院長ブログ

  • 里親と施設ケア 2022年09月19日

    ・PNASにかなり倫理的に実現が困難と思われるルーマニアでのRCTの結果が報告されていました(文献1)。何らかの理由で養護施設に入所した子供を里親ケア群と施設ケア群とに無作為割付し、18歳時点でのIQを評価したものです。

    ・倫理面への配慮として、どちらの群に割付されても、そのケアにあたって相応の資金援助を行ったとのことです。

    ・結論としては里親ケア群は施設ケア群と比較して有意に総IQが高いというものでした

    ・ただし、里親ケアでも施設ケアでも養育者によるケアの質が高いことが最も重要なmediatorであり、どちらの環境であっても質の高いケアを提供することがIQにとって重要であるということが示唆されました。

    ・質の高いケアの提供のためには何が必要なのかということも考えさせられる内容になっています

    里親制度とIQ

    背景


    ・低資源環境で育つ子どもたちの認知能力を強化するための早期介入は有用であるが、その恩恵は一般的に時間とともに薄れることが報告されており(J. Res. Educ. Eff. 10, 7–39 (2017).)、IQの向上は一過性である可能性が指摘されている。

    ・早期介入による効果が一過性にもので終わるか持続するかどうかは、そのような介入のための資金配分に大きな影響を与えうる

    ・家庭的環境で養育された子どもの認知機能は集団的環境で養育された子どもより優れているという報告はあるが(Science 318, 1937–1940 (2007).)、これらの養育が成人期初期まで長期的に効果を持つのか、ケアの質がこの優位性に関与するのか、人生のより早い時期に家庭的養育環境ですごした方が有利なのか、同じ養育環境を子ども時代の長期にわたって継続する必要があるかどうかは分かっていない。

    ・ブカレスト早期介入プロジェクト(BEIP)は、ルーマニアの何万人もの施設入所児童のケアに関する緊急の意思決定ニーズに対応するため、無作為割付デザインを用いて、早期剥奪体験後のケア強化と18歳時点でのIQとの因果関係を検討した。

    ・施設に暮らす幼い子どもたちは,ベースライン時の平均年齢が22カ月で評価され,質の高い里親への割付群(FCG)または施設ケアの継続群(CAUG)のいずれかに無作為に割り付けられた。

    ・研究者らはルーマニアの共同研究者とともに里親ネットワークを構築、維持し,資金を提供した。子どもたちが54カ月になった時点で研究者らによる里親ネットワークの管理は終了し、里親らの管理は地方政府に移管された。その後成人期早期まで追跡され、成人期早期でのIQが評価された。

    対象と方法

    ・合計135名の子供がエントリー。養護施設の子供は95名(うち46名が施設ケア継続、49名が里親ケア)、比較群(対照群ではない)として40名の地域在住の子供

    ・参加者は平均18.74歳までフォロー

    ・里親制度に興味のある成人にスタッフがコンタクトをとり、身元確認をされた後、ブカレストのNGOより施設で暮らす子どもの典型的な行動や習慣などについての研修を受けた。その後子供たちが30カ月、42カ月の時点でケアの質についてObservational Record of the Caregiving Environmentにより評価された。この評価は養育者(施設では子供がもっとも好きな養育者)と子供の間の様子を録画した際の行動により評価された。評価は感受性、発達への刺激、子どもへの肯定的な評価、平板化した感情(マイナス評点)、無関心(マイナス評点)の質的スコアを平均化することで作成。

    ・42か月時点で参加者はストレンジ・シチュエーション法(strange situation procedure)により愛着の質の評価をうけ、愛着の安全性を1点(安全性なし)から9点(最も安全)まででコード化した。

    ・無作為化後の数年間に、多くの子どもたちが養育先の転換を経験した。 施設ケアの子どもの多くは、最終的に新しく作られた政府主催の里親に預けられた。里親群に割付された子どものなかには,後に施設ケアに戻された子どももいたが,両群から実親に再会した子どももいた。

    ・49人の里親ケアの子どもたちについても、里親中断となったケースがあり、18歳まで継続的に研究jグループの割付した里親の元にとどまった場合、安定した里親ケア(FCG-stable;n = 20)とし、18歳までに一つ以上の養育先の変更を経験した子どもは里親中断群(FCG-disrupted;n = 28)とした。

    ・18歳時点で認知機能がWISC-IVにより評価された

    結果


    ・ITT解析の結果、里親ケア群の18歳時点での総IQは、施設ケア群よりも平均して9.00ポイント高かった。ベースライン時点の発達指数(DQ)スコアを共変量としてITT解析を再実行しても18歳時点での総IQの群間有意差は不変であった

    ・知覚推理(perceptual reasoning)やワーキングメモリーでは統計的に有意な差は認められなかったが、里親ケア群は、通常ケア群よりも、言語理解や処理速度において有意に高いスコアを示した

    ・ケアの質については、里親ケア群が施設ケア群より有意に高かった

    ・幼児期にケアの質が高かった人は、成人期早期の総IQ得点が有意に高かった

    ・媒介分析により里親ケアは早期養育の質を介して18歳時の総IQに有意な間接効果を持つことが確認された

    ・ケアの質を共変量としてモデルに含めると、総IQに対する割付群の効果は有意ではなくなった。

    ・ケアの質の代わりに、いくつかの追加の媒介因子(愛着の安全、身長、体重、頭囲、運動発達、ストレス因子に対するコルチゾール反応性)の影響を評価した。これらのうち、42カ月時点で評価された愛着の安全性だけが、18歳時の総IQに対するITT効果の統計的の有意な媒介因子であることがわかった。

