・11月25日付JAMA Psychiarty誌にCYP2D6とCYP2C19の遺伝子多型に関連して、活性型に応じてどの程度曝露量(時間ー濃度曲線のAUCなどで定義)が異なるかについてのメタ解析結果が公表されていましたので(文献4)、まとめておきます。いくつか臨床的にも注意すべき結果があります。本文中何故か誤植が何カ所か残ってたりして気になりましたが

・ゴーシェ病治療薬のサテルガ(グルコシルセラミド合成酵素阻害薬)については、投与前にCYP2D6遺伝子型を確認し、CYP2D6遺伝子多型が通常活性型(EM:Extensive Metabolizer)ないし中活性型(IM:Intermediate Metabolizer)の場合に投与可能とされています。CYP2D6遺伝子多型検査は保険収載されておらず、CYP2D6遺伝子多型検査を先進医療として実施している医療機関もあります。

・またタモキシフェンはCYP2D6で代謝され抗腫瘍作用を発揮するため、日本人の約6割を占めるIM群では、用量調整が必要ではないかと考察されています(文献1)

・以前の記事でも触れましたが、CYP2D6、CYP2C19に関しては、各酵素の代謝活性に応じて低活性型:PM(Poor Metabolizer)、中活性型:IM(Intermediate Metabolizer)、通常活性型:EM(Extensive Metabolizer)、超高活性型:UM(Ultra-Rapid Metabolizer)に分類されています。

・日本人におけるCYP2D6およびCYP2C19の各活性型の頻度については次の通りです。

・CYP2D6の単一遺伝子変異の解析結果によれば,日本人にはCYP2D6*1 (42.3%)、*2(9.2%),*5(6.1%),*10(40.8%)などが検出されており(文献2)、活性型の頻度はPMは*5/*5で1%未満、IMは*1/*10、*2/*10、*5/*10、*10/*10であり、日本人では50-60%程度、EMは*1/*1、*1/*2、*1/*5、*2/*2、*2/*5であり40%程度と報告されています。

・日本人のCYP2C19のPMと推定される遺伝子型は,3種類(*2/*2,*2/*3,および*3/*3)が確認され,これらの遺伝子型の頻度の合計は18.8%とPMの頻度(約20%)に近いことから、これらの遺伝子型がPMの大半を説明しうるとされています(文献3)。通常活性型(EM)は*1/*1で30-40% 中活性型(IM)は*1/*2ないし*1/*3で40-50%程度と報告されています。

CYP2C19およびCYP2D6の活性型と抗うつ薬および抗精神病薬曝露量の関係について

背景

・向精神薬の有効性は不十分であるが、新規薬剤の開発はなかなか早急にはのぞめないので、現在使用しうる薬剤について、その用量を最適化することが重要である

・薬物の代謝能力は個々人で異なるが、最近のメタ解析では、抗精神病薬や抗うつ薬の効果用量関係において、至適用量が存在することが指摘されており、効果を最大化するためには最適な用量を用いることが重要である。

・最近の5000名以上の患者からのデータの解析結果によると、エスシタロプラム10mg、セルトラリン100mg、リスペリドン4mg、アリピプラゾール20mgで治療した場合、1/3以上の患者において、治療至適血中濃度域を外れた血中濃度になっていることが報告されている。

・CYP2D6およびCYP2C19はその代謝活性に応じて低活性型:PM(Poor Metabolizer)、中活性型:IM(Intermediate Metabolizer)、通常活性型:NM(Normal metabolizers=Extensive Metabolizer)、超高活性型:UM(Ultra-Rapid Metabolizer)に分類されている

・PMとIMでは、血中濃度が上昇しやすく、副作用が起こりやすいといわれている。一方でPMとUMではより治療の失敗につながりやすく、1年以内での変薬につながりやすいことが指摘されている

・抗精神病薬や抗うつ薬の用量設定については、CYP多型による活性型の違いを考慮していない。PMでは治療上投与さるる用量がNMよりも低用量にすべきと考えられ、FDAや欧州医薬品局、DPWG(Dutch Pharmacogenetics Working Group)などではアリピプラゾールについてCYP2D6のPM群では用量を低く設定することを推奨している。

・しかし実際にどの程度用量を減量すればよいのかについては、十分なデータがない。そこで今回これまでの報告についてsystematic reviewとメタ解析を行った

方法と対象

・抗うつ薬と抗精神病薬(エスシタロプラム、セルトラリン、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、ノルトリプチリン、ミアンセリン、ミルタザピン、クロザピン、クエチアピン、オランザピン、リスペリドン、アリピプラゾール、ハロペリドール)が投与された試験について、被検者のCYP2D6とCYP2C19の遺伝子型(1%以上の頻度を有するもの)が解析されており、NM、IM、PMに分類されていること。

・各活性型で3名以上の被検者が存在すること。薬物曝露量が、(a)用量により正規化された定常状態の血漿中濃度、(b)用量により正規化された時間-血漿中濃度曲線の面積、(c)薬物の総クリアランス量の逆数、のいずれかによって測定されているもの

