・自殺既遂者の3分の1以上が亡くなる前の1週間に、半数が亡くなる前の1ヶ月以内に医療機関を受診しているといわれています。しかしながらすべての救急部門にメンタルヘルスケアの専門家が常駐しているとは限らず、メンタルヘルスケアを継続的に提供できるわけでもありません。


・救急部門は自殺予防の最前線であり、(非専門家による)エビデンスに基づいた、患者の自殺のリスク評価とその後のメンタルヘルスケアにつながるような効果的な介入手段が必要です。

・そこで、今回、JAMA Psychiatry誌(文献1)に救急外来で行われる短期的介入によるその後の自殺再企図予防効果についてのメタ解析結果が報告されました。

・この文献をざっとみて、まず感じたのは、日本の精神科救急場面における大規模介入試験であるACTION-Jが何で入ってないんだ、ということでした。その件についても考察し、最後に無理やりACTION-Jの結果を入れたメタ解析をやってみた結果をつけておきます。

救急外来での自殺予防的介入の効果

背景

・短期的介入は、訓練を受けた専門家による単回の限定的な時間の介入であり、その後の継続治療の重要性を強調するものである

・これら単回の介入は、その後の包括的なケアへの橋渡しや、電話などによるフォローアップで強化されるものも含まれており、継続的、長期的なメンタルヘルスケアを提供可能な設備のない状況にも適している

・今回、このような短期介入の有効性について、その後の自殺企図のリスク、その後の継続的ケアへの参加率、フォローアップ時点でのうつ症状の程度の3つのアウトカムによりメタ解析を行った

対象と方法

試験選択基準としては
(1)自殺リスクが確認された患者に対して単回の対面で実施された介入の有効性を検討していること
(2)対照群を含むこと
(3)患者の転帰が測定されていること

・簡潔な手紙や電話などのフォローアップ介入のみの場合(初回に短期治療的介入を併用する場合は除く)は、以前にレビューされたことがあるため対象外とした(簡潔な手紙や電話のみのフォローアップ介入は自傷ないし自殺企図行為自体の再発を防ぐ効果は有意ではなかった。1人当たりの自傷行為の総回数は有意に減少したが、簡潔なフォローアップ介入は推奨されないとの結論であった(文献2))

結果

・14 RCTs(7つは自殺企図再発リスクを評価、9つはフォローアップ介入への参加率を評価、6つはフォローアップ時点でのうつ症状を評価)

・介入技法としてはおおまかに4種類。ほぼ全てのRCTが短期治療的介入を含む

・1種類目は短期治療的介入に加えて簡潔なフォローアップ介入を含むもので、14件の研究のうち6件(42.9%)では、電話、はがき、手紙などの簡潔な介入が自殺予防介入の構成要素として含まれていた。5件の研究(35.7%)では、電話連絡が含まれており、さらに患者は手書きのノートを郵送された。フォローアップの電話連絡の頻度と内容は様々で、1回から、介入後1、2、4、8週間後に電話連絡をするスケジュールまで様々であった。 1つの報告では、テキストメッセージを使用して、1日後、1週間後、その他12ヵ月間に合計9回の短いケア連絡を行い、訓練を受けたカウンセラーが患者の返信に支持的な文言を添えたり、患者がメンタルヘルス治療に従事していることを確認したりした。

・2種類目は、ケア調整(Care Coordination)であり、メンタルヘルスケアのために患者を紹介する臨床チームと、患者にフォローアップのためのメンタルヘルスケアを提供するチームとの間の双方向の連携を提供するもの。14 RCTs中、3 RCTs(21.4%)がケア調整を含んでいた。ケア調整には、外来でのメンタルヘルス介入の予約取得、危機対応チームの評価のスケジューリング、患者の家族と協力して予約し受診への障壁を減らことなどが含まれていた。

・3種類目はSafety Planning Interventionによる短期治療的介入であり、患者が将来の自殺行動を予防すること、または継続的なメンタルヘルス治療への受診を促進することを目的とした介入と定義される。
患者との対面での一回の診療、または電話で患者に提供された。14 RCTs中、13 RCTsで短期治療的介入を提供していた。

・Safety Planning Intervention(安全計画介入)は5 RCTsで実施。Safety Planning Interventionの構成要素には、(1)切迫した自殺危機に対する個別化された警告サインの特定、(2)自殺念慮や衝動を回避するための個別対処戦略の同定、(3)自殺念慮や衝動から目をそらすことができる家族、友人、社会的な場所の特定、(4)自殺危機の際に支援を提供するのに役立つ個人の特定、(5)自殺危機の際に連絡すべき精神保健の専門家や緊急ケアサービスのリスト、(6)環境をより安全なものにするためのカウンセリングが含まれる。本報告において、上記の6つの構成要素のうち少なくとも4つを含む介入は、Safety Planning Interventionを実施したものとして分類された。