    ・これらの結果は、介入が養育関係の改善によって認知能力を向上させたことを示唆しており(養育の質は総IQに対する介入効果の49%を説明し、愛着の安全は総IQに対する介入効果の71%を説明した)、より質の高い養育関係が、介入が成人早期の総IQに影響を与える機序を説明しうる要因であることを示唆している。

    ・里親の元に移った年齢と18歳時点の総IQとの間には小さな負の相関があった。人生の早い時期に里親ケアを開始した人は、総IQが高い傾向があった

    ・施設養育歴のある子どもと施設養育歴のない子どもを比較したところ、施設入所歴のある参加者の18歳時点での総IQは、比較群のスコアより平均26.21ポイント低かった。人生の早い時期に質の高い養育環境に置かれたとしても、人生早期の心理社会的剥奪の認知機能への持続的な影響を完全に改善するには不十分であることが示唆される。

    議論

    ・早期環境を改善することで持続的な効果が得られるという証拠がこれまでも報告されている。Carolina Abecedarian Project,は、高リスクの幼児を質の高い早期教育および/または通常の小学校教育に無作為化して研究し、早期介入を受けた人は、成人期初期(21歳)にIQスコアと教育到達度が高いことを明らかにした(Appl. Dev. Sci. 6, 42–57 (2002))

    ・同じく、Perry Preschool Projectでは質の高い就学前教育と週1回の教師による家庭訪問が行われ、54歳時点の実行機能は、介入を受けた者の方が対照群より優れていることが報告された( https:/doi.org/10.3386/w29057. )

    ・今回の結果は、幼児期を通じたケアの質も成人早期のIQに重要である可能性があることを示唆している。しかし,IQの低い子どもは不安定な環境に置かれるリスクが高いため,養護施設でのケアの質とIQとの関連性を解釈することは困難でもある

    ・当初は成功した多くの介入の効果が長続きしない理由の一つは、質の高い養育環境が長期にわたって持続しないことであるかもしれない。つまり、介入終了後に遭遇する家庭や学校の環境が、介入中に経験したものより豊かでなくなることによって説明される可能性がある

    ・家庭をなくした子供たちにとって、長期的な質の高いケアの提供を行うことが、養育を必要とする子どもの認知発達を高める最も有利な戦略であることを示唆する

    ・Limitationとして、サンプルサイズが小さかったこと。認知機能に関連する他のいくつかの因子(出生前のケアや出生前後の栄養など)を調べることができなかったこと。また成人用の知能検査ではなく、WISCを用いたこと(IQの低い参加者に対応するため)でfloor effectが懸念されること

    コメント

    ・ルーマニアでの結果であるため、日本の状況にそのまま適応することはできないかと思われますが、ケアの質を高めるには十分な予算配分と適切な人員配置も重要なことかと思われます。

    文献1:Humphreys KL et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2022 Sep 20;119(38):e2119318119. doi: 10.1073/pnas.2119318119. Epub 2022 Sep 12.

  • レセルピン 2022年09月07日

    ・レセルピンとうつの関係についての系統的レビューが出ていたので読んでみました(文献1)。VMAT2に作用する点はバルベナジンと同じですね。

    ・いろいろ参考にはなったのですが、途中で了解困難な議論をされていて、そこから先に読み進めなくなってしまいました。

    ・あと途中の文章も、引用元の論文を読んでみると?な記載もいろいろあり、自分で調べてまとめなおしたりなどしています。


    背景


    ・レセルピンはRauwolfia serpentinaという植物の根から抽出されるアルカロイドで、インド医学で昔から統合失調症などに使われてきた

    ・その後西洋でも降圧薬として使用されてきたが、1950年代初頭からの副作用としてのうつ病の報告によりその使用頻度は激減した

    ・レセルピンはドーパミンやノルエピネフリンなどのカテコールアミン貯蔵小胞に不可逆的に結合し、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT-2)を不可逆的に阻害することにより、カテコールアミンを著しく減少させる

    ・レセルピンのうつ病誘発作用については、疑問視する声もある。その1つは、レセルピンがうつ病を誘発するという主張は、精神科医以外の医師による観察に由来しており、経験のある精神科医が評価した場合、患者がうつ病の診断基準を満たすことはほとんどなかった点である。例えば、アカシジアはレセルピンの副作用であり(他の神経遮断薬と同様)しばしば気分エピソードと誤診される。しばしばレセルピンは初期には高用量で使用されており、アカシジアやジスキネジアを引き起こしていた。

    ・以前のレビュー(J History Neurosci 12: 207–220.)においては、症例報告では14 studies(61症例)について精査され、原著論文でのうつ病発症率は66%とされていたが、DSMに照らし合わせて考察が可能であった40症例においてうつ病とされたのは20%であった。また集団での11 studies(主に高血圧に対する処方でのうつ病発症率。副作用として報告されたもののためきちんとした診断基準に基づくものは乏しい)について解析すると全体の中央値は10%程度であったことが報告されている