・各薬剤について、PM群、IM群、もしくはPM群+IM群について、各群の平均薬物曝露量をNM群の平均薬物曝露量で割って平均比率(RoM)を抽出した。これによりPM群ないしIM群ないしPM群+IM群がNM群の何倍薬剤に曝露されたかの指標が得られる

結果

・94 studies(N=8379 )が解析対象となった

CYP2D6遺伝子多型と薬物曝露の関係

・CYP2D6遺伝子型による分類で、NM群との差が比較的大きかったものとして、アリピプラゾールはPM+IM群対NM群のRoMは1.48(CI 1.41-1.57)と有意差あり。ハロペリドールはPM群対NM群でRoMは1.68(CI 1.40-2.02)と有意差あり。リスペリドンはPM+IM群対NM群のRoMは1.36(CI 1.28-1.44)と有意差あり。パロキセチンはIM対NM群でRoMは3.50(CI 2.52-4.85)(ただしわずか3 studies、N=41と小規模の結果)と有意差あり。

・NM群との差がより小さかったものとしては、CYP2D6遺伝子型による分類で、ハロペリドールはIM群対NM群でRoMは1.14(CI 1.05-1.25)。ベンラファキシンはIM+PM群対NM群でRoM 1.19(CI 1.09-1.29)

・その他Nは少ないものの有意差がみられたものとして、クエチアピンではPM群対NM群でRoM 1.32(CI 1.10-1.58 N=198, 1 study)、ミルタザピンではIM群対NM群のRoM 1.39 (CI 1.23-1.57)、パロキセチンではPM群対NM群でRoM 5.13(CI 3.82-6.87 N=73, 2 studies)などとなった

CYP2C19遺伝子多型と薬物曝露の関係

・エスシタロプラムではPM群対NM群のRoM 2.63(CI 2.40-2.89)、セルトラリンではIM群対NM群のRoM 1.38(CI 1.27-1.51)、エスシタロプラムについては、IM群対NM群のRoMは統計的有意差なし

・その他studyが2以下で有意差がみられたものとして、クロザピンではPM群対NM群のRoM 1.92(CI 1.32-2.79 N=78, 2 studies)、セルトラリンではPM群対NM群のRoM 2.70(CI 2.15-3.39, N=577, 2 studies)、ベンラファキシンではIM群対NM群のRoM 1.19(CI 1.11-1.31、N=669, 1 study)、ベンラファキシンのPM群対NM群のRoM 2.13(CI 1.54-2.93 N=443, 1 study)

まとめ

・アリピプラゾールについてはCYP2D6遺伝子多型において日本人で約半数を占めるIM群においてNM群と比較して曝露量が約50%多くなる可能性がある。

・クロザピンについては、CYP2C19遺伝子多型において日本人で約20%存在するPM群においてNM群と比較して曝露量が2倍になる可能性がある

・ハロペリドールについては日本人はPM群が1%以下と少ないため、CYP2D6遺伝子多型による曝露量の違いはあまり気にしなくてもよさそう

・リスペリドンはCYP2D6遺伝子多型において日本人の約半数を占めるIM群において曝露量が30%程度多くなる可能性がある

・エスシタロプラムはCYP2C19遺伝子多型において、日本人で約20%存在するPM群においてNM群と比較して曝露量が約2.6倍になる可能性がある。日本人の約半数のIM群はNM群と比較して曝露量が40%近く多くなる可能性がある

・ミルタザピンについては、CYP2D6遺伝子多型において、日本人で約半数を占めるIM群において、NM群と比較して曝露量が1.5倍になる可能性がある

・パロキセチンについてはNが少ないものの、CYP2D6遺伝子多型において日本人の約半数を占めるIM群において曝露量が約3.5倍になる可能性がある

・セルトラリンについては、CYP2C19遺伝子多型において、日本人で約20%存在するPM群においてNM群と比較して曝露量が2.7倍になる可能性がある。約半数を占めるIM群においてはNM群と比較して曝露量が40%近く多くなる可能性がある

・ベンラファキシンについてはCYP2D6遺伝子多型の影響をあまり受けないようである(20%未満)

コメント

・パロキセチンとエスシタロプラムのCYP2C19のPM群(日本人の約20%)におけるRoMの大きさが気になるところです。エスシタロプラムは用量依存性にQT延長をきたしうるので、特に高齢者において要注意かもしれません。


文献1)Ota T. et al. Int J Med Sci. 2015 Jan 1;12(1):78-82. doi: 10.7150/ijms.10263. eCollection 2015.
文献2)立石智則 心電図 2006:26 :201-210
文献3)久保田隆廣ら 薬物動態 2001:16(2):69-73
文献4)Milosavljevic F. et al. JAMA Psychiatry. 2020 Nov 25. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2020.3643. Online ahead of print.