・4種類目はSafety Planning Intervention以外の短期治療的介入であり、14RCTs中10 RCTsが採用。患者の問題解決能力を改善するための介入や、動機づけ面接法に基づく面接など自傷傾向を減弱させるための介入技法が使用された。

・多くのstudyが、複数の介入技法を組み合わせていた

・7 RCTsがその後(2か月から1年まで)の自殺企図発生リスクを評価。メタ解析の結果OR 0.69(CI 0.55-0.87)で有意差あり

・9 RCTsがその後のメンタルヘルス専門家への受診行動の有無を評価。メタ解析の結果OR 2.74(CI 1.80-4.17)で有意差あり

・6 RCTsがその後のうつ症状を評価。メタ解析の結果Hedges g=0.28(CI -0.02 0.59)で有意差なし

結論

・救外での短期治療的介入はその後(2か月から1年)の自殺再企図リスクを30%程度有意に減少させるとの結果であった。またメンタルヘルス専門家への受診行動も有意に増加させた。うつ症状の改善効果は有意ではなかった。

 


・なぜACTION-Jが入っていないのか?以下にACTION-Jの概略を記し、入っていない理由について考察し、ACTION-Jの結果を無理やり入れたメタ解析結果を記載します。


ACTION-J

・概略は国立精神・神経医療研究センターのプレス・リリース(https://www.ncnp.go.jp/press/press_release140908.html)に書いてありますのでご参照ください。

・成果は文献3にまとめてありますが、プレス・リリースと文献3からの引用の概略を以下にまとめます。

・ACTION-Jは国立精神・神経医療研究センターを中心とする研究班により計画された「自殺対策のための戦略研究」(厚労科研)の一環として、「自殺企図の再発防止に対する複合的ケース・マネージメントの効果:多施設共同による無作為化比較研究」(通称 ACTION-J)として行われたもの。

・救急搬送され入院した自殺未遂者(少なくとも1つの精神疾患を有する)を対象

・全症例に対して、入院後に危機介入、精神医学的アセスメント、心理教育などの高い水準の支援をまず実施。

・次いでケースマネジメント群(N=460)と通常ケア群(N=454)に無作為割付

・ケースマネジメント群に対しては、精神保健福祉士や臨床心理士などの専門家が1週後、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、その後6か月毎にケースマネジメントを実施

・ケースマネジメントの内容としては
1)定期的な対象者との面接(あるいは通話)
2)対象者の生活背景・受療状況に関する情報収集
3)精神科受療の促進
4)精神科・身体科かかりつけ医に関する受療調整
5)受療中断者への受療促進
6)公的社会資源・民間援助組織の紹介と利用する際の調整
7)心理教育と情報提供
8)専用ウェブサイトを利用した情報提供
などであった

・主要評価項目は、最初の自殺再企図の発生率

・ケースマネジメント群は対照群に比べて1ヶ月の時点で約5分の1(リスク比0.19)の自殺再企図割合の減少効果が認められ、3ヶ月の時点でもほぼ同様の効果があり(リスク比0.22)、6ヶ月の時点では2分の1(リスク比0.50)の有意な自殺再企図割合の減少効果が認められた。12か月のリスク比は0.72(CI 0.50-1.04)有意差なし、18か月のリスク比0.79(CI 0.57-1.08)有意差なし


なぜ文献1にACTION-Jが入っていないかの考察

・入院時点で全例に危機介入、精神医学的アセスメント、心理教育などを行っており、その後のフォローアップの内容が異なる介入研究なので、文献1のメタ解析に含まれたstudyのように、入院時点での介入内容を無作為割付したわけではないのが原因でしょうか。ただし、入院時点ではなくて、入院48時間以内にケア連携を行った試験も1つ含まれており、入院1週間後のケースマネジメント開始の有無による効果を調べたACTION-Jもいれてもよかったのではと思えてしまいます。

・もやもやした気分なので、文献1のメタ解析結果にACTION-Jの半年後の結果も無理やり入れてみました(selection biasの問題が生じるためほんとはしてはいけない)。使用ソフトはRでmetaforパッケージを使用し、random effects modelで解析しました。文献1のfigure 2に対応する解析となります。その結果は下図となります。

meta analysis

このように、ACTION-Jの結果を入れると効果量が少しですが増えて、より結果のrobustnessが増強することがわかります。

 

・救急場面での自殺未遂者対応の実際については、日本精神科救急医学会のガイドライン(https://www.jaep.jp/gl_2015.html)を参照してください。

引用文献
1)JAMA Psychiatry. 2020 Jun 17;e201586. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2020.1586.
2)Milner AJ, et al, Br J Psychiatry. 2015; 206(3):184-190.
3)Kawanishi et al., The Lancet Psychiatry, Volume 1, Issue 3, Pages 193 - 201, 2014. doi:10.1016/S2215-0366(14)70259-7