    対象と方法

    ・レセルピンの効果を、任意の用量と期間で評価したもの。参加人数が10人以上

    ・対照群が設定されたもの

    ・うつ症状についてのアウトカムが評価されたもの

    ・35 studiesの系統的レビュー

    結果

    ・35 studiesのうち49%は観察研究で、26%がRCT、17%が非ランダム化介入試験、8%が横断研究

    ・43%の試験は高血圧患者を対象にしたもの、25%は様々な精神疾患を対象。11%はうつ病を対象としたもの、2 studies(6%)はコカイン依存、2 studiesは統合失調症圏、1 studyは不安、1 studyは健常者、1 studyは不安とうつを対象

    ・20 studiesにおいて、群間でのうつ症状出現率を比較。

    ・群間比較を行った20 studies(n=2071)のうち8 studies(n=711)においてレセルピン投与群は非投与群よりも数値的に高い(統計的にではなく)うつ症状(重症度尺度やエピソード回数)を報告し、6 studies(n=1077)では投与群と非投与群とで差がなく、6 studies(n=283)でうつ症状がレセルピン投与群の方が非投与群よりも数値的に軽度であったことが報告されている

    ・健常者72名を対象にレセルピン、アリピプラゾール、ハロペリドール、プラセボを1週間投与しHAM-D変化量をみた試験では、うつ症状出現率はアリピプラゾール6名 (33.3%)、ハロペリドール 3名 (16.7%)、レセルピン 10名 (55.6%)、プラセボ群 1名 (5.6%)でレセルピン群が最も多く、HAM-D得点は8日目でレセルピン群はプラセボ群より有意に悪かった

    ・統計検定は行われていないが、数値的にうつ症状出現の割合が対照群より高かったのは、観察研究においていずれも高血圧患者を対象とした試験における植物根抽出物などとの比較試験が2つ(うつ症状出現率:レセルピン群39%対根抽出物群32%、レセルピン群18%対植物根抽出物8%)、クロニジン、プラセボとの比較試験が1つ(レセルピン群10%対対照群0%)、高血圧患者におけるプラセボ対照介入試験が1つであった(レセルピン群19%対プラセボ群0%)。

    ・うつ症状出現率において対照群と明らかな差がなかったのは、6 studiesであり、1つは様々な精神疾患(多くは精神病圏)を対象としたクロルプロマジン対照試験(レセルピンn=63、クロルプロマジン n=89、2剤をクロスオーバーで投与(1剤目が無効のため)n=27)。両薬剤ともに不安、緊張、過活動、不眠などの症状改善に効果がみられ、うつ症状は両薬剤に反応せず、一方、強迫観念を伴ううつ症状は、強迫観念の内容は変化しないが、緊張緩和によって間接的に恩恵を受けることがあったと報告されている(Am J Psychiatry 112: 782–787.)

    ・不安を有する患者71名を対象とした6週間のプラセボ対照クロスオーバー試験において42名が完遂し、OC解析では、42名中31名が改善し、改善割合はレセルピン群とプラセボ群で有意差なし(AMA Arch Gen Psychiatry 81: 392–398.)

    ・症例対象研究において60歳以上で1年以上レセルピンを投与されている787名と非投与コントロール群787名でうつ症状尺度を評価したところ、群間有意差はみられず、レセルピン投与群の87.6%、対照群の88.2%でZung Self-Rating Depression Scaleで52点以下であった(J Geriatr Cardiol. 2019 Aug;16(8):608-613)。

    ・観察研究において高血圧でレセルピンを投与された44名において4名の患者が重度うつ症状を呈し、うち3名が妄想を伴うメランコリアであった(Lancet. 1955 Jul 16;269(6881):116-7)

    ・コカイン依存患者にレセルピン(n=60)ないしプラセボ(n=59)を投与し12週間比較したRCTにおいて依存症改善度は有意差なし。HAM-Dについても群間有意差なし(Drug Alcohol Depend. 2007 Dec 1;91(2-3):205-12.)

    ・高血圧患者466名についてレセルピン+利尿剤ないし利尿剤単独、β遮断薬+利尿剤、無投薬の4群比較についての前向き観察研究で、Zung SDS 50点以上のうつ症状を有する割合は全体で35.4%であり、レセルピンないしβ遮断薬を投与中の患者のうつ症状を有する割合は、無投薬ないし利尿剤投与群と比較して有意差なかった(J Fam Pract. 1991 Nov;33(5):481-5.)

    ・うつ症状ないし不安症状を有する外来患者67名を対象にプラセボ対照で約6週間全体的な症状改善度を評価したところ、治療者評価、患者評価共にレセルピン群で有意にプラセボ群より良好であった(Lancet. 1955 Jul 16;269(6881):117-20.)

