齋田ら 医療薬学 vol 32 No.7 2006 693-699)

・フラノクマリン類の一種である6’,7’-ジヒドロキシベルガモチン(DHB)換算量として含有量を表記

・グレープフルーツ果汁(13.0 ug/ml)、皮(3600 ug/ml)、ダイダイ果汁(3.2 ug/ml)、ダイダイ皮(72 ug/ml)、ブンタン果汁(2.25 ug/ml)ブンタン皮(660 ug/ml)、甘夏ミカン果汁(0.6 ug/ml)甘夏ミカン皮(1040 ug/ml)、レモン果汁(0.05 ug/ml)レモン皮(180 ug/ml)、ネーブルオレンジ果汁(0.05 ug/ml)、ウンシュウミカン、ポンカン、イヨカン、デコポン、キンカンなどの果汁は検出感度以下。

・セリ科野菜にも含まれるが、パセリ(0.38 ug/ml)、セロリ(0.02 ug/ml)と少量、生薬のトウヒには336 ug/g、ビャクシには784 ug/g含まれるので要注意。チンピには含まれない

・皮は要注意。レモンの皮も安易に食べない方が良い

クロナゼパムとCYP3A4遺伝子多型、NAT2多型(文献1)

背景

・クロナゼパムは当初は抗てんかん薬として開発された。しかし臨床的には経験的に双極性障害の多弁、衝動性、誇大性や、統合失調症の不穏、攻撃性などにも使用されてきた。

・クロナゼパムはGABA-A受容体を介して薬理作用を発揮し、長期使用では依存性や耐性、離脱、高齢者では転倒などのリスクが問題となる

・クロナゼパムはCYP3Aにより触媒されるニトロ基還元により7-アミノクロナゼパムに代謝され、さらにN-アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)によりN-アセチル化されて7-アセタミドクロナゼパムになる。ヒト血漿中においては7-アミノクロナゼパム濃度は、クロナゼパム濃度と同等ないしそれ以上と報告されている

・7-アミノクロナゼパムはGABA-A受容体の部分アゴニスト(クロナゼパムの約70倍の濃度で、GABA-A受容体を最大に活性化させるがそれでも最大でクロナゼパムの1/4以下の活性化)であり、クロナゼパムと競合的に作用し、7-アミノクロナゼパム濃度が高いと離脱症状が出現しやすいといわれている

・クロナゼパムの代謝に関わるCYP3A4活性は個体差で最大100倍程度の違いがあるといわれている

・CYP3A4*22アリル保有者は、肝臓でのCYP3A4低発現につながり、CYP3A4低活性者と言われている。同時にCYP3A5*3アリル保有者は、非機能型のCYP3A5蛋白質を発現し、機能的なCYP3A5酵素発現者よりもCYP3A基質の代謝が遅いといわれている
N-アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)も遺伝子多型が知られており、NAT2*4はアセチル化の速い表現型で、NAT2*5、NAT2*6、NAT2*7は白人に多く、アセチル化の遅い表現型として知られている。

・これらCYP3AおよびNAT2の遺伝子多型がクロナゼパムと、7-アミノクロナゼパムの血中濃度を決定する遺伝的要因となっている
代謝に影響しうる非遺伝的要因としては、ホルモン濃度、年齢、投薬などがありうる

・この報告ではCYP3A4およびCYP3A5遺伝子多型およびCYP3A4遺伝子発現量とクロナゼパム濃度の関連を調べた

対象と方法

・98名の統合失調症ないし統合失調感情障害ないし双極性障害で入院中の患者(白人)。年齢の中央値は43歳

・1週間以上クロナゼパムの治療を受けているもの(用量一定で) 

・併用薬剤はオランザピン40名、リスペリドン34名、クエチアピン28名、バルプロ酸22名、リチウム16名、クロザピン12名、アリピプラゾール10名、ゾルピデム6名、パロキセチン5名、ラモトリギン5名な、カルバマゼピン4名など

・末梢血から採取した白血球によりCYP3およびNAT2の遺伝子多型を解析し、CYP3A4 mRNA発現量を定量

・夕食後のクロナゼパム投与12時間後に採血し、クロナゼパムおよび7-アミノクロナゼパム血中濃度を測定

結果

・大半(91.8%)がCYP3A5非発現者であった(CYP3A基質の代謝が遅い)

・CYP3A4についてはCYP3A4*22アリル保有者は17.3%であった、しかし非保有者との比較においてCYP3A4酵素発現量の違いは有意なものはなく、全体として22%がCYP3A4低発現者、76.5%が正常発現者、1.02%が高発現者であった。

・NAT2表現型については、53.1%がアセチル化の遅い表現型を有し、46.9%がアセチル化の通常ないし速い表現型を有していた

・CYP3A4低発現者と正常発現者との比較では、クロナゼパム血中濃度はおよそ2倍の違いがあった

結論

・CYP3A4発現量に応じて、クロナゼパムの血中濃度は2倍程度の差異が生じうる。またCYP3A4発現量が正常者においてNAT2が低活性の場合(約半数)、離脱症状に注意を要する

・CYP3A4はその他のベンゾジアゼピンの代謝酵素でもあり、ベンゾジアゼピン全般に同様のことがいえると思われる。グレープフルーツ、フルボキサミン、シメチジン、クラリスロマイシン、イトラコナゾールなどの抗真菌薬などについてはCYP3A4阻害薬であり、ベンゾジアゼピンの血中濃度上昇に注意を要する

コメント

向精神薬の血中濃度に影響を与える要因はCYP多型のみならず、年齢、性別、体重、ホルモン(女性ホルモンがCYP3A4を誘導する)、食事、吸収、排泄、薬剤など様々な要因が関与するため一概に言うことはできませんが、CYP遺伝子多型が血中濃度の個体差に与える影響は無視できない場合があり、治療効果や副作用の出やすさを判断するうえで、考慮すべき要因と言えるかもしれません。

文献
1)Katalin Toth et al. Int J Neuropsychopharmacol. 2016 Dec 30;19(12):pyw083. doi: 10.1093/ijnp/pyw083. Print 2016 Dec.