    ・3週間以上の三環系抗うつ薬治療に反応しなかった内因性うつ病患者14名を対象にプラセボ対照で2日間レセルピン(n=8)ないしプラセボ(n=6)を投与し、HAM-D変化量を4日目に評価したところ、HAM-D変化量はレセルピン群 18.87点、プラセボ群 6.00点で有意差あり(Psychiatr Clin (Basel). 1975;8(3):109-14. )

    問題の箇所

    ・論文p8に”When pooling depression rates after reserpine across all available studies, the rate was 27% for participants with psychiatric illnesses at baseline while the rate for non-psychiatric patients was 23% . What differed more between these participant groups was the rate of depression in placebo treated participants; 10% across eight psychiatric population studies (n=182) and 1% from six non psychiatric studies (n=316). If then calculating the percentage difference overall between participants in reserpine compared with control arms, an increase in depression of 17% is found in populations with mental illnesses (27% reserpine vs 10% placebo) and the increased rate of depression in populations without mental illnesses is 22% (23% reserpine vs 1% placebo). Speculatively, this could support the view that reserpine is less depressogenic in people with existing psychiatric illnesses”
    と書いてあって、なぜこのようなことをしたのか理解できず前に進めなくなりました

    ・このような単純にpoolして比較する処理は、いろいろな前提条件がクリアできないとしてはならないことだと思われます。simpson's paradoxとしても知られていることで、統計学的に間違いである可能性のある推論(ここでは最後の一文の”Speculatively, this could support the view that reserpine is less depressogenic in people with existing psychiatric illnesses”)につながるリスクがあるからで、特にこの総説に含まれた論文のように異質性が極めて高いことが想定される場合にはさらにこういうことはしてはならない手法になります。

    ・その理由を以下のような簡単な例で確認してみます。レセルピンの副作用としてのうつ症状出現率を精神疾患がある群と、ない群とで、それぞれ2つの試験を行い(ただしそれらの試験は各々評価尺度や患者背景など異なるものとする)、以下のような結果を得たとします。ただし論文にあるように、単純にpoolした精神疾患ありの群では対照群との差が17%となるように設定し、精神疾患なしの群では対照群との差が22%になるように数値を調整してあります。

    ・精神疾患ありの群を対象とした場合のうつ症状出現率
        レセルピン プラセボ
    ・試験A  40/146  1/10
    ・試験B  5/20   8/80

    ・精神疾患なしの群を対象とした場合のうつ症状出現率
         レセルピン プラセボ
    ・試験C  22/80    8/10
    ・試験D  10/20   12/190

    ・このような結果が得られた場合に、単純に各試験のうつ症状出現率をpoolすると以下のようになります。

    ・精神疾患ありの群で、試験Aと試験Bのレセルピン投与群での合算=45/166=27%、プラセボ群での合算=9/90=10%。レセルピン群とプラセボ群との差は17%

    ・精神疾患なしの群で、試験Cと試験Dのレセルピン投与群での合算=32/100=32% プラセボ群での合算=20/200=10%。レセルピン群とプラセボ群との差は22%

    ・というわけで、論文では精神疾患なしの群の方が、対照群との差が数値的に大きい(17%対22%)ので、精神疾患を有する群の方がレセルピンによるうつ症状誘発作用は乏しいと推察していますが、このような推察は正しいでしょうか。

    ・結論からいうとこれはまずい方法となります。このような形でpoolする議論が問題なく行えるためには、すべての試験で患者集団が均一(人口統計学的な特性や合併症など)で、うつ症状の評価尺度や評価者、投与量などすべてが同じとみなせるという仮定が成立する場合だけで、実際にはそのような仮定はなりたちません。

    ・ではどのようにするのが望ましいのかというと、まず試験毎に相対リスクなどに変換し、適切な方法で重みづけをして(random effects modelなどで)でpoolする通常のメタ解析の方法が適切ということになります

    ・実際にここに示したデータで強引に変量効果モデルでメタ解析を行うと(試験数が少ないので通常はする意味がないのですが)、精神疾患あり群のうつ症状発現の対プラセボの相対リスクの点推定値は2.55(95% CI 1.57 to 4.14)、精神疾患なし群の相対リスクの点推定値は1.63(95% CI 0 to 7.37E+8)となり、両群間の有意差はなく(p=0.78)、どちらがうつ症状出現のリスクが高いなどという議論はできないことがわかります(ただし点推定値だけみると精神疾患あり群の方がリスクの大きな数字となりうる)。つまり論文で示されていた”Speculatively, this could support the view that reserpine is less depressogenic in people with existing psychiatric illnesses”という推論が全く成り立たず、その逆が真である可能性もあることがわかります。

    ・簡単にできるのでついこのような単純な合算をしたくなる気持ちもわからなくもないのですが、通常はしてはならない処理ということになります

    文献1:Strawbridge R. et al. J Psychopharmacol. 2022 Aug 24;2698811221115762. doi: 10.1177/02698811221115762. Online ahead of print.

  • ガイドラインに思うこと 2022年08月24日

    ・今年に入って2つの主要なうつ病ガイドラインが改訂されています。VA/DoDとNICEです。NICEはmajor revisionでかなりSDMや心理療法の重要性などを前面に押し出した内容になっています。重症群に対しても薬物療法は1つの選択肢にすぎず、心理療法単独も選択肢になっている点などが特徴です。勉強会用にまとめておこうと、ついでの2020年に改訂されていたRANZCPも見てみたのですが、内容がものすごく尖っていて驚きました。

    ・どのような点に驚いたかは主に2点です。

    ・1点目はKraepelinが提唱したうつ病と躁うつ病を単一精神病とみなし、躁症状、抑うつ症状は気分変調、思考障害、意思障害の3つの成分から構成され、3成分すべてが抑うつ方向または躁方向に揃わずに、異なった成分として組み合わされると混合状態となるとしたという概念を継承し、ACEモデルという活動性、認知、感情の3つの構成要素から気分変動が構成されるとみなすモデルを全面的に採用している点です。akiskalの提唱する境界性パーソナリティ障害や気分循環症などを同一の双極スペクトラム上に定義する双極スペクトラム概念とは異なると断りが入れてありますが、実証されていない仮説を病態モデルとしてガイドラインが採用していることに驚きました。ただこのモデルの採用には根拠があり、より広い範囲の症状に同等の重要性を持たせることで、治療経過における寛解や回復という目標が、症状の広い範囲にわたって評価されるようにしたということで、より精緻な症状評価をしましょうというコンセプトのようです。この点は良い方向性かと思います。

    ・2つ目は、うつ病の治療を行うにあたって、生活指導や心理教育、社会的支援の他に、全例に対してCBTないしIPTなどの心理療法を行う、とされている点です。薬物療法はその上のオプションという位置づけになっています。心理士がコストを十分にとれなかったり、常勤化がまだまだ進んでいない日本の現状ではまず無理な話でしょう。このように心理療法の重要性が押し出されている背景にはCuijpersら(World Psychiatry 2020;19:92–107)の報告にあるように、急性期治療において心理療法単独は薬物療法単独と比較して治療効果に有意差がないというメタ解析結果(併用が最も良い)があることなどが要因でしょう。ただし最近では以前の記事で触れたように、薬物療法に関しても治療効果が大きな一群が存在しうるため、いかにこのようなサブグループを同定するかが、今後の重要な方向性の1つであることは間違いありません。

    ・というわけで、精神科臨床の場に今後心理士の方がもっと参画し、よりよいサービスを提供できるように制度を整えていくことが世界的なガイドラインの潮流からしても必要ではないでしょうか。うつ病のみならず、神経症圏の各疾患についても治療のfirst lineに心理療法があげられていることから、精神科医も心理療法に習熟するように、しかるべきトレーニングの場を整備することも必要かと思います。NICEガイドラインでは心理療法の実施に当たっては全ての治療者がスーパービジョンを受け能力の監視と評価を受けることとされています。

  • 抗うつ薬の有効性に関して 2022年08月14日

    ・抗うつ薬の有効性、特に軽症圏に関する理解は、Gibbonsら(Arch Gen Psychiatry. 2012 Jun;69(6):572-9.)の報告のfig.1にみられるように、プラセボ効果がかなり大きく、環境的、精神療法的介入が重要なものだと理解していました。

    ・しかし今回のStoneらのBMJ論文(BMJ. 2022 Aug 2;378:e067606. doi: 10.1136/bmj-2021-067606.)によりその考えを一部改めるべきことがわかりました。

    ・抗うつ薬の効果は全ての人に一様ではなく、大きな効果を発揮し得る一群が存在する、あるいはプラセボであればほとんど変化がない、もしくは悪化する一群について、そのような状況を変化させうる効果を発揮しうる可能性がある、ということがいえそうです。

    抗うつ薬の有効性

    背景


    ・アメリカ人の約13%が抗うつ薬を使用しており、先進国における抗うつ薬の使用は2000年から2015年にかけて倍以上になっている

    ・うつ病や自殺には多くの要因が影響するが、抗うつ薬の使用が広がれば、これらの罹患率が改善されると期待されていた。それにもかかわらず、一般的に、うつ病や自殺率は特に若い年齢層で増加しており、抗うつ薬の効果の大きさと有効性についての決定因子を理解することの重要性が高まっている。

    ・メタ解析では、薬物群とプラセボ群との間の平均差は小さいことが示されており、薬物療法の有効性に関しての議論が続いている

    ・薬物療法の効果については治療反応性に関与しうる要因(例えばベースラインの重症度など)について一様に一定の効果をもたらすのか(分布の形状が変化せずに平均の小さな差として現れるのか)、もしくは特定の部分集団により大きな恩恵をもたらすのかよくわかっていない

    ・今回、1979年から2016年までの間にFDAに提出されたうつ病に対する抗うつ薬単剤療法についてのプラセボ対照RCTのindividual patient dataを用いて、患者レベルの反応の分布について、混合モデルで解析し、治療反応性が全体的な小さな変化によるものなのか、それとも治療反応を示すサブグループの反応によるものなのかを解析した。

    ・また出版年代によって抗うつ薬の反応性やベースラインの重症度がどのように変化したかも解析した

    対象と方法

    ・232 RCTs、n=73388

    ・すべての評価尺度をHAMD17得点に換算

    ・混合効果モデルにより各参加者のベースラインからの変化量のプラセボとの差を推定

    ・年齢、性別、ベースラインの重症度などと治療群との交互作用についても評価

    ・finite mixture modelingにより薬物療法による改善が、プラセボに対して広く均一な改善度の増加によるものか、それとも局所的に改善度の異なる組み合わせによるものかを評価した

    ・モデルの当てはまりの良さを、正規分布、右側に歪んだ対数正規分布、左側に歪んだ対数正規分布で比較し、AICおよびBICを最小化するもので選択した

    ・ベースラインの重症度は、18歳未満の参加者、特に12歳以下の参加者でかなり低くなっていた。成人の試験で16歳、17歳の患者が含まれた場合、ベースラインの平均重症度は20.3点であったが、小児の試験では平均重症度は17.7点であった。最低年齢が12歳または13歳の小児試験では、ベースラインの平均重症度は18.8点であった。12歳未満の参加者が含まれる試験では、12歳以上の参加者のベースラインの平均重症度は17.3点であった。

    ・変量効果モデルで評価したベースラインから変化量の平均は、全体として実薬群で9.8点(95%CI 9.5~10.0)、プラセボ群で8.0点(7.8~8.3)の改善。実薬群とプラセボ群の差は1.75点(1.63~1.86)であった。

    ・性別を唯一の共変量としてモデルに含めた場合、プラセボに対する性別による反応の差はほとんど認められなかった

    ・ベースラインの重症度を唯一の共変量とした場合、投薬群およびプラセボによる改善は、ベースラインの重症度が高いほど増加した。プラセボに対する投薬群の優位性は、ベースラインの重症度が1点上がるごとに0.09点(95%CI 0.06~0.12)ずつ増加した。ベースラインの重症度が16点(第5百分位点)のときの投薬群とプラセボの推定差は1.1点であり、ベースラインの重症度が29.6点(第95百分位点)では2.5点まで増加することが示された。

    ・年齢を唯一の共変量とした場合、成人では年齢とプラセボに対する反応性の間に線形関係が認められ、ベースラインからの改善は年齢が10歳上昇するごとに0.30(95%CI 0.22〜0.38)点減少することが示された。成人の場合、プラセボに対する反応も年齢とともに減少した。。

    ・年齢、性別、およびそれらの交互作用を含めると、男女ともプラセボに対する反応は同程度で、年齢とともに減少したが、実薬群では年齢とともに男女間の差は10年当たり0.13(95%CI 0〜0.25)点増加した。女性では、30歳においてベースラインからの最大の改善幅は10.1点と推定され、62歳において実薬群とプラセボの最大の差は2.2点と推定された。男性では、22~23歳の間でベースラインに対して最も改善したのは9.8点、薬剤とプラセボの差が最も大きかったのは57歳の時で1.7点と推定された。

    ・年齢、ベースラインの重症度、およびそれらの交互作用を含めると、これらの因子は、実薬群とプラセボ群の両方、および実薬群とプラセボの差について、ベースラインからの変化の強い予測因子であった。薬物、プラセボともに、ベースラインからの改善度はベースラインの重症度とともに増加し、年齢とともに減少した

    ・児童思春期(18歳未満)と成人を直接比較すると,調整前の実薬群とプラセボ群の差は,成人の方が1.12点大きかった(95%CI 0.66~1.57). ベースラインの重症度を調整すると、実薬群とプラセボ群の差は成人で0.64点(95%CI 0.17~1.12)大きくなった。

    ・試験実施の年代による変化については、2013年からは、ほとんどの試験が小児で行われたため(参加者の79%が18歳未満)平均年齢が急降下していた。ベースライン時の変量効果による平均重症度は、1979年から1995年の間に1.54点(95%CI0.47~2.61)減少し、2013年以降にさらに減少したのは、ほとんどの臨床試験が小児で実施されたためであった。治療終了時の重症度は,実薬群とプラセボでわずかに減少しているように見えたが,統計学的に有意でなかった。年齢,性別,ベースラインの重症度を調整しても,治療反応性の試験実施の年代による変化は有意ではなかった

    ・実薬群では、47243人中41790人(88.5%)が何らかの改善を示し(プラセボ群では24150人中20376人(84.4%))、中央値は9.8点(プラセボ群は7.2点)。

    ・有限混合モデルによる解析の結果、実薬群とプラセボ群の反応の最適なモデルは、実薬群とプラセボ群を3つの重複する正規分布の組み合わせで表現するモデルあることがわかった。つまり各群は、最大の治療反応を示す群(Large response群)、中等度の反応を示す群(Non-specific response群)、反応が最小ないし悪化群(minimal response群)の3群に分類された。

    ・実薬群ではLarge response群が有意にプラセボ群より多く(実薬群24.5% vs プラセボ群9.6%)、Large response群におけるベースラインからの変化量は平均16点(SD4.22点)、Non-specific群では実薬群の63%、プラセボ群の69%が属し、ベースラインからの平均変化量は8.94点(SD6.96点)、minimal response群では実薬群の12%、プラセボ群の21%が属し、ベースラインからの平均変化量は1.68点(SD 2.99点)

    ・年齢、性別、ベースラインの重症度で調整した有効薬物間の効果量の差については 最も大きな効果を示した薬剤はアミトリプチリン、クロミプラミン、ベンラファキシンであった。

    議論

    ・HAMD17の改善度における抗うつ薬の標準化平均差(効果量)は0.2313~0.34とした通常のメタ解析と一致し、成人では1.82点で、標準化平均差は0.24であった。小児では、実薬群のプラセボ群に対する平均差は0.71点で、標準化平均差は0.13であった。標準化平均差が比較的小さいのは、年代の経過とともにプラセボ反応率が増加するためとする報告もあるが、本研究ではこの仮説は支持されなかった

    ・参加者は3つのタイプの反応集団のいずれかに属することがわかった。実薬とプラセボを割り当てられた参加者の約2/3は,non-specificな中等度の反応を示した。しかし、薬物を投与された被験者の方が大きな反応を示す割合が多く(24.5% vs プラセボ 9.6%)、最小の反応(12.2% vs 21.5%)を示す割合が少なかった。したがって、プラセボに対する抗うつ薬の優位性は、Large responseとなる可能性の増加またはMinimal responseとなる可能性の減少として、少数の患者(25%程度の患者)に影響すると理解するのが最も適切である

    ・Large response群の90%以上はNICE基準では閾値以下まで改善した

    ・抗うつ薬の投与は症状軽減において(プラセボ反応を超える)わずかで一様な利益をもたらすというよりも、抗うつ薬により短期的に大きな症状軽減をもたらす一群の存在の可能性、あるいは他の方法では起こらなかったであろう短期的な症状重症化の継続を防ぐ可能性がわずかに高まることを示唆している。

    ・ベースラインの重症度と抗うつ薬の効果との関係に関するこれまでの解析では、効果はゼロから中程度(傾きは約0.3)であり、これらの効果は患者経験する症状変化を反映したものではなく、評価尺度の問題に起因している可能性があることがわかった( Lancet Psychiatry 2019;6:745-52 )。

    ・ベースラインの重症度の影響は統計的に有意であったが、その影響は小さい(傾きは約0.1)ことがわかった。 この知見は、部分的には抑うつ度の低い参加者における改善の天井効果によるものかもしれないが、症状の重症度が高い参加者において、薬物反応性の表現型が特異的になる可能性が高くなることに起因しているのかもしれない。

    ・NICEのガイドラインに沿って、患者の希望と一致する場合には、基礎に気分変調症(持続性抑うつ障害)がない場合には、軽度から中程度の急性うつ病に対してよりリスクの低い治療から始めることが望ましいと思われる。

    Limitation


    ・STAR*D(Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression)試験は、うつ病患者の約78%が臨床試験から除外されていることを明らかにした。自殺企図や合併症症例は除外されるため、一般集団を反映していない可能性がある

    ・HAMD17は臨床試験における抑うつ症状の変化を評価する方法として批判されている。しかし、MADRSやChildren’s Depression Rating ScaleはHAMD17と強い相関があり、HAMD17と他の尺度を用いた研究では、ほぼ同じ大きさの推定値が得られていることがわかった

    コメント


    Large resoponse群あるいはMinimal response群をどのように同定していくのかが今後の課題になりそうですね。先日の記事とも関連しますが、fMRIなどを用いた治療反応性予測が今後進展することが期待されます

  • 配偶者へのサポートプログラム 2022年07月31日

    ・癌患者などの介護者、配偶者を支援するサポートプログラムとしてCOPEモデルによるものがあります。このCOPEモデルは創造性(Creativity)、楽観性(Optimism)、計画性(Planning)、専門家の情報(Expert information)の4つの柱からなるプログラムです。

    ・このプログラムについては、緩和ケア領域においてその介護者への介入が報告されており(Susan C McMillan et al. Cancer. 2006 Jan 1;106(1):214-22. doi:10.1002/cncr.21567.)介護者のQOLや負担軽減に有効であることが報告されていますが、今回はイランより乳癌患者の配偶者への有効性が無作為割付非盲検試験にて検討されました(文献1)

    乳癌配偶者のためのサポートプログラム

    背景


    ・乳癌患者の配偶者のストレスは高いことが報告されている(Sajadian A, et al. Iran J Breast Dis 2015;8:7-14)。介護者、特に患者の配偶者が感じる心理的問題には、介護の負担や癌患者の治療プロセスに伴うストレスが含まれる。

    ・乳癌女性の配偶者が経験する主な問題として、将来に対する絶望と不安、および孤独への恐れが挙げられている(Morgan MA, Cancer Nurs 2011;34:13-23.)

    ・乳癌女性の夫におけるストレスや介護負担などの心理的問題に特別な注意を払う必要があるにもかかわらず、この問題はイランのような発展途上国ではあまり注目されてこなかった 。そこで本研究では、乳癌患者の配偶者に対する支援プログラムの効果を明らかにすることを目的とした。

    対象と方法

    ・ステージ1-3の乳癌で、少なくとも1回の化学療法の既往がある女性の配偶者。

    ・25-60歳

    ・除外基準は精神疾患罹患、向精神薬の使用、薬物およびアルコール中毒、うつ病不安ストレス尺度(DASS-21)に基づく重度の不安(12点以上)および重度のうつ病(13点以上)。また、再発乳癌の女性の配偶者も除外

    ・無作為割付非盲検試験

    ・介入群 n=40
    ・対照群 n=40

    ・評価項目は、介護負担(Caregiver burden inventory :CBI)、うつおよび不安尺度(Depression anxiety stress scale :DASS-21)、カウンセリングヘの満足度(Client satisfaction questionnaire)、QOL(World Health Organization QOL brief version :WHOQOL-BREF))など

    ・介入は週2回、6セッション実施。最初の3セッションは小グループセッション(各グループ3〜5名)、次の3セッションは各個人と電話で行われた。

    ・小グループのセッションは45-60分。電話によるセッションが15-20分。

    ・介入セッションには、乳癌とその合併症に関する情報、さまざまな状況におけるストレス管理戦略、さまざまなレベルの問題解決スキルの教育、計画における創造性、楽観性、管理の強化、介護者の役割の定義、セルフケア、コミュニケーションスキルの強化、リラックステクニック、関連するホームワークが含まれていた。

    ・介入プロトコルの開発には、COPEモデル(creativity, optimism, problem-solving, and expert information:McMillan, S. C., et al. Cancer, 106, 214-222.)が採用された

    第1セッション

    ・セッションの目標とルールを説明。その後、乳癌について、治療の段階、薬の副作用、癌が患者のQOLに与える影響、病気の女性の生活における配偶者の役割、起こりうる出来事などを説明した

    第2セッション(Creativityセッション)

    ・治療過程における介護者の役割と、治療過程における配偶者の同席の重要性について説明。 その後、問題に対する解決策や対処方法を考えることにおける創造性の利点と技法を定義し参加者のモチベーションを高めた。

    ・創造性は、安全で推奨される臨床ケアの範囲内にとどめなければならないことを理解した上で、個人が創造性を発揮して課題を克服することが奨励される。問題を克服できる課題としてとらえることは、その人が目標に到達するのを妨げる可能性のある障害を特定することと同様に重要である。

    ・問題に対して創造的に考える方法としては、その問題について他の人に話してその人の見解を聞く、過去に同じような状況でうまくいったことを考え、それを新しい問題に合わせて修正する、目標が現実的かどうか評価する、ブレインストーミングを行う、などがある。最後に横隔膜呼吸を用いたリラクゼーション・エクササイズを行った。

    ・乳癌患者のQOLは様々な要因に左右されるが、家族、特に配偶者の感情のコントロールは、乳癌患者のQOLを向上させる重要な要因の一つであろう。配偶者へのCOPEモデルによるサポートプログラムの提供は、乳癌患者のQOLを向上させる可能性がある

    第3セッション(Optimismセッション)

    ・感情のコントロールと自己効力感の維持に不可欠な要素として楽観主義に関する内容が提示された。

    ・このセッションでは、楽観主義を利用する技法を定義し、楽観主義に関する誤解を修正した。

    ・楽観主義とは、起こっている良いことに焦点を当て、成功を期待し、前向きな自己思考、セルフトーク、セルフケアを実践することである。同時に、問題の深刻さを現実的にとらえ、状況に気を配ることも強調される。また、過去の問題解決の成功例やその時の状況を振り返ることで、現在の問題解決に自信を持つことができる。

    第4セッション(planning→論文ではproblem-solvingとなっているが、もともとのCOREプログラムの内容に基づいてplanningとした)

    ・プランニングについて説明され、その使用方法についてグループで議論された。このセッションではブレーンストーミング法を用いて、参加者の経験を利用しながら、プランニングの分野とそのテクニックを使うことについて議論した。

    ・問題解決のためには、計画を練ることが重要であり、計画を立てるには、まずすべての情報を収集することが重要である。また、思い込みを避け、客観的に問題をとらえることが、よりよい計画の策定につながる。

    ・また、計画を実行するためにどのようなリソースが必要かを考え、必要であれば専門家の力を借りることも重要である。計画が固まったら、それを実行に移し、うまくいかないときは調整することも、問題解決のアプローチとして大切なことであることなどが説明された。

    第5セッション(Expert Information)

    ・信頼できる情報源を見つけることと、タイムリーに情報にアクセスする方法を学ぶことが重要である。情報は医療従事者などの信頼できる情報源から得るべきである。

    ・専門家の助けを求めるタイミングを見極めることは、セルフケアと介護の両方において重要である。各医療従事者とコンタクトを持ち、専門家をよく知ることで、専門的な情報へのアクセスを容易にすることができる。

    ・患者や介護者に専門家の助けを求めるタイミングを教えることは、COPE介入の重要な部分である。その他、介護者の役割の定義、患者の生活における介護者の存在の重要性と影響、自分自身のケアの方法(状態を改善するための身体活動の増加、適切な栄養)、コミュニケーション能力の向上(新しい状況で使用する新しいスキルの獲得)、ソーシャルサポートに関する情報の提供とその関連要素の説明が行われた。

    第6セッション:最後に全体の総括が行われ質問に対する返答などが行われた


    ・対照群では初回セッションの前に45分間の化学療法の副作用に関するカウンセリングセッションで乳癌女性の介護者に焦点を当てた説明が行われた。倫理的問題を遵守するため、研究終了時に介入プロトコルの簡易版を小冊子として対照群に提供し、ケアやストレス管理に関する質問に回答した

    結果

    ・介入開始後6週時点での評価においては、介入群は対照群と比較して、介護者における介護負担(効果量0.70)、ストレス(効果量0.64)において有意な改善効果を示し、乳癌女性のQOL(効果量0.67)も有意に改善した。

    議論


    ・乳癌患者のQOLは様々な要因に左右されるが、家族、特に配偶者の感情のコントロールは、乳癌患者のQOLを向上させる重要な要因の一つであろう。配偶者へのCOPEモデルによるサポートプログラムの提供は、乳癌患者のQOLを向上させる可能性がある

    コメント

    やはり専門家ときちんと連携し、正しい情報を適切に得ることが重要といえそうです。配偶者が受診に同伴することもCOPEモデルの重要な要素のようです。

    文献1:Seyedeh-Zeynab Hosseinnejad et al. Obstet Gynecol Sci. 2022 Jul 28. doi: 10.5468/ogs.22080. Online ahead of print

     

     

     

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